街に引き返した私たちは荷馬車とクルーマの弁償金を払い、新たに荷車と牛を借りて再度街を出た。
何故荷車と牛にしたのかと言えば、単純に今後も今回のようなトラブルに見舞われると予想したからだ。
何せ行動を共にしているのは自他共に認める不幸体質のアデルと、主観的に見ても客観的に見ても落ち着きの無い私だ。事故や事件の匂いしかしない、巻き込まれ率100%。私達はいつから少年探偵になったのか。
まぁ、そんな理由から、どうせレンタルするなら旅の質が落ちても出費を押さえられる方にしようと、そう相成った訳である。
それにこの牛は黒く角が短く身体が大きい、後もう少し、今の三倍から四倍位の体積になれば、ギリギリ、パナと名付ける事も可能だろう。むしろ此方の理由が本命かもしれない。
「暗くなってきたな、どうするんだい?野営だと野盗にに襲われるけど」
前回引き返した地点を大きく越えて、アデルが牛に股がった私に話し掛けてきた。街から出立して四時間、確かにアクシデントで引き返さなければそろそろ湖に到着している時間帯だ。
つまりは夜が近いという事である。
にしてもアデルさんや、襲われるのが確定しているみたいに言うが、もしかして野営する度に襲われてるのか?
だとしたら青山氏と互角にやりあえた実力も納得出来る。
「そーだねぇ、夜道を歩くよりは安全だろうし、アデルなら野盗ぐらいなら対処出来るでしょ?」
と言うのも、このアデルベルトなる男はその低い物腰やどこか疲れたような顔立ちからは想像もつかないような、強靭な精神を持っていると私は推察しているからだ。
よく考えて欲しい、普通に生きていていきなり身分の証明が不可能な状況になり、化物剣士に斬りかかられ、あれよあれよと五年の無償奉仕が義務付けられたのだ。常人なら最初の一撃で絶望するでしょう。
それをこの男は翌日には吹っ切れたどころか、住民票が発行して貰えるなんてついてる等と宣ったのだ。
ハッキリ言って異常なメンタルの強さである。
そしてその精神性は事戦闘に置いて遺憾無く発揮される。
様々な不幸を味わった経験は何事にも動じない不動の心となって、盗賊だの山賊だのを蹴散らしてくれるのだ。
「一人ならともかく、ノミコも一緒だとキツいかな」
蹴散らしてくれるのだ!!
とゆーか正直夜通し移動するとか無理過ぎる。
こちとら平和な日本で安定感抜群な車移動が基本の女子高生だよ?
それがいきなりこんな半日かけた遠出とか、ハハ、無茶言うな。
「お尻が膨張しそうな程に痛いんだよー。やーすーもーよー」
「………えぇ」
牛の上で両手を振り回し駄々をこね始めた私に、アデルが割と本気で迷惑そうな顔で引いている。
やめてくれ、その反応は私に効く。
「はぁ………確かにここまで強行軍だったし、ノミコにはこれ以上はきついかもしれないしね」
チラチラとアデルの顔色を窺っていたら、小さく溜め息を吐いて私の我儘を聞き入れて貰えた。
私は喜び勇んで牛から飛び降り……れはしないから、ヨタヨタと降りて、荷車に積んでいた野営セットを展開していく。
前世?前世界?地球時代?では割とアウトドアに出掛けていた私は、意外かもしれないがこうゆう設営とかは得意なのだ。
杭を一ヶ所打ち込んでおき、テントの骨組みを組み立てる。
今回使うテントはメジャーなピラミッド型の仮説テントだ。
三角の骨組みに、防水加工を施した動物の皮を………っておっも!?
