もし1㍉も乙女ゲーを知らないアタシが悪堕ち転生をしちゃったら? 作:ぴんぽんだっしゅ
「──兵隊さんに一杯ずつお酒を振る舞いたかったのです。
では、マリアは何杯分のお酒を用意すれば良かったのでしょう?第1軍は1000人がおり、第2軍は──」
授業なんて、すごく遅れて聞こえて、
『つーても?これ、算数ですから。小学生かよ?つー』
確かにそう思えて。アタシには。
普段通りの学園の普段通りのクラスの普段通りのアーマリア先生によるとこの、当然なことに普段通りの授業。
をよ?
やー、やー!どうも!なんか曇天模様続きの最近の空が嫌いなアタシ。そうです、ティルフローズです。
そんな外の空模様なんてどこ吹く風で、おかまいなしに授業中の我がクラスではアーマリア先生の講義の声だけが響いていて。ちょっと耳障り。
授業を受けているアタシが座る教室の窓際は窓開いているけど、そこにガラスは嵌まってない。
手を伸ばせば──外から教室に向かって枝を伸ばす花壇?それとも陽射し避けの為に植えた樹なのかな?はてはて?
とにかく。アタシのぴんと延びたちいさな小さな手の中には、その樹から伸びている枝に生えていた、若草色した葉が一枚握られている。
届くし、やっぱり。
……おもっきし外と繋がってますやん。
と、言っても窓の上から覗く鎧戸がちらりと。
雨が降った時は雨戸は下ろせるけども。
──ガラスが無い。いや、あるにはあるけど、コスト単価が高いとか?で窓ガラスにはまだ採用が進んでない?ってゆーとこなんかな街中でも窓ガラスって無いかも。そーいえば馬車にも板窓はあってもガラスは張られて無いよーな。なんか変に遅れてるな……普通にグラスはあるのに、さ。
……えーと、だ。
何が言いたいか。ってゆーとだな──寒い!単に寒い。
指先を伸ばした手を口の前で重ねて、ほうと息を吐いた。
きやすめだ。
少し、暖かく感じる。こんなことで暖かく感じる。
教室の中、ここは……教室の中なの!
なのに、外で作業とか体育とかそんなことをやってる以上に。寒い。
とてもとても、……寒い。
ちな、窓ガラスが無いのは王城でも変わらない。
……それには理由があるんで聞いてください。
『やろうとすれば魔法で温度なんて一定に保てるから、程度な講釈をアーマリア先生がしてくれて』……なるほど、となった。
ま、それはいいんだ。
なくてはならないはずの窓ガラスが色々とファンタジーな理由なら利便性が無視されていて、貴族連中なんかに必要とされなかったなんてことは重要じゃないの。
窓ガラスが無いなら窓は木戸を閉めて、それで暗くなったというなら魔法でライト使えばいいと思うの。
その方がずっとずっと魔法学校ぽいし。
どーして我慢、我慢のさらに我慢して冷たい風にアタシはさらされなきゃなんないのよ?
なんてことを言ってぶータレてたりするのはこっち置いておこう。
こほん、種明かしをするとクラスで決まった席なんて無い。
この学園で採用されてる長机には引き出しも付いてない。
なんて安物っぽい!っても、なんか良く見ると使っているのはツヤもあって木目の綺麗な一枚板。
元の材の価値が高いのを使ってるのかも。
そんな、早いもの勝ちと長机に座った順だ。
うん、窓際は遅いクラスメートが座っているというわけなのよ。
それでもバグラートみたいに例外で、最初から窓際に座ってるのも居るけど。
基本、窓際は人気薄なんで廊下側から席は埋まっていくみたいで廊下側は人気だ。
反面、そうなると前で窓際となると当然よ!胸を張って言える。
不人気極まりない!と。
要は、真面目な話、素直に早く教室に来て廊下側座ればいんじゃね?となるけど、それは言わないで。
色々あるんだよ、女の子に生まれたら色々。
えー?単に寝坊助ですって?
いやー、そんなことも無い、アタシは基本朝焼けを見れる時間には起きてる。
学園には馬車で通いだから、どうしても。離れてんだから学園には、たどり着くのに寄宿舎の子たちより遅くなっちゃうのは当然!
何も悪くない!
朝のその時間は、大部分は髪の跳ねが気に入らなくて何度もやり直ししてる!とか、なことよりもやっぱり決まった席が無いのが問題ですって!
横髪の耳元のカールはくりんくりんが大正義、せっかく可愛く産まれてかわいいんだから。マイナスは無いに越したことはない、と思うの!とか、鏡の前でにへ〜と顔を眺めているという時間が。無駄!というなら言えば?そうね、幾らでも言えばいいじゃない!
とかー?可愛くないより可愛い方がいいに決まってるの、見た目は人間の100パーセントなとこなんだから!
とかとか。ふふん!ね、そうでしょ?
それでこそ、女の子というかわいい生き物でわないかナっ?そう思うでしょ?
──ああっ!こんなに寒いと授業なんて頭に入んないっ!真面目に聞いてらんないっす!
……ま、まーね。授業なんて、真面目に受けた試しの無いアタシがそれを言うか!って言われたら……それはどーでしょーね、えーと。
うん、反論できませんよ。反論できませんけどー?
