もし1㍉も乙女ゲーを知らないアタシが悪堕ち転生をしちゃったら?   作:ぴんぽんだっしゅ

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運命の選択を。

あれから、目醒めてから───二日が経った。

あいも変わらず、都には帰れていない。

 

つまり、離宮にも帰れてはいなかった。

 

 

 

 

 

ここを一歩も出ていないのに帰れるはずもなく、きっと道は続いている、という安易に歩き出すこともしなかった。

 

アタシ的には道というのはずっとどこまでも、どこにでも続いている、それが世間一般の、そう常識だ。

だけど、そうじゃないと思ってしまう感情も混ざる。

 

リズの記憶をかいま見れば、道は続いている?そんなはずないですよね、と自問自答する。

 

そもそも、日本が恵まれているから道はどこにでも繋がっているんだ、と改めて悟った。悟ってしまった。

 

道を作る為には、荒れ地をどうにかしないとダメ。

どこにでも、どこまでも続く道を作るなら森が邪魔になる。

荒れ地は敷接すれば道のようにはなる、だけど森は生え茂った樹や植物を排除しないと道は作れない、つまり、森を切り開いて空間を作らないと道とは言えないんだ。

 

森を切り開く、大して広い森じゃなくてもそれは───死に繋がる行為と直接結び付いている。

 

それは、この世界のどこにだってモンスターは居て、魔王だっている……らしい。

 

小さな森だって、そこにはモンスターが住み着いていないとは言えない危険があるんだ。

だから、森は切り開かれずにそのままの姿を残している。

 

アタシの知っている風景には、灰色のコンクリートしか無い、どっちが幸せかとかそんなのは解らないけど……。

 

魔王。

今は行動に移してはこないだけでこの世界のもう一つの支配者は魔王その人なのだ、と記憶のデータベースから知った。

そして、魔王は共存は望んではいない、……らしいということも。

そもそも人間は魔王を気に入らないし、魔王だって人間に嫌われているとはっきりしているんだから、気に入らないことだろう……。

 

一連の全部が全部、リズの記憶の中にあったことだから、怪しくはないか?とも思う。

おいおい、これ……童話か伝説とか神話とかそんなレベルの話じゃないか、そういう風に穿って思えた。

 

だって、リズは───小さく、はっきりとしない性格の、どこにでも居そうな……ただ、一つ違うとしたら……。

 

一般人じゃないカテゴリに入る、絶対的君主の血筋───お姫様。つまり、この国の、ヴェロゼヴァン帝国・皇帝ヴェロヴェス五世の14番目の娘、ティルフローズ・ルヴェ=ゾ・マリュー・ヴェロゼヴァン、11歳。

 

 

もとい、……ティルフローズ・ルヴェ=ゾ・ディボタルタ、11歳。今は、そう言うことになってるとはいえ生粋の王族で王女で、この帝国で最も権力を持った王家の人間。

偏った教育を受けている、そんな可能性は無いかと疑ってしまうアタシが居る。

 

 

 

 

「今日は別の用事だ。昨日や、一昨日のような無茶はさせない。……また、だんまりか?」

 

おっ……といけないいけない。

起きてすぐ、キモデブオーウェンの側近の、仮面のどちらかに連れ出されて……食事の最中だった。

 

ついつい、オーウェンのゴミ顔を見てると殺意よりも先に現実逃避してしまう。

まるで、そんなスイッチがアタシが、ティルフローズに付いているみたいに。

 

そう言えば……このゲームの真っ当な主役って誰だったっけ?

 

ま、いいや。

それはきっと、アタシじゃないだろうし───

 

「うるっせ、このハゲ!デブ!ゴミ!──ぺッ!!」

 

貴族の朝食というのはこんなものなんだろうか、アタシの左側にはオーウェン、右肩にはずらりと空席が続く。

 

勿論、対面にはだれも居ない。

大きな長いテーブルの端の椅子にオーウェンが座り、その次に椅子が置かれた左隅にアタシが座る。

バランスが悪くて、酷く殺風景。

こんなもん、なんだろうか。

 

パッと見でも10脚以上余っているのに、ゼリエやジルリットの姿をここに今、見つけられなかった。

二人だけの空間。

新婚の二人。

 

