それはとてもきれいな空で   作:ルシアン(通説)

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それはとてもありえない戦いで

その報告は、ちょうどアルザッヘルに着くまでにもう一度ザフトの追撃部隊と戦わなければいけないことが判明した際にあった。

 

「…だめですね。このまま全速で進んでも13時間後には追いつかれてしまうでしょう。」

 

「私たちがアルザッヘルに着く予定時間は15時間後ですから…。」

 

「それ以前にアルザッヘル周辺の宙域は特別防衛宙域ですから原則的に敵部隊を進入させられません。」

 

「駐留艦隊が援護に出てくることを期待するしか…。」

 

艦橋で私とラミアス副長、そしてナタルが今後の方針を話し合っていたとき、レーダーを監視していたバスカーク二等兵から声がかけられたのだった。

 

「ぜ、前方200キロに戦闘艦発見!艦籍照合……地球連合軍無人偵察艦です!!」

 

「そうか、ご苦労。…艦長、どうなさいますか。」

 

「おそらくアルザッヘル基地の哨戒部隊だとは思いますが…無人艦ですから連絡も取れませんしねえ。とりあえずこちらを発見した基地の動きを待つしかないでしょう。」

 

「では進路はこのまま?」

 

「お願いします、ラミアス副長。」

 

このやりとりから3時間後には今度は無人MAが来ており、基地もしくは艦隊がこちらの接近に気づいていることは判明した。

そしてそこから更に2時間後…

 

「か、艦長!地球連合宇宙軍第八艦隊からの通信が入りました!まだ不鮮明ですが第八艦隊なのは確かです!」

 

「ザ…ザザ…こ、こちら…ザザ八艦隊…ザ…ザザ、クエンジェル…ザ答せよ!…り返す…ザザ……。」

 

「ふむ、ようやく連絡が取れましたか。第八艦隊ということは追撃部隊程度ならすぐに壊滅できますね。」

 

「アーガイル二等兵、こちらからも続けて接触を図るように。通信が明瞭になり次第知らせろ。」

 

「分かりました。」

 

その後通信が正確に取れるようになると、ハルバートン提督自らが通信に出、追撃部隊とどこで戦うかについての指示を出した。

やはりアルザッヘル周辺は厳重防衛の関係上戦闘をできないらしく、だいぶ離れることとなるが地球のすぐ近くで戦うこととなる。

というのも、追撃部隊のMSの機動力を地球の重力で削ることができるからだ。MAも重力には弱いが、こちらは戦艦の砲撃力において圧倒的に分があるためそこまで気にする必要は無い。しかもいざとなれば地球へと降下すれば逃げられる。

後に低軌道会戦と呼ばれるようになる戦いの戦場はこのような理由から選ばれた。

 

 

 

一方そのころのザフト軍クルーゼ部隊

 

クルーゼ部隊でも当然のことながらアークエンジェルが援軍と合流しつつあることを察知していた。とはいえここまでわざわざ追撃をしていて「敵が強かったから逃げました。」では本国が許してはくれないだろう。開戦初期であればもう少し余裕のある状況だったのだが、最近のプラントの国民は長引く生活レベルの低迷から士気が低くなっていた。

「勝利の美酒を与え、短期終戦という希望を見せなければ現政権は終わる。」とはあるプラントのマスコミの報道だが、その言は当たらずとも遠からずであり、評議会議員たちは焦っていた。

 

「フッ、不利な戦況にも拘らず虚勢を張れる連合と有利な戦況にもおびえるプラント…愚かしいものだ。」

 

クルーゼは艦橋で呟いた。

幸いなことにアデスを始めとするクルーたちはアークエンジェルに早く追いつかんと動いているために先ほどの言葉を聞いてはいないようであった。

彼は現在考えていた。

援軍と合流したアークエンジェルに対して攻撃を仕掛けるべきか否か。かつてのクルーゼであれば迷わず攻撃を仕掛けたはずである。彼にとってナチュラルであろうとコーディネイターであろうと憎むべき対象であり、己が部隊といえど隊員が死ぬことに対しては特に思うことも無い。

では何が彼を考えさせているのか。それは最近のパイロットたちの戦闘意欲の減退によるものだった。

アルテミス宙域での一戦以来、アスランだけでなくイザークやディアッカといった面々まで顔色が悪くなったのだ。ナチュラルへの蔑視、自分たちの能力の過信。人間としてそれらがいいことかと問われれば首を傾げてしまうようなことだが、戦闘においてはそれらがあると無いとでは大きく異なる。自らに自信を持ち、勝利への確信を持たなければ兵士は臆病になってしまうからだ。

あの戦い以前の隊員はその自信を持っていた。ラスティやミゲルといった同僚の死も、憎しみへと変えることで力としていた。訓練にはより一層力を入れ、戦闘時には気炎を上げていたのだ。

