言い訳が許されるのならばただ一言
幼女戦記とか転生したらスライムだった件とか、楽しいラノベが多過ぎて………いや、はい、すいません!!
さて、手に持った鍋を釜に見立てて、魔力を中に貯めるようにイメージする。
瞳を閉じて、ゆっくりと深呼吸。
「スウゥーー、ハアァーー」
火よ灯れで感じた魔力の移動を意識する。
魔力伝導体の杖も呪文も無く、自分自身の感覚のみを頼りに、胸から腕を通って鍋に向かうとイメージ。
暫く深呼吸を続けていると、胸の奥に暖かい物が広がる感覚を覚えた。
それを今度はゆっくりと動かす。肩から肘に、肘から手のひらに、手のひらから鍋に、鍋から空気に………
「………まぁそりゃそうだよね」
オレンジ色の、煙のような物が鍋から漂っているのを見ながらも、何とか留める事は出来ないかと試行錯誤を繰り返す。
留めるイメージの為に、魔力に高速回転を加えて、渦を作るイメージ。
結果は鍋が手からぶっ飛んで、興味深そうに見ていたアデルの顔面に直撃。ごごご、ごめん。
「痛いなぁ、もぅ………魔力を留めるって言うなら鍋にルーン文字とか刻んだらどうかな?」
ルーン文字?それって青タイツの兄貴とかエロタイツの師匠さんとか、もしくは虚無の系統の貴族様とかが使ってた奴だよね?私はそこら辺詳しくないんだけども。
鼻を押さえながらのアデルの助言に従おうにも、知識の不足でソフィーみたいに「閃いたー!!」とはならないよぉ。
「でも、渦を作って留めるっていうのは良い着眼点だと思うな、古い話ではあるけど真祖の吸血鬼の奥義に放出する魔力を掌に留めるってのがあったし、昔闘った事のある拳法家は気を貯めて放つような人もいたしね」
気とか(笑)
もはや何でもありか。ファンタジーのごった煮じゃないですかー。
そういやジャック少年も気とか使ってたかな?いや、彼のは確か気合いだったか?あれ?
「まぁ要練習なのは変わらず、このまま渦を作る路線で頑張るよー」
またもや思考が脱線しかけていた。
気を引き締め直し再度鍋の取っ手を掴む。今度は手放さないように力強く握り混み、集中して魔力を流す。
胸から溢れる熱い流れを両腕に通していく。ゆっくり、ゆっくり、揺らめいていた流れを真っ直ぐに整えながら鍋に向かわせる。
取っ手まで来た所で、魔力を鍋の縁をなぞるように右回転に流していく。
放出されずに循環していた魔力が、可視化出来る程に集まっていく。
ここから魔力の循環速度を少しずつ上げていく。
ギュルンギュルンと音を立てる程に鍋の中を魔力が廻る。
それをゆっくりと地面に置いて、慎重に手を離した。
「おぉ……」
後ろから見ていたアデルの声が聞こえた。
私の手から離れた鍋はオレンジ色の渦を描く何かで満たされていた。
「…………ふぇ?」
今一実感が沸かない。
こんなにアッサリ出来てしまうものだろうか?
いや、まだだ。まだこれで錬金術が出来るとは限らない。
そうだ。逸るな、落ち着け私、こういう時はあれだ。手のひらに人の字を書いて芋だと思い込め。ちゃうわ、マジで落ち着け。
「良く解らないけど、取り敢えず素材とやらを入れてみたらどうだい?」
ひっひっふー。ひっひっふー。
え?あぁ、そうだね。
深呼吸とかしてないで試さなきゃ。
「まっまま先ずは野菜カテゴリふたちゅ……」
震える手でニンジン二つを掴む。
店売りの上に保存状態が悪かったのか、少し萎びている。
それを鍋の中にいれると、次は竹筒に入れていた水を……水を……
「水カテゴリ×2の分量って………」
わっ………わからん!?ここまできてそんな馬鹿な!!
こんな展開になるとは……!?
いや、落ち着け私、ソフィーのアトリエだと水は桶に入って一つ。つまりそこからおおよその分量を……桶に二杯?多くね?
って!なんか鍋が怪しく光ってるし!?時間掛けすぎた!?
「はわわわ、はわっあわっ、ととと取り敢えずおおよそ桶に二杯分の水を……!!」
アデル竹筒あるだけ持ってきて!!どばどば入れてぇ!!