現代ではテントもビニール素材だったから対して苦労しなかったが、ファンタジー世界ならこんなに大変になろうとは。
ぐぅ………特性「軽い」が付いてたら楽なのにぃ………。
「力仕事は俺がやるから、ノミコは休んでなよ」
嬉々としてテントを張っていた私を見ていたアデルが見かねて代わりを申し出てくれた。
とゆーか、私は雇用主なのに何故自分でテントを張ろうとしていたのか。雇用主としての自覚が無いからだねきっと、だってアデルは無償奉仕だし。
「うん、それじゃ後は任せたよ」
私はテントを持ち上げる事をすっぱりと諦め、荷車から離れて地面に腰を降ろした。
空を見上げると黒い鷲のような鳥が悠々と旋回している。
バースが狂ってやがる。あれ、人の2倍の大きさあるわよ?
多分アードラとかだと思う。基本的には羽根と卵くらいしか値打ちの無い、序盤の強敵(雑魚)だ。
アトリエ初心者は序盤で行けるからとアードラの生息する採取地に行って死に戻りするのはもはや様式美である。
格言う私もやらかした。
あとウォルフとかゴーストとか、少なくともフラムを作れるようになるまで待つべきだ。
フラムとは簡単に言えばダイナマイト系の爆弾だ。
炎ダメージを与えるアイテムであり、駆け出し時代の頼れる相棒
後のシリーズではメガフラム、テラフラム、オメガフラムと実に多彩なフラムが登場した。
作品により見た目も変化し、丸い爆弾だったり、ダイナマイト的な棒状だったりする。
共通点を探すなら、その全てに導火線が付いている事だろうか。
これさえあれば、私もそれなりに戦えるようになるだろう。速く造りたいな、とゆうか速く錬金術したい。
アードラから何故かフラム考察に思考が移ってきた所で、視線を前に戻す。
アデルが、最後の杭を打ち終わり、額の汗をぬぐっていた。
「お疲れ様ー、もう空も暗くなってきたし焚き火の準備しよーかー」
アデルに労いの言葉を送り、荷車から薪を降ろし懐から初心者用の杖を取り出す。
「プラクテ・ビギナル・
クルンと回した杖の先端から、小さな火が点く。
それを千鳥に積んだ薪と回りに立て掛けた枝に近付ける。
ジジジと薪から水分の飛ぶ音が暫く続き、薪に火が付いた所で杖を離し、懐に仕舞う。
夕暮れが過ぎ、太陽が地平の先に消えるのを眺めながら、テキパキと鍋と食材の用意をする。
鍋を焚き火の上に吊し、水を注ごうとしてふと思い付いた。
(そーいえば、錬金釜にいつも満たされてるのって何なんだろ?)
アトリエシリーズに置いて、主人公の活動拠点であり工房でもあるアトリエ、そこには錬金術に使う巨大な釜が存在している。
そしてその釜には、作品により白かったり紫だったりとことなるが、常に何かで満たされている。
私はこれを液体だと考えていたが、良く考えてみたら、それは有り得ないのだ。
何故ならそれは、常に釜に液体カテゴリの何かが入ってると言うことなのだから。
マリーのアトリエを筆頭に、ザールブルグ系統なら中和剤(青)のレシピはヘーベル湖の水だ、最近までプレイしていたソフィーのアトリエなら、鉱石カテゴリ×2、水カテゴリ×2となる。アーシャなら花カテゴリと水カテゴリ………当たり前だが、全てに水が使用されている。
ならば釜を満たしているものが液体だとすると、普通に考えたら混ざらないか?
とゆうか、あの釜からパンとかも出来るのに、液体から取り出した時に効力『パサパサしてる』とかつくのか?
そこで私は一つの仮説を立てたのだ。
それはズバリ、あの満たされている物体Xは液体ではなく、それどころか物体ですらなく。もしかしたらもっとスピリチュアルな………ぶっちゃけて言っちゃえば魔力何じゃないのかと。
………やばい、そう考えたら試さずにはいられなくなってきた。
おあつらえ向きにも、目の前には空の鍋と植物カテゴリに分類可能な野菜と水カテゴリに分類可能な飲料水がある。
ソフィーのアトリエにおける中和剤(緑)の材料だ。
(………やらざるを得ない!!)
私は手に持っていた水を置き、鍋の取っ手に手を伸ばした。
次回検証回になります