そういうことになってるのには気づけるのだが理由はわからないまま。その場の気分だからどうしようもないのかもしれませんけど。
それではお楽しみください。
やる気が削がれるような気の抜けた声でレミリアから試合開始の合図が出される。そしてそれと同時くらいにまずは美鈴が動きだす一方でオレは一旦距離を取る。
「…………。」
動いたと言っても攻勢に出たわけじゃない、ただ構えをとっただけだ。自分が攻撃に転じやすく、防御にも転じやすい構えなんだろう。構え方自体は見たことがない型。佐竹とも龍とも違うし、全く違うというほどでもない。だからと言うわけでは無いがオレから攻撃をしても当たるビジョンが見えない。例えるならガキの頃見てた親父のように。
「やっぱ隙を作るような空気にしてねぇか。」
それなりの実力者であれば攻撃をわざと誘い、反撃するといった方法もあるが美鈴からそれをする気配は感じられない。
「……予定変更だ。」
オレはそう言ってから改めて気を引き締める。恐らく最初に距離をとった時、美鈴が終わらせに来ていたらそこで決着がついてもおかしくなかっただろう。それだけ真剣に手合をしたいという意思が込められていたのだ。その願いに答えるべく、あまり好んで使わないが神埼のじいさんも使っていた構えを取る。
「海斗さんってやっぱり何か武術の心得があったんじゃないですか。」
「心得なんて大層なもんじゃねぇさ、これはただ教育されただけだ。それも無理矢理にな。」
二人共構えをとったことで漸く対峙するに至った。
「まだ拳を交えたわけじゃないけど想像以上ね。」
レミリアは出された紅茶を飲まずに観戦を続ける。
「普段の朝霧くんを見てたらそうなって当然では無いでしょうか。」
「と言うと咲夜は違ったのかしら?」
「いいえ、私も同じです。」
その一言で観戦している者たちは黙りこみ、試合を観る。
「得意じゃないがお望み通りこっちから行かせてもらうぜ。」
「はい!」
オレは離れていた距離を詰めながら右、左と拳を繰り出す。当てるためだけなら体を狙えばいいがまずは顔面を狙う。
「…………。」
右拳を繰り出せば左へ、左拳を繰り出せば右へ。威力より速度を重視しているにもかかわらず美鈴は難なく下がりながら上体をそらし、避ける。
「海斗さん。」
避けながらも美鈴が語りかけてきた。
「こういうことになってすごく嬉しいんですけどこのままじゃ楽しめませんよ。」
それを聞いたオレは距離を詰めず、離れる。
「運が良けりゃこれで1発当たると思ったんだ。」
「言いにくいんですが至近距離ならまだしも距離を保てさえすれば当たることはありません。」
言いにくいって言ってる割にはずばっと言う。珍しく強気な発言だが事実だろう。いかに人間のオレが速さを重視したところでたかが知れている速度。美鈴が言うように仮に至近距離だとすれば話は変わるだろうが距離を詰め切れないのも事実。
「だろうな。だがこれでお前の真剣さがどれほどなのかは理解できた。」
そう言い放ちオレは再び距離を詰める。それもさっきより速く。次は確実に当てるためにも狙いは体。顔とは違い、避けるための動作を大きくしなければ確実な回避は難しい部分。もちろん当てるためにもここは全力、上体そらしなんてされたらすかさず裏拳を浴びせるつもりだ。
「ふっ。」
そう思っていたが先ほどとは違いギリギリの回避ではなく横へのステップなどで多少オーバーに避けられる。多分1撃目を避けたあとの2撃目に対しての行動だろう。大きい動作で避ければその分2撃目に移る時間が増えて、一瞬隙が出来てしまう。一瞬の隙さえ作ってしまえば1撃当てるのは美鈴なら容易い。だからこそオレは精一杯隙を作らないようにしつつ全力で狙い続ける。
「あ、ったん、ねぇ、なっ!」
多少の疲れを感じたオレは攻めを止めるため、美鈴が下がると同時に一旦距離を置く。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
「私、試合でここまで動いたのは久しぶりです。」
息を切らしているオレとは対照的で美鈴からは余裕すら感じる。
「どうせ人間相手にだろ!」
「そういうことにはなりますけど。」
「負けたこと無いのか?」
「こういった手合ではありません。」
「だよなっ!」
軽く呼吸を整えてから再度全力で距離を詰めながら当てに行くが美鈴は同じように下がりつつステップで避ける。かと言ってこのままの状況を維持していては当てることは出来ない。動くならそろそろだろう。左拳を繰り出すと慣れた動きで右へと下がりつつステップする。その瞬間、オレは勢いを殺さず2撃目に転じるためグルンと体ごと一周りして攻撃を放つ。まるでレミリアにやった時のように。
