ただし、それで変えられるのはほんの一瞬だけだと思う。
最近は僕好みの壁紙が無いことから真っ白にしました。
…これが思いのほか良い、文章の発想力は低下したと感じているけどね。
それではお楽しみください。
●2014年9月20日 文字数が少なかったので16、17、18、19話の4話分を合わせて修正投稿致しました。第3章までで本文の文字数が少ない話は引き続き修正していきます。
第6話 「人間の癖に生意気ですね。」
本来の道筋なら交わる事が無かった物語。
それぞれの物語には元々の未来が存在するがそれら二つの物語が交わるきっかけが生まれたのならばその二つの物語はどうなるのか。交わったまま同時に進行するかもしれないし、一時的な邂逅に過ぎないかもしれない。もしかしたらどちらかの物語は消滅、なんて事になるかもしれない。でもその結末を知る者は誰もいない。
7月4日
「……。」
私は気が付くといつの間にか閉じていた瞼を開いて目を覚ます……どうやら昨日は宴会で酔いつぶれるほど飲んで眠ってしまったようだ。そしてなぜか同じ布団の中にもう一人。
「なんで紫が一緒に寝てんのよ。」
言いながら布団から出る。
「おはよう、霊夢。」
「……おはよ。」
いつもなら朝が苦手で二度寝するのに、ちゃんと起きるなんてめずらしいことだ。
「そっか、紫が居るってことはそろそろ海斗を帰すの?」
確か、帰す日は今日だったはず。夜には居なかったしさっき来たばかりだろうか。
「あっ、その事なんだけどもう居ないわよ。」
「は?」
寝起きが良かったとはいえまだ頭が回っていないみたい。
「昨日みんなが寝てる間に帰らせろって言うからね、帰しちゃったの。」
「そっか、帰ったんだ……。」
「お、起きたみたいだな霊夢。」
魔理沙は先に起きていたのか、お茶を持ってくる。
「はいよ。」
「ありがと。」
魔理沙はお茶を机に置き、座る。
「帰るなら起こしてくれればよかったのにさ、黙って帰ること無いよな?」
「ま、そこが海斗っぽいけどね。」
「海斗は何か言ってなかったの、紫?」
訪ねた後にお茶を飲む。
「う~んと特に無かったわね。」
右手の人差し指を顎につけながら考えている様子。
「そうそう、気が向いたら遊びに来るかもって言ってたわ。」
「何も知らない外来人が言いそうな台詞ね。」
恐らく海斗が幻想入りしたのは結界の調整中で世界同士の境目が曖昧になったからだと考えている。私が調整して結界を保つと普通の人間じゃ入りづらいし世界同士の境目が限りなく薄くなるから可能性としては十分にある。それこそ紫の力みたいに境界を操ったりしないと……只の人間は誰かの力を借りなければ二度と来る事は出来ない。それが幻想郷。
「言っておくけど連れて来ないでよ?」
「分かってるわよ。」
今は多少の違和感を感じるけどこれが当たり前。いままでも、これからも変わらない。
「でも、海斗なら勝手に来そうだぜ?」
確かに不思議とそう思えなくも無い。
「それより早苗たちは?」
同じ部屋には見当たらない。
「早苗は朝ごはんを作りに行ったな。」
家事全般を早苗に押し付けてる同居人は相変らずのようだ。
「アリスはなんかやらなきゃいけない事があるってことで帰ったぜ、人形作りになんか進展があったみたいだな。」
アリスの人形制作は技術的に高い。だけど経験不足で当分は進展しないと思っていたんだけど。
「んで、ルーミアは美味いもん探しにアリスに着いて行ったみたいだ。」
いつもフラフラしてるルーミアに目的が出来るなんて思わなかった……ちゃんと考えたら私にも分かったのかしらね。
「じゃ海斗から貰ったキノコの実験がまだだし、私もそろそろ帰るぜ。」
「そう、またね。」
「おう。」
そう言って魔理沙は箒を使って飛んでいく。
「私は掃除して来ちゃうけど紫はどうする?」
「もちろん、マッタリさせてもらうわよ。」
異変も起きてないし当然か。
「霊夢、言い忘れてたことがあるの。」
外に向かう途中に声を掛けられ振り返る。
「なによ?」
「幻想郷の雰囲気は嫌いじゃない、むしろ心地良いって言ってたわ、それにちゃんと笑ってたわよ。」
