もし1㍉も乙女ゲーを知らないアタシが悪堕ち転生をしちゃったら? 作:ぴんぽんだっしゅ
どーしてそんなのが見えちゃうんだ……?
そんなのが見えてしまう……アタシはヨゴレ?……うっわ!
純とか言っちゃう、カマトトぶるつもりも無いっんだって。
でもなー。ちょっちショック……うわー!
「今、書いてたとこだしー。見てわかるよね?いまはここまで。……ね?」
そう言うに留めた。そう言ってこの話は終わるはずだった、キャタリンからは『じゃあ出来たら見せてね』ってなる、はずじゃん?
でもそうはならなかったんだなー。
キャタリン、急にどーしたってゆーの?何があった?つーより、まずは落ち着こう?ね?
彼女に対するアタシの内なる評価は今、外に出すべきじゃないかなーって悟っていたと言っていい。
それで、関係がギクシャク。
隣に座っていることがお互い多いし、性格も嫌いじゃない。
もっとこう、街なんかにも誘ったり。学園の中だけじゃなく外でも一緒に遊んでみたい。みたいな?
そーゆーのも、変わってきちゃうんだろうなってゆー。ギクシャクしちゃうなら……。
そんな事になるならぜんせとなんら変わらな……い?
え……ぜんせが一瞬見えて……今、さ。……見えた、よ、ね?
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完全に忘れて記憶が消え去った訳では無いみたい。
アタシの原点と思われる、それはぜんせが紡いだ記憶。
学園と変わらない学生時代。中学生か高校なのか、上着は紺のブレザー、チェックのスカート。
いい笑顔で微笑んでる少女の姿が見えたー。と、思ったら場面がすぐに切り替わって教室かなー?ここは。
場面が切り替わるのに気付くとどこからか沸き上がってくる痛み。胸がグサグサ。と痛む。キリキリと、続く痛み。
オレンジ色と黒のコントラストに彩られる夕暮れの教室で。
アタシ、と思われる声で少女と口げんかした。
名前解らない、知ってるはずなのに!目の前の女子の頬をつつーと伝う涙。
……うっ!
……あれは、何??
涙を流してるその女子とシンクロして、視線の先にいるキャタリンが一緒になって重なるみたいに見えた、と思うとそこはもう現実。
気づくとキャタリンは酷く残念な風に、ヒトコマ前の彼女とは全然別な曇った表情に変わってた。
──おっとぉ!
ほんの一瞬のフラッシュバックから我に返ると、目の前にぐすっとするキャタリン。
その瞬間のキャタリンにカラーをつけて見るなら紫。
額から目の下の涙袋までさぁッと紫に色が染まった、様にアタシには映った。
幕が降りるみたいにするする落ちてくる彼女の瞼。少しずつゆっくり、押し出されてうりゅうりゅ液体で潤む目尻。
え、なになにっ?
残念とか、そんなレベルも通り越して、世界の終わり!みたいな、大袈裟すぎるリアクション取られても!困る、正直……
──けど、アタシがノートに書いてたこれってね?
えーと、特別な何かとか当然そんなことじゃないし、ずばり言っちゃうとなんのことは無くて、童話のほら!
二次創作ってゆーのかな、こんなのでもー?
種明かしするとね、アタシのノートに書き込まれているのは有名な童話、日本の昔話の桃太郎の冒頭。
開かれたノートの上には、吹き出しっぽくどんぶらこどんぶらこしてる大きな桃と、お婆さんがひぃいいい!ってたまげてるとこだったりする。
特に変なとこなんてないし、なんてことないでしょ?
そう、桃太郎の亜種を殴り書きしてたってゆーか、とにかく、ほんとに、何処にでもよくある落書きしてただけってこと。
うーん、それだけのことだったのにー!
二次ってことはオリジナルと違うとこがあるってわけなんだけど、さ。
それで違ってくるのはお決まりの、桃から産まれるのは桃太郎とかでなく、そこはオーウェンにするとこだった。
パカッと割れてそこにはオーウェン。ミニサイズになったハゲ、デブ、ブサイク……おろ?……ブサ可愛いかも。
実物と絵じゃ違ってくるなぁ、ブサイクってゆーのは!
そんな、イジり甲斐があるっつーか、オーウェンてキャラは強烈過ぎんだよー。
──そんな、一人で書いて、読んで、満足する、実にアタシの中で完結してしまう、自己満足な落書きの続きと言われても……ねぇ?書けと言われれば書きますよ、書きますけども。
この桃太郎をパクった落書きの何を、そこまで気に入ったんだろう?
