それでも大事な部分だけは変わらない。
それではお楽しみください。
8月21日
朝食を食べるとオレは読んでいる途中の本を手に取り読書を始める。一応補足で言っておくが試合での怪我が治りきっていないため右手だけを使ってだ。今日は紫と例の話しをするため、不必要な行動は避けて自室でじっとしている。
「最近はこういったまったりと時間もなかったしな。」
そう言うと急に周りから違和感が。
「そうはさせないってか。」
独り言を聞いてしまい邪魔するために出たきたってところだろう。本を閉じてスキマが開く方に向く。
「海斗さん!! どうして教えてくれなかったんですかっ!!!」
紫が出てくるかと思っていたがなぜか射命丸が大声で詰め寄ってくる。
「なにがだよ。」
声が大きくうるさかったのでうるさそうに言う。
「試合のことです! スクープじゃないですか!」
オレの態度に気づきつつも声量は変わらない。仮に注意しても落ち着きが無いから無駄だろうな。
「教えたくても連絡手段が無いだろ。」
「紫さんとは会ってたんですから伝えてくれれば良かったんですよ。」
確かにそうすることも出来た。
「だからわざと伝えてねぇんだ。」
「え?」
「お前がいたらうるさいからな、集中できん。」
「…………。」
オブラートに包まずストレートに言ったせいか、射命丸は前に見たようなジト目でオレを睨む。
「で、話ってなにかしら?」
ひと通り騒ぎが収束した直後に紫が現れる。
「騒ぎ終わる前に入ってこいよ。」
「だって、ねぇ。」
含み笑いをしながら射命丸とオレを交互に一度見る。恐らく楽しがっているんだろう。
「はぁ。早速だが本題に入らせてもらうぜ。」
「後で色々教えてもらいますからね。」
「後でじゃなくて後日ならな。」
「わかりました。」
約束をすると納得したのか、普段通りの射命丸に戻る。
「で、お前はずっと暁東市に居たのか?」
「そうですけど。」
「だったらお前は向こうで待機だ。」
「また何も教えてくれないんですか?」
「いやいや、話は紫から聞いてるだろ。」
どうせ紫のことだ、事前に少しくらいは言ってるはずだ。
「一応ですけど。」
「できれば龍にもこのことを伝えてほしい。」
そういいながらオレは携帯を取り出し、メールを打ち込む。
「いいんですか?」
「ああ、こっちの助っ人を使うためには誰かしら関係者の協力が必要なんだ。」
ただ助けるだけでもその時の状況を想像すれば注目されるのは避けられない。そこで多少なりとも顔見知りがいれば緩和出来るかもしれないしな。
「そういうことなら仕方ないですね。他の子達は今頃合宿ですし。」
「連絡はメールでする、どうせスキマを使えば出来るんだろう?」
「それくらいはね。」
それを聞いてからオレは打ち込んだメールを龍に送る。尊たちが合宿で居ない今、射命丸たちと関わり合いがあるのはあいつくらいだ。それに多少腕も立つとなれば協力してもらった方がいいだろう。
「射命丸にはそれくらいだな。紫はオレたちを当日送ってくれればいい。」
「たち? ですか。」
少し気になるようで、射命丸がなぜか食いつく。
「助っ人として美鈴を連れて行く。外見だけならあまり違和感が無い上に実力もあるし、もってこいだろ。」
「そのための怪我ってこと?」
包帯で巻かれていた左腕を見ていた紫が真面目な顔で聞いてくる。
「左手一本で済んだんだ、安いもんだ。」
オレの一言でどういった経緯かを察した紫はそのまま黙りこむ。
「そこまで本気なんですね、海斗さん。」
射命丸も感づいただろう、だからこそ言葉で聞いてくる。
「柄にもなくな。」
「わかりました、私にできることなら精一杯協力させていただきますね。」
「そう言ってもらえると助かる。」
「他に話しはあるの?」
ここで話の区切りがついたと判断した紫が確認を取る。紫自身もなにかしらの準備をしなければならないのだろう。
「いいや、これくらいだな。あとは当日やるだけさ。」
そう、ここまで協力してくれる奴がいるなら後はオレの問題。タイミングも関わるけどな。
「だったら早速だけど私たちは一旦戻るわね。」
「ではまた後日。」
そう言い残して二人はスキマを通って暁東市へ。
「ふぅ。さてとそろそろ案内屋のところへ向かうか。」
今の状態では誰かを守りながら戦うことになれば苦戦を強いられるかもしれない。かと言って永琳からもらった処方箋だけではこれ以上の速い回復は見込めない。治癒魔法なら出来るかもしれないがパチュリーの調子が悪ければ難しい。この前の簡易的なものでさえ体調を崩してしまうほどだった。
