酒場を後にし、闘技場に来た私は今日の試合内容が張り出された掲示板の前に立っていた。
第一試合にウィルベルの名前が有るが、それ以外には見知った名前は存在しない。
つまりジャックの名前が見当たらない、なんで?
取り敢えず胴元のピエロの所に行こう。あいつなら何か知ってるかもしれない。
掲示板から離れ階段を上がる、人が疎らに座る客席の中で矢鱈と目立つ男が一人。
ピエロは今日も変わらずピエロをしているようだ。解りやすい。
「おーい」
「ん?………おま………っ!?」
友好的に手を振ったら大きな挙動で立ち上がり椅子に足を引っ掛けスッ転ぶピエロ。
何だよそれ、人をまるでオーガかお化けみたいに、こんな平凡な乙女に向かって取る態度ではない。
「つーかあんたってデカイ商会の頭何でしょ?朝っぱらから博打の胴元とかどうなん?」
ぶっちゃけ仕事してんのかと、嫌よ仕事丸投げの社長とか、それが許されるのはトニー・スタークとハニー・オルソンだけなんだからね。
「実に馬鹿だね君は。これも仕事の内だよ、何せこの闘技場には僕の商会の傭兵隊も出てるんだ。彼等の宣伝も兼ねて胴元と呼子をしながら、仕事の依頼を受け付けてるのさ」
ピエロは立ち上がり砂を払うと「チッチッ」と指を振り説明してくれた。
「それに僕の商会は基本行商で収益を上げている。君が心配するようなサボりや遊びなんてしていないし、悔しいが僕はそれを許されるような人望も持ち合わせていない」
お、おぉ。
何だろ、少しからかうだけのつもりが、藪をつついてアナコンダだよ。急なシリアスには対応出来ないのさ。
そんな暗い顔しないでよ、調子が狂うわー。
「んと、そー言えばジャックはー?」
「露骨に話題を変えたね」
そそそ、そんな事は………すいません………
いや、そんな仕方無い奴だ。的な顔しないでよ、メイクで解りにくいけどさー。
「良いから教えてよ、200万以外の勝ち金、ジャックの取り分だから渡さなきゃいけないんだよね」
「君の金では無かったのか……代理人を立てるのも原則禁止なんだが、アイツは……」
やばっ!?
ジャックの奴、そーゆーのは最初に言ってよね!?
「あー!!あー!!そーいえぼあれは私のおかねだったかもー!!うっかりだー!!」
くそー!!何とか誤魔化さないと、前回の勝ち金を返す程度なら兎も角、ジャックと私が仲良く捕まるなんて事になったら目も当てられない。
「そんなに必死にならなくても、別に厳重注意と短期の試合禁止ぐらいしかペナルティは無いよ、だいたい暗黙の了解で皆やってるしね」
呆れたと言わんばかりに溜め息を吐き出し、そんな事を宣うピエロ。
くー、ビックリさせてー。
でもまぁ、確かにこの程度の抜け穴気付かない筈がないもんね。共犯者が言わなきゃ良いだけだし。
「それよりジャックの居場所だったかい?たしか街外れの湖に鍛練に出掛けた筈だな。徒歩で半日の距離だから行こうと思えば直ぐに行けるし、しばらく籠ると言っていたから行き違いにもならないだろ。」
えと、それってつまりは………
「街の外って事になる?」
「そりゃ、そうなるだろうね」
恐る恐る聞いた私に、本日何度目かの呆れ顔を浮かべたピエロが答えた。
しかし街の外かー、ここに来てまで私の足を引っ張るのか通行証……ゆるせん!!
ぷにぷにに抱き着くのを邪魔した挙げ句のこの仕打ちはもはや殺意すら覚えるレベル。
てゆーか通行証って何処で貰えるの?
「君、もしかして通行証も無いのかい?」
いやー、えへー。
思わず側頭部を掻く。何だか呆れ顔に慣れつつあるわね。
「はぁー、通行証は役所で発行して貰える、だがこの街で発行出来るのはこの街と隣街のリンダルムの分だけだ」
ふむふむ、つまり江戸時代の通行手形みたいな物かな。
合わせ板だっけ?
