もし1㍉も乙女ゲーを知らないアタシが悪堕ち転生をしちゃったら?   作:ぴんぽんだっしゅ

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公爵さまはゴミでいいんだって。

「!───てめっ」

 

生温かい。

首筋が、プチ、となにか。

擦られた、そんな感触があった。

ぐちゃぐちゃに体を動かして抜け出そうとする。

だけど、足も踏ん張れなくて。

 

体は抵抗出来ない。

がっちりと押さえられたまま。

だけど、手は。

動く。

動く!

 

動かせる、そろそろと。

首筋に持っていってなぞった。

ぴちゃ、と言い知れない粘液が手に付いた感覚。

 

これは、あれだ。

血、それも滴って量じゃない!

 

ホント、に……動脈、をッ?

 

───う、ぁわわわゎあっ!!

 

「其所までだ。下がれィっ」

 

旦那様が低い声で叫ぶ。

冷たい、血の通ってないような声で。

さっきまでのこのゴミの声とは違う、なにかが違う。

 

後から思うと、それは命令馴れているマジョリティに対してアタシみたいな一般人が感じる、畏怖みたいなものだったんじゃぁないかってそう思えた。

 

「──次は首を貰う」

 

耳元で一音、聞こえた。

全部聞きとる前に声は掠れてしまった。

 

体が自由になった。

途端に、首筋がどくん、ズキンと痛む。

気を張っていて痛みが飛んでたのか、傷自体はほんの少しだったのか。

 

「と──。まぁ、やり過ぎは良くないのが解ったか?ティルフローズ」

 

「おい、なんだ今の」

 

左手で左の首筋を押さえながら応えた。

いや、オウム返しに聞き返したんだ。

 

無意識だったとしか言えない。

身動きするのをほんの一瞬で不可能にされるなんて経験……そんなのある訳がない!

 

何よりも恐怖が先走ってしまう。

旦那、様の顔を見ることも出来ずに。

睨み付けてやりたいのに、それが出来ない。

視線は足元に釘付けになっていた、何にもそこには無いのに。

 

「俺はな、質問をしてるんだ。解ったのか?──首はまだ惜しいだろう」

 

「なんだ、そう……。嚇(おど)してどうしようっての」

 

現実感が薄い。

今、なにをされた?

今、なにがあった?

という、クエスチョンマークが頭の中で飛び回っている。

思考を支配していた。

 

「今──質問をしている、……のは俺だ!」

 

パァ──!ン、ン!!

 

「俺から姫様に、手はあげたくは無かったがな?あんまりアホなようだと、躾からやり直さないと行けなくなるかもな」

 

音がして、その次に痛みが、最後に熱が──アタシの、リズの頬を襲った!

 

まともに、旦那様らしいゴミくずの言葉を耳で聞けないくらい耳鳴りがしてる。

 

「んだよ、ゴミが……っ!」

 

二回、三回と首を左右に振って旦那様を睨み付ける。

今、目の前に立っているデブで、ハゲで、どうしようもないゴミをだ。

 

今までの態度で、実に内面も外枠と大して変わらない事がわかっている。

知れば知るほど吐き気が強くなるパターン。

 

あった男の中でも最悪。

最っ低で、救いようがない。

女を道具のように思っている。

 

愛は買うものだ、愛は薄っぺらで安っぽい。

金で愛は全て手に入る……、手に入る?

 

それは───愛じゃない!少なくともアタシはそんなの知らない!

 

「反抗的な態度は実によろしい、だがな。今、措かれている状況も解らない能無しか?質問を理解れ」

 

アタシ、バカじゃない。

 

措かれている状況?

そんなの決まってる、絶体絶命。

わかってる。

 

こいつ、アタシを殺そうとしたら殺せるんだ……。

 

死ぬ、殺されると思うと───姉さまの顔が浮かんできて、あの言葉を言ったんだ。

 

『───絶対、ぜーったい、最後にわたしたちが勝ちます!』

 

 

 

 

自然と、勇気が湧いてきた。

アタシに、リズにとって───

 

あの姉さまの顔が、声が、言葉が、生きていく力に変わる。

そんな気がした。

 

ぐちゃぐちゃした気持ちがほだされてく。

 

 

「あ、……ちょっと言い過ぎた。だがな、一ミリも触れさせねえ、旦那だか知らねーけど、アタシは勝手にやらせて貰う!」

 

だけど、だけど、だけどだけど───吐き気だけはおさまらない!

生理的に無理ってヤツ!

 

ぐぐっと力を込めた、……瞳に。

アタシの、この意思は不倶戴天だ!

