もし1㍉も乙女ゲーを知らないアタシが悪堕ち転生をしちゃったら?   作:ぴんぽんだっしゅ

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心の、奥には、闇が棲んでいる少女に。

リズのイメージなんだろーけどさ、闇は。

でも闇は色じゃない、黒く暗い色だけどリズの記憶の中で闇は蠢いてるし……。

 

実際は光ある、フツーに色付く世界で過ごしてたとは思うんだ。

 

ただ、リズ自身がそれを色だって思えなくなって記憶の中でも良くてセピアで、悪いと黒く塗り潰した世界しか無いシーンをひたすら黙って歩いてるリズが出て来ては。

 

この子がどれだけ、光を失って暮らしていたかがアタシには辛いほど解る、リズと同じ器だからねアタシは。

少なくともアタシだけはリズを受け止めて理解してあげないとダメなんだと思う。

 

でも、リズという人生の中で闇は常に在って、闇はどんどんどんどん溜まって膨らんでいく。

その闇はリズそのものを喰い、やがてリズは無くなって闇だけが残る、その直前。

 

眩い真っ白な光がリズの心の中で輝き、幾条もの光線に変わってあるものは螺旋を描き、あるものはジグザグに蛇行しながらもリズを支配しようとしていた闇を包んで……闇に支配されるのを阻止したのかー、ティルフローズの体が。

リズがそれでも帰ってくるのを拒絶したから、ひょっこりアタシが変わって顔を出しちゃったんだねー、なるほど。

 

良くまだ解らんが、外見上水色の瞳でピンクのほわほわしたパーマの掛かった髪の、少女にも幼女にも見えるティルフローズに、中身としてバリバリの現代日本人のアタシが覚醒しちゃったんだ。

 

 

あ?

 

はて?

 

ん、思考停止してたみたい。

 

そのなんだ、……ごめんなさい。

 

お前の事は旦那様って思えないからな?アタシ。

 

せっかくこう転生したんだから、第2の素晴らしい人生の幕開けは、もっとこうぱぁっとね?

 

デブで、クズで、禿げ面で、顔もデカいミートボールみたいな整ってるとは言い難い……ブサイクな旦那様なんて嫌すぎる、ここで人生タッチされたってね?

困るんだけどなぁ……。

 

「どうした、ティルフローズ。長旅で疲れたろう、こっちに座って休んでいいぞ。さあ、おいで」

 

いやいやいや、そもそもあのね。

この20畳くらいの部屋に、椅子1つと隅の方に事務机が見えるくらいで何にもない、凄い殺風景な部屋でしょ?座れったって床にって事?

 

ヤダよ。

 

埃付くかもじゃん、掃除行き届いてるとは思うよ?由緒ある公爵って話なんだから。

 

床に座れってなら座布団かクッション用意してよね、アタシの中のDNAがそう言ってる。

 

旦那様は誰だっけな。

アタシ、知らないんだ、名前。

 

そういや書き換えられたんだけど、アタシにリズの記憶が付け足されたんだけど……よっぽど嫌だったんだろな、それか名前すら聞く間も与えられずに側室派に嫁がされてしまったのかー?

 

この目の前の、禿げでデブで歪な顔をした一応、旦那様の情報が由緒ある公爵って事くらいしかリズの記憶の中に無いんだけど、あ、

付け足すわ〜ド田舎の誰も欲しがらない枯れた土地を治める矮小な公爵って側室派から聞かされたっぽい。

 

なんつー教え方なのか、悪意しか感じないから。

そんな事するからリズの中で闇が闇が闇が!

 

激しく騒ぐんじゃない!

 

こんな小さな娘に何でそこまでしちゃうかな?会う機会あったらキッチリ報復しちゃうからねー、待ってなさい、側室派の名前も知らない誰かさん。

 

いや、ホント。

つくづく側室派を呪いでもして一泡噴かせたくなるのは、リズそのものがアタシに同化でもしたのかもじゃない?