「オレが知っている連中ではやっぱり永遠亭くらいしか無いな。」
そう言いながら外出するためのスーツに着替えて待ち合わせをしてる人里へと向かった。
「おい、案内屋ー。居ないのかー。」
寺子屋についてからすぐに玄関から入って呼ぶ。時間を考えるとガキがいるとは思うが気にする必要はない。
「本当に来たんだな、怪我して。」
奥の部屋からかったるそうに出てくる。
「これでも処方された薬を飲んだんだがな。」
「じゃあ行くか。」
「だな。」
左腕をちらりと1回見てからオレを誘導するように外へ。
「ねぇ、いつも怪我してんの?」
人里から進んで森に入る時に訪ねてくる。普通に考えれば厄介事に巻き込まれなければここまでの怪我はしない。学生の身分であるオレなら当然だろう。
「毎度、毎度してられるかよ。」
「してるから聞いてるんだけど。」
そう言われて少し考える。ガキの頃はオレが弱かった故になったことだから仕方がないとしても最近はどうだろうか。
「言われてみればそうかもしれないがほとんど事故だな。」
「そういう運命に導かれてるってことかな。」
「気にしたこと無いな。」
確かに色んな奴らに会わず禁止区域にいたら事故があっても怪我にはならない。外に出て、関わった事自体が導きだと言えなくも無いんだろう。それを最後にオレたちは会話もしないまま、永遠亭の前まで辿り着いた。
「さ、ついたよ。」
前にも感じたがこいつは永遠亭に人間を案内しているものの、居ずらそうだとわかる。そうなれば住んでる奴の誰かと因縁があったりするんだろう。
「なんならお前も上がって行かないか?」
誂う目的で誘ってみる。
「あんたの家じゃないでしょ。」
「医者がいるんだし、公共の場所でもいいんじゃないか。」
「……いや、私はいい。このまま帰るよ。」
さすがにこれくらいじゃボロは出さない。どうやら軽率な発言でわかるような因縁じゃないらしい。
「そっか、じゃあな。」
「うんそれじゃ。」
妹紅を見送ってから永遠亭の中へと入る。
「邪魔するぞ。」
「お待たせしました、本日はどういったごっ!?」
扉を開けて入ると来客の対応をするために出てきたうさぎ女がオレを見るなり、嫌そうな表情になる。驚きと嫌悪が混ざりあって、実に面白い顔だ。
「とりあえず診察だ。」
「……こっちへ。」
それでも医者の助手だけある。うさぎ女は怪我の具合を見ただけで思っている感情を抑えて本来の業務に移った。
「完治して来るかと思えばより悪化させてきたわね。」
案内されたのは前と同じ部屋。
「前のは治ったさ。」
一応わかるとは思うが一言言いながら椅子へ座ると左腕の包帯を外し、診察を始めた。
「で、見たところまた殴られたみたいだけど誰に?」
「美鈴。」
「意外ね、あの子は温厚なはずだけど。」
あそこまで有名なら知り合いじゃなくてもそれくらいはわかるのだろう。
「試合をしただけだ。」
「そう、それなら仕方ないわね。たとえ前より状態が悪いとしても。」
単純な威力だけならレミリアの方が強かったのかもしれないが2、3度同じ部分で受けたのが主な原因で当然なんだろう。
「そういや前にオレを診断しただろ、なんか結果がでたか?」
「ちょっと気になるところがあったけど処方箋を飲んだのならもう無いわね。」
「そうか。」
調べて結果が出たならそれなりの役目を果たせたということ。元々人間のデータが目的ならこれだけでも十分なはず。
「で、私はなにかしたほうがいいのかしら?」
「出来れば明後日までに完治したい。」
どうするかは想像もつかないが、こいつならなにか方法があるはずとダメ元で言ってみる。
「なかなか無茶な相談ね、前にも言ったけど急な治療は人間にとっては毒なの。」
前に処方箋をもらった時に聞いたな。治癒能力を無理に引き上げるため、短期間の連続使用には何かしらの副作用が出るかもしれないと。自然治癒を用いるならここまでが限界なんだろう。
「だとしてもだ。」
「そこまで覚悟があるなら協力しましょう。」
8月22日
昨日はあれから新たに処方された薬をもらった。永琳から聞いた話しだと前のとは違い、オレのデータを元に作ったらしい。いわゆるオーダーメイドといったところだ。そのかいあって体調は特に問題無く、怪我も完治している。そして用意された昼飯を食べてオレは紅魔館へと戻るために永遠亭の玄関へ。
「んじゃ、行くわ。」
「一人で帰れるの?」
帰ると言いつつも案内人がいないことに気づき、尋ねる。