とても、むず痒くて甘酸っぱそうなイメージが浮かんで頭を過る、そうだ……でも忘れちゃダメだよ。

今のところ、アタシの新婚の、旦那様は瞳の左隅に映る───オーウェン。このウシガエルを人にしたみたいなキモ男が。

 

汗が自然と、出てくる。

 

見つめられるだけで全身が戦慄(わなな)く、このオーウェンこそがアタシが愛を共に育む旦那さまだとっどうしても認めたくなくて、生理的に受け付けなくて、本能からノー!と叫んでいる。

 

そんななのに、どうやって暮らしていけるってのよ────話しかけられて、差し伸ばされた右の手のひらに自然と唾を吐き出して、オーウェンを拒否した。

触れられることを、許せなかった。

 

「──レロッ……………………ふん、何かご褒美でも戴ける事を俺はしたかな。まあいい、ソファに座って話をしよう。……おや、命令が無いとティルフローズ様は動けませんかな?」

 

それだけの事だったのに。

このオーウェンというゴミ、ハゲ、デブ、とちくるっていた。

吐き出した唾。

 

オーウェンの右の手のひらに吐き出されたアタシの唾をまるで何よりも甘い、デザートか何かのように舐め、舌の上で味わうように転がす、のち、飲み込んでまた同じように繰り返した。

 

そして、名残惜しそうにレロレロとほんとのウシガエルのように大きな舌を伸ばして舐めとる。気色悪い笑みを浮かべながら、最後の一滴まで残らず。

 

それが終ると、五本の指をピチャピチャと唇も使って水音が響くくらい舐め出す。

 

絶句した。

言葉を失った、息をするのも忘れてそれを見ていた。

 

気付くと吐き出していた、その後も味が解らなかった……。

きっと、美味しい朝食だったはずなのに、ムカつく!

なんてもん見せてくれてんだ!

 

「昨日も夜遅くまで付き合わせた癖に。……アタシを寝かせないのか?」

 

ダンっとテーブルを両手で叩いてオーウェンを睨み付けた。

 

「今───質問をしているのは誰だ?」

 

反抗的なアタシの瞳。

に、対してその目線を捉えたオーウェンが厳しい目付きに変わる。

垂れた情けなく下に流れた金色の瞳が細く、鋭く。引き絞られる。

情けなく見える、キモ男の狂気さを撒き散らした雰囲気ががらりと変わって捕食者の放つ、絶対有力者であり強者の風格を纏っていた。

 

「アタシだ!」

 

「俺だ。耳がいらんのか?ゼリエ、で……」

 

「よ、呼ぶな!座り、す、座りますっ……」

 

ゼリエ。

その名が出ただけで血の気がひいていく音が聞こえた気がした。

 

大人しく部屋を移動する。

オーウェンなんて何も怖くは無いんだ……その傍にいるゼリエこそが恐怖の対象。

 

仮面のその奥の瞳の輝きを思い出して、それだけで全身が凍りつくぐらいには細部に至るまで染み着いていた、ゼリエという仮面の女から感じている恐怖が。

 

こいつ、絶対コロす!

 

その一方で明確なゼリエに対する殺意の炎がアタシの中で燻(くすぶ)り出してもいた。

それは、クラスの虐めっ子に抱くような……心から呪う暗い気持ち。

こいつ、絶対に死んで欲しい!

 

今は声には出せない気持ち。

これは……とんでもないストレスになった。

 

「ゼリエの事は気に入ったようだな。体が覚えるくらいなんだからな、ク、ハハハハ」

 

「だ、誰が!」

 

部屋を移して、二人掛けのソファーが二つと三人掛けの同じタイプのソファーが同じように二つ置かれたリビングのような部屋に入る。

三人掛けのソファーの隅に腰を下ろした。

 

からかうな!