「わかったけど!!ねぇノミコ!!鍋から何だか煙でてるよ!?これは正常なのかい!?ねぇ!?」
竹筒の蓋を開けてどんどん水を注ぎ込みながら、アデルが悲鳴に近い叫びを上げた。
「ちょっ待って待って!!ヤバいヤバい!!………あっこれは駄目かも」
なんかね?鍋の中からスパークみたいなのが散って鍋自体もガタガタと震えてるんだよね。
こんなん成功とは思えない。
「諦めないでよ!?ちょっ!煙がどんど………」
アデルが振り返って文句を言おうとした瞬間だった。
鍋が一際強く光ったらと思ったら、大轟音と共に大量の煙が弾けたのだ。
「げぇほっ!うぇほ!」
女子らしからぬ噎せ方をしながら、煙を掻き分け鍋から離れる。
程なく耳を押さえながらフラフラとアデルも黒煙の中から姿を表した。
「失敗……」
もうもうと立ち込める黒煙を見詰めながらポツリと呟く。
煤のついた頬を拭いながら、アデルが私の隣に並ぶ。
「錬金術、出来なかったのか?」
此方の顔色を伺うような反応、だが私はそんな態度では無く、アデルの発言した内容にこそハッとした。
(錬金術が失敗した?違う、これは調合が……だったら!!)
私はアデルに返事を返す余裕も無く、大慌てで煙の中に入り込んだ。
目に沁みる煙を手で払いながら、鍋を掴む。
そのまま中身をお玉で救いあげると、ビニール製品を溶かしたような、不格好な形の何かが鍋からその姿を現した。
(やっぱり……『産業廃棄物』だ……!!)
産業廃棄物
それはアトリエシリーズにおける
調合を失敗………つまりは錬金術事態は出来ていたのだ。
確かに初めての調合が失敗したのは悔しい、だけどそれ以上に私が、錬金術を使えた。その事実がとてつもなくうれしいのだ。
「ノミコ?」
真っ黒い明らかにヤバい物質を見詰めながらニマニマ笑っている私に、アデルが遠慮がちに(引き気味とも言う)声を掛けてきた。
「んふー、なにかなー?」
上機嫌な私は産業廃棄物を宝物のように両手で抱えながら振り返った。
明らかに異臭がしてるけど、そんな事が気にならないくらい今はこの産業廃棄物がいとおしいのだ。
「鍋………亀裂入ってるんだけど?」
んふー、鍋に亀裂ー?
…………え?鍋に亀裂?
え!?そんな!?まってよ!!
「それじゃ、お試し調合は打ち止め!?ジャック少年の所に行くまでお預け!?てゆうかご飯は!?」
まさかの事態に慌ててアデルから鍋を奪い取り、確認する。
見てみれば確かに鍋の側面に大きな亀裂が入っていた。
「ご飯は無理だね、出来て炒める程度だよ」
溜め息をつきながら此方をジトッと見詰めてくる。
「うぐっ……ごめんなさい……」
流石にこれは私が全面的に悪いから、素直に謝る。
好奇心に負けて、ご飯を作る前に始めたのが悪かった。これではアデルが呆れるのも無理は無い。
何で私はこうも後先を考えないのか!!私のおバカー!!
「まぁ、今更言っても仕方無いし、僕達の関係上余り強くも言えないけどさ、せめて今後はおこりうる可能性は事前に教えてよ?さっきの反応から察するに、あの爆発は事前に起こりうる事が解っていたんだろう?」
溜め息混じりに苦笑いを溢し、苦言を挺するアデル。不幸慣れし過ぎた広い心に甘えたくもなるが、流石に今回はそれは駄目だろう。
なんと言っても食料の消失だ。短い旅程だったから良かったものの、これが長期の旅なら私たちは詰んでいた。
しっかり反省し、今後はアデルに相談するように心掛けよう。
………何故かな?自分で言っといてまるで説得力を感じない。
いや、本当に反省してるよ?反省してるけど、私は自己分析の出来る良い女だから、何となく、気を付けててもどこかで大きな失敗をするように思えるんだ。
自分の自身に対する信頼感の低さには自信がある。
「落ち込んだと思ったら考え込んで、また落ち込んで、ノミコの顔は飽きないね」
やかましいわ、とも言えない。うぐぐ。