もしも、原作第3章で諦めたナツキ・スバルが死に戻ったら。
作者は怠惰です。WEB版3章までしか読んでません。
スバルくんって中々かっこいいな。
って思ってたら電波を受信。妄想して書いちゃいました。
この作品は妄想で出来ております。
UA1000オーバー…こんな駄文を読んで下さりありがとうございます。
もしも、リゼロ第3章で諦めたスバル君が死に戻ったら。
◆
ナツキ・スバル、56歳。 冬。
妻に先立たれ、己の肉体と精神に限界を感じ、彼は悩んでいた。
「・・・・・」
そして悩みに悩み抜いた結果、
彼が辿り着いた結果は、
感謝であった。
齢10代後半からこのような自分に連れ添ってくれた、支えてくれた妻への限りなく大きな恩。その恩は妻の生前にはついぞ返せなかった。
その為、自分なりに少しでも返そうと思い至ったのが、
1日1万回
感謝の正拳突き
気を整え。拝み、祈り、構えて、突く。
一連の動作を1回こなすのに当初は5~6秒。
1万回を突き終えるまでに初日は18時間以上を費やした。
突き終えれば倒れるように寝る。
起きて、また突くを繰り返す日々。
「ハァ・・・ハァ・・・」
・・・・2年が過ぎた頃、異変に気付く。
1万回突き終えても、
日が暮れていない。
齢60を超えて、完全に羽化する。
感謝の正拳突き1万回
1時間を、切る。
―――かわりに、妻へ祈る時間が増えた。
『有難う』
こんな自分に付いて来てくれて。
『有難う』
こんな自分を支えてくれて。
『有難う』
こんな自分と、一緒に逃げてくれて。愛する妻よ、もしも次があるならば、
「・・・次は、諦めないで、やってみるかな」
『―――諦めるなんて、あなたには似合わない』
「ああ・・・、今。妻の声が、」
ナツキ・スバル、61歳。 冬。
日課を終え、祈りの中で、彼にも終わる時が来た。
◆
―――突然だが、死に戻りという物について諸兄はどう考えるだろうか?
そう、死んだら人生をやり直す事が出来る。所謂強くてニューゲームをする事が出来る。
RPGのクリア特典として数多く例があるそれは、ゲーマーとしての観点から言うのならば楽しいの一言だろう。
あんなに倒すのに苦労した序盤のボスが、敵が、あっさりと駆逐できる。
当然だ。総プレイ時間という歴史が、己の頑張りが、そっくりそのままキャラクターの強さとなって序盤から発揮してくれるのだから。
超スカッとするね!!!オレ強エエエエエエ!!!
このように感想を言う事は、ゲーマーであれば誰しもあることだと思う。
しかし、もしこれが現実の身体で反映されればどうだろう?
しかも肉体は弱いまま、ゼロから始まる。引き継げるのは記憶、意識だけ。あんなに苦労して頑張って働いて身に付けた身体能力も、まるで無かった事になっている。
え?つまり何?死に戻りとは、ちょっと物知りな人間が一人生まれるだけの物ではないのか!?
・・・少なくとも、再度ここに戻ってきた俺ことナツキ・スバル(17歳)はそう考えていた。
「ぉォおおおおお!!!ぐろおおォりああァァす!!!!!」
「に、にいちゃん?」
「やあ☆俺だよナツキ・スバルだよ☆ またの名をべんぼう、地獄だよ。
つか自分で言っててなんだけど俺の人生って地獄みたいなモンじゃねえ?何10年ぶりにまたここに戻ってきたんだと思うよリンガ売りのおっさん!消えそうな過去を救い出す為の時間よここから始まれってか?やかましいわ!!!
あ、それともう俺おっさんよりも年上だから!ト・シ・ウ・エ!そこんところよろしく☆つかおっさんの顔も忘れてたよ☆名前なんだっけ?☆」
「スバルくん!!!」
「ガッ」
目覚めのグーパンがドタマに一閃。痛く懐かしい。
「このグーパン・・・覚えが・・・ある・・・?」
これは妻の、
「まさか、レム・・・?」
「はい、レムです。一体全体どうしたんですか?変な顔で店先で叫んだりして……」
「―――――」
―――パチン。
「スバルくん?掌を合わせて何を?」
拝み、祈り。そして小さく呟く。
「・・・分かってるさ。このレムは妻じゃない。分かっているとも」
彼女はナツキ・レムではない。でも、それでも、
「祈らずには、感謝せずにはいられねえじゃねえか」
また、彼女に逢えた。
「レム。感謝してる」
「よく分かりませんが、それはレムの台詞ですよ。スバルくん」
『諦めるなんて、あなたには似合わない』
今回の死に戻りは妻の力なのかもしれない。――ならば、
「レム、ちょっとばかし手伝ってくれねえか。まだ俺は、諦めたくない」
この頃の自分が、周りがどうだったか等の記憶は鮮明だ。例え地獄に落ちても、天国に上っても、思い返すことが出来る。
―――ある事を、諦めてしまった時だから。
「はい。謹んでお受けします。諦めるなんて、スバルくんには似合いませんから」
◆
『白鯨』
この単語を聞いて何が思い浮かぶだろう。アメリカ小説のモビーディックか?白ひげ海賊団の船か?それともアニメ白鯨伝説?
