もし1㍉も乙女ゲーを知らないアタシが悪堕ち転生をしちゃったら?   作:ぴんぽんだっしゅ

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やたらキラキラした少年がしつこい。

「キミ、えーと……、その……なんだ。少し、いいか?お邪魔じゃなかったら……そんなには、時間を取らせない。だから、さ。話を聞いて欲しいんだよ。僕の」

 

変なのが来た。

前から歩いてきた集団の内ひとりが立ち止まってアタシを見ている。

偶然こんなとこで会うなんて、と瞳でもの語っているていどには驚ている。

おい、置いてかれてるぞ?いいのか?

基本……なんだ、日本人ぽいのが居ないファンタジー異世界ではアタシもしっかり日本人とは全くもって違う顔付きなんだけど、話しかけてきた目の前の少年は輪をかけて日本人が好みそうな白人的印象をもった。

ってゆーか、ぶっちゃけこいつは何か違う、と本能が囁いてる。

 

髪の一本一本にまで手がかかってるような、癖のないストレートな金髪に空の色をした大きな瞳。

当たり前っちゃ当たり前なわけだけどこの子だって貴族だ。

子役のムービースターだって言われたって疑ったりしない端正でキレイな顔。

すっとした鼻筋に小さく薄いピンク色をした唇。

少しカール気味な長い睫毛。

 

子役でもただの子役に埋もれない、成功を約束されている、そう思わせるだけの逸材……って子役とは目の前の少年は一切関係ないんだけど……。

 

廊下をクラスに向かうまでの道の途中。

しっかり寝付けたって訳でもないし、なんて言っても朝一からな?

気が滅入るような嬉しくない事件は何としても避けたい、アタシの乙女心が解らないのかってゆー……。

 

いち、にの、さん……、いつの間にか彼の後ろには4、5人の取り巻きが付いてる。

後ろのもロバートとかジョンとかドナルドとかそんな名前が似合いそうだ、顔が濃い。

何かのグループだよ、取り合ったら敗けってやつ。

 

ふぁさっと前髪をかきあげて妙に決め顔をしてる。

金色の髪の房が風にそよそよと遊んでる、とか……どこの当て馬キャラだよ。

 

そっちの面ではキャラ立ってるな、大抵ヒロインはこのタイプに心動かせるんだけど、最後はフラれるパターンが御決まりってゆーのが。

 

数多あるドラマや、ゲームのヒロインとは比べられたらそれはおこがましくって違うんじゃないかって思うけどな?

好きになるタイプとは違うな、好きじゃない。アタシだってさ……。

日本人なら日本人がやっぱりいいしな!

ティルフローズは日本人からは一番遠いけど!

アタシの好みだと、まあそうなるか。

 

確か、何て言うか知ってるぞ。

こういうのは、あれだ。

キンギョのふん、ってやつか?

小学生でも無いのにゾロゾロ後ろに引き連れちゃってへーんなの!

と思っている内に更に5人くらい後ろに増えてるし……。

 

「んー。……間に合ってます」

 

アタシとしては、さっさとクラスの自分の席についてだな?

キャシャリンとの親睦を深めつつ、あの訛りをどうにかならんものかと考える時間がほしい。

 

止めていた足で歩き出す、そのタイミングで、

 

「そんな事言わずに。ちょっとくらい時間をくださいよ、お嬢さん」

 

そんな事を言われて呼び止められたたから、思わず溜め息をひとつ吐いて。

ほんの少し、声を掛けられた方に振り返る。

見なきゃ良かったよ。

すぐに、首を元の方向に直して立ち去ろうとした。

何か関わってはダメな生き物が居た。

 

水色のキラキラした瞳を輝かせて爽やかーな空気を纏った美少年。

お前はジャから始まる一大勢力の回し者か、何かかって言いたいくらいにそのへんの男子とは違うオーラの強さを見せつけてた。

ダダ漏れ状態。

後ろに集中線ではなく、綺麗な御花でも舞ってるエフェクトがアタシの瞳にだけイメージとして映しだされるくらいには。

 

貴族の男子は偉ぶってて厚かましい、それだけでこんなオーラは出てない。

 

男性経験は無い方だと思うけどさー、じゃなくてもアタシにこういうのが話し掛けてくるって事自体が面倒くさ……じゃなかった、面倒な事件を裏に孕んでる気しかしないんだっての!