「前に道を覚えたから余裕だ。」
「行きは案内人に頼んだんでしょう。だったら帰りも頼みなさい。」
「なんでいるんだよ。」
永琳と話していると思ったら何故か隣には紫の姿。
「もう夕方だし、一旦紅魔館に戻るんでしょ?」
今更ずっと監視してたと言われても不思議じゃないし、特に驚く必要は無い。だったらすぐにでも戻った方が有意義だな。
「……そうするか。」
その言葉を聞いた途端スキマが現れて潜り抜ける。一瞬目玉模様に覆われながらも目の前には見慣れた不気味な館が見える。それでもあいつらに気づかれないためか、多少離れた場所だ。
「どうだお前も寄っていくか?」
「いえ、私はいいわ。」
「そっか。じゃあ後でな。」
紫が姿を消してからオレは紅魔館の方へ足を進める。徐々に門番が見えてくるとなぜだかメイドの姿が見えた。雑談してるならともかくそういった雰囲気は感じられない。
「朝霧くん、何か私たちに言うことがあるんじゃない?」
そんなことを考えながら通り抜けようとすると呟きながら尋ねられた。言われるような気はあった。でもわざわざいう必要はないと思っていたオレは表情を変えず答える。
「ねぇよ。なにもねぇ。」
「そう。」
そのまま自室に向かうと咲夜もついてくる。明らかにいつもと違う行動で不自然。もしかしたらレミリアの能力かなんかで感づいてるのかもな。
「ただ予想どおり退屈しなかったぜ。」
このまま自室で読書しようと思っていたが突拍子もなく呟く。
「あなた自身が行動してたんだし、当然じゃないかしら。」
「だとしても行動させたのはお前らが居たからだ。」
「物は言いようね。妹さまには会わないの?」
自室のドアノブに手をかけるとそこで漸く咲夜が直接的な発言をする。昨日は永遠亭に行くことをレミリアに伝えてるし、今のところ顔を会わせていないのはフランだけ。そこが気がかりなのかもな。
「ああ、飯食って寝る。まだ治りかけだからな。」
オレはその問いかけに答えつつも振り返らず部屋の中に入った。部屋は掃除されていて来た時と変わらないが一つだけ違う点がある。それはベッドの上にオレが着て来たスーツが畳まれていることだ。
「器用なのか不器用なのかはっきりしてもらいたいもんだ。」
鼻で1回笑ってから仮眠をとって深夜を待った。
「おまたせ。」
珍しく誰かの声で起こされる。それほどまでに怪我の治癒に体力を使っていたのかもしれない。
「なにか言っておくこととかある?」
置いてあったスーツに着替えると最後のチャンスと言わんばかりに聞いてくる。
「特に心残りは無いが出来ることなら図書館の本を持って行きたかった。」
「未練たらたらね。」
「仕方ないだろ、少なくともオレが理想とする一つの楽園があったわけだからな。」
本だけでいえばこれ以上の場所に出会うことは無いだろうとほぼ言い切れるレベルだ。
「海斗さえ、良ければ報酬しだいでは本を送り届けるのも可能だけど。」
確かに行き来するのではなく、物流だけなら融通が効くんだろう。でもそうすればグダグダな関係になってしまうのは明らかだ。
「いや、止めておく。そろそろ元の道に戻る頃合いだ。」
「そうかもしれないわね。」
「オレは自分で思ってた以上に仕える心地よさを求めていたのかもしれない。だからこそオレは守りたいと思った。あいつらがそうであったようにオレもそうありたいと。」
「海斗が理想とする楽園は2つあったみたいね。」
「そういうことだな。」
そう言い残してオレは夜が明ける前に紅魔館から去った。
8月23日
「ったく、あのバカったら本当にどっか行っちゃうなんて……どこにいんのよ。」
私は急に姿を消したアイツの事を考えながら空を見上げる。旅行から帰って来てメイドたちに聞くと外に出たっきり帰ってこないと。肝心の携帯も電波が届かないらしく連絡も取れない。いつかこうなるんじゃないかと思っていたんだけどまさか現実になるなんて、と毎日ため息混じりに考えていると遠くから爆発音とともに煙がもくもくと空へと伸びていく。
「な、なに?」
何か大きな事故かと思いながら見つめていると徐々にサイレンの音が多くなっていくのがわかる。明らかに異様な光景。
「麗華お嬢様、よろしいですか?」
戸惑っていると扉から聞き覚えのある声。たまらず私は扉を開けて駆け寄る。
「佐竹。これはどういうこと?」
「説明は後で致します、とりあえずは急ぎ避難を。」
そういう佐竹の後ろには2人。彩とお父様が佐竹の指示を聞いてついている。
「わ、わかったわ。」
