もし1㍉も乙女ゲーを知らないアタシが悪堕ち転生をしちゃったら? 作:ぴんぽんだっしゅ
あ、いや。なんかそれ───き、聞いたことある。確か、童話だったかな……。
ミュンテゲンの不死姫。幼く死んだ体の弱かった姫。王の命を受けて周囲の人々が蘇らせようとする……。
苦労してたどり着いた森の魔術師の奇跡の果てに姫はこの世に再び還ってきた。たしかそんな話。だった……よね?
『ふふふ……ミュンテゲンの不死姫かな。美談になってるんだね、姫が死んだ。のは、真実だけど他はずいぶんと酷い。──還ってきた姫がどうなったか?続きはなぜ綺麗さっぱり消えてるのかな。それを語らないってことは、まるごと嘘っぱちになるかな』
そうだよね、え?
アタシ、……悪いことなんか言った、かな?
心無しか、そう言ったグリムの声に怒気がこもったような気がして嫌な汗が出てきた。
続きがある?
内容も嘘っぱちだ?
まあ、童話って(こーゆー)のは美談にするために盛るのが普通だし。
『違う。改変の悪意を感じてるかな』
違う?
まるっきり違ってんの?
グリムは少し黙って、諦めとも後悔ともつかない溜め息を吐いてから、グリムの知っている真実を見せてきた。
それは、さっきも見せられた早回しの記憶。そんな記憶の断片が一部分だけ切り取るようにある場面に来てぴたり。と、止まる。そして、動き出す。
こ、これ!
さっきも見た、戦争?のシーンだ。
視界いっぱいに火が上がって煙が充満してる。
周りは光源が炎くらいしかなくて、暗い。
その暗い視界の奥の正面から何かが近づいてくる。ずるっ、ずるっ。
何か服が擦れるような音が反響して響く。
すぐに音の正体が判明した。
青地の高そうなパーティードレスを身に纏う姿。
一目で高貴な人種だと気付く。
その手を見て思う、これがあの音の正体!まるでぬいぐるみでも握っているように人の足を握ってて、その先にあるべき胴体は察してほしい。ずるずる響くのわかるわーこれは!
えっとえっと。でもさ……いや、もう、お姫様どうみたって……死んでるんですけどー?これ。
ドレスの袖から見える肌は、灰色とゆーか土気色。さっきからどうにも一向に感じさせない生気。
『それが本当のメーネ。びっくりした?』
ミュンテゲン王の娘、メーネは還ってきたけど。
だけども、中身がメーネじゃなかった?
これじゃゾンビだよ……んー、違うか。正確に言うとアンデット。
そうなると、なるほど。
へぇえー、アンデットだからか。不死姫なんて呼ばれるのは。
『それも、違う。本当のメーネには間違いがないかな。だけど、メーネに還ってきたモノは間違いだったかな。優しさの固まりみたいなメーネがこんな真似を!するはずがないかな』
何、それ……。
別のモノつまり、別の魂がはいった?
反魂……魂を呼び戻して、死ぬ前の姿に戻して生き返らせるには成功したけど、姫じゃなかったってこと?
あ───またシーンが変わった。
視界の中心にはあのドレスをドス黒く返り血に染めた姿のお姫様、メーネ。
青黒い空を、めちゃめちゃになった花園を背にしたメーネのその周りに倒れてるのは。おやぁ……これ全部。ヒト?
それは人間だった何か。
叩き潰されたのか、何かに擦り付けられたのか。
服や鎧兜から露出したパーツがぐちゃぐちゃ。えっぐいな!
ダンプに轢かれたってもう少しましな状態で見つかると思うんです。これは、事件です。
グロい。
十人かそれよりもっとの数、メーネの前後左右に人間の形を留めてない肉固まりが転がっていた。これは少し見ただけでお腹イッパイ。もう勘弁して頂きたい。お化けも嫌だけど、こっちも好きか嫌いかって聞かれたら……後者って答える、好きにはなれるわけない。嫌だわ。ちょっとしたスプラッタかな?
アタシが見せられたこれって、記憶かと思ったけどもしかして映画かなー……なんちって。
て、わけで映画の可能性が微レ存。
無くはないでしょー……やだなー、こんな派手な演出で盛って見せることないのにー。そんなことしたら信頼に傷がつくよー?これから見るもの全部を信じられないことになるんだからねー?これだから、魔法がつかえる国の人はそこが解ってない!アタシ、魔法には慣れてないんだからー!
魔法がある、つまり幻覚を相手に見せることだって出来るじゃない?幻覚って、作りものだし、映画みたいなものってことになんないかな?
そうなら、もしそうだとしたら愚にもつかないコントってことで、笑える。笑って御仕舞いってことに出きる。
て、わけでして。それをグリムに望んでも。いいですか?
『くふふふ。……スプラッタ?も映画も演出も、かな。ひとつも解らないけどこれは、まごうことない記憶。キミが信じれなくても構わない。だって見たまま全て、いままで全部がそのまま僕の持った真実の記憶かな』
──ですよねー、そうは行かないよねー?