それ、解らないんだけど。

 

リズは気弱な少女で、甘えん坊で、酷い侍女に囲まれてたけど、物心着くまではそれでも受け止めずに流して人生を歩んでた。

 

1人、また1人と姉ちゃん達がリズの元へ別れを告げに来始める様になるとリズは必死に引き止めてた。

 

「お姉様が居なくなったらわたくし、壊れてしまいそうです。」

 

中でもリズの1つ上の姉ちゃん、フィリアが辺境へ発つと解った日には涙を一杯溜めてフィリアにすがり付いてたね、それでも。

 

フィリアは涙も見せずに旅立って行った、遠く北の地に。

 

「リズ、わたくし達はわたくし達が出来る事で結果を示しましょう。解って……今までの様に遊べなくはなるけど、永遠の別れでは無いわ。他の姉様方だって年に1、2度帰ってらっしゃるでしょ?」

 

「ヤダぁぁぁあ!フィーだって子供だよ、わたくし達は子供なんだもん。おかしぃよお、3年でお姉様が皆、離宮(ここ)から居なくなっちゃうなんてえ!」

 

「決まったら受け入れなければダメよ、ティルフローズ。じきに貴女も嫁ぎ先が決まると思うわ、エメンテーヌ姉様が嫁いだのは先月だったもの。わたくし達姉妹が邪魔でしょうがないのね、だから遠ざける……それとも、仲良くしてるわたくし達を見てるだけで嫌気が差す特異体質な方でも居るのかしら」

 

フィリアが足元で声を殺して泣くティルフローズに向かって、目線を合わすようにしゃがんでくれて、にこっと笑った。

 

「ティルフローズに言います。絶対、ぜーったい、わたくし達は最後に勝ちます!」

 

「絶対?、ぐすっ・・・今、は?」

 

「今はまだ時期が悪いの。……そうね、離宮の庭の木登りするより難しいのよ?」

 

質問すると困り顔でフィリアは、ティルフローズがまだ成功出来ずにいる遊びに比べても難しいのよ?と諭したんだ。

 

「ぃやああぁぁあ!……ぐすっ、そんなのわたくし出来ません。エメ姉様とフィーだけでしょお、ぐすっ」

 

エメ姉さまはエメンテーヌという。

ピンク色の肩口までの髪を外の風に遊ばせてる。

それはリズの記憶の中で見て、知った。

リズの事をとても心配してくれる姉さまだった。

 

「今は難しくても、姉妹が力を合わせれば誰にも負けないわ。えっと、レムジュお姉様が言ってた言葉まんまなんだけどね、わたくしは信じます。姉妹の絆を。だから、リズも信じてその時を待つの。いい?……負けんなよ?リズ!」

 

フィリアのデコがきらりんと光った気がした。

 

 

フィリアの事はフィーと呼んでいた。

ショートカットでボーイッシュで彫りの深いハッキリとした顔立ち。

先祖還りらしくて、その髪の色は父である皇帝のブラウンでも、正妃の特徴的な濃いピンク系でもない白髪に近い銀髪だった。

 

フィーはリズにとって遊びの師匠で、一番近くてなんでも相談できた存在。

そんなフィーにもリズは侍女たちの事を愚痴ったりしなかった。

リズなりに察してた。

フィーだって、姉妹全員がどうせ疎まれてるんだと……。

 

 

 

 

えーっと、クズに話しかけられる度に回想に入っちゃうな。

 

そして、それはアタシには止められないっと。

 

あー、二重人格ってこんなのなのか?

 

でもアタシが回想を覗いてても、リズが表に出て何かするってわけじゃないんよね、この部屋にティルフローズは立ち尽くしたままだし。

 

「……………………」

 

考えは纏まらないけど、そーだここは日本じゃない、乙女ゲームの中に転生したんだし試してみよっか。

魔法とか。

あったりしないの?

 

内心ワクワクドキドキしながら、唱える……、『闇よりなお深き黒よ……重き虐げられし枷より今、解き放たん!汝、我敵全てを滅せ──天魔滅刃〈バニシュ・グレイブ〉っ!』心に澱んだ言葉を自然に汲み上げ並べあげていく、アタシなりに。

 

そりゃまあ、日本人だし転生ものを読んだ事無い訳じゃ無いし……期待したよ?

 

ん、日本人って?

 

何を、何故……期待?

 

そっか、ぐちゃぐちゃしてる……変な感じ、……。

 

凄いチートな魔法が使えるアタシってゆーか、そんなカンジ。

 

でも、結果は何も、何っにも起こらなかった、あるぇー。

 

リズそのものが知らない、この世界の言葉が発せ無いとでも言うの?