本気で、ゼリエに恐怖を感じているんだよ。

恥ずかしい、情けないけど……もう刷り込まれた。

 

「姫様の御前で俺が御座に座る訳にはいかんからなぁ、……屈む許可を戴いても?」

 

全体的に垂れた、下に流れたようなカエル顔のオーウェンが目を細め鋭くなる、ここ何回かこの表情をする時、決まってオーウェンは真面目な話をするときだった。

 

そう言えば、ダイニングでソファーに座ろうと勧めてきたのはオーウェンからだったのに、座らずにプラプラと所在なく部屋の中を歩いていたのは話を始めるタイミングでも探してたのかも知れない。

 

「は?椅子あんじゃん」

 

「俺がそうしたいからだ、許可を貰いたいと申しておるだろ。許可すると言え」

 

「きょ……?許可……?」

 

「有り難きお言葉。このオーウェン、臥して語りましょう」

 

周りに誰も使っていないソファーは沢山ある。

アタシが腰を下ろしたソファー以外全部誰も座っていないんだからさ。

 

それでもオーウェンはアタシに許可を求める。

まるで、絶対譲れない儀式かなにかでも始まるような息苦しい空気が漂い始めている。

 

許可をと、言うオーウェンに早く終わらせてよという思いで。

さっさと座れよ、もう!

と、許可を出した。

 

すると、アタシの前にザザッと進み出たオーウェンは一度、目線を探すようにアタシの方を向いてからおもむろにその場にしゃがみこんだ。

 

片足を後ろに伸ばして片膝立ちで低身になると、身に付けていたマントを翻し、目線を下に張り付けてから話始めた。

「まずは、……ヴェロヴェス1世の折、王弟ヴェサテーが領国を許されアンダルネ公爵として──」

 

長そうな話が始まった。

歴史の時間だ。

 

「──が、我が家の歴史と言う所だ。まぁ、近くない親戚と言った方が分かりやすいか」

 

遠い親戚だったのか、どうりで……いや、いやいや……どこも似てないじゃないの!

 

皇帝は明るいブラウンの髪をしてたけど、オーウェンは……そうだ……今までどうして不思議ともおもわなかったんだろね?

オーウェン、ハゲてないとこも白髪なんだよー。

 

ダサっ、若白髪かよー、どんだけ苦労してきたらこんなに白髪に何だよー。

フィリアの銀髪に比べても格段に濃い、ミルク色をした毛髪してるんだもんなー。

 

「で、……それを聞かせてどうしようっての。眠いっつてるでしょ」

 

「はっはっは!……では、コホンッ!本題に入ると致しましょう」

 

眠気覚ましにもならないつまらない話が続く、歴史は博物館とかでおさらいすればいいんだぉ……ふにゃ……あ?

 

今、何て言ってた?

 

戦争……?

 

「要は、何?……そんな事をアタシに言ったとこで、どうぞお好きにって言ったら……?」

 

「ふぅむ、ティルフローズ殿下の御進達として、帝国は2つに割れ、苛烈な群雄割拠な様相となりますか」

 

「え?」

 

凄く大事そうな話を、リビングのソファーの上で眠気と戦いながら聞かされるとかどんなんだ、それはっ!

 

聞いてないよ。

これって──クーデター?

 

「側室のヴィリローヴェはいかんからなぁ。俺はアンダルネを改易された事に怒っているんじゃないぞ?ヴィリローヴェが皇帝を凌駕する強権を奮っている今を嘆いているのだ」

 

「いや、……どっちにしろ、逆恨みだろ?」

 

側室派、ヴィリローヴェと正室派との間で、もうそこまで一触即発な問題に膨れ上がってるなんて……いや、良くよく思い出すと……オーウェンが直接被害を受けてるのは解るけど、ティルフローズたち姉妹が梯子外されたみたいに遠方に送られた以外、ヴィリローヴェって側室も悪くなさそーなんだが?

権利、だっけ。

王様が飾りっぽくなって側室の声にはもの凄く力があるってのもなんとなく解った。

 

それだけで、クーデターとか……それは戦争がよっぽど好きなんだなとしか、アタシは───思えないんだよねぇ?

 

あ、ド田舎住みに変えられちゃったのが我慢しきれなかったってのもあるかぁ?

 

「長話になったな。殿下のお耳にいれなければならないと思ったので」

 

「……嫁いだ時点で、殿下もクソも無い……ンじゃね?」

 

「ふふ、辛うじて国内に姫様は3人残せた。まずはそれで良いと言う事です。継承権無くとも、殿下のお声1つで動く戦もあると言う事」

 

「戦争……昨日とだいぶキャラ違くないか?」

 

結局、血を流したいだけなんじゃんか。

 

継承権、ねぇ?

