特級人型危険種『風見幽香』   作:歩く好奇心

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読みやすい文章を心掛けていますが、自己評価というのは当てにならないですね。

追記:すいません。無駄な文があるように感じて少し削りました。内容は変わりませんので。


見逃してあげるわ

時は遡ってイヲカル邸。

傭兵達が目の前の女性からいざ逃げようと足を踏み出した時のことだ。

 

「…えっ?」

 

傭兵達三人は唖然とした。

彼女が何を言ったのかわからないからだ。

仲間を一瞬にして塵にする暴力をもつ女性、風見幽香。無表情で近づいてくる彼女から今まさに逃げようと背を向けた時、

「待ちなさい」と肩を叩かれた。

動けない。

肩を叩かれていない者もその言葉に体が固まった。

 

死を察した彼らだが、次に発せられた言葉は意外な一言。

 

「茶を出しなさい」

 

場にそぐわない一言だった。

彼らは固まった。何を言われたのか理解できなかった。

 

聞き違いなのでは、と思い恐る恐る聞き返す。

 

「その耳は飾りのようね。それとも客に対して茶をだすこともしない礼儀知らずなのかしら?」

 

逆に、お前は何を言っているのか、と言わんばかりの顔と口調で返される。彼女の変わらない無表情に、彼らはより頭が混乱した。

 

「お、俺らを殺さないのか?」

 

「どうして?」

 

彼女は見当違いな返事を返す。

疑問を疑問で返された。

彼らは戸惑いを隠せずオロオロしだした。

 

「だ、だってイヲカルや今のアイツだって……」

 

「…ああ、彼ね。何時までも乱暴に掴むものだから、つい力を加減するのを忘れてたわ。あと……お仲間さんはよくわからないわね、突然殴り掛かってきたから殺したけど、悪く思わないで頂戴ね。」

 

彼らは何を言えばいいのかわからなかった。

彼女から返される答えはどこかずれている気がしてならない。

 

「ほ、本当に俺らを殺さないでいいのか?」

 

「…何?殺されたいの?」

 

「ッ!い、いや、違う!そうじゃないんだ」

 

「敵意を向けてない人間をわざわざ殺す意味はないわ。……安心なさい。そんな子供みたいに怖がっている人をわざわざ殺す真似なんてしないわ。」

 

彼女は「もういいでしょ」と質問をやめさせる。

彼女の冷たい態度とその口調。

彼女が彼らのことなど欠片も興味がないことは明らかであった。

彼らは殺されることがない事実に安堵した。

そして同時に気付いた。

自身が子供扱いされていることを。

そしてそれを当然のように受け入れていることに。

 

彼らは大人としての面子や、武人としての誇りはもっている。

しかしそれ以上に、何も力を示せずに命を散らすことの方が嫌だった。

 

 

彼女が再び茶を促すと、彼らはそそくさと客間に案内して接待した。

そして彼女は出された茶を気に入ったため、その茶葉を要求して適当に館を見回った後、何事もなかったように帰宅したのであった。

 

 

 

 

 

「アンタ中々やるねぇ!…でも、そろそろ死んでもらうよ!」

 

「ハッ!死ぬのはお前だ!!」

 

レオーネは快活に笑って回転蹴りを放つ。

すさまじい速度の乗った蹴り。

傭兵は防御に成功するが、その余りの威力に耐えきれず吹っ飛ばされてしまう。

その馬鹿げた威力に驚愕し、顔を激しく歪めるも、何とか着地に成功させた。

 

「(どうすればいい、このままではジリ貧だ。こちらが先に倒れてしまうぞ)」

 

金髪で獣の要素が混ざったその姿。

レオーネを睨み付けてそう危ぶんだ。

彼はさっきの威力を痛感し、自身の命の危険性を改めて認識したのである。

 

 

百獣王化『ライオネル』ベルト型の帝具。

獣化して身体能力を飛躍的に向上させる効果をもつ。

加えて嗅覚などの五感も獣並に飛躍させる特徴をもっていた。

 

「いい加減しぶといねぇ」

 

レオーネは自身の蹴りを凌いでみせた傭兵を呆れたように見やる。

やれやれと肩を竦めて見せるが、内心はやや驚きである。

さっきの一撃は完全にとどめをさすつもりで放ったのだ。

渾身の一撃。避けられる筈がない、と確信していた。

しかし、現に彼は凌いで見せた。

レオーネは警戒度をあげて、目付きを鋭くさせる。

 

「これまで散々外道な真似をしてきておいて、今さら逃げられると思ってんのかい?」

 

ややおどけるように言って彼に近づく。

 