 

ま、出来ない魔法は置いといて───姿見の前で着替えさせられたリズの記憶があるから解ってる、

 

「公爵様からお召し物が届いて下りますよ、ティルフローズ様。お着替えを」

 

このゲスから贈られたらしいって侍女が話しながら着せたのは凡そ、リズの歳で穿く様な代物じゃなくとんでもなく卑猥な下着。

 

「良かったですねえ、大人の階段を登ってるんですよ。公爵様なんて好物件ですよー、ティルフローズ様ぁ♪」

 

胸の膨らみも、そもそも胸の膨らみなんてあるのか解らないくらいの、リズの胸のその中心の慎ましげな蕾も一切はっきりしゃっきり隠せない、布と言うより下乳を支える申し訳程度の革紐じゃないか〜的なブラと。

 

「うゎわ、凄いですよ。ティルフローズ様、こんなにレース使った下着なんて穿いた事……私だって無いですよ?はい、足上げてくださ〜い」

 

大事なとこ全部出てますねコレ、的なTバック……んー、違う?かなコレは。

 

的確に言い当てると逆さYバックな、布地が総レースのショーツー……とどれか一つからも愛情を感じませんが、

 

「こんな高価な下着を贈られるんですから、公爵様はティルフローズ様をとっても愛して下さいますよ、きっと。はい、出来ました」

 

着替えが終わった時に侍女の言った言葉が思い出される、そんなに公爵様、公爵様って熱っぽく言うなら変わってあげるよ……本気でアタシは目の前のゲスな笑いを浮かべるコレ、が旦那様なのだろうかとどうしても疑うよ。

 

神様を恨み、呪います。

神様なんてのが存在してたらだけど。

日本には神様なんて居なかっ……アレ?どうだったかな?

 

───でもって、着替えを手伝った侍女とは違う、ある侍女から持たされた“取って置き”があるのも記憶を覗いてるから知ってた。

 

シュルシュルと距離をつめる。

アタシはやおら旦那様に近寄って、ボディブロウーを叩き込んでやった、ニコニコと微笑み混じりに。

 

すると、がぁっと啼いてゲスなコレは絨毯の上に内容物を吐いて椅子から転がるように崩れ落ちる。

 

 

旦那様であるらしい足元のコレに向かって唾を吐いてからおちょくるぽくゴミ扱いしてやった。

 

「ぺっ、あ?誰か、ゴミが喋ってるの。おっかしいわねー……ゴミが喋ってるの初めて見たわ。これ以上ないくらいおぞましいものを見せられたわ。瞳が汚される」

 

何故か履いていたヒールの踵で、旦那様であるらしい足元で唸って丸まるコレの頬をグリグリと踏みつけ、二の句を喋らせない。だって、聞く耳ないもん!

 

「っん、…………ふぐぐ」

 

ゲスのコレに話し掛けられるってだけで寒気するわー。

 

どうしても罰ゲームとしか思えないんですけどー。

 

侍女から渡された取って置き、それは。

危険ですから万が一ですよ?と念を押されもした、リズが……アタシは知らんがな、そんなの。

で、だ。

 

それは二の腕までぴっちり覆う手袋で最大の特徴は、掌の中心にテンパランスという魔法を綴じ込んだ魔石を埋めて、それにより元の何倍、何十倍の力を発揮出来ると教わっている。

 

これで足元に崩れる、アタシのハイヒールの下のゴミの腹には一発喰らわせたのだから、内臓バイバイしたかもねー。当然、ヤバそうなパワーが着けた瞬間からしてたから手加減はしたけどさー。

 

今アタシは、ティルフローズは上は真っ白いシャツでその上から藍色のマントを羽織ってる。

 

下は灰色のフレアーに膝までの黒いソックスに踵の尖った、紺のハイヒール。

 

そんな格好でゴミを踏みつけてるワケよ。

ゴミは腰布以外付けてない、どことなく歴史教科書のローマ人を思わせる……けど腰布を手拭いタオルに変えてみたらどうかなー?

途端に日本の風呂あがりのオッさんみたいに見えなくも無いでしょ?

 

見えたからってどうってこと無いんだけど。

 

「子種があーだこーだ言ってたけど、さ。……抱かれるつもりねーから。てめーみたいなゴミは特にヤダ!話すだけで鳥肌立ちそなレベルで無理、レベル高すぎ!」

 

喋るのもヤダ。

けどさ、一生喋らないワケにも行かないし。

このゴミを何とか回避して帰りたいじゃん、都に、離宮に。

 

とりあえずゴミを脅迫してでも、都に送り返して欲しかったんだけど。

 

「ぐぅぅ。しゃ、喋れない振りをしていたのか」

 

「あ?もう一発欲しいか?次は大事な子種が破裂するとこ見せてやろーか?」

 

「ふふふふ、ぐふふふふ、あははははっ、痛い……」

 