肝心なところを見てなかったけど、笑ってたのなら私の目的は達成出来た……自分で確認できなかったのは心残りになりそうだけど。
「ありがとね紫、見届けてくれて。」
「どういたしまして。」
先ほどまであった違和感が無くなり充たされていくのを感じる。アイツと出逢い、関わり合えば心境に変化が生じる。現に面識のある人には新しい目的が出来ている。恐らくそれは人でも妖怪でも関係ない……もしかしたら異変なのかもしれない、そう思えるほどに。でも今までの異変とは違う、誰もが争わず弾幕ごっこも無い。人間にも妖怪にも幻想郷にも優しい異変。こういうのもたまには悪くないかな。
霊夢が外に出たのを確認してスキマを出す。
「あや? まだ二日経ってないですけど宜しいんですか?」
その隙間から鴉天狗の頭だけが出てくる。
「ええ。文には着いて来てもらいたい世界が出来たから。」
スキマ妖怪の表情は先ほどの寝ぼけたような顔から真面目な顔に変わっていた。
「その世界と言うのは、噂の殿方がいる世界ですか?」
「それは行ってからのお楽しみよ。」
紫は微笑む。
「それはそれは。遂に私がこの物語で活躍するんですね。」
文も微笑む。
「すぐにでも行きますか? 紫さん。」
「この件の関係者に一言伝えて来るから、ここで待ってて頂戴。」
そう言い隙間を使い移動する。
「この件の関係者ですか……。」
紫さん以外にまだ居るんですね。魔理沙さんたちのように殿方を知らなかった、ではなく殿方についての情報を知っている人が。
………。
……。
「やっぱり本が無いと夜は暇だな。」
ベッドに寝転がり天井を見上げる、さっきまでいた場所とは違う作り。忘れようとしてもあの出来事を忘れる事はないだろう。それだけ衝撃が大きかった。
宴会の後、紫から送ってもらったオレは無事に元の世界に戻っていた。別に一本道がある訳でもなく屋敷が見えるわけでもない。辺りの景色は森のまま。そう。オレは一歩も歩かず迷子になってしまったのだ。歩かずに迷子になるとか方向オンチを越えてる気がするんだがサバイバルする事、約24時間。ずっと森を歩き続けたおかげか漸く南条邸にたどり着いた。この時、心なしかオレの中に眠る野良度が2%ほど上昇した気分になったのは言うまでもない。
「まさか戻ってから一日中森を歩く事になるなんてな、送るなら玄関前とかに直接にして欲しかったぜ。隙間の意味ねぇじゃん。」
南条邸を発見した時は既に深夜、どう中に侵入しようか考えてたとこを武志に手を貸してもらった。武志ってのは薫の弟だそうだ、まさか弟がいるとは思わなかったけどな。その武志によると婿選びは始まっていて既に二次審査が終わってしまったらしい。幻想郷に迷い込んでなけりゃ今頃オレの隣で薫は寝ていたはずだ……幻想郷に行ってなくても間に合わなかった気がする。
因みに婿選びには途中参加出来ないようだ。これで用意してもらった偽造の身分証が意味を成さなくなった。それでこの先をどう潜り抜けたかって? 参加者の中で一番年が近くて微妙な経歴の奴を脅して入れ替わったのさ。脅しの手法は各々勝手に想像してくれ。ヒントは肌に直接釣り糸を巻きつけて交渉した、だ。たまには読み手によって変化するってのも面白いもんだろ? さすがにこの辺ならどんな解釈をされても本編に関係無さそうだしな。
「そしてオレは新山新太郎へと転生した訳さっ!!!」
入れ替わったは良いが新山ってインパクト弱いよな。
7月5日
「やっぱり風呂はさっぱりするぜ。」
朝食を自室で食べてオレは風呂に入った。昨日屋敷に来たときは深夜で風呂に入れなかったからな。さすがに夏の森をスーツで歩きまわれば誰だって汗をかく。そのはずが、幻想郷ではそこまで暑くなかった。この事から季節が同じではない事がわかる。やっぱり風呂だって作りが違う。今の時代より古いって感じだった。
「ま、考えても仕方ない。とりあえずロビーに向かうとするか。」
………。
……。
ロビーに行ったら審査の内容が伝えられた。一次、二次では知性と教養を試されたらしい。そういや武志が100人程いた参加者が25人まで減ったって言ってたな。
