ULTRAMAN・BORN IN DARK   作:サカマキまいまい

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――その日、世界は「光」を思い出した。

復活した巨人が放った光は遍く大地を駆け巡り、海を越え、空を突き抜け、あらゆるものを照らした。どんな者にも分け隔てなく降り注いだ光に、或る者は跪いて涙を流し、また或る者は忌々しそうに眼を細めた。

卑しい化け物たちは慌てて巣穴に逃げ、悲鳴交じりの呪詛を這いた。

次元の狭間で魂の奔流を茫洋と見ていた邪神は唇の無い口を三日月のように歪め、

絶え間なく波打つ剣が突き立てられた木乃伊の、干し柿のように萎びた心臓は不気味に蠢き、

地下深くに建造された建物の中、鉄の棺の中で完成された美貌の少女は澄んだ目をゆっくりと開いた。


種族も、年齢も、善悪すら問わず、光は総てに与えられた。


――そして穴蔵の背後に聳える恐ろしき山々の一つにぽつんとある村にも.....。



夜明けは未だ薄明りに過ぎず

 「......うむ」

 

 穴蔵に住む村人たちの誰よりも早起きした儂は、簡素な寝床から抜け出し、若き頃に比べてすっかりやせ細った枯れ木のような体でゆっくりと静かな村を抜け、村はずれに新たに作られている積み上げられる途中の堤防に辿り着いた。

 

 まだ鮮やかな朱色をしたレンガの階段を昇り終えると、眼前に広がる景色にほうと息を吐く。

 

 地平線の彼方、草原の向こうから微かに現れる光を受けて、穴蔵を守るように囲む湖は水面をゆったりと波打たせながら輝いていた。

 

 ひと月前の動乱。

 

 古代の封印から復活したシアエガによって穴蔵は狂気に満たされ、そして破壊された。誰もが絶望する中で、祭られていた石像より遂に我らが守護者、光の巨人は復活した。

 

 そうして我々の目の前で、神話に語られるような神々の戦いは繰り広げられ、大地を揺らし、山を削るような戦いに、苦しみながらも光の巨人は勝利した。

 

 崩壊した穴蔵を囲む湖は、その時にシアエガが這いずり回って削り取られた大地の窪みに、シアエガに汚染され、そして巨人復活の光によって浄化された祈禱の間を満たしていた水が注ぎこまれた結果生まれたものだった。

 

 この湖の水は高い浄化効果を持つらしく、のこのこと姿を見せた地下に隠れ住んでいた獲物にありつこうと、黒い森からやってきた異形どもは湖の岸辺で立ち往生し、宵頃にうらめしげな雄たけびを上げていた。

 

 それだけではなく、綺麗な水は動物たちを呼び、人々の貴重な資源にもなったし、人々の精神を癒した。

 

 だが受けた傷は決して安くない。

 

 こんな朝っぱらから起きだしているのは己だけだと考えていた老婆だったが、堤防の向こうの岸辺に座り込んでいる人影を認めて目を細めた。

 

 「おぬし、カリンか?」

 

 祖母の声に振り向いた孫の顔はどこか儚げだった。悪く言えば腑抜けているような、すっぽりと何かが抜け落ちた顔をしていた。だが祖母の顔を見て勝気そうな表情を浮かべて笑った。

 

 「お婆か。こんな朝早くからどうしたんだよ?」

 

 「なに、この村の長としてこの美しい景色を暫し独占するのも悪くないと思ってのう。まさかカリンが居るとは思わなんだ。どれ、こちらに来なさい」

 

 大人しくやって来て堤防に腰かけた孫の横顔を眺める。

 

 ーーこの子はあの時、確かに汚染された祈祷の間に堕とされた。夥しい量のシアエガの触手に埋められ、石像の沈んだ沼に。

 

 二人の村人を伴い穴蔵を出たカリンが、たった一人シアエガに捕まっていた。片足を触手に絡めとられ、人形のようにプラプラと浮いていた孫の表情が、遠くからであったのにやけにはっきりと見えた。あの時の絶望を、怒りを、老婆は二度と忘れないだろう。

 

 封印の地で起きたことは、あの後奇跡的な生還を果たしたカリンに聞いていた。カリンの言葉を疑うものなどおらず、ただ一人生き残ったカリンには「光の巨人の加護」があるに違いないと人々はあやかりたがった。

 

 

 

 だが、そんな筈はない。

 

 邪神がそう甘い筈はない。

 

 

 

 邪神が、この星を荒らし尽くした旧き神々の一柱の呪いが、たかが石像如きの加護を貫けぬ筈がない。

 

 

 だからこそ、まだ光の巨人たりえなかった石像は確かに一度沼に沈んだのだ。

 

 そしてそののちにカリンが沈められた後、沼の底から光の奔流が駆け上がった。

 

 老婆の目には、今も尚、カリンの胸でゆっくりと脈打つ光が見えていた。

 

 光の巨人は復活した。穴蔵に伝わる予言通りに。

 

 儂の孫は、カリンはーーーーーーー。

 

 

 「どうしたんだよ、ぼんやりして」

 

 はっと顔を上げると怪訝そうな顔をしたカリンがこちらを見ていた。

 

 「......いや、なんでもない」

 

 孫は死の淵より甦った。総ては穴蔵が造られた目的通りに、人類最後の希望、光の巨人、ティガとして。

 

 だがそれを安易に喜ぶことは出来ない。カリンは余りに若く、止む無いことだが受けた傷に立ち直れないでいる。

 

 カリンは嘗て味わった喪失の苦しみに、再び向かい合わされた。

 

 こんな世界で尚、世界の優しさを信じていた孫は、神々の畏ろしさだけではない、人間の脆さ、汚さを知った。

 

 孫の優しさは知っている。

 

 巨人がその身を挺してアズサを庇った時の優しさに、穴蔵の人々は知ったのだから。世界に確かにある、理由なき愛を。

 

 だがこの戦いには強さが必要だ。

 

 世界の、人間の醜さを知ってなお、立ち上がる強さが。

 

 「カリンよ、おぬしが図り切れん苦悩を抱えておるのを知っておる」

 

 孫の表情が動揺に揺れる。

 

 「クレアのことは残念じゃった。ゴルギスの内なる邪悪を見抜けんかった儂の責任じゃ。なんとでも罵ってくれ」

 

 「もう言ったろ? あれはお婆のせいじゃない。人の心は誰にも見抜けないんだから。悪いのは俺のーー」

 

 そう自嘲しようとしたカリンの冷えた手を包んだ。

 

 「それでも世界を愛しなさい。世界とはお主自身なのだから」

 

 

 どうかこの子に大いなる導きがあらんことを。この子を選んだ巨人の御加護を。

 

 老婆はただ、運命を背負った孫の身を案じていた。

 

 

 

 

 




短いですが、リハビリがてらに投稿します。

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