それはとてもきれいな空で   作:ルシアン(通説)

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それはとても早い変化で

地球連合軍が中央アジア制圧の準備に追われだし、ジブリールらが密談をしていたそのとき、ロゴス盟主にして地球連合軍名誉少将であるムルタ・アズラエルは追い詰められていた。

…主に精神的に。

 

 

CE70年7月5日 ワシントン N.A.プリンセスセンチュリーホテル

 

 

「…えー、ご趣味はなんでしょう?」

 

「小さい頃からピアノとバレエをやっていて、それが…」

 

「ほお、ピアノは私も聴くのは好きです。弾くことはできませんが…。」

 

 

おのれアルスター。まさか本当に娘と見合いをさせるとは、残念ながら「可能性はあるなあ」と思いつつも良識的にないだろうと願っていたのに。何で自分の半分にもならない子供と見合いをしなきゃいけないんですか.

ハルバートンもサザーランドも苦笑はしつつも止めてくれなかったし…。

 

 

「あの、どうかなさいましたか?」

 

「ああいえ、少し考え事を。アルスター嬢も大変ですね。普段お父上はとても忙しいでしょうし、たまの休日もこのようなおじさんと食事をすることになりますし。」

 

「いえ、そんなことはありません。正直、ロゴス盟主で地球連合軍でも偉い方って聞いて、『きっと脂ぎった権力の虜になってる気持ち悪いおっさんよ。なんでパパはそんなのと見合いをさせようとするの?』って思っていたんです。でもこんなスマートで優しい方だったんですから、パパが見合いをさせようとする理由も分かったわ。」

 

「嬉しいことを言ってくれますね。…ですが本当のところ、こんな年が離れてる人と結婚をしたいとは思わないでしょう。」

 

「あら、私は気にならないわ。年齢差以上に内面と地位が良すぎるもの。」

 

「嬉しいことを言ってくれますね…。今回のお詫びもかねて、1つ何か叶えてあげましょう。言ってくれませんか?」

 

「ふふ、そんな簡単に言っちゃっていいのかしら?…そうねえ、じゃあこれからアズラエルさんのことをおじ様って呼んでいいかしら。」

 

「構いませんが…。そんなことでいいのですか?一応、アルスター嬢のお父上の休暇をひねり出させることも可能ですが。」

 

「私のことはフレイって呼んで頂戴。…確かにパパのお休みはとても魅力的だけど、そんなことしたら他の議員さんから恨まれちゃうわ。それに…うちはパパ以外家族がいないから…。」

 

「そうですか…。ではそうしましょう、『フレイ』」

 

「ありがとう!」

 

「そういえば、学校のほうは今どこに通っているのですか?」

 

「オーブのヘリオポリスにある学校に行っているわ。月のアルザッヘルの学校がよかったんだけど、パパが『あそこは危ない』って言うから…。」

 

「そうですね、現在アルザッヘルはザフトに狙われていますからね。…ですが、ヘリオポリスですか…。」

 

「ヘリオポリスがどうしたのかしら?」

 

「いえ、何でもありませんよ。」

 

 

その後もフレイ嬢との和やかな話は続き、翌日にはマスコミに密会の真偽について問いかけまわされるのであった。

 

 

 

 

CE70年7月23日

 

カスピ海北岸にて小競り合いをしていた地球連邦軍機甲部隊に対し、突如として大規模な砲撃と爆撃が加えられた。

秘密裏に集結していた最新鋭のリニアガンタンクを配備してある4個戦車師団を核とした中央アジア突破作戦(作戦名は『マルス』)の作戦部隊が攻勢を開始したのである。司令官にはスエズで惜しくも敗北を喫したとはいえ、機動戦術に類を見ない才を持つモーガン・シュバリエ少佐がロゴス盟主アズラエルの後押しもあり、異例の大抜擢で作戦総司令官に任命されていた。

ロゴス盟主からの期待と名誉挽回のまたとない機会を感じ取ったシュバリエ少佐は、空軍と緊密な連携をとることでお手本のような電撃作戦を中央アジアで展開して見せた。地球連合軍の広報は大平原を戦闘機の援護を受けつつ整然と疾走するリニアガンタンクの映像を公開し、地球連合軍の健在振りをアピールした。