そんなことを思っていると声がした。アーマリア先生の。
なんと、恐ろしいことに耳のそばで。
「──良かったわね、授業は終わりました。そんなにつまらなかった?
──全然心が入ってなかったじゃ無いですか?」
一言一句、スローモーみたいに聞こえて、冷たい汗が背中を滑り落ちていく。
これって、ちょっちホラーしてる。いきなりは怖いっつーか、え?……アーマリア先生の声?
キャタリンが目の前に居るとゆーことは、だ。
キャタリンに視線が固定されてる。
だから、アタシの耳は前で授業をするアーマリア先生に向いていることになる。
やべー!
振り返ると、見事な笑顔を浮かべたどあっぷアーマリア。
「ん……?」
申し開きはあるかしら?と行ってるみたいに小首を傾げる、この時のアーマリア先生はあとからたびたび思い出す、悪夢のトリガーの定番商品ってとこに収まることになる。
用は現時点、最大のトラウマってやつに認定されたってワケ!
彼女の静かな怒りをそこに感じた。察した。──空気が重い!
授業も終わったけど、授業をボイコットしてたアタシに気付いていたってことで、アタシの評価はアーマリア先生の中でもっと終わってる、そんな気がした。
「……あぅう」
心にない声が喉を伝わって口から漏れ落ちる。
人間追い詰められると、意味不な事になるってわかんだね。
もともと、そんなに高い評価も持たれてなかったとそう思っても、なにか冷たい氷の刃の切っ先でも突きつけられたような、嫌ーな恐怖が全身を雷に撃たれたように一瞬で駆け抜けてった。
ついー、とアーマリアの視線が指す方向の先をぐいと追うと、それが指し示すのはアタシのノート。
「……あ、はは」
乾いた笑いしか出てこない。マズッた。ノートから視線をアーマリア先生に戻す。
実にいい笑顔だ。このままスクショにしちゃいたい!
程度にいい笑顔だけど、ボイコットをされて嬉しい!なんて、思う教師は居ないでしょー?
怒ってる、笑顔の裏に般若の極悪オーラが燃え盛る青い炎とともに見えて透ける、そんなビジョンが網膜に映し出された。
これがVRってやつか、いいや、CG……かな?
アタシの授業中の作業の結晶、もとい落書きがでかでかと躍動するノートは開かれたまま、キャタリンの手から机の上に戻されていたみたい。
なんか既視感あるな、こんなシーン。
ま、小学生なら誰だって多い少ないの違いはあっても、落書きしてるとこを見つかったなんてザラでしょ……それが。
たままたアタシは今そのシーンにぶち当たったってとこ。
うん、落ち着こう。落ち着け、ティルフローズ。
──間の悪いことに、それを──落書きの証拠をアーマリアが見逃さなかったというヒトコマが想像できた。
あと、この無力なアタシに出来ることはただひとつ。
「──ごめんなさい……っ!」
謝る事、ごめんなさいして許して貰う事しか残されて無かったんだ。
ええ。誠心誠意、それはもう。へりくだって謝りましたよ。ひたすら頭下げましたっ、はい!
「──ぐるぐぁんい……」
「それはもう済んじゃったんだし、もういいって──」
そのすぐ後、アーマリア先生が前にある教員机に引っ込んで次の授業の準備を始める。
すると、すぐにキャタリンはまたうるうる涙目で頭を下げてきた。
アタシは、机に体を投げ出した格好のままそれを聴いて、手のひらをひらひらさせてキャタリンに応える。
このジェスチャーが彼女にとって正しく受け取れるか、とかは考えなかった。
異世界って言っても同じ人間なんだし、とか。
ううん、違うな、脳死。思考するのストップしてたんじゃないかってくらいに不用心なとこあった、かも?
体がなんか重いし、アーマリア先生と視線がカチ合うと、ばちばちしちゃいそうな気もしたし。
「静かになったリズ。暗いいつもの。深く思う反省。理解、いいの沢山。いっぱい元気……」
なに言って……。
おお、久々に脳内翻訳が追い付かない。
それがきっかけになって、まあまあのショックがあったんだなと気づかせてくれる。
きっと、ごめんなさいって言ってんだよね?
「それよかさー、キャタリン。何かこのノートにあるの?