そんな意味で。

 

「耳が要らないと見える──オイっ!」

 

「ちょ!やめっ」

 

「──次は首を貰うと言った……ぞ」

 

だけど、アタシのその意思は儚く散った。

旦那様らしいハゲの怒声に反応してアタシの自由は無くなった。

 

後ろから、ふわりと持ち上げられる。

11歳の小さな体に、大した体重はないので軽々と持ち上げられ……後は何が起こるか、想像したくも無かった。

首を、耳を、という言葉が聞こえた気がして急に寒気がぞくりと走る。

 

「首はまだだ。耳が要らないらしい、……や──」

 

「──ごめん、……ゴクッ、……なさい……」

 

旦那様の無慈悲なまでに冷たい声が響いて、思わず。

 

唾を飲む!

リズなら泣いていたかも知れない。

だけど、アタシは死が間近にあっても涙は流れなかった。

 

吐き気を我慢しながら、謝った。

ただ、ただただ、力無くその声はアタシの耳に届けられ。

 

謝っているんだ、ゴミに!

情けなかった。

 

「オイっ!やめてやれ、下がれ」

 

本気でアタシを殺したいわけじゃない、旦那様は。

その瞬間、戒めはほどかれた。

 

殺気と一緒に舌打ちが遠退いていく。

 

「解らない能無しではないな?ティルフローズ」

 

「ちっ──」

 

「クソっ!」

 

同時に念を押してくる旦那様。

アタシは、その短い一言に心をかきむしりたい程のやるせなさを乗せて、振り上げた右腕を叩きつける場所を見付けられずにそのまま下ろした。

 

「受け入れろ!とは言わん。せめて、理解しようとしろ」

 

「はぁっ!……弱い、……怖い」

 

肺から抜け出すように呼気が漏れでていく。

無力さに押し潰されそうになって、恐怖に震えた。

 

アタシ、二度死んだ。

殺されてた。

 

たとえ、今。

アタシがどんな凄い武器を持っていたって……、振り向く暇なく後ろからたやすく命を奪われる、そんな、それいがいイメージが浮かばずに。

 

「言葉は解るな?やり過ぎるな、俺にはやることがある。欲望を叶えた換わりに死んではつまらんしな?クックックッ、何、殺したいのなら……全て終わった後で殺されてやるよ、フワハハハ!」

 

「何なんだ、お前……」

 

気味悪い、半月状に広がった口で笑う。

吐き気だけは我慢できない、頬を盛り上がらせて笑う!

 

目の前で起こる光景全てに生気が吸われていく、そんな気すらして。

 

アタシに、生気は残っているのか疑わしかった。

何もが、中身全てが軽い煙か靄で出来ているような気がしてしょうがなかった。

 

「いや……失念していた。そうか、名乗って無かったかな。うぅむ、興奮し過ぎていたようだ」

 

「そう、余計な事をやたら吐き出すその口が悪い」

 

目の前に立っているデブからの変な威圧感は無くなっていた。

あれは、何だったんだろう?

 

首筋を傷つけられる前に戻った、空気が。場の雰囲気が。

 

お……?

頬はぐちゃぐちゃ。

 

ん……っ?

こいつ、……傷が無くなってる?

 

気付けば、ボロクソになっていたはずの旦那様は、デブは!

何にも無かったように涼しい顔で笑っていた。

 

「ふむ。では、改めて名乗っておくか。俺はオーウェン・ルヴェ=ゾ・ヴェサテー・ディボタルタ公爵。その、……なんだ。よろしく、ティルフローズ姫様」

 

「キショイ下着送り付けといて、良くよろしくだ言える……。神経疑うわ?」

 

「俺の好みだ、気に入る気に入らないはこっちで決める」

 

ふざけるっな!

お前の趣味を押し付けるな!

 

黙れ!

 

旦那様は、オーウェンと名乗った。

正式な名乗りをした。

片膝をつき、右肘を45℃に曲げて左肩口に添えてから臣下の礼を取るようにお辞儀をしたまま名乗りをしている。

記憶の中にある名乗りに間違いなかった。

 

最後に余計だったのは、顔を持ち上げてアタシの目線を見付けるとにんっと笑ったのだ。

 

「紹介をすると言う訳では無いが、ここに住むのだから知っておかなくてはな?」

 

「オイっ!入りなさい、二人とも」

 

「ひぅっ!」

 

無意識の声が上がる。

思わず背中から足首あたりに寒気がもの凄いスピードで流れ落ちた。

さっきまでの殺気。

それともうひとつ。

ねばっこい視線がアタシを刺している。

 

「脅えんでもよい。二人は俺の側近みたいなもんだ」

 

「いや……殺気が届いてる、息苦しい」

 

「止めなさい、大人しく控えておるだけで良い。」

オーウェンの冷たい声が部屋に響くと、ぴたっと殺気が消えた。

絡み付いてくる視線はまだまだ消えない。

 

「左がゼリエ。しなやかな獣みたいだろう?」

 

「そして、右がジルリット。お前には無いがいいものだろう?」

 

「屋敷ではまず、面は取らさん。ふざけてゼリエに殺されんようにな?」

 

二人はオーウェンの言うように仮面を付けていた。

それもお揃いの仮面を。

 

ゼリエと紹介された方。

スタイルはいいが、筋肉は充分過ぎるほどついているようで。

バキバキに割れた腹が、服の隙間から見えた。

殺気を発していた息苦しさの正体はゼリエだと思った。

仮面の向こうに光る瞳が猛獣のようだったから。

 

ジルリットと紹介された方。

ゼリエと違って、ふっくらしていながらも全く筋肉が無いってことでも無い。

出るとこは出ていて、引っ込むところはそこそこ。

いわゆる、グラマーってヤツ!

