それはとてもきれいな空で   作:ルシアン(通説)

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それはとても刺激的な戦闘で

「それで、艦隊司令官殿である名誉少将様がいったいどんな話をするって言うんで?」

 

第8艦隊旗艦というより、通商破壊任務指揮艦であるメネラオスのMA発着所にてアズラエルに対してその人物はふてぶてしそうに言った。

 

「やめてくださいよ。私は軍人なんて柄じゃないんですから、エンデュミオンの鷹殿。」

 

「…、分かった。で、アズラエル殿が俺に何か用でも?と、いうより教導任務についていた俺が何でひよっこ共ともどもこんな任務に就かされたのか謎なんだけど、どういうことだ?」

 

「ええ、あなたのガンバレルの、といよりも空間認識能力を生かしてあることをしてもらいたいんですよ。あなたの教え子については本当に観戦してもらうだけなんですが…。メビウス・ゼロは有線式のガンバレルを操って他方向からの同時攻撃を可能とする画期的機体なんですが、いい加減性能が旧式化しているといわざるを得ません。ですので、新たに無線誘導タイプの子機を使った機体を使っていただきたいのです。」

 

「無線誘導?Nジャマーの影響で不可能になった研究ジャンルだったろ、それ。ヴァルキュリアもハルピュイアも結局CPUによる完全自立型だから無人になっただけで、遠隔操作じゃないんだろ?どうやって動かすんだよ、その新型機体は。」

 

「基本的には既存のハルピュイア自体を子機としてもらいます。ですので操作系統もガンバレルと違ってほとんど子機のCPUでまかなえます。で、あなたには大まかな指示を子機に対して送ることで連携した攻撃をしてもらおうと思っています。Nジャマーも長距離誘導は不可能となりましたが、中長距離の単純な通信なら可能です。ようはノイズですからね。とはいえ、ガンバレルより格段に行動範囲は伸びますし、誘導は難しいかもしれませんが操作が楽になった分子機の数も増やせます。どうです?」

 

フラガからの質問に対しアズラエルはよどみなく答える。前線の兵士こそまだ知らないが、上層部では既に通達済みの情報となっている。この程度の話ならば問題はない。

 

「ああー…。まあ、それなら可能だわな。俺ももうちょっとガンバレルの数増やしたいと思ってたからそれはありがたいんだけど。…だがなぜそこまで俺にこだわるんだ?言っちゃ悪いが、メビウス・ゼロを使ってるやつはかなり少ないはずだ。特にグリマルディでだいぶ減っちまったからな…。それで、なんでメビウス・ゼロの発展機を作ろうとしてるんだ?それだったらハルピュイアの後継機とかMSとかを作るほうが先だろう。なぜだ?何を連合軍は考えている?」

 

「…鋭いですね。あなたも薄々気づいていると思いますが、今連合ではG計画というMS開発プロジェクトが進行しています。計画の終了は3ヵ月後となっていますが、困ったことにOSは戦闘記録を元に改良を続けなければ貧弱すぎるレベルと言えるでしょう。そこで、あなたに護衛機として新造艦に配属しパイロット、というよりも戦闘記録とOSを守ってもらいたいのです。」

 

「なるほどな。だがOSはどのぐらいのレベルなんだ?今は訓練だからジンのOSを転用しているが、もう少しましなレベルにはなるんだろう。」

 

「あまり期待はしないでください。機動戦は夢のまた夢になりそうだとは言っておきます。」

 

「…マジかよ。」

 

アズラエルの返答に、あー、クソッ、というボヤキを見せたフラガであったが、それでも彼に了承した。彼とて現在の戦況のままでは連合軍の負担が高すぎることは知っているのだ。どこかで新型兵器を導入しなければならないことは分かる。

 

「…分かった、3ヶ月以内にその新型機に慣れりゃいいんだな?」

 

「お願いします。」

 

フラガの返事を聞いたアズラエルはそのまま彼から離れていく。お飾りとはいえ軍人なのだ。仕事はまだ山のように存在していた。

 

 

 

 

 

「レーダーに反応!カオシュン発の輸送艦とその護衛艦隊だと思われます。数は恐らく20です!」

 

アルザッヘル基地を出港してから数日。通商破壊作戦への参加に向けて地球―プラント間の航路を巡回している最中、その報告はなされた。

即座にアズラエルを含むブリッジクルーに緊張が走る。

 

「20?若干多いような気もしますが…。まあいいです、砲戦可能距離までどのくらいですか?」

 

「恐らく20分くらいでしょう。MAを出しますか?」

 

