ジャック少年との約束を果たしにコロッセオに来た。
トトカルチョの胴元はこの施設の出資者の1人らしく、街で大きな商会を開いてる男性らしい、受付のおねーさん曰く無駄に目立つので、直ぐに解るとの事だ。
しばらく客席を歩いてると1人の男性とそれを取り囲む人だかりが見えてきた。
男性の服装はピンクや黄緑等の極彩色に身を包んだ人で、無駄にレースやフリルのついた服装を着込んだ男性だった。
サーカスのピエロを思わせる服装は確かに目立つが、周りの雰囲気や華やかな空気からそこまで不快な感じはしない。
狙ってやってるのだとしたら凄いやり手かも。
「さぁさぁ皆様張った張った!!張って悪いは親父の頭!!ハッタリ張るならびっくり全額!!女房張られた左頬!!ここで出さなきゃ男も女も廃れるばっかだ!!一番人気のレッカーか!!二番人気のジークス!!それとも大穴!!最弱伝説ジャック・ラカン!!此処で張らなきゃもう張れない!!這って勝ち取る大金星!!さあさ張って張って!!」
「ジャック少年に全額!!」
………はっ!?
ジャック少年を扱き下ろされて思わずやってしまった。
不快な感じはしないと言ったが前言撤回、私この人苦手だ。
一方的にだけど、私はジャック少年と友達なつもりだ。そんな彼を侮辱されて黙ってられるものですか。
すると周りにいた人達が一時の間を置いて笑いだした。
「嬢ちゃんそりゃ金を溝に捨てるようなもんだぜ!!」
「やめときな!!拳闘ドリーム何てな!!」
「無理無理、猪ラカンじゃね」
こっこここ………このー!!
確かにジャック少年は弱いかも知れない、ついでに頭も悪いだろうし、説明も苦手にしてる。お金だって持ってないし、いきなり女子を担ぎ上げるデリカシーと常識の無さも問題だ。
たけど、此処まで馬鹿にされるような情けない奴じゃない!!奴隷階級から上がる為に、必死に考えて私に頼み込んで、今日を一斉一代の勝負の時だと言っていた。
恩義を感じてるとは言え、誰かの為に頑張る彼は間違いなく強い!!
もはや依頼で稼げなかったから頑張って欲しいとかじゃない、私は彼を全力で応援するよ!!
「うるさいあんたら!!私はジャック少年に賭ける!!」
自分でも意地になってるとは思うよ。
でも、友達が侮辱されるのを黙って受け入れて後悔するのは嫌だ。
「何なら私自身を担保に賭け金上乗せしてあげるわよ!!」
「………へぇ?」
っ!?
いや、今のは。そこまでする必要無かったかな。なんて………
てゆーかこのピエロ、笑い方がニタリと粘着室で無茶苦茶怖いー!!
これは私の為にもジャック少年には勝ち残って貰わなきゃ!!
「ふむ、全体的な容姿は中の下、良い商品にはなりそうにありませんなぁ、精々20万ドラクマですかね?」
もはや品定めの段階!?
つーか誰が中の下か、せめて中の上くらい有るわ!!
そりゃ平凡の中の平凡、極まった平凡、平凡の化物とまで言われた私だが、告白された事だってあるんだよ!?
まぁ小学生の甥っ子に「おねーちゃん好き、ハンバーグより好き」とかまったく胸に響かない告白でしたがね。
トミヤ君、何で食べ物と比較したの?おねーちゃん複雑な気持ちになったんだよ?
「しかし構わないのですか?言ってしまえばあのジャック・ラカンは才能も無い凡人ですよ?今年デビューしてからこのコロッセオで死にかけたのも一度や二度じゃない、敗けの確定している選手、不様な珍プレイ要因、それが彼だ」
こいつ………こう挑発すれば私が降りないと考えてるな?
正解だよ、そこまで言われたら降りられる筈がない。
「お気になさらず、ミスター。どうせ勝つのはジャック少年だ。貴方こそ、大損する前に店仕舞いにすればどうですか?」
不敵に笑って見せる。
例え負けてしまっても、私はジャック少年を恨んだりしない、覚悟とかは解らないけど、多分これはそんな立派なものじゃない、単なる自己満足だ。
自己満足なら自己完結で終わらせる。ただそれだけの話なんだ。
「じゃあねミスター。お互い試合を楽しもう」
そのまま背中を向けて歩き出す。
これが、アトリエの主人公なら食って掛かり最後は纏めて大団円何だろうが、私には無理だ。私の心は其処まで広くない。
さて!!暗くなった心をジャック少年との語らいで晴らすとしよう。
彼の太陽みたいな陽気さはこんな時にこそ活かすべきだ。
それに彼も緊張しているかもしれないしね、おねーさんが元気付けてあげよーじゃないの。
「やっほ、調子はどうかな?」
選手控え室を開き中を覗く。
丁度1人だけだったようなので、遠慮なく声を掛けた。
「………なんだ、ノミコか」
床に座り込み閉じていた瞳を開きそんな呟きを漏らすジャック少年、なんだとはなんだ。
「緊張とかはしてないみたいだね」
「まぁな、今日勝てたら一気に自由身分に近付く。緊張どころか楽しみで仕方無ぇ、早くやりたい位だぜ」
そう言ってギラギラとした瞳を細めニッと笑う。
やはりジャック少年は凄い、不安に思う事なんか無いって思わせてくれる。
まだ弱いかもしれない、まだ敗けるかもしれない、でもそんなの関係無く頼りになる。そんな雰囲気があるんだ。
これは一種のカリスマだろうね、頼もしくて嫌な気持ちが吹き飛んじゃった。