それが今では、

今では…

 

 

「隊長、そろそろ警戒レベルをイエローにすべきかと…。パイロットを待機させるべきでは?」

 

「…視聴覚室に連絡をいれ、パイロットたちを集めよ。」

 

「はっ。」

 

何が起こったのかは分からないが、アスランの説得は失敗し、逆にイザークらは何らかの影響を受けたらしかった。彼らは非番の時間帯、視聴覚室に篭りアニメを見ては何かを羨むようになったのだ。

 

(これが戦闘にプラスとなる嫉妬であれば良いのだが…)

 

どうもパイロットたちに不安を禁じえないクルーゼだった。

 

 

 

 

 

アークエンジェルがハルバートン提督から告げられた宙域へたどり着いたとき、そこにはすでに整然と戦列を整えた第八艦隊の姿があった。

アガメムノン級戦艦8隻、ユグドラシル級超巨大空母4隻、防空巡洋艦6隻、その他艦艇12隻。総数30隻になる地球連合宇宙軍最強とも言われている第八艦隊は、搭載MA数も2360機と膨大で、普通に考えればせいぜいナスカ級とローラシア級合わせて4隻しかないクルーゼ隊など鎧袖一触殲滅できて当たり前だ。

しかし、ハルバートン以下第八艦隊の幕僚たちは皆緊張感に包まれていた。クルーゼ隊の隊長であるラウ・ル・クルーゼはかのグリマルディ戦線でMA100機以上を撃墜し、ネビュラ勲章を授与されたエースパイロットであり、その部下たちは連合から奪取した最新鋭機体であるGシリーズを使用している。

レールガンとミサイルを兵装としているMAではGシリーズを落とせなく、しかもこちらは何が何でもアークエンジェルを守り通さなければならないのだ。

 

…と司令部付きの参謀たちが考えていると、アークエンジェルは事前の通達どおり旗艦メネラオスの隣へとたどり着き、臨時で艦長職をやっているという盟主アズラエルから通信が入った。

 

「やれやれ、何とかたどり着きましたよ、ハルバートン中将。」

 

言葉とは裏腹にそこまで疲れた表情を見せないアズラエル。

 

「私としても盟主がこの場に来れたことには本当に感謝しているとも。」

 

「誰にですか。」

 

「もちろん、神にだとも。私はジブリールもアズラエルも信奉していないのだ。」

 

「そりゃそうでしょう。私はただの人間であって盲目的に依存されても困りますよ。」

 

「ジブリールは違うようだぞ。」

 

上官と雲の上にいるはずだった地球連合一の権力者との間で交わされる危険な会話に幕僚たちは嫌な汗をかいている。

 

「…まあその話はいったん置いておくとしましょう。現在直近の問題はザフト軍追撃部隊を追い払うことです。」

 

「そうだな。…今回の作戦の要はアークエンジェルを生き残らせることだ。最悪の場合、アークエンジェルにはアルザッヘルへ向かうのではなく大気圏降下をしてもらう。」

 

「当然でしょう。私は何としてでも生き残るつもりですよ。…言っておきますが、私は民間人であるのに戦闘に巻き込まれても危険手当は日当で50ドルしか出ないんですよ。死んでも生命保険しかおりませんし。」

 

「それはなんと言うか…。まあ、仕方ないのではないか?」

 

「どこがですか。…今回も火力でこちらが上回っているのですから、以前輸送艦隊を撃滅したときと同じ戦法でいいと思いますが。」

 

「アウトレンジで、だろう。当然そうするつもりだ。…そもそもGシリーズにMAをあてて撃墜できるとは思えん。」

 

「クルーゼ機はシグーですから落とせますよ。」

 

「混戦でもか?まず無理だろう。…ジンやシグー相手には優位だった防空巡洋艦も主力兵装は実態弾だからな…。バッテリーの消耗しか狙えん。…アズラエル、アウトレンジでGシリーズは落とせると思うか?」

 

「…難しいでしょう。どうやらあれに乗っているのはエースパイロットらしいですからね、ナチュラルには逆立ちしたってできない操縦技術を持っています。」

 

「…くそっ。仕方ない、やれるだけやってみるしかないか。」

 

その時、レーダーモニターを監視していたクルーからの報告があがる。

 

「レーダーに反応!戦闘艦4隻、ザフト軍のものです!!」

 

「話し合いは終わりのようだな。…主砲射程圏内までどれくらいだ!?」

 

「圏内まで30分!敵、MSを出した模様!総数20機!!」

 

「全力で来たようだな…。主砲射程圏内に到達したら全艦一斉射撃!5斉射後にMAを出せ!!」

 

