翌日、ある意味期待通り、ある意味期待が外れて場所は変わらず牢獄の中。
鉄格子から射し込む朝日の光に目を細めながら、身体を伸ばし欠伸を一つ。
ふぁあー。むにゃむにゃ。
これでこの世界が現実だと確定かー。
何だか思ったよりショックが少ない、両親や友人と二度と会えないかも知れないのに、そこまで衝撃を受けていないのだ。
もしかしたら昨日の考察中に覚悟が完了したのか、それとも私が単に楽観的なだけか。圧倒的に後者だと思う。
しかし釈放されたらどうしよ、結局なんも考え付かなかった。
駄々っ子したらもう一日止めてくれないかな?昨日の門番さん好みのおじ様だったし。
「あー君、釈放だよ」
チェンジで。
まさかの話し掛けて来たのが昨日のおじ様(渋目)門番さんではなくおじ様(ガチムチ)門番さんでした。
筋肉さんはちょっと………好みじゃないなぁ」
ってまた襟首掴んで!?
「自分で!自分で歩けます!!」
何でちょっと不機嫌なのよー!ちょっと、引き摺らないで、引き摺らないでってばー!!
「二度と来るな!!」
「ぎゃふん!?」
そのまま放り投げられ、またしても乙女らしからぬ声が漏れてしまった。
お尻で着地しちゃったから若干ヒリヒリする。何て乱暴な門番さんなんだろうか、こんな可憐な乙女にする仕打ちではない、きっと女の子に興味がない人種なんだ。
「いたた……はぁ、いよいよ住所不定無職かぁ、先ずは住める所を探さなきゃなぁ」
とは言っても、空き家に住み着いて地主に捕まるのは怖いし、暫くはホームレス女子高生かなぁ。
お風呂とかの贅沢は言わないから屋根が欲しい。
でもお金も無いから宿にも止まれないし、どうしよう。
「あー、お金かー、日雇いの仕事とかあるかなぁ」
それにこの世界が本当にアトリエ世界かも確かめなきゃ、もしアトリエ世界なら酒場で依頼を………
「それだー!!」
そうだよ!!酒場の依頼ならお金が稼げるし、見知ってるアイテムがあればアトリエ世界だと確定出来る!!
えへー、やはり私、天才じゃったかー。
そうと決まれば善は急げだよね、酒場は昨日は見掛けなかったから、昨日の通りには無いのだろう。
思いきってコロッセオを挟んだ逆側まで脚を運んでみようかなぁ、もしかしたら途中で素材を取り扱ってる店も見付かるかもしれないしね。
それなりに距離がありそうだけどまぁ行けるでしょー。
あー、わくわくしてきたー。
と、遠い………!!
体感だけど一時間は歩いてるよ。
道がいりくんでて一向にコロッセオに着けない、それどころか此所が何処かも解らない、元の場所にも戻れない。
此れってもしかしたら、迷子って奴かな、もしかしなくても迷子って奴だよね、はぁー。
「もー疲れたよー、足痛いよー」
その場に座り込み思わず愚痴を溢す。
弱気を中々吐かない私が思わずとは言え、こんな事を言うとは、意外と精神的に参ってるのかもなぁ。
空を見上げて見ると雲一つない晴天が広がっている。こんな路地裏にも浮浪者どころか汚い所が見当たらない、良い街何だろう。きっと優秀な領主様が治めてるんだ。願わくば京都みたいな碁盤状の街並みにして欲しかった。
お腹すいたなー、久々にハンバーグ食べたい、すき焼き、お寿司、泥豚ステーキ………泥豚ステーキは食べた事無かったや。
クゥ
あー、食べ物の事考えてたらお腹鳴っちゃったよ。
錬金術が使えたら絶対アップルパイ作ってやる。ロロナ、エスカ、私に希望を有り難う。
路地の向かいには屋台が見えるのに………
「お金が無いのはキツイよー」
本日2度目の弱気、アハハ、こりゃアカン、詰んでーる。
こんな異世界で迷子になって孤独死かぁ。
「おい」
まだぷにぷに抱き締めてないのに。
「お前」
錬金術だって使いたい。
「聞いてねぇのか?」
魔法も出来れば使いたい。
「しゃーない」
あれもしたい、これもしたい。
「よっと」
「ぎゃあぁあ!?」
ちょっ!?いきなり身体が!!身体がフワッて浮いたぁ!?