 

 

7月25日

 

中央アジアにおいて思うように戦線を再構築できず焦りを募らせた地球連邦軍は、モスクワのすぐ隣に位置する衛星都市ウラディミルがなかなか陥落しないこともあり、この方面での攻勢をしばらく凍結させることを決定。

配備予定だった師団や予備として残していた部隊、そしてパイロット適正の関係上1ヶ月あたり50機しか補充できない虎の子の部隊であるジン等をかき集め、北極海の制海・制空権を手に入れるためにスカンディナビア王国に対して宣戦を布告した。

若干旧式といえる戦車とはいえ、数において圧倒的に勝る地球連邦軍は瞬く間に旧フィンランドを制圧。スカンディナビア山脈にも攻勢を開始した。

日本の首相であり、中立国間の相互防衛協定において議長に就任していたマキシマ首相は地球連邦軍の行動に対して

 

「国際法・秩序を完全に無視した行動であり、直ちに撤収・謝罪・賠償が行われないのであれば相互防衛協定に基づいてスカンディナビア王国を支援する。」

 

と発言。協定加盟各国は地球連合の勢力圏である北極海経由で援軍を派遣した。日本軍にはMS部隊も含まれており、世界各国がMS同士の初の戦いに注目を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

CE70年7月30日 スカンディナビア王国領キルナ鉄鉱山

 

ノルウェー側より上陸した協定加盟国軍は分散して前線に配置され、山岳戦闘にアドバンテージを持つとされる日本軍の特殊戦車師団(日本軍のMS部隊)は山脈において最前線となっているキルナ鉱山に配置された。

それまで戦闘を行っていたスカンディナビア王国軍山岳歩兵部隊によると地球連邦軍の側もMSジンの部隊の大半を山脈に投入しているようであり、日本軍のパイロットも初の対MS戦ということで緊張の度合いを高めていた。

 

 

「三佐殿、汎イスラム会議空軍より連絡。『上空のエアカバーを確保。但し支援するほどの余力は無い。』」

 

「そうか、ご苦労。一尉、どうやらMS同士の戦いだけですみそうだな。」

 

「そうですね。ロボットの戦いは日本が大先輩であるってことを教えてやりましょう。…ですが三佐、技術局が特殊装備でくれたビームサーベル、あれ付けるとなんか本当にアニメの世界みたいですよね。」

 

「…まあな。広報はあれを持った特殊戦車の戦闘シーンを次のポスターに貼る気満々らしい。こちらは接近戦をわざわざしようとは思っていないのだが…。」

 

「ですよね。ジンでしたっけ?のスペック見たんですが、あれの機動力で地上戦とか馬鹿でしょう。はっきり言って、ウラル要塞の陥落だって奇襲で司令部が潰れたからであって、ジン自体はそんなに活躍して無いでしょう?何でかスペック通りの性能も出し切ってないようですし…。」

 

「もともと宇宙戦の想定だからな。OSもCPUも宇宙空間での姿勢制御やら光量調整やらにほとんど使われてて、足りない部分は全部パイロット任せらしい。」

 

「うげ、よくそんな欠陥機に乗ってますね。連邦もザフトも。」

 

「決戦機に指定してしまっているからな。変えられんのだろうさ。

……全機に通達。全機、クールよりホットに移行。C装備にて待機。オペレーター、オペレーションアナウンスを開始せよ。」

 

「「「「了解」」」」

 

「オペレーターより全機へアナウンス。先行偵察部隊、ならびに航空班の情報より敵部隊の接近が判明。敵はMSジン25機、歩兵1個大隊、攻撃ヘリ1個中隊です。

ヘリに関しては会敵までに戦闘機で撃墜可能です。会敵予想は1時間後。サガミ三佐の指示に従い、迎撃してください。」

 

「聞いたな。各自、事前のシミュレーション通り行動せよ。この程度の敵、犠牲を出すなよ。」

 

 

 

1時間後、オペレーターの情報通り連邦軍のMS、歩兵と会敵。日本軍特殊戦車『久遠』12機は若干の小破機を除いて無傷でジン25機を撃破することに成功した。

 

 

 

 




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