「了解、5斉射後MAを出します。」

 

一方でアズラエルらアークエンジェルにもメネラオスからの指令は届いていた。

 

「旗艦より命令文です!敵、射程圏内到達後5斉射せよ。機動戦力については保留とす。」

 

「そんな!フラガ大尉とストライクも出すべきです!艦長から司令部に掛け合ってください!。」

 

「落ち着いてくださいラミアス副長。提督は我々がいざとなったら後退しやすいように計らっているのです。無碍にするものではありません。」

 

「ですが相手はかのクルーゼ隊です。戦力は可能な限り当てるべきだと思いますが…。」

 

「いざとなったらもちろん出しますよ。ですがそれは敵が防空ラインを突破してからです。…フラガ大尉、聞こえていましたね?そういうことですので、まだ出撃には時間がかかりそうです。」

 

「…わかった。友軍を見捨てるような気がするが…よくよく考えたら第八艦隊のMAって…」

 

「当然、直掩機を除いて全てハルピュイアです。あまり気にかけないでも構いませんよ。」

 

「…だよなー。じゃ、気にしないでのんびり待ってるよ。」

 

「ヤマト少尉にも伝えておいてくださいよ。」

 

「了解、了解。」

 

フラガとの通信を終えると、それを聞いていたナタルとマリューは少し拍子が抜けたような表情をしていた。

 

「…確かにわが艦の機動戦力はフラガ機の子機以外無人機がありませんね。」

 

「その通りですよバジルール少尉。ラミアス副長も分かってくださいましたか?」

 

「あ、はい。…申し訳ありませんでした。」

 

第八艦隊の5斉射は敵MSのうち8機を落とすことに成功した。

しかしその中にGシリーズは含まれておらず、また以前の戦闘を踏まえてMS部隊と距離を置いていた艦船にもダメージは与えられなかった。連合軍の砲撃をかわした12機は次に防空システムの射程圏外に布陣を終えた無人MA群との戦闘に突入する。いかに精鋭で知られるクルーゼ隊のパイロットとはいえ、彼我戦力は12対2000。ジンやシグーを乗りこなす彼らは櫛の歯が折れるように少しずつ減っていく。

 

 

 

カッ!

 

宇宙空間という無音世界で、そのまばゆい光だけが1人のパイロットの死を知らしめる。

 

「フィールズッ!!クソッ!」

 

MA部隊との戦闘が始まって20分。遅れてきた戦艦の援護を受けつつとはいえ敵MAを1000機程に減らすという偉業を成し遂げたクルーゼ隊のパイロット達は、しかしその数を4機にまですり減らしていた。

 

「ディアッカ、そちらのバッテリーはどうだ?」

 

「くそっ、ナチュラルのやつらちょこまかちょこまかと…。ああ!?バッテリーは…うげ、後30パーセント切ってやがる。」

 

「イザーク、ニコル、そっちはどうだ?」

 

「…20パーセントと少しだ。」

 

「僕も後30パーセントぐらいしかありません。」

 

「まずいな…。どうにかして態勢を変えないと…「アスラン、イザーク、ニコル、ディアッカ聞こえるか?」隊長?」

 

「これより私も出る。そこのMA群は私と戦闘艦でひきつけておく。君たちはアークエンジェルを落としてきて欲しい。」

 

「な!?隊長、いくらなんでもそれは無茶です!」

 

「む、君たちでは智将ハルバートンの陣形は抜けんか。」

 

「そうではなく、いくらなんでもPS装甲の無い隊長だけでMAを1000機も押さえるというのは危険です!」

 

「私だけではなくガモフやヴェサリウスも出るが…。」

 

「機動戦力ではないでしょう!」

 

「…イザーク、アークエンジェルを落とすのにどれくらい掛かるかね。」

 

「10分もあれば十分です、隊長!!」

 

「イザァークー!!!!」

 

「イザーク、いくらオレでもそれはカンベンだぜ…」

 

「イザークさん、僕もそれはちょっと…。」

 

「貴様ら隊長が期待してくださっているというに応えないのか!?もういい、俺だけでも行くぞ!!」

 

「ま、待て。…くそっ、しょうがない。…隊長、30分以内で戻ってきます。」

 

「ふむ、それぐらいであれば大丈夫だ。」

 

「はっ。行くぞ、ディアッカ、ニコル!」

 

「分かりました!」「おい、なんでアスランが仕切ってるんだよ。」

 

「お前がイザークの手綱を抑えていなかったせいだろうが!」

 

「俺のせい!?」

 

先ほどまでの悲壮感は消え、にぎやかにアークエンジェルがいる方向へと向かっていく4人。さすがはクルーゼ隊長、と思っていたヴェサリウス艦長アデスのもとにクルーゼから通信が入る。