「…ハッ、強い者が弱い者をなぶるのは当然のことだ。それが帝国の常識だろうに」

 

嘲笑。

馬鹿なことを言わせるな。

彼の顔はそう物語っている。その言葉に苛立ちがつのり、彼女の目付きはさらに尖る。

 

「それが許せないからこうやって殺しに来てやってんだよ、アタシは」

 

彼女は言い終わると同時、瞬時に彼の眼前まで接近し、咆哮を放つと共に渾身のストレート。

終りだ。

そう思うも、彼の紙一重の回避を目にして「なっ!!」と驚愕。

 

「ラァ!!」

 

彼は回避と同時にカウンターの上段蹴り。

レオーネは目を見張った。

見事に極められた体捌き。

彼女は痛恨の反撃を避けきれず後頭部の直撃を受けて、引きずるように地に倒れる。

 

「やっろう…」

 

彼女は反撃を喰らったことに怒りを隠せず歯を食い縛る。

くそったれ、と悪態をつき上体を起こすが、眼前には追撃の一撃。

 

「(もう目の前に!)」

 

彼女はもはや避けられない距離に怖気が走った。

死を直感し、帝具による強靭な肉体を総動員させる。

彼の拳は空振り、頬を削るのみに留まった。

信じられない回避反応に「馬鹿な‼」と彼は驚愕する。

 

「クソが!!」

 

そう言って彼は続けて拳を繰り出すが、反応が遅く、彼女は既にお返しとばかりに顔面へと拳を繰り出している。

 

彼は反撃もままならずもろに喰らい、衝撃とともに体が吹っ飛んだ。骨格が歪む程の衝撃に地を引きずる。

 

「……………」

 

レオーネは削れた頬に手をあて、憤怒の表情に染める。まさかの反撃を喰らったことが、とてつもなく気に入らなかったのだ。

 

「お前ぇ、やってくれたなぁ。」

 

彼女はグッとよろけて立ち上がる。

 

「アタシは蹴飛ばすのは好きだけどよぉ……」

 

言葉を続け、怒りのままに雄叫びを放つ。

 

「蹴飛ばされるのが大っ嫌いなんだよォオオオ!!!」

 

彼女は怒りの形相のままに猛然と突貫する。

獣を凌駕する速度。

瞬く間によろけて立つ彼の元まで接近し、さらに歪めてやらんと再び彼の顔面への一撃を穿つ。

目を見開いた。

疲弊しきった体の何処にそんな余力があるのか、またもや紙一重に避けられる。

 

彼女は油断などとっくに捨てていた。

しかし彼女はただただ驚愕せずにはいられなかった。

自身の暗殺術と帝具をもってすれば、倒せない筈がないのに。

彼女は甚だ疑問に思った。

 

 

本来であれば、彼女の暗殺術と帝具をもってすれば、予定通り大した苦労もなく倒せたであろう。

 

しかし、彼らは見てしまった。

実力を出しきることもなく羽虫のように散った仲間を。闘う前から決着がついてしまっている力量差というものがあることを。

 

こうやって戦えている。

圧倒的な劣勢であろうが力を示せている。

なんて素晴らしいことなのか。

彼はそう思わずにはいられなかった。

 

力を示すこと自体が無駄と理解させられた、絶対的な暴力と人外の気配というものを知った。

それ故に僅でも勝機が見出だせる現状に、彼の闘志が挫けることはなかったのであった。

 

 

 

─しかし

 

彼女の驚きは一瞬、逃さない、と目にも止まらぬ回し蹴りが繰り出される。

 

「がっ!?」

 

彼は二撃目の蹴りを察知するも防御が間に合わず、横腹に痛烈な衝撃を受ける。

そのまま蹴り飛ばされ地面を転がる。

 

「──ッ!」

 

悪寒。

 

彼は強打するように転がって、地に伏して無防備をさらしたのだ。

不味い、と地面から顔を上げるが、時は既に遅く…

 

 

圧迫感すら感じる彼女の蹴りが、目と鼻の先にあったのであった。

 

 

 

 

 

「─ッ、ァアアア"ア"ア"ア"!!!くっそ!くっそぉ、意外に危なかったぁ」

 

彼女は冷や汗をかいていた。

彼女の頬と耳は抉られたような鮮血色の筋肉が晒されていた。

現在は帝具による治癒力強化によりじわじわと治りつつある。

 

しかし、彼女は顔を抉られた痛みに顔をしかめざるを得かった。

 

眼前には顔面を飛散させた傭兵が転がる。

彼は死を直前にして、驚くべき反応速度をもって起死回生の反撃を試みたのであった。

 

