もし1㍉も乙女ゲーを知らないアタシが悪堕ち転生をしちゃったら? 作:ぴんぽんだっしゅ
ちょっと時間を戻してみよう、本に捕らえられる少し前に。
あ、どうも……っ!
ティルフローズです……!
苔と、カビ!の臭いにとっても辟易してぐったりな、ティルフローズです……いつまでも長い、どこまでも長ーい、階段を降りていくって作業に嫌気さしてますが、何か?な、ティルフローズです!
螺旋階段とかオワコン最悪!どーせ地下潜るなら、高速エレベーターかエスカレーター用意したらどうなのよ?
あれは原理は簡単だし、魔法がジュエルに納まるんだから、滑車とワイヤとそこそこ頑丈な居室があれば……えーとエスカレーターは、鉄の板が流れてきてるだけでしょ?再現できそ、いけるいける。へーきへーき。
そんな妄想しちゃうくらいにぷんすか、なティルフローズです!
ジュエルは、ジュエルといっても宝石とゆーまんまではやっぱりない、魔力を湛えることができるだけの器な役割を果たせる……俗にゆう、魔石の純度の高い結晶らしい。
不勉強でよく知らない時、ほら、あれよあれ。
オーウェンの名前も知らないでいきなり、あの化け物と人間のハーフみたいのが、目の前に現れた、と思ったら──リズの記憶や、体験が、アタシの中になんの断りもなく、押し込まれるみたいに流れ込んできたあの時は、この色鮮やかな宝石自体から、魔法を生んでる元だと思ってたくらいだったんだけど、知った今でもよく解んない存在ではある……。
まぁ、ジュエルについては。まだ解明されてないのかどーか、子供にいっても解んないかってことで嘗められてるのかってゆーこともありつつね、それは一度こっちに置いといて。
……今日は……図書授業という移動教室で、図書室から地下へ、ひたすら螺旋階段を、降りて……います。
ええ、ひたすらに!歩いてるわけです!
真っ暗な、石階段を!足元が不確かで、光源はライトの魔法しかない中を!
風が上から、下に向けてたまに吹いてくるとこをみると、高いとこに空気取りの穴でも空いているんじゃないかな……お陰で結構な地下でも、息が続いてるってわけで。空気が吸える。
なんやかやあって、それでも目的地にまで到着したんだけど。
──そこはひとめみただけだと、周りの見慣れた壁と特に何も違いの無いコンクリートの色した石壁。そう、行き止まりになってて、そこには何もないただの壁なんだ。ただ、周りと違う点がひとつ。
上下に、天井から床に向けて目印ってわけとでもいうのか、線が引いたように抉られているのは、どうやって目を凝らして見比べても、他の壁にそんな抉った後は見えてこない。
誰かが、手を加えたってことで。したら、ここにはその他の石壁に無い仕掛けか、仕組みが、あらかじめ用意されているってことになる。
「「………………」」
でも、ジュラルタン先生と、アーマリア先生とが共同で壁に向かって何か呟いているのに気づいて。ピンときた!
ああ、これは開けゴマ的なやつ!
RPGでもよくある、一見通れないけど実は、その奥に通じる道が繋がってるってゆー隠し通路や隠し部屋!
そう思った瞬間、それを肯定する光景が目の前を覆ったんだ。
青白い光源が壁から発して──
その、光源はばちばちと閃光を放ちながら──
なにやらアラビヤ文字か、象形文字みたいな複雑な紋様を──
さっきまで、何も。
何も無かった、目の前の平坦な壁に横書きで刻んでいき、あれよあれよと出来上がったのは悪魔でも呼び出せそうな、びっしりとしつこく書き込まれた魔方陣。
なんとなく数秒くらいの体感時間でQRコードのおっきなVer.みたいな魔方陣が目の前に現れたのよ。
──おおっ!開けゴマじゃなかったけど。
何かが、目の前で起こっている。
その事実に胸が躍る。
興奮してきた。
自然と口角が上がってにやけちゃう!