 

リズだったとして、どう断ったかな?くらいの思考は巡らせるけどイマイチいい言葉も適当なあしらい方も浮かばない。

 

まあ、つまりのとこ、コイツと話してやる余裕なんか無いってことなんだ。

時間は有限。

ティルフローズに用もなく近寄ってくる男の大半は面倒な物件(やっかいごと)だと思っている。

実に、オーウェンがそれを体現してくれてるわけだし、あながち間違ってない。

間違ってないからこそ警戒しなきゃなんだ。

 

いいやつはひとりも居ない。

そう、だから。

 

そう、だからこそ貴重なのよ?

アタシとしては、オーウェンが居なくなって心労が少し減って楽ーになってて……だ、ちょっとくらいの気持ちの余裕なんかも出てきたわけだけども、……だからって、知らないへんなのに貴重な時間を割いてやるって気にならんのよ!

 

「な……!コイツっ!」

 

「ちょ。待てよ!」

 

後ろの取り巻き、金魚のふんから痛いくらいの視線と同時に声が上がる。

 

「アルトが話しかけてるのに断るの?身の程を知りなさい!」

 

取り巻きの一人からくるくるドリルの巻き髪をした目立つ美少女がアタシの進路を塞いで、びしっと伸ばした人差し指を突きつけてくる。

こいつ……、誰だっけ?

 

うん、……モブの誰かか。

ドリル女ってことにしとく。

幼女か少女か微妙なとこだ、ティルフローズも発育がいいってほどじゃないけど、さ。

このドリルはぺたんこ。

 

そのドリル女が口にしたアルトって名前はきっと、このキラキラ美少年のものなんじゃないの?

 

「アルト、……?ちょっと待ってみて。今、思い出すから。そんなの、知り合いにいたっけかー?

……ちょっと記憶にございませんわ。よ、よろしかったら自己紹介をして貰えると、……助かるけど?」

 

立ち去ろうとしたけど、取り巻きにざざっと囲まれちゃいましたよ、さぁ……無視は出来なくなっちゃったんかなー?

これって。

どいつも異様な雰囲気。

いじめられっ子といじめっ子の様相ってゆーんじゃない?

アタシ、いじめられっ子でこいつらいじめっ子。

そんな事を頭に過る。

 

で、口に出しながらぴんときた。

思い出した……。

そう言えば、ジルリットに言われてたっけ。

 

貴族同士でメンツを潰したら相手のプライドがどうのって、そんな事になると『いいこと』は無いから、ちゃあんと話くらい合わせなさいね、とか。

 

……あー……めんど……だるいわ、何でアタシが。

猫撫で声出して、こんなかかわり合いになりたくなさ気な奴らに気を遣わなきゃなんないのよ……。

 

「キミと話すのは、今、この時間が初めてだよ。いつ、話し掛けていいか、ちょっと……わかんなくて。だから、キミの知り合いにアルトは居ない、んじゃないかな?そうか、そうだよねー。まずは自己紹介するべきだ、間違いない。僕の名はアルト。キミとは同い年で、隣のクラス。噂を耳にしてて是非、僕もお話をしてみたいと昨日から思ってたんだ」

 

キラキラ美少年の自己紹介。

アルトと名乗った、グループの中心人物で品のよい、爽やかな雰囲気を漂わせてる、ニコニコ笑顔が少しも崩れないコイツを見ていると……、コイツも厳しく躾られてこんな顔作ってたりすんのかなって思っちゃうんだが……。

 

昨日から話したいとかいわれてもな、こっちは話したくないタイプの人間なんだよ?