「……つぅ。」
全力で右足に踵を当てたにも関わらず美鈴は怯むこと無く、右手で足に攻撃を仕掛けてくる。オレは即座に反撃が来ない距離まで下がるため、地面を転がり体制を整えながら離れる。もちろん見栄えがどうのなんて気にせず必死に。
「痛かったか?」
なんとか離れられたので気になったことを聞いてみる。なにせ妖怪相手にどれくらいのダメージなのかなんて気になって仕方ないだろ。
「少しだけですけど。」
「あれで少しかよ。」
全く無いとは思っていないが少しっていうと痣も作れない程度だろう。
「これって作戦通りだったりします?」
「どうだろうな。」
少し落ち込みながらも答える。
「いえ、作戦通りだとしても私が油断して無ければ避けられたはずですよね。」
「違いない。だがこれでまずはオレが先制だ。」
声を張り上げて見物客にも聞こえるように言う。
「わかってます。」
美鈴はそう言い、周りの奴らも特に騒がない。複雑ではなくイージーミスといったところだろうし、判断もついたのだろう。
「朝霧って意外に狡いやり方してるわね。」
レミリアは呆れた表情で呟く。
「そうですか?」
同じ人間が妖怪を相手にする以上ここまでしなければと思っている咲夜は特に気にせず、返す。
「だって私に試して当たらなかったから今回は順序立ててたんでしょ。」
そう。妖怪相手に成功法は通用しない。それも身体能力が高い部類ならもってのほかだ。だからといって戦法を幾つか用意して撹乱して挑んでもそれは変わらない。したところですぐに対処されてしまうだろう。そこで使うのが思い込みだったりする。
「まずは顔面、次に体。それも拳でのみ狙う。でもこれだけじゃ確実に当てるためには不十分すぎるわ。」
図書館に入り浸っているだけあってパチュリーはすでに分析していたようで理解している。それも思い込ませるためのファクターが通常より足りないということも。
「警戒さえきちんとしていれば予測くらい出来ますからね。」
「相手が美鈴さんだからこそそれで十分だった、ということでしょうか?」
小悪魔はパチュリーに尋ねる。
「真相がどうあれ当てられてしまったのが事実だけどね。」
パチュリーの一言で見物客は再び視線を二人へ向ける。
「でもこれで海斗さんの強さが少しわかりました。」
「少し痛い程度なんだろ?」
「人間と直接やりあって身体的に私が痛がったのはこれが初めてです。」
「めっちゃ限定的だな。」
「基本は弾幕勝負ですから。」
「あっそう。」
「でも負けるわけには行かないのでここからは一気に決めさせてもらいます。」
そう言うと今度は美鈴の方から離れている距離を詰めてくる。もちろん離そうとオレ自身下がってはいるものの離し切れるはずもない。すぐ至近距離に入られて1撃をもらってしまうだろう。だがそれを考慮して距離を多く離していた事もあってなんとかこの1撃目には対処出来そうだ。オレは繰り出される掌底を避けるために動く。上体そらしなんてしたら格好の的。距離を離し続けることが出来ない時点でギリギリ回避行動では追撃をほぼ避けることは出来ない。
「よっ!」
オレは地面を転がり大きく動きながら避ける。回避と同時に距離を稼ぐためにはここまでしなければならない。姿勢を低くして転がることで手を使う攻撃をやりづらくさせ、そして見慣れない行動をすることでほんの一瞬だが考えさせることも出来る。格上が相手ならその一瞬ですら利用しなければあっという間に終わるからだ。
「っと。」
地面スレスレの蹴りを飛んで避けるのではなく、距離を取ることを兼ねて走って避ける。なんとかこれで1連の連携技は避けられた。
「当たらないための必死さがすごいですね。」
「こういった行動はあまり見覚えがないだろう?」
「そうですね。ですが今見てしまったので次はありません。」
恐らく一度見ただけで見切られたはず。攻撃を確実に避けるための動きでオレが出来るのはここまでが限界。下手に揺さぶろうとパターンを幾つか組み合わせたところで対処するのは造作も無いはず。再度、美鈴が距離を詰めてきた。避ける仕草をせず、オレはあえて立ち止まる選択をとる。
「…………。」
それを見てから美鈴は掌底から拳を握った攻撃に変え、繰り出す。繰り出された拳の威力は言うまでもなく強力だとわかる。それを受けるなら少しでも耐久性のある防御をしなければならない。幸い、軌道は変化しそうにないのが唯一の救い。いわゆるストレートといった形だ。オレは左腕で受け止めるように右腕で支えて十字のようにして迎え撃つ。
「……。」
