それはとてもきれいな空で   作:ルシアン(通説)

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それはとても不可解な異変で」

「アズラエル様、からの報告が上がってきておりま

すが…」

 

「わかった、そこに置いておいてくれ。」

 

 

C.E.63年

 

今から1年前にアズラエル財閥の支援によって作られた「ブルーコスモス」はその市民、政界からの支持をもってその活動を大規模化、多角化していた。

 

既存の労働組合を吸収し、ナチュラルの雇用を確保。

特定公共地でのコーディネーターの監視。

各国の国会に対する対コーディネーター法成立のための圧力運動。

 

それらは全て合法的、非過激的に行っていたのだが、その巨大になったネームバリューを利用せんとする者たちも多くいた。

 

「ブルーコスモス」を名乗る反社会団体によるテロ活動にはコーディネーターに対するものだけではなく、独立運動や国境地帯での挑発行為を目的としているものもあり、国際社会や世論にはアズラエル財閥による「ブルーコスモス」の把握、監督を強く望むものもあった。

 

そこでアズラエル財閥は「ブルーコスモス」をきちんとした組織に改組、トップをムルタ・アズラエル本人とし、その活動もアズラエルによって管理・監督することとした。

そしてブルーコスモスの活動にそれまでの活動に加えて組織内内偵、対外査察業務を加えたのであった。

 

 

 

 

「黄道同盟の勢力拡大…。中心人物はシーゲル・クラインとパトリック・ザラ…か。」

 

ブルーコスモスによる対外査察の目は地球各国のみならずプラントにまでも及んでいる。

その査察にはアズラエル財閥からも多額の支援が当てられており、下手をすると各国の諜報機関よりも正確な情報を手に入れてくることもある。そこからは様々な情報がアズラエルへと運ばれてくる。

 

プラント開発理事国によるプラント評議会に対する監督は残念ながら甘いとしか言えず、最近の報告書には「黄道同盟をはじめとするプラント独立派の活動は極めて低調になりつつある」とまで書かれている。

 

プラント開発に携わった国家と携われなかった国家との間の経済格差も深刻になり始めており、これらの持たざる国の中にはプラントが独立を図った暁には親プラント国になり、貿易による利益を独占しようと考えている国家も現れ出している。

 

北米総合開発プロジェクトは順調に進んでおり、計画通り3年後の60年にはGDP2.3倍が達成される見込み。

対抗するプランとして、ユーラシア連邦によるセヴァストーポリのマスドライバー基地周辺工業化計画、東アジア共和国による資源惑星「新星」の開発計画が進行中である。が、両者とも経常予算がこちらのプランと比べて非常に低く、効果はそこまでのものとはならない模様。

 

 

アズラエルが特に目を向けたのは当然、プラントの動向についてであった。

ここ1年ほど、確かにアズラエルが拍子抜けするほどにプラントの動向は落ち着いていた。

開発理事国による要請に対する反発も少なく、評議会の監督報告書にも大きな動きは書かれていない。各国政府が気を緩ませるのも無理からぬ話であった。

それどころか、各国は緩ませた気を使って隣国との争いに夢中になりだしている。

大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国。

いずれが地球の、いや太陽系内の覇権を握るかでしのぎを削っている。

東アジア共和国の「新星」開発に伴う形で宇宙群は強化されており、アズラエルとしては微妙な感覚であった。

 

 

 

 

 

 

CE65年。

 

北米総合開発プロジェクトの完了に伴い、アズラエル財閥は資源、工業衛星におけるエネルギー関連の業界でトップのシェアを誇るようになり、国防産業理事としての権限のみならずエネルギー業界においてもかなりの権限を持つようになった。コーディネイターとナチュラルとの間の摩擦は一層激しくなり、ブルーコスモス派という勢力が世界中の議会、更には軍の中でも一定の力を持つようになっている。

 

 

「アズラエル様、人種問題対策課から至急の報告が…」

 

「なに?」

 

 

ブルーコスモスの対外査察部からの報告にはシーゲル・クライン及びパトリック・ザラによる独立運動が本格化したことと、彼らがモビルスーツの軍事転用を推し進めているとの報告があった。

 

 

「モビルスーツ?確かあれは船外作業、ないしは資源惑星での重労働に用いるパワードスーツの一種だったと思いましたが…。」

 

 

パワードスーツであれば確かに各国の陸軍でも採用されており、歩兵でもそこそこの大型火器が扱えることで有名である。

だが一方で、宇宙空間の戦闘がメインとなるはずのプラント側が歩兵用の兵器を必死に開発するとも考えにくい。

 

 

「まさか宇宙戦艦というわけではないでしょうから、機動兵器なのでしょうね…。となると、日本のようなロボット兵器でしょうか。

…遮蔽物も無い宇宙空間で?」

 

 

いまいち想像がつかなかった。

やはり兵器のことは専門家に聞くべきだろうと考え、サザーランドに訊くこととする。

 

 

 

 

「アズラエル様、今日はどういった用件でしょうか?」

 

 

参謀府へ通信を繋ぎ、しばらくするとサザーランドがモニターに現れる。

 

 

「いえ、プラント側の動向で少し気になることがありましてね…。

どうやらMSの軍事転用を進めているようなのですが、いまいち利用方法が分からないんですよ。」

 

 

それまでの調査結果も合わせてサザーランドへと尋ねる。

フム、…と思案した表情になった彼はしばらく何かを考えている様子であった。

 

 

「…これは想像なのですが、プラントは地上でも利用可能な宇宙兵器を作ろうとしているのかもしれません。

コーディネーターは優秀ではありますが、いかんせんその数は我々ナチュラルと比べて圧倒的に少ないです。ということは、独立したければその戦争を短期間で終わらせなければなりません。」

 

 

そこでアズラエルが口を挟む。

ここまで説明されれば彼にもサザーランドの言わんとしていることは分かった。

 

 

「つまり、地上の重要拠点を素早く制圧するための陸上兵器としても運用可能な兵器がMSである…。そういうわけですね?」

 

「ええ、恐らくはそういうことでしょう。

また、コーディネーターの能力がどの程度かにもよりますが、機動兵器により汎用性を持たせることで兵器の潜在能力を上げ、数で勝るMAに対抗したいのかもしれません。」

 

 

サザーランドの説明には確かに頷ける点も幾つか存在した。

その一方で消えない疑問もある。

 

 

「ですが、やはり人型の兵器には欠点が多すぎる気がします。

障害物も特に無い宇宙空間はMSに不利に過ぎると思われるのですが…。」

 

「はい、その通りです。私にもその点は不可解に思われます。」

 

 

 

結局アズラエルにもサザーランドにもコーディネーターの意図していることは分からなかった。

彼らができるのは、ブルーコスモスの運動を拡大させることで地上のコーディネーターを宇宙へと追いやることぐらいであった。

 




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12/08/12 誤字修正 Needle様、ありがとうございました。

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