「護衛艦隊は5隻ほどですよね。とするとMSは30機。やめときましょう、落とされるのがおちです。だったらせっかく艦数で勝ってるんですからアウトレンジから一気に攻撃してやりましょう。」

 

「…なるほど。全艦に通達!砲戦準備に移れ。その後にMAを出す。」

 

「了解、全艦に通達。砲戦準備に移れ、その後にMAを出す。」

 

「敵護衛艦隊、MSを射出しました。数、45です。」

 

「多いな。やつら、さては輸送艦にも無理やりMSを積んだな。」

 

「敵艦、MS射程圏内に入りました!射線上にいるMSの影響で敵艦は砲撃してきません。」

 

「よし。アズラエル少将、指示を!」

 

「分かりました。全艦、砲撃開始!5斉射後にMAを出せ!」

 

練度の高い第8艦隊の砲撃ということもあり、5斉射でMS8、ナスカ級1、輸送艦3隻を撃破することに成功し、他の艦にも多かれ少なかれダメージを与えることには成功した。しかし、やはりMSとMAの戦闘ともなると形勢は不利となり、無人MAを多数投入する物量策をもってしてもなかなかに敵にダメージを与えることはできない。

 

「MA損耗率30パーセントを突破!」

 

「アズラエル少将、敵はどうやらかなりの精鋭だったようです。このままでは敵MSを艦隊まで許してしまいます。」

 

「分かっています。ですが、もう少し待ってください。こちらもただやられるに任せているわけではないのです。」

 

「そうでしたな。しかし、間に合うのでしょうか。」

 

副官の心配に対し、アズラエルは内心の心配は押し隠して笑顔のみを向ける。歴戦の軍人であればポーカーフェイスで済むのだろうが、アズラエルは所詮商人でしかない。人を安心させるには笑顔が必須であった。

 

「少将!MSの内1機が突破してきました、恐らく指揮官機です!5分で防空射程距離内に入ってしまいます!」

 

「何!?直掩のメビウス50機を全て出せ!何としてでも防空射程圏外で食い止めろ!」

 

 

 

 

 

その頃、MS指揮官機に乗っているザフト軍隊長、ラウ・ル・クルーゼは状況に危機感を抱いていた。

 

(おかしい、確かにヤツの気配を感じはするのだが、どこにいる?それともまだ艦内にいるのか?…いや、それはない。ではいったいどこだ?どこにいるのだ、フラガ!)

 

因縁の敵の接近を感知し前線へと赴いてはみたものの、肝心のフラガ機を見出せずにいる。さすがの直感もフラガの位置を正確に教えてくれるわけではない。戦闘をこなしつつ探すしか方法はない。

 

「くっ、弾切れか。初戦の砲撃でMSを失っていなければ突破できたものを!…む?

……ふっ、どこまでも手の内で踊らされていたということか。ムルタ・アズラエル、私は貴様を甘く見すぎていたようだな。」

 

戦闘中に旗艦ヴェサリウスから届いたレーザー通信を見たクルーゼはそうつぶやくと、全MSに撤退するよう信号を上げるように旗艦に通信を送り、自らも撤退した。

 

 

 

 

「フラガ大尉よりレーザー通信!『ワレ奇襲攻撃ニ成功セリ。輸送艦12隻、ローラシア級2隻ヲ大破ニス。』敵艦隊旗艦の撤退信号を確認。敵MS、後退しています!」

 

「よし、MA隊にも後退するよう伝えろ。深追いすれば思わぬ反撃を食らいそうだ。

…やれやれ、何とか勝利できましたがあの指揮官機は化け物のようでしたな。まさか1機で有人MA21機を倒すとは…。」

 

艦橋ではフラガ機からの報告と敵の撤退を察知し、緊張を緩めていた。一時は敵の突撃にヒヤリとさせられたものの、何とか防ぐこともでき、作戦も成功と言える。

 

「ええ、結構危なかったですし、損害も想定以上ですね。…今回のように毎回毎回通商破壊に1個艦隊丸々出すわけにもいきませんし、やはり完全に物流を遮断することはできませんね。」

 

「ですが、たしかまだザフトの宇宙艦隊は回復しきっていなかったはず。この戦いの損害はザフトを苦しめるでしょうな。」

 

こうしてムルタ・アズラエルはジブリールらの陰謀に打ち勝ち、地球連合の英雄としてまた1個階級を上げられてしまうのだった。だが、地球に戻ってきて彼が1番に見る事となるのは賞賛の目で自分を見るマスコミ達ではなく、複数の秘書官たちが運んできた2週間分の報告書であった。

 




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12/09/09 誤字修正。黄金拍車様、ありがとうございます。

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