佐竹の言い方も周りの空気もピリピリしていることから私自身も焦りながら従う。1階に降りると庭師の男がいる。いつもの様子じゃあ想像出来ないほど印象がガラリと変わっていた。それもそのはず、手には拳銃が握りしめられてる。その光景に驚きつつも私たちは合流し、安藤さんが状況を話し始める。
「残念だが外は囲まれているようだ。」
「それでもここに居続けるより、学園に行ったほうが安全だろう。」
「……中里が居ない今しかないか。」
「いや、そう簡単には出させてもらえないようだ。」
二人が目的を決めるやいなや、玄関には中里の姿が。
「不動、予定通りに。」
「はい。」
「金剛は周りの奴らを。」
「ああ。」
不動と呼ばれた男は髪が部分的に逆立てていて、金剛と呼ばれた男は無造作に髪を伸ばしている。それに二人共着ている衣服は小汚く、この辺りではまず見ないほどだ。中里が呟くと立ち止まっていた二人の男たちがこちらに向かってくる。それと同時に佐竹と安藤さんは持っている拳銃を相手に向ける。怖くないのだろうか? それでも二人の歩みは止まらない。
「ここは私たちが引き止めますのでどうか学園へ向かってください。」
「……わかった。」
お父様は納得していないながらも私たちのことを思い、声を絞り出した佐竹の言う通りにする。そして私たちが離れたのを見てから男たちは佐竹たちに襲いかかった。
「距離が離れているうちに撃てば勝機はあっただろうに。」
「がっ!?」
一瞬で距離を詰められると佐竹が狙いをつける前に顔を殴られる。そして崩れるように倒れ、拳銃を落としてしまう。
「佐竹!」
そう私が叫んでもお父様は歯を食いしばりながら隙を伺う。
「ど、どうしてキミが。」
さすがのお父様も亮が目の前に現れたことで動揺を隠し切れないでいる。ただいるだけならまだしも手に刀を持っていれば無理もない。
「僕個人は麗華お嬢様を頂きに、計画のために彩お嬢様もです。」
中里は手を私へと差し伸べてくるがそれを聞いたお父様は私たちを力強く後ろへ。
「中里……。」
「なんでしょうか?」
「私が行けばみんなに危害は加えないで。」
私は持てる限りの術で態度を保つ。もちろん中里に悟られないために。
「何を言ってるんだ、麗華!」
「そうです、お姉さまが私たちのために行くなんて――」
「あの人たちにしてしまったことは戻りませんがそれでいいなら。」
そう言いながら中里は佐竹たちを指さす。遠目で見てもすでに二人共意識が無いとわかるが今も殴られ続けている。このままの状態が続けばいずれは死んでしまう。それでも私一人でなんとかなるかもしれないならやるしか方法は無い。
「じゃあ交渉成立ね。」
私はお父様の手を振りほどき、前へ。一歩、また一歩と一人で中里のそばへ近づくたびに体が震えてるのが嫌でもわかる。その震えを無理に抑えようとしても治まることはない。こんなにも非現実的なことが瞬く間に起こればどんな人間だっていつもどおりではいられるはずもない、警察や自衛隊だとしてもさほど変わらない。
でも不思議とアイツならこんな状況でも普段と変わらないんだろう。そう、思い浮かべるとなぜだか震えが少し収まった気がした。
「…………なんでお前がここにいる。」
すると突然中里は顔を歪ませ、怒りを込めたような声で呟く。その視線を追うと私では無く屋敷の中を見つめているのがわかった。
「ボディーガードだからに決まってんだろ。」
普段なら憎たらしい声のはずが今の私には頼もしい。振り返るとアイツは予想通り、いつもと変わらないまま。私は気づくと中里とは逆の方向へ、海斗の元へと駆け出していた。
「どこ、行ってたのよ……バカ。」
勢いをそのままに麗華はオレにぶつかる。
「ちょっとトラブルがあってな。」
麗華は少し目を赤らめながら上を向いて視線をあわせる。
「後でどうなるかわかってるわよね?」
「もちろん。」
麗華の頭を軽くぽんぽんと叩き、彩たちがいる後ろへ行かせてオレはアキラと対峙する。
いかがでしたでしょうか?
予定通りコメディ要素が少なくなる部分ですのでめちゃくちゃ不安です!それでも紅魔館編は残すところあと2話? くらいなんで走り抜けちゃいます。
そんなわけで次回は作戦開始!回の予定ですが変わる可能性が大いにありますので読者の方々も妄想を膨らませながら御待ちくださいませ。
読者の方々、ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想、ご指摘がありましたらお気軽にメッセージ等にお願いします。