先制点をとっていたがここでついに1対1の同点。受け止めた左腕から感じる衝撃はレミリアを彷彿とさせ、間違いなくヒビでは済んでいないだろう。が、オレは気にせず支えていた右腕を使い繰り出されている腕に対して下から上へと拳をアッパーのような形で振り上げる。
「っ!?」
攻撃を受け止めた一瞬の余韻が出来たところを狙われたからか、初めて美鈴の表情から驚きを感じ取れた。だからこそオレはここで攻勢に転じた。一歩踏み出し、右足で水平に蹴る。ジャンプで回避されないよう低すぎず、屈んで避けられないよう高すぎずだ。仮にそうした場合でも対処は考えているから当たる可能性は消えていない。その作戦を知ってか美鈴は体を右に捻りながら真横に飛ぶ。
「……ちっ。」
新体操の選手で出来るような行動だがそれを戦闘中にやるとなると難易度は格段に上がり、人間には難しい芸当だが簡単にこなして避けられる。それでもまだ攻撃を当てられる距離は保てているのでオレは焦らず2撃目を繰り出す。当たらなかった蹴りを上げたまま軸足に力を込めて右足で狙う。
もちろん、美鈴もわかっていること。だからこそそのまま狙うのではなく後ろに飛ばれてもいいように軸足で地面を蹴って飛び蹴りの要領で放つ。が、美鈴はそれも加味していたようで後ろに下がる仕草をしつつも持ち前の力で思いっきり飛んで後ろに下がる。その高さはゆうにマンションの2階あたりまであって、距離も十分なほど開いてしまった。
「言っておきますけど別に空飛んだわけでもないですし、気も使ってませんからね。」
「持ち前の身体能力でやってるだけだろ? デタラメだがそれぐらいはわかる。できればここで終わって欲しかったんだが。」
「終わらせるにはあと2、3手は足りませんでしたね。ですがこれで1対2、まだ海斗さんの有利ですよ。」
「有利ねぇ。」
「さっきのって攻撃って判定なの?」
美鈴から異議の申立てはなかったのだが一連の攻防を見ていたレミリアが呟く。
「独自のルールだから確かじゃないけど多分朝霧が下がらなかった、これが大きい要因ね。」
パチュリーが言うようにあの場面で下がればデフェンスをしているイメージが大きくなる。それを逆手に取り、ただ払うのではなく攻撃しているように拳で払い2撃目を繰り出すことで美鈴がデフェンスでオレがオフェンスと思わせることが狙いだった。
「と言うとここまでは朝霧の狙い通りに事が進んでいるってことね。」
「美鈴のように格上でなければほぼ決着はついてただろうけど。」
まさにその通り。力量の差がそれなりにあっても1対2になった時点で相手の攻撃をわざと喰らいながら反撃すれば勝ちになる。速い動きで目が追いつかないほどの動きをすればいい話だがここでオレが設けた禁止事項が生きてくる。オレの攻撃が届かない距離から狙われたり、気を込めてふっとばされる程の威力にされれば状況は覆る。だからこそこういった禁止事項をわざわざ設けさせてもらった。ここまでの準備をして漸くだ、していなかったら有利すら取れなかった。そしてここでオレは構えを解いて馴染みの戦法をとる。
「構えを解いたってことはスタミナ切れですか?」
「ま、構えとは言えないだろうがこれがオレ本来の構えなんだ。」
「なるほど。馴染みのスタイルだからこそ気負いが無く、安定してるんですね。」
ただ突っ立ってるだけで相手の出方を伺い、攻撃を受けるための姿勢。隙だらけにして選択肢を与えることによりコンマ1秒位は時間を稼げるだろう。それに攻撃を受け止めたオレの左腕を気にしてさらにコンマ1秒。その結果、有効であるヒットアンドアウェイ戦法をとるにも多少の誤差が生じる。無論、それだけじゃ対処するのは難しいが位置取りによりさらに時間を稼がせてもらっている。オレがいる位置は1歩踏み外せば花を潰せる場所。そしてこの花畑に水をやっている美鈴だからこそ効果的な位置。
「今になって理解しましたがここまでですかね。」
「お前がそう言ってくれるならそうなんだろうな。」
「ですが逆転の手が無いわけじゃありません。」
ここまではあくまでオレが想像しうる限りのことだ。基準が違うなら想定出来る幅も違う。状況も位置取りもオレが出来る最高の状態。そういった準備を整えたからこそここが勝負どころと言えるだろう。
「…………。」
「…………。」
互いに言葉を止める。そして美鈴は今まで感じたことが無いほどの圧を発しながら右足を繰り出してくる。これは左腕が満足に動けないことを知って、右手で防御させることで反撃しにくくする狙いだろうが威力がさっきより込められていて右手で受けても骨が砕けて反撃することは出来なくなる。かと言って速度的に避けることも出来ず、オレには最早選択肢は無かった。
「……。」
「…………私の負けですね。」