「オレが居たら間違いなく1位になってただろうけど。」
下から数えてだけどな! そして三次審査では実戦。一対一で戦い勝者を決める。だが人数が25人だったため、くじ引きで相手を決める事に。残念ながらオレはシードになってしまった……運が良すぎるってのも考え物だ、目立ちたくないのにな。参加者の中でも二人ほど鋭い奴がいるから何しても意味なさそうだったけど。最終審査の内容は一週間後に発表らしい。こっちは時間が限られてるってのに、面倒だ。
その三次審査の待ち時間に薫の母親に遭遇した。見た目だけじゃ分からなかったが名前を聞いてわかった。オレの名前を聞かれた時はなぜだか、嘘を吐くことが出来なかった。それは今考えてもわからない。薫の母親ってのもあるだろうが、それだけじゃないと思う。
「母親ねぇ……。」
オレの母親は小さい時に死んだ。声、仕草、見た目、匂いでさえ満足に覚えていない。それだけ小さかった。写真もなけりゃ親父から母親の事を聞いたことも無い。だから母親を知らない。でも言葉の意味だけなら分かる。知らないのは母親の温もり……その時は気になっていたが、今では気にならない。聞いたところで母親に会えるわけでも生き返るわけでも無い……この世に居ない人間の事を聞いても仕方ない、と。
7月6日
とりあえず起きた後、朝食を食べ終わった。しかし。
「退屈すぎるぜ。」
だが、行動し過ぎて正体がばれるのは好ましくない。かと言ってあと一週間何もしないってのも好ましくない。
「ここいらで神に選択を委ねたいが、まだその時じゃないみたいだ。」
盛大なネタバレになってしまうが、おそらく近いうちに「ある分岐点」が来る。それまで待ってくれ。
「ってなると本当にやる事がねぇな。小説の1冊でも持ってくればよかったぜ。」
オレはベッドに寝転がり天井を見上げる。ここに来てから寝転がってばかりだな。趣味を通り越して特技になりそうだ。
「そうねぇ。暇なら新聞作りに協力しない?」
「新聞作りか。経験は多いに越した事はない、良いぜ。」
部屋の中に誰かが居る気配は無い。
「ありがとう、それじゃ記者を呼んでくるわね。準備が出来たらまた声かけるから。」
実体が無くても声だけは聞こえる。初めて聞いた声じゃない、最近聞いた声だ。
「なんでアイツの声が聞こえるんだ?」
起き上がり部屋を見回す。どこも怪しい箇所は無い。
「これが幻聴ってやつなのか?」
気に掛かるものの、特にやる事も無いし寝るとするか。準備が出来たら声掛けてくるらしいしな。
「……まったく釣れん。」
手に持っているのは釣竿で。そして目の前には川がある。何を隠そう、生まれて初めて釣りをしているのだ。
「数時間経ったけど、まさか一匹も釣れねぇなんてな。」
さっきまで武志も居たが9匹ほど釣って帰りやがった。ま、夜になるし当たり前。部屋で声だけが聞こえたあとオレは仮眠をとった。そして夕方頃に廊下を走る足音で目が覚める。足音の正体は武志で肩にはバッグ。勝手について行った先には川があったとさ……。
「まだ一匹も釣れて無いせいか、釣りのおもしろさが全然わからん。」
魚が食いつかずイライラしているオレの横に突如、スキマが広がる。
「もうっ、探したんだから。」
さっきとは違い今度は姿まで出して来た。
「おいおい、感動的な別れを演出したのにすぐさま会いに来るんじゃねぇよ。」
「あれで演出してたの?」
一言でオレの役者魂にヒビをいれるとは……。
「んで、何の用だ?」
「言ったじゃない新聞作りに協力するって。」
そんな事を言ったような、言ってないような。
「というわけで今から海斗にインタビューする記者を紹介するわ。」
「ちょっとまて、なんでオレがインタビューされるんだ?」
人の言う事に耳を貸さず、紫は隣に居るであろう記者をスキマから出す。その女は黒髪に赤い瞳。頭に乗ってる帽子? みたいなのからボンボン? が繋がっている。服装は上が白、下はスキマに隠れて良く見えない。
「はじめまして! 私、射命丸文と申します!!」
「…………。」
ビュッ!!