そこでそれまでの抑揚のない口調からがらりと変わった、真剣なグリムの茶々が入ってシーンが切り替わる。
『コント?映画?知らない言葉。幻覚なんかじゃない、絶対に。これが真実だけど、伝えられてないミュンテゲンのその後かな』
次のシーンは夜景を背に視界の奥、大きな門の前でメーネが空に向かって叫んでいた。
切り替わると、元のように抑揚のないグリムに戻ってて、記憶を嘘じゃないのって言われたことに何よりイラっとしてるのが伝わってきた。
だから、なんちゃってーって、てね?つけ加えたのに……。
これはブーイングものだよ。あのね?もう!グリムを別に信じてなくてあんなこと言った(思った)わけじゃーないんだよ?つーても機嫌がそれで悪くなるってわけでもなさそーだし、アタシも悪かったってことでこれは水に流そ?ね?
それで、いいよね!!
相変わらず、目の前で繰り広げられてるグリムの記憶からは声はちっとも伝わってこないけど、その切り取られたシーンひとつで伝わってくるものもあった。
──何あれ?全部、燃えてる?
メーネの向こう、夜景のように見えるそれは──メラメラ、ゴウゴウと聞こえてきてもおかしくないくらいに燃え立つ業火に焼かれて赤く染め上がった街。
崩れた城壁と夜にも開かれた門。
そんな心もとなくなった城壁のすぐ後ろにも、人気の無い門のとこにも炎が上がっていた。
もう助からないんだろうな、と思わせられるほど炎が勢いを増して、背景の街だったもの全体を炎が赤とオレンジ、それに視界の上の方は空が黒と青のコントラストのようになってて。炎が視界のほとんどを支配するように燃え広がって、更に大きく赤い舌を天に向けて伸ばしている。
そもそも、今のこのメーネの容姿も違う。今は角度が違ってて正面からは見えてないけど……さっきはエメラルド色した瞳には光が射し込まず、ハイライトも無かった。
でも、今は斜めに立って足を開き、斜に構えて空に咆哮するメーネの姿からは生気は変わらず感じられないけど……燃えるように紅いルビーの色を湛えた瞳は、そのものの瞳が正にルビーのように煌めいていたんだ。その瞳から感じるのは、本来のルビーのもつ宝石として綺麗な煌めきとはほど遠いような、思わず息を飲むような恐ろしいもの。
なんていっていいかわかんないけど、赤外線のレーザー光線みたいに覗き見るものの瞳に刺さるようで──恐怖だって感じさせる。
『あの貌(かお)を見て欲しいかな。メーネの顔をしていないあの顔を。違う、違ったんだ。間違っていたんだ、メーネは還ってきては居なかった。恐怖を感じただろう?それは正しい。神か悪魔、邪悪な何かだったかな』
わぁ……悪魔か、邪悪ななにかがはいったって、それ酷いわね。
この、言い様のない恐怖からの震えの説明もつくような気もしてる。うん、なんかぷるぷるぴくぴく震えが止まんないんだ。
まあ、……いいわ。続き聞くわよ──それで?
『これでキミに見せるものは終わりかな……受け入れられるものに伝えた。それで僕は満足、かな』
終わりを伝えてきたグリムの声と同時に、目の前で繰り広げられていた動画のような記憶の映像がフェイドアウトしてゆく。
全ての色が、点ぐらいに小さくなって、黒一色に染め上げられた背景の中を左右に線のように細くなり、やがて消えてった。
水の中を泳いでいて水中から上がってくるあの感覚に似た現象。
感覚が戻ってくるみたいに、映像が終わるとそれまで気にもしてなかったクラスメートの声が聞こえてきたのを切っ掛けに。『還ってきた』って気分がした。「──ぅ、うわっ!」……あれから結構時間経ってるのかな?どれくらいの時間が経ったんだろう?えーと……て、時計もそんなに小さくないから持ってこれないから、正確な時間が解んないじゃない!はー、ほんと不便なのどーにかなんないかな?携帯があれば、時間が解んないなんてことも無いし、モリングさんにでも誰でもいいけど……うぐぅ。何言っても、今は無い物ねだり。それこそ時間の無駄なのよ……もう!
還ってきた。って実感させてくれたのは記憶を覗き見ていた時は何故かしっかりと立っていたのが、元通り体育座りで腕ホールドのままだった事と、グリムじゃない声がしてるから。直接聞こえる声じゃなくちゃんと空気を通して耳に届く声。
足をホールドしている腕をほどいてあちこち触ってまず確認。うん、アタシだ。これはティルフローズの体。あの感覚はない。
記憶の中で探検してたあの間はなんか浮遊体験してるみたいで、体を無くして魂だけでふわふわ浮いてるみたいな感覚だったんだけど。
ああ、幽霊になったらあれと似た感覚なのかなーって思ったくらいにふわふわでアタシがアタシを頼りなく感じてしまうような……そんなことを思いながら、見事生還出来たことを喜んでる間もクラスメートに話かけられてる。
それは、大丈夫?という心配してくれるクラスメートの声だったんだ。