「やっと反応返してきたな」
そんな満足気な声色に顔を上げると、鍛え抜かれた肉体の少年と目があった。
褐色の肌に白い髪の毛、腰には手甲が下げられ、首にはチョーカーを巻いている。
単ランのような腰上までしか無い服を前を開けっ広げに来ているせいで、目のやり場に迷い、結果見つめ会う事になってしまった。
「だだだ、誰?」
「んな事ぁどーでも良い」
いや、良くないでしょ、挨拶は大事だよ。
「それより、お前金に困ってんのか?」
こ、これは!!金をちらつかせやらしい事になる流れ!?
私みたいな平凡クイーンオブ平凡な女子にも飛びかかるとか、見た目15位だし、思春期ですしねー。
しかし、私はそんな軽い女じゃないのよぼーや。
「ふふっ、お金じゃ私は抱けないわよぼーや」
「いや、何言ってんだあんた?」
あ、あれ?
え?だってお金を払うから抱かせろって………
「俺はただ午後の拳闘で俺に賭けてみないかってな………」
あ、え?
あぁ、勘違い、なぁんだ。
うん………
「うぁぁぁぁぁぁ………」
恥ずかしいぃぃいいい!!!!
何がお金じゃ私は抱けないわよだぁ!?直前に平凡って自己評価くだしてんのに!!くだしてんのにぃ!!私の阿保ぅ!!自意識過剰みたいじゃないのよぉ!!!!
「あんた、その、何だ。愉快な中身してんな」
じゃかあしぃ!!慰めにもなってないし!!むしろ貶してるし!!
その後頭部を掻く仕草やめて。居たたまれない。
「んでよ、話を戻すが賭けるのか?」
マイペースか!?
いや、まぁ勝手に勘違いして勝手に悶えてる私が悪いか。
まぁそれはそれとして。
「賭けるお金がないのよ、比喩じゃなくて無一文、財産の一切合切無いわ」
胸を張ってみる、おそらくこの街で今現在一番の貧乏人は間違いなく私だ。ナンバーワンだ。嬉しくない。
「だったら俺の有り金賭けりゃ良い、その代わり分け前は半々だ。」
ん?んぅ?
ちょっと待って、あんたのオッズやレートが解らないから何とも言えないけど、それだとあんたは一方的に損するわよね。
なーんか怪しいのよねー、ヤバい詐欺とかじゃないでしょうね。
「言っとくが詐欺とかじゃねぇから」
「え?何で……」
何この子、怖い、エスパー?
「そりゃそんな半目で一歩引いて私、疑っておりますって態度してたら解るだろ」
はい、私が正直者なだけでしたー。
「あは、アハハ、取り敢えず詳しくはお話を聞いてからでね」
「おう!!」
…
……
………
なるほど、穴だらけな計画だ。とゆーか計画にすらなってない。
説明に擬音が多過ぎて解り辛かったけど、要点を纏めると。
彼が試合に出る
選手は賭けれないので私が彼に賭ける
彼は大穴なので配当金は10倍になる
彼が勝ち残る
大金がっぽり
大穴って事は負けてばかりって事だよね?それで何で今回は勝てるとか考えるの?
まぁ、このやり方なら私に損は無いから良いけどさ、釈然としないのよ。
この子もしかして頭悪いのかしら、確かに脳ミソも筋肉で埋まってそうな顔してる。良く見たら全体的に馬鹿っぽいかも。
「引き受けてくれねーか?」
うぅむ、損は無いし引き受けても構わないんだけど、なーんか嫌な予感もするのよねー。
まぁ、予感は所詮予感、今は兎にも角にもお金がいりようだし。
「ん、良いよ。引き受けてあげる」
引き受けてあげようじゃないか。
「でさ、君に賭けようにも名前が解らなきゃどーしようもないしさ、名前教えてよ」
「おう!!俺はジャック!!ジャック・ラカンだ!!」
これが私とジャックとの、数奇な縁の始まりだったんだ。