そこまで引かれるものがこのノートにあったとは思えないのよねー、あーしー」
慰めようと声を掛けてきたキャタリンを、机に体を投げ出した格好のまま、はぐらかすような一言であしらって逆に聞き返す。
何をそんなに興奮していたのかってのを。
「ここに書かれているの、キャタリン見たことが無い」
「ほえ……?テンプレだよこんな……の」
「て、テンプレ?」
ああ!
ああ、そうか!!
桃太郎の桃、お婆さんが着てる和服、それに包丁も!
そんなもの、こっちに来てから見たこと無かった。
アタシよか経験値のあるリズのアーカイブにだって、そんな果物は無い。
メロンはあるのに……そーいえば、シェフはナイフとかこう、薄い刃のあれであれして……──?はて、大事なことを見落としてないか、はてはて。──うわぁああ!
や、やっちゃった?
こここ、これ、無いもののオンパレードがこのノートには書き込まれてる。
異世界には、この世界には存在がミリ単位にも有り得ないものが。
以前に描いた落書きにはバイクも、自動車も、自転車も、電車に新幹線、飛行機だって書いてある。えーと………………誤魔化そ、うん。それしかない!
キャタリンに見られただけだ、今なら誤魔化しきれる!
やるんだ、アタシ!やるしかない!
「……て、テンプレっていうのはーホラ、そのあれだよ。
そう、テンプレって本の中に書かれてたの……妄想の部分もあるのよ?
あるんだけど、別に、そそんなに珍しいものじゃないわよ。たぶん。あ、ぁははは……」
「書かれてた?テンプレ、知らないけど。この絵っ!──こんな絵はどんな本にも載ってない──まるで、違う人間を見てる絵にキャタリンには見える……よ」
「お、……おぉ」
すると、思ってもみなかった意外な答えが返ってきて面食らう。
「リズのノートはキャタリンは見たこともない画風というか絵の書き方で、それがとても上手に綺麗に描けていたから。それでアーマリア先生の授業も真っ白になって──」
ふふふ。要約すると誉め倒されちゃったのだ。
綺麗な絵、と思ったその次の瞬間には思わずリズの手から奪っていた。
読んだことのない読み物だと気付いたから。なんて、そんな風に力説された。
もちろん訛りが酷いのは相変わらず治ってない。
アタシも少しは努力して手伝ったんだけど、まだまだみたい。
まあ、要するに……アタシの描ける画風が現代の日本でなら珍しくもなんともない画風──アニメや漫画絵だったから物珍しかったんだろーね。
って。そうか、こっちの本にも挿し絵はそこそこあるけどそれは『これ、正確な絵か?』って思えるような抽象的な伝わればいいや程度なレベルの絵だったよーな。
あ、肖像画は別ね。
あれは別物。
あれはよく描けてる。けど、強調されて描かれてる部分もある。
眼とか、胸とか、身長とか……肖像画って良いも悪いも自己満足のためのもんじゃん?
そこに、正確さは求められてないんだよなぁ。
……描かれた本人がもっと眼を大きくって注文したら、書き直さなきゃなんないものだから、絵書きも注文したら注文された通り書いちゃうんだよ。
ま、アニメ絵も強調絵で間違ってないんだけど。画風はまるで違うよね、見たらわかるレベルで!
「あー、この絵?アタシは昔からこんな絵を描いてたんだ。だから、大したことないって思ってたんだけど……そんなに誉めちぎられちゃうと──照れるじゃん!えへへ……あ、それはそーと、さ。ノート、どーやって取ったの?」
「こうやった」
あー、ついつい。にやけちゃう。頬緩む!誉めて貰うって何だって悪くないな、うん!
しかしな、キャタリン。
──うん、そうじゃないよ。そうじゃないんだよー。
違う、それじゃ答えになってないとアタシ思います!
机の上にあったノートをひらひらさせてるアタシの手のひらにぎゅっと握らせるキャタリン。
それをすっと手のひらから抜き取る。
それで早業の説明にはなってないんだけど、それはまた今度でいーか。
「じゃあ、さ……描いてみる?教えようか?」
隣のキャタリンに自然と微笑み返していた。
ひきつった笑みで固まったままだったキャタリンも、思考を巡らしてたのかな、一瞬ピタリと止まってから緩みまくる顔。迫る顔。染まる頬。
コクリと頷きながら、
「いいなら是非!」
と、そんな声が返ってきた。
近い、近いよ……。落ち着け、まず落ち着こう?