 

「聞いていたな、アデス。各艦250機ずつ担当したまえ。撃ちもらしたのは私が抑えよう。」

 

その言葉に青くなるアデス。ブリッジクルーの顔にも悲壮感が漂う。

 

「…冗談だ。」

 

そう言って通信を切るクルーゼ。安堵するブリッジクルー。

そして、

 

(最近悪趣味な冗談を言うことが増えたような気が…)

 

パイロットらの調子が狂ってからストレスが溜まってるのだろうな…と考えると、隊長の健康が気になってしまうアデスであった。

 

 

 

 

 

「MS4機、防空ラインに進入しました!本艦に向かっています!!」

 

「艦長!」「分かりました、フラガ大尉とヤマト少尉を出してください。」

 

「イーゲルシュテルン起動、アンチビーム爆雷散布!!」

 

「フラガ機、ヤマト機、出ました!」

 

G4機のまさかのMA群突破を受け、アークエンジェルはにわかに慌しくなった。

第八艦隊は防空巡洋艦を筆頭に多くの戦闘艦が対空兵装を展開し迎撃に当たるが、G4機はそれらを無視し、一直線にアークエンジェルへと向かっていた。

 

「フラガ機とヤマト機、バスターとブリッツに拘束されています!!イージス、デュエルなおも接近!!」

 

「バリアント照準…撃てぇ!!…くそっ、駄目か…」

 

「メネラオスより直掩MA25機到来!…ダメです、抑え切れません!」

 

「無人MA900機…バカな!全機敵に拘束されています!!」

 

G4機の集中攻撃に対し、アークエンジェルと第八艦隊は有効な対策を打てないでいた。彼らの神業的操縦は多くの攻撃を回避・迎撃し、当たった攻撃もPS装甲によって防がれていた。

 

「ダメージ率10パーセント突破!!艦長!」

 

「敵もエネルギーに余裕がなくなっているはずです!もう少し耐えてください。」

 

とはいえG4機にも余裕は無く、また長時間の集中力の使用はパイロットたちに見えない疲労を与えてもいた。

まずはストライクと対峙していたバスターが、そしてアエローと戦っていたブリッツも後退することとなり、イージスとデュエルは苦境に立たされることとなる。

 

 

 

 

 

友のもとへ、仲間のために討ちかかるキラ。

 

「僕の就職先と衣食住を壊すなぁー!!」

 

訂正、若干自分のことも考えている模様。

 

「くっ!キラ、お前の言うことは俺たちの心を揺さぶるものだ!だが、それでも俺たちは、戦わなければいけないんだぁー!!」

 

若干言う人間が違うような気がするが、そう気炎をはいてターゲットをアークエンジェルからストライクへと変えるアスラン。そんな中イザーク操るデュエルは、致命的なダメージを負ってしまう。

 

「ローエングリーン照準!今度こそ当てろよ、撃てぇー!!」

 

「くそっ!当たってたまるかぁー!!!」

 

アークエンジェルから放たれた極太のレーザーを避けようとするイザーク。しかしその陽電子の奔流は僅かながらも致命的なダメージをデュエ

ルに与えていた。

 

「ぐあっ!…機体損傷…推進剤がっ!?」

 

デュエルの推進剤タンクに穴を開けてしまっていた。

 

「くそっ!このままじゃ重力にっ。おい、アスラン!キサマ助けろ!!」

 

しかし頼みの綱のアスランも現在キラと激闘中。どう頑張ってもデュエルを助けられそうに無い。

 

「おのれアークエンジェル!ヤロー!テメー!ぶっ殺すっ!!」

 

イザークは大気圏降下の覚悟を決め、それまでの間アークエンジェルをビームライフルで狙うのであった。

 

 

 

 

「…ふう、何とかなりそうですね。」

 

「艦長、イージス撤退していきます!デュエルも深刻な損害を負ったのか、先ほどから攻撃が散発的です。」

 

「重力圏から逃れられません!艦長、降下地点を決めてください。」

 

「フラガ機とヤマト機に直ちに戻ってくるよう伝えてください。…まさかここまで押し込まれるとはね。…降下地点はアラスカ、JOSH-Aにしてください。」

 

「い、いきなり本部に降りて大丈夫でしょうか…。」

 

「まあ何とかなるでしょう。私が乗っているんです、多少の無茶は何とかできます。」

 

「そ、そうですか。…降下目標、アラスカ、JOSH-A!!」

 

低軌道での戦いに何とか勝てたアークエンジェルは、戦闘終了によって一息ついていたハルバートンから通信を受けつつ、アラスカの地へと降りていった。

 

 

 

 




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12/09/20 訂正 黄金拍車様、天内様、ありがとうございました。

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