様々色々あるが、その全てには共通項がある。
それは、とてつもなくとてつもなくデカいということ。
「―――――ぁ」
ルグニカ王国次代王候補、クルシュ・カルステンは驚愕した。その大きさに。
――話には聞いていた。何度も想像はしていた。その大きさを。…対策は練っていた。シミュレートは万全だった。
空に浮かぶ魔獣、空飛ぶ魔王・白鯨。
この大きさを、この眼で見るまでは。
それはまるでお伽噺に出てくる化け物そのものであった。
―――全軍に、命令を出さなければ。
「…人間の勇気が挫けて友を、…友を見捨てる日が来るかもしれない。魔の時代が訪れ、盾が砕かれ、人間の時代が終わるかもしれない」
おい。一体何を自分は言っている?
総攻撃。総攻撃だ。総攻撃と大きな声で言え。何の為に今日まで頑張ってきた?何の為にここに来た?
奴を。あの空の魔王を殲滅する為であろうが。今日は一体何の日だ? 今日は戦う日であろうが!!!
・・・・しかし、口からは誰にも聞こえぬ程の声しか出ない。それほど敵は大きいのだ。
それほど魔王は恐ろしいのだ。
『大きいという事は、それだけで強さになります』
『――ヴィルヘルム』
『公爵家であらせられるクルシュ様では、腑に落ちないかとは存じますが。ゆめ、巨大な相手に呑まれませぬよう』
流石は百戦錬磨の剣鬼。年の功というのは中々どうして含蓄が。
『ひと狩り、いこうぜ?』
―――。何故今あの男が出てくるのか。
加護も無い一般人がひと狩りなどと、簡単に言ってくれるものだ。
「―――諸君の眼の中に、私をも襲うだろう恐れが見える。恐れは、私も同じだ」
しかし。なればこそ、
「いつの日か、人の勇気が失われ、友を捨て、あらゆる絆を絶つ日が来るかもしれない。 だが!!今日ではない!!!」
負けてなるものか。
諦めてなるものか。
我が野望の為、目的の為に。
そして何より、この背中を見守る友の為に!!!
「かけがえのない!皆の大切に思うもの全てに懸けて!!踏みとどまって今日は戦うのだ!!!ぶちかませ!!!!ルグニカの強者たち!!!!!」
「我らに!!!神龍のご加護あれ!!!」
―――魔王に対する勇者達の挑戦が始まった。
◆
魔王。所謂ボスキャラというのはどの世界でも恐ろしい。だって体力が多い。速い。力はある。堅い。
そして、1度に何回も何回も攻撃してくる。
「おいおいおい白鯨が複数いるなんて聞いてねえぞ!!」
「うわあああああああ!!!」
それもそうだ。魔王が1体だけだとはどこの誰も言っていない。・・・そして魔王は、勇者達を全滅させるまで止まらない。
「・・・どうすりゃいい」
―――初動がいけなかった。クルシュ達も俺も、白鯨の大きさに圧倒されて動作が遅れた。
「・・・どうせここで死んでも、次があるだろう。諦めて破れかぶれに突っ込んでみるか?」
そして、この経験を次に生かす。
生かす。次に生かすのだ。俺には多分次がある。ナツキ・スバルには、次が有るんだ。
「だけどレムには。・・・・・皆には次なんて無えんだよ」
「スバルくん!」
傷つき血を流す青鬼の、真摯な呼びかけ。
諦めてなんか、いられないだろ。
そんなものは、
「似合わないって、妻に言われたんだよ!!!」
◆
―――死に戻りという物について、諸兄はどう考えるだろうか?