「あやや!? 急に石を投げないでくださいよ!」
いつのまにかオレは釣竿を置いて、記者に石を投げていた。
「悪い。あまりのウザさに手が勝手に動いたみたいだ。」
文ねぇ。まさか貧乳お嬢様の妹と名前が被るとはな。妹の名前は彩。不覚にもオレが学園を辞めようとするときに出逢い。さらには小さい頃に見かけた事がある。一瞬でも心が動かされ、オレに表と裏の違いを感じさせた人物。なんつーか、ボディーガード本能が働きそうになる程に。
「コホンッ。早速ですが――」
「断る。」
「まだ何も言ってないじゃないですか。」
「新聞の記事にするんだろう? 紫が言ってた。」
「そうですか、聞いてるなら話は早いです。ぜひ――」
「断る。」
そう言うと記者はジト目でオレを見る。しゃべらなきゃまともに見えるのに勿体無いな……ビュッ!!
「おい! 急に石投げんじゃねぇよ! 当たったらどうしてくれんだ?」
「あなたも投げたじゃないですか! これでお相子です。」
まぁ、頭狙ったオレよりマシか。狙ったのは腕のようだし。
「あら、まだはじめてないの?」
呑気な表情をして姿を現す。
「紫さん。取材断られるんですけど許可貰ったんですよね?」
「ええ、新聞作りに協力してくれるはずよ。」
なるほど。てっきり記事の内容を考えたりするのかと思ったが見当違いだったらしい。まさかオレ自身が記事にさせられようとしてたとは。だが、どんな事があろうとオレは取材なんて面倒な事はしない……ぐぅう~。
「海斗、私の式がいなり寿司作ったんだけど食べる?」
式? ってのはよくわからんが、わかった事が一つだけある……コイツは凄腕のネゴシエーターのようだ、オレが空腹だと一瞬で看破するなんて。
「捨てるんだったら、食ってやらんこともない。」
いなり寿司が乗ってる皿ごとオレに手渡す。
「食べてる間ぐらいだったら取材してもいいかしら?」
「……好きにしろ。」
そう言いいなり寿司を食う。モグモグ、美味いな。
「ふむふむ、食べ物を与えればある程度の条件を飲む、と。」
取材自体はまだされてないが紫と話をしている間、記者は手帳に色々書いているようだ。
「では、取材させていただきます。まず、あなたのお名前から。」
「新山新太郎だ。」
うん、間違ってないよな。
「え? さっきの会話では海斗さん、と言われてませんでしたか?」
「昨日、オレは転生してしまったんだ。それは昔の名さ。」
「じゃあ昔の名も教えてください。」
意外にも真面目に聞き返してきやがった。新聞作りに対する熱意は目を見れば分かる。訓練生のやつらだってその熱意が分かるほどの目をしていた。オレには到底、真似出来ない目。この先、生きていてもオレがその眼差しをするのは限り無く0に近いだろう。禁止区域に戻ればそういった目になるかも知れないがもちろん良い熱意では無い。それは生への執着に他ならない。
「朝霧海斗だ。」
「海斗さんですね。年はいくつですか?」
「さぁな。数えた事ねぇ。」
数秒の沈黙。
「……なら、幻想入りした経緯はなんでしょう?」
「わかるわけないだろうが。」
「……ここまでまともに取材を受けない外来人は初めてです。わざとやってます?」
本日2回目。射命丸はジト目でオレを見る。
「いやいや、真面目に答えてるっつーの。マジでわからねぇ質問すんなよ。」