胡散臭くて敵わないって感じ。

一昨日おいでくださいな。

 

これが、これで天然ってなるとどんな温室育ちだよって言いたい、アタシには理解し難い。

空気を読んでほしい。

 

嫌がってるじゃんね、アタシが。

 

「そう、そうだ、初めてだよ。……で?アタシが誰か解ってて進路ふさいでくれちゃってるのかー?アタシはね、ティ──」

 

「編入学してきた、ティルフローズ。あ、じゃなくて、確か……ディボタルタ侯爵夫人!」

 

取り巻きの中からドリル女がアタシに答えた。

お前になんか自己紹介してないだろーに。

 

おまけに余計な事まで口にだすなんて、な。

 

そこはアルトって名前の美少年に自己紹介したんだからな?

 

「言うな。バカ!」

 

「おっと、危ない」

 

「お前っ、下のものが上級生に手を出していいと思ってるのっ!」

 

ドリル女の顔目掛けてパンチをグーでお見舞いする。

と、どういう訳かロバートとかジョンとかそう言った取り巻きが庇った。

ドリル女を横に突いて、アタシの前に立ち塞がる。

いや……当てるつもりあるわけじゃないし!

威嚇だし、牽制だし?

なんだかな……、さっさとここから消えたいんだけど。

 

ぎゃあぎゃあ喚いてるドリル女は無視、無視……囲みが空いたからその隙間から逃げ出そうと一歩踏み出した。

 

「落ち着いてよ。リロメーゼ、今は君は関係ない。ティルフローズと話してるのはこの僕だろ」

 

視線を声が聞こえた方に向けると、突かれたドリル女の肩に手を置いて落ち着かせようと優しい表情で笑うアルトが居た。

言ってることと表情でまるで違うような……これも育ちの違いなんかな?アタシには理解できない世界だ。

リロメーゼ、ドリル女のことをアルトがそう呼んだ。

それが、彼女の名前なんだと。

 

「おい、リロメーゼ。アルトがあぁ言ってんだ……落ち着こうぜ、な?」

 

「くっ、グロバー!命令するつもりでっ?!」

 

取り巻きのひとりがリロメーゼとアタシの間に入りこんで大きく手を広げながらガードしている。

 

アタシがさらに動くと思ったのか、ドリル女がやり返すのを止めようとしているのは、ちょっとわかんないんだけど。

 

「あっちは放っておいて。それと、リロメーゼの暴言は僕が引き出してしまったようなものだし。それをまず詫びさせてくれる?」

 

「わび?謝るってこと?……なんだってそんなことしてもらわなくちゃなんないワケ?」

 

グロバーって男の子に止められたドリル女を落ち着かせるのを放ってまで、また来たよ。

アルトはやたらキラキラお星さまを背に背負ってニコニコ笑顔。

わびとかもういい……、アタシを行かせてくれるだけでいい、アタシにはオマエに用は無い。

 

もう、疲れた。

オーウェンとかと同じ匂いがする。

格式ばった貴族って匂いだ、実際に匂ったりしなくて、雰囲気がそれ!

苦手……朝からどーしてこんなことに。

 

「僕が納得できないから、じゃ解って貰えないかな?」

 

ちょっとアルトの瞳が細まって下がる目尻。

 

「解って、ほしいなら……後にしてくんない?クラスに早く行きたい」

 

イライラ。

我慢がそろそろできないでいる。

そんなアタシの頭にジルリットの声が響いた気がした。

 

『いいですか。お忘れしないでくださいね?貴族同士でメンツを潰したら、お相手のプライドを損ねてしまうことになるんです。ご主人様の周囲からの評価も下がるんですよ。いいですね?厄介だと思っても、あちらが高圧的に迫ろうと……段階を踏んで断ってくださいね。即断なんてダメですよ、ちゃんとお話をしてその上で考えて、答えを出してください。一言の重みをお忘れなきよう、……いいですか?』

 

うん、解ってる。でも、話を今聞くなんて無理だよ、ジルリット。

早く着いたのに、結構コイツが粘るから。

時間が勿体無いくらい使われちゃった。

 

「うん。了解です、ティルフローズ。じゃぁ、放課後。えっと……そうだ、サロンを貸して貰えるよう申請しておくから。サロン、解るよね?」

 

「……来たばっかなんですぅ───校内もちょっとしか解んないっつーか……ね?いい加減にどいてよ!」

 

呼び出しを食らってしまった。

放課後の定番は、屋上か体育館の裏と決まっているんじゃなかったっけ?