選択肢の無かったオレがとった行動。自分からも近づき蹴りを左腕で受けきってから再度左腕で攻撃すること。蹴りを受け止めた腕で攻撃したことにより、美鈴の虚をついた結果になったのだ。
「だが、お前のその甘さがなけりゃ勝てなかった。」
予想もしてない攻め故に対処も遅れていたが攻撃で返せばそこで3対3の同点。ルール上は次にディフェンスをしたほうが負けと明らかにオレは不利になったはず。それでもそうしなかったのはこいつらしい。
「正々堂々では無いですけど久しぶりに楽しかったんで私はいいんですが……。」
美鈴は申し訳無さそうにオレの左腕を見る。元々拳を受けたときにヒビくらいになっていたにもかかわらず蹴りを受けたことによって左腕はあらぬ方向へと向いていた。もちろん痛くないなんてことはないが表情を崩すほどではなかったりする。
「なぁに。その分はきっちりこき使ってやるからよ。」
「趣向は違えど結構楽しめたわ、朝霧。」
そんな話をしていると試合が終わったと分かったレミリアたちが近くに来ていた。
「言っとくがもう一回やれって言ってもこういった結果にはならないからな。」
そう言ってオレはその場にしゃがみ込む。
「それくらいわかるわよ。」
今回はオレの情報を美鈴が全く持っていなかったからこそ出来た事。一度手合わせをした以上、次は別のやり方をしない限り勝負にすらならないだろう。
「朝霧くん、今回はさすがに無茶しすぎじゃないかしら?」
「そうね、たかだか試合でしょうに。」
咲夜は毎度のようにいつの間にか持ってきている救急箱で応急処置をしながら言うと、パチュリーもそれに乗っかったように言う。
「この前付け足した条件が関わってるってところね。」
レミリアは理由に検討がついていたようだ。ま、進言したタイミングを考えれば当事者ならわかって当然だろう。
「ご明察。つーわけで美鈴は1日オレが好きに使わせてもらうぜ。」
「そういうことだったし、美鈴なら構わないわ。」
「わ、私ならって。」
これがもしレミリアやフランを使うとかだったら叶っていないんだろうな。
「言っておくけど美鈴、負けたってことはどうなるかわかってるわよね?」
「…………。」
その事を再確認され、美鈴は落ち込み俯く。なにをされるかは知らないが相当きついんだろう。
「ここまでひどいとまた永遠亭に行かないとだめね。」
怪我の具合を判断した咲夜が言う。さすがに放置ってわけにはいかないレベルの怪我なのは一目瞭然だ。
「いや、その必要は無い。まだあの薬が残ってるから行くなら明日で構わないだろ。」
「あの薬ってたしか人間には効き目が強いんでしょう?」
誰から話を聞いていたのか知らないがパチュリーが咲夜に尋ねる。
「はい、永琳さんはそう言ってました。」
「……小悪魔、準備してきなさい。」
「はい、畏まりました。」
パチュリーにそう言われると小悪魔は屋敷の中へ。
「準備って何すんだよ?」
「吹っかけたのはレミィだし、完治とまではいかないけど痛みくらいは軽減させてあげるわ。それでもきついなら希望通り明日行きなさい。」
ニュアンス的にどうやら治療をしてくれるようだ。それも恐らく薬品とかじゃなく、魔法で。
「え、これって私のせいなの? 美鈴でしょ?」
何故か責任の矛先が向けられそうになったレミリアは未だ落ち込んでいる美鈴を指さす。
「確かに。吹っかけられなかったらオレはやらなかったな。」
そこでここぞとばかりにオレもそれに乗っかる。
「嘘ね。」
するとなぜか矛先を変えたはずのパチュリーに否定された。
「よりにもよってなんでお前が言うんだよ。」
「こうはならないかもしれないけど結局は似たようなことになってたわ、きっと。」
「ですね。」
咲夜は頷きながらパチュリーの意見に賛同する。
「……これでまずは一人か。」
わいわいと話している奴らに聞こえないよう呟く。あとはこの傷を癒やしつつ、紫と会えばそれでいい……それで来る禁止区域強制退去法案に向けての準備は終わる。
いかがでしたでしょうか?
ちょうど時間があったので一気に書かせてもらいました。最後までの過程には個人的にも納得してるんですが結果の出し方がちょっとと思ったりしてますがこれ以上は難しそうですので一旦投稿させて頂きました。
そんなわけで次回は作戦会議とグッバイ幻想郷回の予定ですが変わる可能性が大いにありますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。
読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想、ご指摘がありましたらお気軽にメッセージ等にお願いします。