ナツキ・スバルには、意識と記憶しか引き継げるものが無い。
前回は生涯61年分。この世で一番自分が大嫌いという意識と、妻との生活の記憶。自分と妻の子供達との記憶。
感謝
ただひたすら、妻への感謝という一念に没頭した意識。
記憶と意識。即ち、精神力。心の働き。
ナツキ・スバルはこれを人並み以上に持っている。昇華させている。だがそれだけで果たして闘って往けるのか?答えは彼の意識の中。
いや、
≪―――こんな時、助けが来てくれたら。≫
この場の皆が普遍的に持つ、集合的無意識の中。
「・・・諦めねえ」
亡き妻への祈りの最中、ある日ナツキ・スバルはその集合的無意識を感じ取れるようになっていた。
「諦めねえぞ見やがれ、もう俺の辞書にそんな言葉は存在しねえ」
妻のお陰でもう一度自分はこの時代に、今ここに立てた。妻のお陰で自分はゼロから始める事が出来た。
だから、鯨なんかには負けられない。
◇
―――鬼気迫る彼の姿。
その姿を、傷付いた青鬼は見ていた。
ゼロから自分を始めさせてくれた彼を。
あの日から依然変わりなく、鬼懸かった彼を。
…ああ。やはり、あなたはレムの――――
◇
前回、ナツキ・スバルは死ぬその時まで人前で己の正拳突きを見せなかった。だがもし見た者がいたのなら無意識に思うだろう。
――人間とは、こうも鬼懸かれるのか。
「何故なら誰でも、」
≪―――誰か、助けて下さい。≫
「諦めなければ夢は必ず叶うと信じているんだあッ!!!!!!」
気を整え。拝み、祈り、構えて、突く。
「 唵・摩訶迦羅耶娑婆訶
終段・顕象―――
大黒天摩訶迦羅 」
◆
真の困難に直面し進退窮まった時、人は無意識に何かに祈るらしい。何かを夢見るものらしい。
例えば、困難も何もかもを破壊してくれる破壊神といった何かを。
《―――どうか、ここから消えて無くなれ。》
◆
「…なんだ、あれは」
誰かが呟く。
そこに現われたのは、御伽噺や夢物語、それこそ空想でしか見聞きした事がない何かだった。
―――日本で名高い七福神。その一柱、大黒天。
その大黒様、実は別名をマハーカーラといい、ヒンドゥー教において破壊を司る神様である。
そして別名を、シヴァ神ともいう。
「ふ、伏せろおおお!!!!!!」
顕現した破壊神の一撃が、空の魔王を襲う。
人が持つ集合的無意識。阿頼耶識。夢とも言うそれを、ナツキ・スバルは現実に呼び出していた。
この力は、盧生という人間を愛する魔王と英雄達の物語に登場する力、その奥義。如何にとある一念のみに死ぬまで没頭したナツキ・スバルでも、実際にこんな事が出来るはずがなかった。
それを可能にしたのはひとえに偶然であり、今回偶々彼の精神力が人間の限界という壁をほんの少し破っただけ。
―――もうこの先、彼にはこんな神(鬼)懸かった事は出来ないだろう。いつもいつも限界の壁は、破ればより強く厚く修復される。
そしてナツキ・スバルは、死んでしまえばまたゼロから始まってしまうのだろう。
「・・・俺を救ってくれた女に手ェだすんじゃねえよ鯨野郎」
しかし、妻と共に地獄も天国も見てきた彼ならば。
『―――俺は、あいつの英雄だ』
そんな力が無くとも、自力で、きっとこの先幸せを掴む事が出来るだろう。
例えばこんなナツキ・スバル
『 英雄 』
◇
エピローグ
―――空の魔王は撃ち砕かれた。
無我夢中だったからよく覚えてないが、勝鬨を上げている周囲を見やれば、今回は俺達の大勝利で間違いないだろう。
「やりましたね、スバルくん。やっぱりスバルくんはレムの英雄です」
「・・・ああ。お前のお陰だ、レム。無事でよかっ―――た?」
しかし・・・あれ?レムりん?何か顔が、
「ところでお聞きしたいんですが、スバルくん。 妻 って誰の事ですか?スバルくん?スバルくん結婚なんてしてませんよね?おかしいですよね?レムの英雄スバルくん。
―――もう一度聞きます。 つま って、誰ですか?」
「・・・・・おお万歳。勘弁してくれ・・・」
英雄(おとこ)はつらいな。
◆
誰かの為に強くなれ。
歯を食いしばって守り抜け。
転んでも、また立ち上がればいい。
ただそれだけ出来れば、大嫌いなお前だって英雄さ。
―――次への自分へ。 菜月 昴