納得いかないようだ。口の中に空気を溜め込んでいるのか、頬が少し膨らんでいる。まったく、どいつもこいつも表情豊かだな。
「じゃあ趣味はなんですか?」
「読書。」
「これまでどういった本を読んだのですか?」
「推理小説、図鑑、絵本、読めるものは何でもだ。幻想郷では魔法に関する本も読んだ。」
「ふむふむ。ジャンルを選ばず読むとは真の読書家ですね。」
真の読書家か、言われて悪い気はしない……ちょっとまて、こうやって良い気にさせて情報を引き出すやり方か? 実に合理的だがネタが分かった以上オレには通用しないことを思い知らせてやろう。
「見出しは真の読書家、朝霧海斗で決まりだよな。」
「も、もちろんですとも。」
うんうん、良い響きだ。
「それじゃあ特技はあったりしますか?」
「ピッキングくらいだな、複雑じゃなけりゃあ数秒で開けるぜ。」
実際にキーピックで鍵を開ける仕草をしながら言う。俗に言う、エアピッキングだ!
「人間の殿方にしては随分珍しい特技ですね。」
「ま、幻想郷では使う必要性は無さそうだけどな。家の作りが古いから鍵を開けるまでもない。」
扉を壊せば出入り自由だし。
「そうですね。ちゃんとした鍵があるのは紅魔館くらいですし。」
「へぇ、あるんだな。」
そういや異変についての話を聞いてるときに吸血鬼の話があったな。吸血鬼が瓦屋根の家に住んでるとは考えにくい。居たらスゲー面白そうだけど。
「なぁ、その館には吸血鬼が居たりするのか?」
「ご存知だったんですか?」
「知ってたわけじゃない、異変の事を霊夢から聞いてな。もしかしたらって思っただけだ。」
「そうでしたか。仰るとおり吸血鬼がいますよ。」
「マジで!?」
考えてみれば出逢った妖怪は紫とルーミアくらいだ。詳しく聞いたわけじゃないが恐らくマイナーな妖怪の類だろう。そういえば吸血鬼とか王道に会ってないよな。
「因みに私も妖怪ですよ。」
「あっそう。」
「あやや~? そんな態度でいいんですか。結構有名な妖怪ですよ、私。」
とか言ってるが所詮はマイナーだろう。良く喋るし九官鳥の妖怪に違いない。
「どれほど有名かオレが判断してやるよ。」
「何を隠そう、私はあの鴉天狗ですよ!!」
「はい、それダウト。」
射命丸は誇らしげに両手を腰にあて、胸を張ったままだ。
「え、ほんとに?」
「本当です。」
「ほんとにほんと?」
「本当に本当です。」
「ほんとにほんとにほんと?」
「本当に本当に本当です。」
どうやら嘘は吐いていないようだが、イマイチ信じられん。
「でもよ鴉天狗って割には鼻も長くないし、羽根も無いじゃん。」
そう、見た目だけなら人間の女そのもので。どこも鴉天狗らしい箇所は見当たらない。
「鼻は伸ばせませんが、羽根なら出せますよ。」
言うと同時に射命丸の背中からバサッ、バサッっと黒い羽根が出てくる。流石に人間サイズが飛ぶためなのか中々でかい。その羽根を見ているとまるで夢だと錯覚しても可笑しくない程だ。まさか幻想郷じゃないとこで妖怪の存在を実感する事になるとはな。
「すげ、羽根触っても平気か?」
気になったら止まらないオレは聞いていた。
「……撫でたりする程度だったら構いませんよ。くれぐれも摘んだりしないでくださいね。」
芸人にネタを振るとは、出来た鴉天狗のようだ。受け取らないわけにはいかないな! 羽根を撫でる。もちろん最初は優しくだ。