 

アタシはゼリエに殺されかけたのも忘れて、ジルリットの姿を見てよく解らない感情にぐちゃぐちゃにされる。

それは後々はっきりしたんだけど、嫉妬だったんだろうか。

今、11歳の身体だということも忘れて、当然のように対抗意識をメラメラと燃やした。

譲れない感情(おもい)なのだ。

女として!

 

「そう震えるな。持って生まれた格は姫様の方が遥かに上だ。俺なんかよりもな」

 

余裕の笑みを浮かべるオーウェン。

 

「……下がれ、二人とも。用は済んだ」

 

そのオーウェンの低音が鳴り響くと仮面をつけた二人、ゼリエとジルリットは音すら立てることなく扉の音だけ立てて去っていく。

 

「何がしたい!」

 

わからない、理解しようとして出来ない。

完璧に思考フリーズ!

 

ゼリエをけしかけて、今度はゼリエとジルリットをアタシに紹介する、何がしたいのとか、何をされるのとか、理解不能な行動。

 

「姫様の度量を計りたかった。まあ、まだ小さい。今計った所ですぐに変わってしまうだろう」

 

小さな子供の度量を計る、っておかしなことを言うね。

小さな子、ティルフローズくらいの時期の子供の一日の時間はアタシや、オーウェンの感覚な時間とは遥かに違うんだ。

一分、一秒が濃いんだ。

それなのに、何がわかる?

 

「怖がらせただけで何が解る?」

 

「恐怖が解るだけでも能無しか、そうでないか解るんだよ」

 

アタシは、子供の鈍感さとは違う感覚があるからそれは簡単だった。

 

「それで?」

 

「少なくとも、能無しではないなっ。ククク」

 

オーウェンの気持ち悪さは、痴漢のそれだ。

抵抗できないままにイロイロされて気付けば痴漢のやりたいことは終わっている、とそんなどこにぶつけていいかわからない感情に身を焦がされる。

 

「はぁ…………」

 

「服を脱ぐんだ」

 

「ちょ、ちょっと?」

 

「俺は脱がさない、……脱げ」

 

「な、な、な、・・・何でよ」

 

「なに、俺が送った下着を着けてるとこをみたい。いいね?ティルフローズ、解るな?」

 

「え、……えっ?」

 

「脱げ。脱いで見せろ」

 

「くっ、……ク……ソ」

 

「うぅん、いいな。素晴らしい目利きだった!似合っているよ、ティルフローズ姫ェ♪」

 

「く、……」

 

「逃げるな、左足をあげろ。あげてください、姫、様」

 

「な、……んで揉むんだぁっ……」

 

「解りきってる事を聞くな、俺がそうしたいからだな」

 

「ゴミっ!は、離せっ!……擽った、い」

 

「……続けろ、と申して戴きたいのですが?」

 

「ふ、ふ、ふざっ……」

 

「ああ、このお御足で踏んで戴ければ終わりでよろしいのですが。全て」

 

「望み、……通り意識飛ばしてやるぁあああ!」

 

━━━━━・

 

ことが終わっている。

ここはオーウェンの、オーウェン・ルヴェ=ゾ・ヴェサテー・ディボタルタ公爵の私室。

 

調度品が並んでいそうだがそれはない。

趣味ではないのだ、趣味であるか否か。

 

それこそがオーウェンという男の行動原理に近かった。

 

「……いやぁ良かった!ク、……ククっ」

 

ベッドに、テーブルに、書棚。

部屋にはこざっぱりしたものしか置かれていなかった。

 

喋って、含み笑いを溢しながらベッドに滑り込む。

 

「あれでいてなかなか、能無しでは無さそうだ」

 

そこには声ひとつ上げない、女性が横たわっていた。

 

「仕込めば、面白そうな逸材・・・か」

 

仮面の二人のどちらかかも知れないし、そうじゃないかも判らない。

部屋は薄明かりが点いていたがそれもオーウェンに消されてしまって真っ暗だ。

 

あとはオーウェンに好きなだけ弄くりまわされて、短いメスの悦びを上げる声が静寂の中に静かに聞こえてくるだけだった。

 

「退屈しなさそうだな……───」

 

 

 

 

 

オーウェンの夜は更けていく。

 

 

 

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