サロン……サロン?

 

「サロンでね〜」

 

知るか。

なんだって……アタシがそんなとこ……姫様だからか?

リズ、と仲良くなれば未来は明るいってか!

そんなダシにされたくは無いっての。

 

昼休み、このユルヴェルトもやたらアタシに構ってくるのは……リズ、でその後ろに見えてる皇帝とお近づきになりたいってゆーなんかそんなのがあったりしないのか?

 

裏庭で、しかし、ユルヴェルトってば今、学園で何が楽しいだとかあっちに綺麗な景色があったりするけど行ってみたかとか……そんな───友達。

そう、それも裏も計算もなくてアタシを楽しくさせよう?と、して単に友達として接してくれてるよーな。

コレって、考え過ぎだったんかな。

 

ユルヴェルトに限っては家系がどーとか企みを持ってアタシと仲良くなろうとしてんじゃないって伝わる。これが計算で演技だって、そういうのならさ。

 

アタシはまるっと演技に騙されちゃったってこと。

 

ユルヴェルトからはさ。

 

感じないんだ、黒さとか、暗さってゆーか……闇ね?

リズが凄いの溜め込んでたせいでそれに敏感になってんの。

ピリッとくる。

 

ゼリエのは、瞬間的にぼわってガソリンに火を点けたみたいに跳ね上がるのを解るくらいに……そりゃあね、奴隷やってんだし、持ってるよね闇。

触れるだけでズルって持ってかれる錯覚しちゃうくらいのがゼリエにはあった。

 

そんな、闇が。

ユルヴェルトにはすっぽり欠落したみたいにない、ううん、初めから持ってないんだわ。

 

教育環境がすごく良かったてゆーか、温室でヌクヌク育ったんだろーね?

……じゃなきゃ、綺麗すぎる心なんて維持出来ないって。

 

 

 

 

天使スマイル100点まんてんに癒された昼休みもおしまい。

午後の授業も順繰りに時間割り通り過ぎてって───放課後なんぞになってしまう。

 

気が重いなんてもんじゃない、……貴族の、王族の、ティルフローズを演じるなんて初めから諦めてんだってば、こっちはさ。

だから、求められてもその配役をアタシは演じられないんだっつーのよ!

 

いちお、貴族の作法なんてーの?ジルリットにがみがみ頭ごなしに叱られて覚え込まされたりしてんだけど。

 

そう、それは謁見で必要とされるキャストを演じきる為の付け焼き刃ていどでねー。

高貴さってのは、染み付くもので高潔さとゆーと匂い立つものだから……アタシからはそれは感じらんないとか、言われちゃったんだよねー、ジルリットに。

王族だっつの。

 

そんなこと言われてもね、リズなら出来るかも知んないけど。

 

……ジルリットが言うみたいに染み付くものなんじゃん?

記憶アーカイブを覗けばかいま見えるけど、王族って挨拶してるだけみたいなんよ。

 

ま、リズもまだまだ小さいわけだし……そーゆー大事な、謁見!とか、まだだったんだなー。

 

 

無いって、無いんだってば。

記憶の中に無いなら、リズにはそーゆーのまだ早いか必要なかったんじゃないの?

 

で、……サロンの中に呼び込まれた今。

 

アタシ、貴族とか演じられねーっし!

 

どーしたらいいのか、教えてくれませんか?

 

リズ、出てきていいよ?

 

 

貴族の子女たちの集まりに何の興味もないしさー。

むしろ、この空間。

この空気。

 

こいつらの張り付けたみたいな笑顔。

言ってること理解んない会話。

全て!

全部!

耐えられない、耐えられない、耐えられなーいっっっ!!

 

なんか、全身のあちこち痒くなってくる感覚。

ヤだ、こいつら……もしかしてノミとか飼ってんの?

誰か、……早くアタシを解放してくれぇ!

 

 

 

 

 

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