まぁ流石にちゃんと紙に書かれた公文書何だろうけど。
「はーい、じゃ早速貰ってくるとするよ。わざわざありがとね」
ピエロに手を振り闘技場を後にする。
役所の場所を聞くついでに酒場に地主さんが来てないか確かめに行こうっと。
酒場の中は相変わらず人でごった返していた。
コルクボードに人が群がり、カウンターに列が出来る。
私の知ってる依頼酒場じゃない。
依頼の持ち込みに来たのかスーツを着込んだ犬みたいな人や、ワンピースを着た羽根付きの女の子などが椅子に座り書類に何事かを書いている。
そんな空間で一人浮いている少年が見えた。
しきりに辺りを伺いソワソワと忙しなく体勢を入れかえる。
髪の毛は栗色で、服装は白の着物を羽織っている。
腰に下げたのは明らかに日本刀だろう。
「お疲れ様クオルクさん、地主さん来たかな?」
「おう嬢ちゃん、ゲヴォルの倅ならあそこだ」
件の少年を気に掛けながら、クオルクさんの指差す方を振り向く。
そこにいたのは一目で幸が薄いと解るような影を背負った青年だった。
白い頭髪に青い瞳で、肩を落とし猫背気味で俯いている。
思わず「うわぁ」と呟きそうになるインパクトのある風貌だ。
「なんでも、幽霊屋敷の影響であの辺りの売値がどんと下がったらしいな、今回嬢ちゃんが買わなきゃ首を吊ってたかもしれんそうだ」
クオルクさんが耳打ちし教えてくれた。
それは何とも、不憫を通り越して不幸の坩堝だ。
正直あそこだけ換気したくなる程澱んでいるが、話し掛けない訳にもいくまい。えぇいままよ!!
「あの、東区の奥地の、その、地主さん………ですよヌェ!?」
ひぃ!?
グリンて!グリンて首が!!
振り向き方恐すぎだよー!?こんなんホラーじゃないか!!
地主さんの目の下には隈が浮かび、頬は痩せこけていた。
この人が幽霊だと言われても納得するね私は。
「君が……あの物件を引き受けてくれるのかい?」
ヨロヨロと手を伸ばし私の肩をガッと掴み急接近する地主さん。
眼が手負いの獣のようだ。手負いの獣見たことないけど、そうとしか表現出来ない危うい感じがした。
「はっはいぃ……先ずは現地で確認してから除霊するかどうかは決めますぅ……」
涙目で何とか答える。
あのですね、指が肩に食い込んで、あの、痛いですぅ………
「そうか……そうか!!ならば直ぐに向かおう!!除霊師の方は既に呼んでいる!!料金はあなた様の負担になるが、腕は確かだと聞いている!!さぁ!!早く!!早く行こう!!」
私が答えた瞬間立ち上がりテンションの高くなるゲヴォル氏。
肩に置いた手を腕に回し引っ張る。興奮からか加減無く握る力に恐怖を感じ、思わず抵抗してしまう。
「ゲヴォル殿、気持ちは解りますが急いてどうなる事も無し、落ち着いて彼女を見てください」
すると、突如ゲヴォル氏の背後からそんな声が聞こえた。
ユラリと影のように現れたのは、先程目に入った少年剣士だった。
「あっ……あぁ、すいません、すいません……やっとあの屋敷の呪縛から解放されると考えたら……私は……」
「いえ、そんな……心中お察し致します」
いやー、こんな弱ってる人に当たるのは流石にね、まぁ怖かったし痛かったけど、仕方無いよね、首吊り寸前の弱りっぷりだったんだし。
「あの、助かりました」
少年剣士君にも礼を言う。
ペコリと頭を下げると向こうもそれに合わせて頭を下げてきた。
この謝罪癖は日本人的で懐かしい。
「では改めて、私は天条ノミコです。本日は除霊をお願いします」
「私はゲヴォル・クォードルです、私からも頼みます剣士殿」
「此方こそよろしくお願いします。私の名は青山詠秋、神鳴流剣士です」
腰の低い三人でペコペコ頭を下げながらの自己紹介は周りからどんな風に見えたのか、そんな事をぼんやりと考えながら、二人の後ろに付き例の屋敷に向けて歩き始めた。
調合をザールブルグやグラムナートの機材を用いた物にするか
それ以外の釜を掻き回すだけの方式にするか
悩み中です