「長いわ、今すぐ都に送り返して。あ、馬車くれるだけでもいーや。街道まで出たら5日だし!」

 

「なぁんだ。穿いてくれてるじゃないかー、ちゃんと」

 

「うゎ、次覗いてみろ。殺す、絶対殺す」

 

「殺せるなら、やってみるといい。公爵殺しをして都に戻って何が出来るかな?んふふふ、そうだな。何とか都に返してやらんこともないぞ?」

 

「目付きがやらしぃ……」

 

「しょーじき、ガキとまぐわう様な真似に何の興味も無いな。奴隷を買うか、娼婦に金を積めばある程度は不自由は無いからなぁ。骨と皮だけのガキにはな」

 

「だが、姫様に踏まれ、姫様に罵倒され、姫様に心の奥まで支配されると言うのは──」

 

「え?ちょっと待って!」

 

「──14人から選ぶ外ないからなぁ、奴隷は逆らわないからつまらん。喋れる姫様で良かった、ティルフローズが。もし喋れない姫様なら──」

 

「さっきから、何言って……」

 

「──罵って貰う事は出来そうに無いからな、そうなったらそうなったで他所の姫様を奴隷にして飼うという手も無い訳でもないが」

 

「黙って、黙れ!なにしたいのよ。お、お前はっ、踏まれたいって…………?」

 

「欲望──人に取って無くてはならぬ希望だ。俺はそれを述べたまでだよ」

 

「あ?踏まれたい、……踏まれたい?…………踏まれたい!?」

 

「そうだ、全うな夫婦の営みなぞよりもっと貴いとは思わないか?そんなもの金を払わば叶うものだ。うん?……、ゴミを見る様なその瞳が何とも可愛いな?」

 

「いやいやいや、真逆に。寧ろ死ねっ!て思ってるけど」

 

「愛も買える。奴隷を愛せばいいだけだ……何、簡単な事だ……だから、そんなもの、何の価値も無い」

 

「人の話は聞きましょうねっ!つって」

 

───気持ち悪い……。

 

「習わなかった!」

 

気持ち悪い。

 

「のっ!」

 

気持ち悪いっ!!

 

自然と、足元に転がるゴミを踏みつけていた。

 

ごく自然に磨り潰すように力を足の裏全体に。

 

当たり前のように何度も。何度も。何度も、何度も、何度も何度も何度も!

 

足を上げて、落とす。

顔を目掛けて!

 

足を上げて、踏みつける!

 

気が晴れない。

アタシは、気がおかしくなったんだろーか?

 

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪くて───

 

「ふははは、ぐふぅっ!……」

 

蹴っ飛ばした!

 

「ぐふふっ、ぐふっ…………!!」

蹴った!黙って欲しかった!

 

「がぁっ!……これこそが俺には愛などより貴い……」

 

黙れ!黙って、……愛?

とおとい……、貴い?

受け入れられない、これはアタシの理解できる愛じゃない、こんな愛は知らない!

 

「言ってろ、禿げ面!ああ、いつか死ぬぞ。その前にアタシが殺してやるんだがっ!」

 

「殺されてやるのも、ぐふっ!……悪くないが、……」

 

蹴った、蹴り続けた!

 

ガシガシと耳元に音が響くくらいに!

 

「長く楽しみたいからなぁ、なるべく若い方の姫を狙った、実に大当たりだった。俺はツイてる!」

 

こいつ、吐き気がする!

 

「は?這いずり廻ってナメクジみてえ、キモいんだけどっ!」

 

喋っても、蹴る力を緩めなかった。

小さな血だまりが出来ていた。

 

「ぎっ、……ぐぅっ!……オイっ!」

 

旦那様が扉の向こうに叫ぶと、

 

「あ──動かないでー!動脈に刃当たってるから、ね?気を付けて?」

 

アタシは力強い、逆らえないくらい強い腕にがっちりと引きずられ旦那様から離されていく。

 

「はっ?はぁああ?」

 

それは、ほんの一瞬。

思わず無意識にそう叫んで抵抗しようとした、そんなありがちなパターン。

アタシは思いもしなかったんだ、ほんの一瞬前までは、だって。

 

「大声出すのもダメ、あうと。……ほら、……切れちゃった♪」

 

アタシは、自分の身に何が起きたかなんて解らなかったんだ。

子供のアタシ、お姫様のアタシ。

急に背筋がブルッとした。

 

 

遅れて恐怖がアタシの体を襲ったんだ。

 

 

 

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