お決まりでベタすぎる展開だけど、こーゆーシチュエーションはわくわくするね。
中にはどんなお宝が……ってゲームなら思ってるとこだけど、今日ばかりは、中にあるものが何だかって知ってるしなぁ……、それでも。
言い様のない高揚感はおさえられないや、ダンジョンってゆーのは、コレ!があるから止められないとこあるんだと思うんだ、うん。
ダンジョンじゃない?いや……、充分ダンジョンしてると思うんだけど。
少しして、魔方陣から青白い光が収まると、それをキーにしてたのか魔法陣の円からぞわぞわと、刻まれた紋様が動き出して壁一杯広がっていった。
ある程度広がると、複雑なデザインの紋様がQRコードはそのままに観音開きの扉を形作り、さっきまで何も無い石壁だった場所に出来上がっていて、その壁がゴゴゴゴ!!と勝手に開いていく。
よく、よーく見ると上下の抉られてた縦線があったじゃない?あれを真ん中に扉が開いて行ったって気づいちゃった。
なるほー、あれはここに扉があるんだって印だったってワケ。
「この中に、本日の目指す目的の魔書は保管されています。さー、授業はこれからですよー」
扉が開くと、まずアーマリア先生が点呼をとって人数を確認する。クラスの何人か呼ばれた後で当然、同じようにそこにいるわけで、アタシも呼ばれたので返事をしといた。
そんな横で、あっちもジュラルタン先生が同じように人数を確認してた。
授業ひとつ始めるのに、ちょっと他では経験したことないくらいにだるくなって、二度と来たくなくなるくらいに精神も、体力も、疲れた移動教室だった。
まだ始まって無いんだけども。
しっかし、なんてゆーか。
無駄な時間を使ってると思う。効率悪くない?
こんなことになるなら、魔書の方を先生の内の誰かでもいいし、街の方で冒険者を雇ったっていいし、とにかく体力のありあまってる連中を使ってさ。
ここから移動させてもらって、図書室なり悪魔契約に使った、あのホールなんかで見せてくれた方がいいな、と思ってたり。
体力が子供には無茶なレベル。特にティルフローズなんて、木登りでひぃはぁな息切れが凄いことになるよーな、運動なんてほんとにまずしない。してこなかった。離宮じゃ、走り回ることも厳しく叱られる行為だったぽいんだよね。
こいつらも、同類か……。
周りを見たってそうだよ、ここに居るのは、貴族の子女なんだから。馬車馬みたいな体力も、精神力だって持ってないんだよ。
子供が潜るには、深すぎるんじゃないですかねぇ?
この地下の図書室への通路は。
扉の中は結構広かった。魔書を保管してるって聞いてここまで来たけど、どれが魔書なんだろ?
両端の岩肌に、通路を遮る丸くて太い石の柱に、くり貫いたように棚が作られてて、そこにはびっしりと本が詰められてる。
こんなに無造作に保管してるわきゃないよね?
そう思って、石の柱に作られた本棚をじぃーと見てる内に集中してたってゆーか、周りが見えてなかったよーで。
「ティルフローズさん、置いていきますよー?」
そんな、少し気の立った時のアーマリア先生の声で、はっとした。
思考の海から引き戻された。
声のした方に視線を向けると、皆ぞろぞろと奥の方まで進んでて、周りはいつの間にかアタシ一人ってことに。
まってよー!声には出さずにアーマリア先生の背を追って駆け出した。
追い付いてからは、アーマリア先生のお小言をBGMに、歩くこと一分くらい。
ぼんやり明るい光が近付いてきた。ま、この部屋の奥に向かって進んでるんだし、奥に光源があったってゆー感じかな。
「……ほー」
天井にびっしりと、この光りの元が貼り付いてた。それは光りゴケ。
RPGでこれもダンジョンにはありがちな、光るコケはLEDの光りには遠く及ばない、弱くぼんやりとした灯りをその空間に放っていた。
全体の足が止まった、とゆーことは、ここが、本日の目的地なんだと思う。
たりーのもやっと終わりかぁー……
そう思って、目線を進行方向の奥に集中。
するとやっぱり行き止まりになってて、そこには本のびっしりと詰まった本棚がずらっと天井から床を埋めて、並んでいるのが見えたんだ。
ぐるっと見回してたらそこは、それまでと余り変わらない岩肌と、石の本棚に囲まれた空間。
不思議だと感じたのは、柱の代わりに腰の高さくらいの石の机がひとつ、ふたつ、みっつ……合計、ななつ置かれていて、他とは明らかに違う本が一冊から二冊それぞれ別の机の上にある。
ごくり。
思わず、唾を飲み込む。
目線の先には13冊の本が。これ……全部、魔書ってやつ?