そんな、教室の冷えきった温度に対する脳内aとbによる考察など交えつつ。
aは意見を言いbは反論を投げ掛ける、良くある暇潰し。
そんな暇潰しで授業を過ごし、乗りきろうとしてるとこで解ると思うけど。
一応言っとくと、なんともアタシの中で遅れたこの授業が激しく退屈なものであるのは変わらない。
何せ、やってることがやってること。
そう、そうなのだ。
いつまでもありがちな良くある算数なんで。
桁が増えても算数はやっぱり算数だ。実用的なとこのどうしても算数だ。足し算でこと足りてしまう授業を今さらあーだこーだ講釈たれられて聞かされてもー。
なんて、思っちゃうんだなー。
「はい、このようになるので正解は10520杯分のお酒を用意すれば良い。と、言うことになります。樽で言うと100樽もあれば足りるでしょうか。兵隊さんが一杯だけ飲んで足りるのでしたら、ですけど」
退屈ぅ……。1樽で100杯そこそこ賄えるのか、とアーマリア先生のいまだに算数をだらだら続ける授業よりは建設的な私的脳内勉学ちう。
もっぱら授業中やっていることと言えば聞いているフリ。をしながら……ながら?
机の上に広げたノートと格闘してて自分で自分をはっきり自覚できるくらい不用心にも、にへ〜と頬を緩みっぱなしている。
そんなことをしていると、突然。
何してるの?と隣のあの子、キャタリンが覗き込むのなんて当然なのよ。こんな事してくるんだった。この子は。
その時決まって、アタシは。いつも同じ事に必死だったりする。この日は特に、没頭しててにひひなんて薄ら笑いもプラスして異様な雰囲気を辺りに振り撒いていて隠せてなかったのだとか。アタシ、隠せるつもりあったか?それ。
だから、近付く気配に全く気付かない。注意を怠っている。失念しているということか。そこまでのめりこんでいれば、そこそこの傑作が生まれている証拠だった。
筆がそれだけ進んでいるんだから。
おっかしーのは、アーマリア先生からの監視の目は敏感でビンビンに感じ取れるってゆーのに……隣のプレッシャーを放つ驚異には全くといって気づけなかったりするの何でだ?
「リズさまは珍しいです。こっちは必死なのに」
なんてゆーか、珍しいらしい。学園に通うのは必死になりなくて焦がれるような想いで通っているものが多く、アタシは浮いて見えるという。
相変わらず脳内変換しないとな、字幕テロップ用意してよと言いたい彼女がそこに居て脳内で乱雑にペンをぐちゃぐちゃに書きなぐってしまう。
ってゆーか隣でアタシを見てたキャタリンが、彼女がそう言うんだから……アーマリア先生だってアタシの事を浮いて見えているんだろーか、当然。
それだけじゃなかった。
彼女が放つ視線の先にぎょっとする。
キャタリンはふぉお。と鼻息荒く。
『それ?あ、アタシの!』
アタシは驚いた。
震える手で握る、その視線の先はノートに釘付けのキャタリン。
彼女がそんな態度をとるのは見たことが無かったような気がしたからだ。
むふっと頬を膨らませて銀糸のような前髪から覗く大きく開かれた瞳。
キャタリンの手に捕まっているのは書きかけの傑作、
『い、いったい。いつの間に?』
もとい。今さっきまでアタシの目の前にあった落書き。
ちょ、ちょっと。何した?早業とゆーか、ゆっていいものかそもそも。
気がついたらキャタリンの手に納まっていたよーな気がした。
「これ、続きは……っ?」
熱でもある程度に真っ赤に染まった隣の彼女の顔。真面目な顔して聞いてきたキャタリンはこそっと。
興奮を隠そうとするのは授業が今も続いていて、アーマリア先生のよく通る高い声が歴史のうんたらを説いて説明して読み上げているところだったからだ。ほんのさっき算数の授業してたよーな?
気づかれないようにと必死に声量を落として、それでも呼気強く。顔が近い。アタシはそんな彼女を見てぽかんとしてしまう。
まるで、石化でも掛けられて固まってしまう、そんな気分。
いや、実際石になんてされてないから自由意思で体は動いてしまうんだけど。
ごくっと喉をつばが飲み下されていった音が頭の中で響いて伝わった。
知らず、溜まっていた体液を喉を鳴らして飲み込んでいたと気付く。
繋がった机の上に視線を落とす。
机は繋がっているんだから、その気になれば瞬間にノートと呼んでいる紙の束を奪うのは簡単だとは理解できる……しかし、奪われたなんて奪われた対象に思わせることも、動いたと気づかせることもなく、この場合の対象であるとこのアタシ……が。
文字通り魂を込めて、せわしなくガリガリとペンを走らせている最中のノートを奪うのは可能だと思えるだろうか?
書きなぐっていた手こそ、止まっては居たかもしれないけどさ。
そんなのがあって瞬間的、ほんの僅か。
思考して頭をフル回転させている時間。
その時間の間、完全にカチンコチンに固まっていた。
そう感じた。奪われたノートの事も激しく動揺させてくれたけど、それよりはずっと彼女、キャタリンの顔に動揺していたと思う。
まるで、彼女が恋する乙女。それはまあ、良いように言えば。
で、悪くいうと興奮したオッサンかな。
いい繕う必要がないなら、オッサンかよと叫んでいたかも知れない、と思う。
えーと、動揺というよりは驚いていた方が近いのか?
ほぇえ……何があったんだ?キャタリン。今、赤くなる要素どこかあったっけ?
そんなに恥ずかしい顔する内容でも、照れるよーな絵でも無いよー?はて?
緩んだ瞳と上気して紅く染まる頬……おお、気付いた……。
まずい官能的になるから省こう。
アタシが言いたいことは、彼女の背に四十くらいのオッサンのオーラがはっきり重なって見えたと言うこと。
わかった?
そう、言いたいことが伝わったならそれでいい。
そんなのが見えてしまうアタシはヨゴレなのかも知れないけど、ふたつは紙一重と言うことなのかも知れないな、と悟った。
熱い視線が痛いくらいに刺さる……刺さる