『選手の皆さんは、会場に移動してください』
ジャック少年の激昂に来たのに、逆に元気を貰っちゃったよ。
「んじゃ、軽く片してくるわ」
そんな勝ち気な台詞を残し控え室を後にする。
それを笑顔で見送り、私も客席に戻る。
途中ピエロと取り巻き連中と擦れ違ったが、睨み合うだけで言葉を交わすような事は無かった。
ふーんだ。ジャック少年の活躍に度肝抜かせば良いんだ。
コロッセオの客席に座り、闘技場を見下ろす。
私側の門から十人の選手が入場し、それぞれ散り散りに離れウォーミングアップを始める。
『さぁ!!始まりました!!オルスク大剣闘大会!!この試合はモンスターを交えた30の選手によるバトルロワイヤル形式となります!!』
上空に浮かんだ女性が、剣闘大会の開催を宣言する。
私の席から一番遠い門が開き、大小様々な魔物が解き放たれる。
アトリエシリーズのアードラ、ゴースト、ウォルフ、マンドラゴラ。
見たことの無い触手生命、ダチョウみたいの、スライム?みたいな男の子。
後半何かおかしいけど、兎に角厄介そうな敵ばかりだ。
「ジャック少年!!蹴散らせー!!」
声を張り上げ声援を送る。
それに気付いたのかどうかは解らないが、ジャック少年は突然大きな笑いをあげ始めた。
『おぉ!?何やら選手が爆笑しています。何があったのか!?音の精霊を彼の近くに寄せてみましょう!!』
アナウンサーの女性もジャックの奇行に気付き直ぐに音を拾う処置をしてくれる。
とゆーか精霊とはまたファンタジーだなぁ、マナケミアやイリスのマナみたいなのか、黄昏シリーズの精霊みたいなのか、気になる存在だ。
『………………ハハハハハ!!!!やっとだ、やっと旦那に恩を返せる!!』
あー、ジャック君テンションバカ高いなぁ、まあ無理も無いかもしれないね、待ちに待った時だもんね。
ジャック君はそのまま魔物の集団に突撃し、縦横無尽に………とゆーか速すぎて消えたようにしか見えないんだけど。
何あれ、あれで最弱とか、この世界の通常レベルは全員ステルクさんやジオさんレベルなのか?
なら最強は完全武装マリーとかエリーとかリリーとか?
地獄ではないか(戦慄)
えっいやいや、私ジャック少年の実力は勝手に初期のメルルぐらいかと………
これで勝ち星無しで死にかけるとか。
怖い世界だ。絶対に採取に出るときは護衛を雇おう。
そんな事を考えていたら、ジャック少年がマンドラゴラとアードラに挟まれてしまった。
空を飛び回るアードラに麻痺毒のあるマンドラゴラ。
かなり厄介なのに挟まれたジャック少年は、先ずは地上にいるマンドラゴラから倒そうと決めたのか、マンドラゴラの元までまた一気に駆け出した。
トテトテ走るマンドラゴラをシールドで弾き飛ばし、追撃に飛び掛かる。
それを反撃しようとマンドラゴラが頭の葉っぱから茎を伸ばし……違う!!反撃じゃない!!
『ぐっ!?』
案の定マンドラゴラは頭から伸ばした茎を振り回し、ジャック少年に麻痺毒を振りかけた。
体勢を崩し墜落したジャック少年はマンドラゴラを睨みながら、何とか立ち上がろうとする。
だが、それは土を爪先で蹴りあげるだけの行為となり、その姿に観客は笑いに包まれた。
私は悔しくて悲しくて、でも泣くなんてゴメンだと目元を乱暴に拭う。
大丈夫だ、ジャック少年なら負けない。
だって、あんなに必死に頼んできたんだ。
だって、まだ旦那さんに恩を返してないんだ。
だからジャック君は負けない。
そう信じてるのに、いざマンドラゴラがジャック少年に止めを差そうとした瞬間、私は反射的に顔をそらしてしまった。
『おおっと!?最弱伝説ジャック・ラカンの窮地を救ったのは、今大会唯一の女性参加者!!旅の聖霊使い見習い事ウィルベル・フォル=エルスリート十四歳だぁー!!』
助かった………?
良かったぁ………
…
……
………
………………はぁ!?
ちょっ!?ジャック少年ばかり気にして気付かなかったが、あれは正しく初期ベルさんじゃないか!?
やはりアトリエ世界だからいるのか?
作品の垣根を越えたキャラは確かに何人もいるし。パメラとかハゲルとか、ロジーとか。
いや、今はそれより試合に集中しよう。
『おっと?『ひきょうだー!』ウィルベル選手ジャック選手に何やら飲ませて居ます。薬草でしょうか?『せいせいどうどうやれー!!』どうやら二人は一時のチームを組むようです』
って何か五月蝿いと思ったらピエロか。
それなりに離れてるのにこっちまで聞こえるだなんて、よっぽど悔しいんだね。後でからかってやろう。
でも、初期ベルとは言え流石アトリエパーティーキャラ、上手いことジャックに合わせて戦ってるみたいだ。
この混戦の中でも無傷とは言わないけど、しっかり立ち回ってる。
そんなこんなで、気づいたら二人以外立ってない状況に。
肩で息をするジャック少年に、箒を構える初期ベル。
しかし直ぐ様構えを解き、何事か話始める。
しばらくすると初期ベルが箒を置いて降参を宣言、そのまま門の向こうに歩いていってしまった。
取り残されたジャック少年は呆けた表情で初期ベルの背中を見詰めていた。
展開急かもですが、ウィルベルは必要になるから出しました