結果、彼女はその脅威の反射神経で直撃をまぬがれるも、手痛いダメージを負った。

直撃して頭が消し飛んだ場合、治癒力強化をもってしても死はまぬがれなかったであろう。

 

「アアア!!まじ、ほんっと痛ってぇ!!!」

 

彼女は痛みに耐えかねて叫ぶ。

 

そこに、ブラートは戦いを終えて、地団駄踏む彼女に近寄った。

 

「おいおい、随分苦戦したみたいじゃねえか?」

 

彼は苦笑染みて問い掛けた。

不敵に笑っているが、その顔は心配の意も表れている。

 

見ると彼の体に大きな傷を負った様子はない。

彼は遅れをとることなく勝利を納めた様子だ。

「自分はこんなに手傷負ってんのに」と彼女は少し面白くない気持ちになり、

「ちぇっ、ピンピンしやがって」と不貞腐れた態度をとって返した。

 

「腕が鈍ったか?」

 

「ちがうって!予想外にしぶとかったんだって!」

 

ブラートはからかい混じりに問いかける。

しかし、彼女は予想外に食って掛かった。

彼はその反応に苦笑混じりに驚く。

 

「は、ハハッ、まあ、違ぇねぇか、俺んとこの二人も中々やりやがったよ」

 

「っかあ!腐れ外道にこんなやられるなんて、ほんっと腹が立つなぁ」

 

「全くだな」

 

レオーネは頭をかきむしってそう言った。

 

ブラートが苛立つ彼女をまあまあと宥めていると、マインの声がかかる。

 

「二人とも、ちょっと助けてよ!」

 

見ると、マインはフラフラと疲れた様子でタツミに肩を貸している。

当のタツミは気を失っていた。

 

レオーネとブラートはフッと苦笑すると「はいよ」と了解の意を返し、二人に歩みよる。

 

ナイトレイドは目標を達成し、数名はボロボロの体を引きずってアジトに帰還するのであった。

 

 

 

 

 

「幽香、どういうことか説明してくれるか?」

 

ナジェンダはため息とともに困った顔をして幽香に問いただす。

部屋にはメンバーの全員が集まっていた。

 

幽香はいつの間にか帰ってきていた。

拉致まがいな目にあったというラバックの情報があるのにも関わらず。

加えて自室で優雅に茶まで飲んでいたのだ。

その態度は、まるで何もありませんでしたよ、と物語っているまであった。

 

実際、何もなかったことはないのだ。

イヲカルの館にはイヲカルらしき遺体と護衛傭兵の遺体が見つかっている。

 

ナジェンダは頭を抱えた。

幽香は二人の人間を殺して帰ってきているにも関わらず、報告すらしないのだ。

現にこうやって問い詰めてもまるで報告する素振りが見えない。

 

「どういうことってどういうことかしら?そっちがちゃんと説明なさい。」

 

幽香は馬鹿なの?と言いたげな態度で返した。

その言葉にナジェンダはどうすればいいのか、とハァと息をつき、顔を覆う。

 

「すっとぼけてんじゃないわよ!!アンタ何のうのうと帰ってきてるわけ!?」

 

マインが幽香の態度に腹を立てて食ってかかる。

 

「アンタがしっかり護衛共を殺さないからこっちはいい迷惑してんのよ!謝んなさいよ!!」

 

「どうして私が謝らなきゃいけないのかしら?任務なんて知らなかっただもの。仕方ないはずよ?」

 

謝罪を求められやや険に染まった口調になる。

幽香の機嫌が低下したことにラバックが慌てる。

 

「か、風見、それはお前の言う通りだ。任務なんて知らなかったんだしな。」

 

ラバックはそう言って幽香を宥めて言葉を続ける。

 

「ただ、俺らが聞いてるのは何でわざわざ護衛達を逃がしたかってことだ。二人の死体見た限り風見が殺したんだろ?戦闘が起こった中でお前が敵を逃がすなんて、何か理由でもあったんじゃないかって」

 

 

今回、幽香は拉致まがいなことを受けたが、その場で騒ぎになるようなことはしなかった。

それは帝国に目を付けられる等、後のことを考えてのことだ。ナイトレイドとして、顔が割れることを避ける意味もあった。

ナジェンダとしてはそういった自身の所属を理解して行動を選んだ幽香を高く評価した。

 

ちなみに拉致に関しては

 

「拉致?いいえ、招待を受けたから仕方無く受けてやっただけよ。でも、礼儀知らずな男だったから腹が立って殺したわ」

 

と言ってのけた幽香にナジェンダは嘆息したのであった。 

 

しかし、問題は敵を見逃したことにあった。

 