そう思うと急に緊張してきた。
この空間は行き止まりになってて、入ってきた辺り以外はびっしりと本が詰まった、ここに入ってからは見慣れた本棚の並ぶ壁になってる。
魔書が何を意味してる本なのか?それは解らないけど、どうして学園の遥か底、こんな地下に保管されてるのかってことに注意して、むむーと考えてみる。
なぁんか……ろくでもない事になりそうな気が、すんですけど……?
封印されてるってことですよねー?
「ティルフローズ……」
そんな時、呼ばれた気がして振り向くとそこにはアルトが。
普段ならキラキラを振り撒くような笑顔のとこを、前にアルトを棒切れで打ち負かした時にも……見せたことのない、そんな一段と暗いダークな雰囲気を纏ってて、見たことない沈んだ表情でこっちを見てるんだ。
何だ、オイ?
「あー、アルト。そんな顔してどしたのー?」
そんなアルトに少しでも合わせるなんて勿論、元から無く、軽いノリで至ってふつーに返す。
すると、まあ。こっちをみるアルトの瞳に光が戻ってきた感じがした。
これで少し、普段のアルトが戻ってきたかな?
二つの視線が重なると、アルトは口をぽかんと開いたまま、声を絞って押し出したみたいだった。
アルト、変な顔してるよ?
男前……とは、違うな。アルトの場合。
外国の綺麗な男児ってイメージ。
いやまあ、アタシの姿もどーみても日本人からは遠く離れた外見してるんだけどねー?
それを頭に置いてじっくりと見てみる。
アルトってやっぱ、ショタ好きする顔してるなぁー。
柔らかそうなほっぺ、小さな唇、顔から零れそうなくらいの瞳に、バサッとさ、生えてるの長いまつげが。
それでいて、顔全体が濃くなりすぎてない。
「え……?もしかして、ティルフローズは……耳にしてない?……ここの噂って、聞いたことなかったんだ?有名なんだけど、な……」
そこからは声が小さくなって独り言みたいに、『そうか……ティルフローズはサロンにも顔を出さないし、知らなくっても仕方無い……か』なんて呟くアルト。
噂……?トイレの花子さんみたいに、学校の七不思議みたいのがこの学園にもあるわけ?
ま、そうか。
そうっちゃそうなるよね。
目の前にはショタで、今はアタシはティルフローズってロリなんだから、七不思議くらいあるわなー、当たり前に学生してたらそーゆーのは。
「えーと、そんなのは……聞いたこと無いよ」
頭を左右に軽く振って答える。
頭の中で、口に出来ない記憶のあれやこれやを、引き出しから引っ張り出しては今のこの場面に当てはまるピースも出て来なくて、なんにも関係がなくて混乱を始めるアタシの脳内。
早い話が、思考がちょっとだけね、パニックしはじめてる。
きっと今、目の前のアルトはアタシの困った顔を見てるんだろーな。
うんざりな顔してるかもしんないけど、さ。
「じゃあ、さ。……どうしてこんな地下にあると思う?
ティルフローズは、不思議に思わなかった?
……大事に保管するってだけだったら、魔法で鍵を掛けておけば金庫でも、図書室の飾りケースの中でもいいはず、だよ」
そんなアルトも、思い行き詰まった顔してる。
きゅっと結んだ唇がふるふる揺れて、ほそまった瞳が憂いを帯びてて。
そんなアルトを見てると、余計に心配させるには、アタシの心を揺さぶるには充分すぎた。
自称するほど極まったショタコンってのじゃないけど、困り顔の小学生男児ってこう……助けてあげたくなりません?
生まれ持った、母性ってやつがじゅわーっと湧き出すってゆーか……くすぐられるってゆーか、ねぇ?
「……ああ、あの額みたいのに入ってる本みたいにってこと?」
ヨダレが出てないか気になって思わず、口許を手でごしぐし拭ってしまうアタシ。
一度そうやって気にしはじめると、性的にアルトを見てしまう。どうしても。悶々してきてしまう。
性知識をもったまま、若返ってるよーなもので、それはつまり。
汚れてるアタシが、まっさらなティルフローズに入ってるわけで何かそれって変なカンジ。
ああ、でも……アルトじゃなくちゃダメってものでもないから──
これは、恋じゃないー。って、ハッキリ!と。
意識しちゃえるアタシの役に立たない精神面が好みじゃない!と断言してくる。
──それはどーでもいいね、がんぷくがんぷく……とまでは行かないけど、キラキラを振り撒く美少年なアルトの、普段見せないこんなレアな姿を見せられちゃうと──
忘れていた何かを呼び起こす、鍵がガチャリっ!