「ちゃんと手入れをしてるんだな。」
「も、もちろんですっ。」
恐らく人間で言うところの髪と同じなんだろう。触り心地は悪くない、だが触り続けるなら髪の方が良いな。人間と妖怪では思うところが違うのだろうか。
「そろそろ頃合いだな。」
「なにがでしょうか?」
射命丸は気付いていない様子、状況はバッチリだ……ぎゅう。
「……はうぅ、っあ。」
飛ぶのに必要なのだろう、想像してたより弾力がある。それに羽根は敏感らしく威勢の良かった射命丸は見る影も無い。
「か、海斗さん、摘まないでって言ったじゃないですかぁ……。」
痛かったのか射命丸はしゃがみ込む。そして涙目になりながら弱々しくオレに言ってくる。
「悪い、ここまで感度が良いとは思わなかったんだ。」
「どうせ、わざとですよね?」
「……さぁ、どうだろうな。」
「そろそろ辺りも暗くなってきたし、今日はこの辺にしておきなさい。」
いままでオレたちを観察していた紫が口を開く。
「そ、そうですね。全然取材が出来なかったのでまた後日来させていただきますね、海斗さん。」
「あぁん? 次も取材受けるとは言ってねぇんだが。」
「……。」
はい! 射命丸、本日3回目のジト目戴きました~。
「また、いなり寿司持ってくればいいかしら?」
「気分が良けりゃ受けてやるよ。それに羽根触らせてもらったしな。」
「良かったわね、文。それじゃ私たちは帰るわ。」
そう言うとスキマが消え始める。
「あ、紫。」
「なにかしら?」
「いなり寿司作った、式? だっけか。美味かったって伝えといてくれないか?」
「……ええ、伝えとくわ。」
「おう、じゃあな。」
そこでスキマは消える。再び釣竿を握り、ルアーを川へ。
「だが、オレの戦いはこれからだ!」
………。
……。
「まさか初対面の人間に羽根を触らせるなんて文らしくないわね。」
さすがに弱点と言うほどではないが鴉天狗にとって羽根は大切な部分。そんな大切な部分を会って間もない人間に触らせるなんて考えられない。
「それは、その場のノリみたいなもので。」
「ふ~ん、意外に空気読めるのね。それで、海斗の印象はどうだった?」
今回の取材をしたことで文もまた遭遇者となった。私が求めている情報の一つ。
「人間の癖に生意気ですね。」
腕を組み、先ほどの事を思い出しているのか。イライラしている様子。
「それでも不思議と嫌悪感は感じませんでした。それに本当の姿を隠してる印象ですね。」
「なんか、こう、影を感じると言えばいいんでしょうか? まだ確証はありませんけど。」
さすがに何人もの外来人を見てきた経験か、霊夢たちより鋭い。
「同感、私もそう思うわ。」
「じゃあ早速だけど記事を作って、幻想郷に広めてくれるかしら?」
「もちろんですとも! それでは失礼します。」
記事を書くために妖怪の山へ向かう。
「……影がある、か。」
その影がどんなものか妖怪の私には理解出来ないかも知れない。想像してたより、人間は複雑で深いのかも知れないわね。
いかがでしたでしょうか?
今回は第2章、1話目なので幻想郷sideでした。
次回は護衛sideの予定です。
最近はプリキュア×海斗を妄想しすぎて大変です。
いつかやってみたいですね。
ご観覧ありがとうございました。
ご意見、ご感想がありましたらバインドバインドとお願いします!