幽香の性格を考えると、敵を前に逃がすなんてのは考えられなかった。

敵として幽香の前に立つ。それは分際を弁えていない、と彼女の機嫌を損ねることになるからだ。

加えて部屋には女性の遺体も放置されており、明らかに暴力と強姦を受けたその様子に、同じ女性として許しておけるものではない。

彼女を怒らせる要素は沢山あったのだ。なのに今回、彼女は敵を見逃したのであり、ナジェンダを含める全員が不思議に思ったのであった。

そうナジェンダは説明するが、幽香の返答はあまりにも意外なもの。

 

「何も不思議じゃないわ。分際を弁えたから見逃しただけのことよ。戦意のないものをわざわざ殺さないわ。」

 

「はぁ?アンタ頭おかしいんじゃないの?そんなのアンタにビビっただけじゃない!!命乞いしたから見逃すなんて甘いわよ!!」

 

「怯えたから見逃してやったのよ。戦意のないやつを殺して何が面白いのかしら?」

 

幽香は何でもないように答えるが、マインはその言葉に「そんなことが言いたいんじゃない」と怒鳴り返す。

 

「女の人の死体も見たんでしょ!?あんなひっどいことされた死体見といて同じ女として何とも思わないわけ!?あの外道を逃したら同じことを繰り返すのがわかんないの?」

 

「そんなの私の知ったことじゃないわ。誰がどんな目にあっていようと、私と関係がないなら私が手を出す義理、義務もないじゃない」

 

幽香の吐き捨てるような言い草に愕然とし、肩をワナワナと震わせる。

睨み付ける瞳は激しい怒りに染まっている。今にも火山が爆発しそうなマインだが、しかし

 

「アンタ、ほんっと信じらんない」

 

ぶちギレたマインだが、逆に肩の震え止めて大人しくなる。そして彼女は怒りを孕みながらも静かに言葉をぶつける。底冷えするような声音であった。

しかし、幽香は全く気にした様子はなく、呆れた風でさえある。

 

「しつこい女ね。一緒にするなって何度言えばわかるのかしら」

 

鼻を鳴らしてそう答える。

マインは静かなながらも愛銃に手をかけそうな気配をだしている。

ナジェンダはこれ以上は不味い、と判断し、両者に「そこまでだ」と制止を書ける。

 

 

少なくとも今回のことで、幽香はある程度立場を弁えた行動がとれ、戦意を失ったものには無闇に手をかける性格ではないということがわかったのであった。

上々だ。ナジェンダはそう思うと幽香に話しかける。

 

「幽香、お前の言い分はよくわかった。危険種であるにも関わらず、無闇に人に手をかけたりしないことがわかっただけでも十分だ。それにそもそも、今回のお前の行動に非があるわけではない。呼び出して済まなかったな」

 

ナジェンダの言葉を幽香は「まるで問題児みたいな扱いね。失礼しちゃうわ」とため息をはいて出ていったが、ナジェンダはその言葉を聞いてさらに深いため息をはいた。

その顔には疲れがありありと表れている。

 

他のメンバーも出ていき、部屋にはナジェンダとラバックのみが残る。

 

「全く、幽香の言動には困ったものだ。口を開く度にマインが銃に手をかけないかヒヤヒヤするぞ」

 

ナジェンダはハァ、と愚痴をこぼすが、ラバックは苦笑して受け答える。

 

「まぁ、でも驚きましたよ、俺。戦意のないやつは殺さないだなんて。危険種なのにあんなこと考えるんですね」

 

ラバックは彼女の沈んだ雰囲気を変えるように話題をあげた。

 

「ああ全くだ、これは素晴らしい収穫ともいえる。」

 

幽香は危険種である。

任務や命令を意に介さず人を殺すのではないかと危惧していたところに、彼女自身から思慮深い発言が見られたのだ。

 

「ハァ、全く、最近は幽香とマインの相手が疲れるな。肩が凝ってたまらん」

 

「で、ではでは!このラバックめが肩を揉んでボスの疲れを癒して差し上げましょう!」

 

肩を揉むナジェンダにラバックは手をわきわきさせてそう近づく。

ナジェンダはラバックの頭をペシッと叩き「そのいやらしい手つきはなんだ」と呆れたようにため息をつくのであった。

 

 

 




幽香の性格についてですが、原作準拠というわけではありません。あまりイメージは壊さないようにはしてるんですが、すこし期待はできないですね。ただ、ドS設定にすると、エスデスの強化版にしからない上に好き勝手やらせると話もワンパターンになるかなって思い、すこし丸くなった感じにしています。今後はどうなるかはわかりませんが。

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