そんな鍵エフェクトを伴ったフラグめいたイメージも浮かんできて、心を揺らすもんだから動揺してしまう。
それは個人の病……でもない、変た……でもない、問題だからいいとして──学園の図書室に限らず、レア物を飾るのに一目見てショーケースみたいだなって思えるもこっと盛り上がった額にいれて、壁に飾られてるとこをあちこちで見た。
あれ?それってガラスを壊せばとれちゃうんじゃないか?
そう思うの普通だよね?
心配しないで。これ、ガラス製じゃないんだ。
このショーケースみたいな額、なんとそこそこ強い魔物の瞳なんだって!
だから、頑丈さは折り紙つきで簡単にそう壊せるものでもないんだよねー。
っても、どれくらいの強度あるかはアタシは知んないし、リズの記憶にも無い。
この、魔物の瞳の外側をくり貫いてショーケースにしてるって代物、結構な値段はするみたい。
でも、ガラスより頑丈で中の物もクリアに見やすいしってことでわりと一般的。
「だろ?ちょっと考えれば、普通なら、簡単に目にできる本なら。
……それでいいはずじゃないか?
何も……こんなとこにわざわざ、さ。本を見に来なくても、いいはずだと思うんだ」
「相当にまずいもの、ってわけ?ここにある本は、その……魔書ってゆーのは」
アルトと、魔書についてボソボソやり取りをしてる、そんな時だった。
やっぱりってゆーか、ろくでもない事になりそうな気がするっ、て女の勘は見事にクリーンヒットしちゃった。
3Dメガネで世界を視てるみたいに、世界がゆっくり線が現れてく。
視界がぶれるとゆーか。
まず、こんなこと──自然には起こらない。
「どーしたんですかっ?今のは何っ?」
「あ、ああ。ティルフローズさん。これを見て……」
アルトとの話は中断することにしたアタシは、取り合えず情報をつかもうと、この空間唯一の数少ない大人──アーマリア先生と合流しなきゃって、集団に駆け寄る。
「何も、書いてない……?」
すると、そこにアーマリア先生は居た。
まぁ先までアルトと居た場所から数メートルくらい離れただけのとこに机は並んでいたんだから、皆はこの魔書を手に取って読んでいたみたい。
「そう、ほんの少し前まではちゃんと本だったんですよー。これは」
手にした装飾の一切無い革製の表紙の分厚い本は、ペラペラと捲ってみるけど何にも書かれてないんだ。
……変なカンジ。
アーマリア先生は手の中の本を捲りながら、確かにさっきまで本でした、文字が書かれていたって言った。つまり、本が本じゃなくなるよーな事にアタシたちは巻き込まれたってワケだ。
「ってことは何か起こってるんですね?」
何かは解らない。でも、それはすぐそばで発動して、手の中の本を作り替えてしまったってことなんだ。
「噂の通り、本に飲み込まれてしまった。これが、そうなのかも知れませんねー。でも、そう心配しないで?
飲み込まれたと言っても、前まではちゃんと帰れてるってことなので……」
「前までは?
……ちゃんと?
また、噂……。そんな本にどーしてアタシたちは、苦労して、こんな地下まで見に来ないとダメなことがあったってゆーんですか!」
アルトの言ってたやつか!
「免疫、でしょうか。先生だって、わたしだって。……こんな事に巻き込まれるって、解ってれば!皆を連れてきたりはしません!」
──何、図書室の半分くらいが取り込まれた感じなのか……。
あの後、名前の知らないクラスメートの少女がアーマリア先生に大量の涙で顔をべちょべちょにさせてて、泣きながら抱きついて『バグラートくんが、バグラートくんが!』と……ゆーわけで、からくりを発動させた厄介な人物が特定できた。
これってあれですかー?犯人を発見してみたら、よく知ってるやつだった。みたいな……?
目の前にはぶっ倒れてて、ゆさゆさ揺さぶられてるのに目を開けないバグラート。
クラスメートの指差す方向に足を運んだらば、大の字に寝転がってるバグラートを発見したってワケなのよ。
じゃあ、お約束なら……。
魔書を倒すまでは外に出られない、と。
そして、うかうかしてるとアタシたちも本のページ数の一部に取り込まれちゃうってとこかしら?
ゲームなら、そんなろくでもないフラグがたったとこだったんだろーけど。