正室に男子はいないから側室に移ってるんじゃないんですかー。

だから、リズの姉ちゃんズだってあっさり辺境行きを頷く以外無かったんだろーなって気がしてくる。

 

「個人としては、籠って姫様を愛でていたいのですがね」

 

「あ。やっぱり、クズはクズかー」

 

ブレねぇな、歪みねえよ、オーウェンお前は。

ぴくんと眉が跳ねた。

大分視界が狭くなってて急いで直す。

 

眠いのに、眠気ざましにならない血生臭い話が続けて聞かせられるんだから、堪ったもんじゃあないのよ。

 

「平和を愛しているのです、しかし──名誉を踏み付け、蔑ろにされては腹も立ちましょう」

 

どの口が言う、どの口が!

頭を過ったあれそれを反論する元気もない、朝方までオーウェンをどついてたからだぞ?

 

「あ。俺では無くてね、一般論です、悪魔で」

 

「それを聞かせて、……子供でしかないアタシに言ったとこで、……。ちんぷんかんぷんだと……思わないか?」

 

自称、平和愛好者に一般論を語られた。

それってね、ティルフローズの意見を求めてるようで一般論だからって押しきるつもりなんでしょう?

こんな時こそ、子供である小さき者であることを最大限に利用するべきでしょうよ。

 

「異な事を仰る。反論していると言う事、それ自体がご理解されている、そうはなりませんかな」

 

「……───」

 

声を思わず失ってしまう。

なんだ?解らなかった、突然落とし穴に嵌まった気分。

 

ティルフローズは、小さいんだ、知ってるはずないだろー。

アタシが、反論したことで『知っていない』が『実は知っている』に変換されたのか?

 

「沈黙は肯定と言いますが、いやいやなかなか……能無しではない」

 

「くっ、クズがっ!」

 

嵌められた?良いように掌の上で泳がされていた!

 

黙る事も、反論も出来ずに力一杯にもたれていたソファーの肘置きを叩き付ける。

 

「怒ってらっしゃる。この場合の怒りも、肯定と出来ますな」

 

「ふ、ふざっ──」

 

「ク、ククク……そこでですな。姫様には知恵を蓄えて戴かないといけないと、そう思いましてな。入れ!」

 

この───一連のやり取りがアタシを試しているだけだったことに今さら気付く、うまく踊らされちまったっての?そうだ、疑いようがない。

 

もっと、深く頭の中で考えなきゃダメだったんだ。

真剣に、慎重に。

でもそんなの無理だった。

 

元々、……その為に寝かさなかったの?

オーウェン、油断できない……。

思考を鈍らせる為に、睡眠不足になるように仕向けてたんだ!

 

「こいつは、昨日も会ったな?名を名乗ってよい、許す」

 

オーウェンに呼び込まれて姿を見せたのは、仮面の女だった。

上は相変わらずボタンダウンのシャツ、下はカーキの丈の短いスカート。

足元はヒール付きのパンプス?

 

「ジルリットと申します。大変大儀なのですが姫様の教育係を申し付けられております、以後よろしくお願いいたします」

 

ジルリットは御辞儀をきちんとして名のり……この、名乗りにどれだけの意味があるってんだよ?

貴族にとっては大事なことだったりすんだろーなー。

 

だけど、それはリズにはわからない。

なぜならリズは貴族じゃあなかったから、貴族から礼を尽くされる側の人間だったんだから、知らなくても当然。

 

「なりはいい女だが、中身も充分研ぎ込まれておる。ティルフローズ、……励め」

 

「……よ、よろしく」

 

オーウェンに促されて、ジルリットと挨拶をした。

教育係、ね?……リズは一応は離宮で常識程度の教育はやってきてんですけど!

 

更に、何を教えてくれるってゆーんですー?

 

 

 

 

 

 

 

「飲み込みは良いです。次は──」

 

教育係になったジルリットとアタシことティルフローズは、ノートを広げて勉強ちう。

 

あのあと、ティルフローズに与えられた部屋へ移動して、お勉強の時間が始まった。

 

「あ、あの。……どういうご関係で……?」

 

横で、時には背中から手を伸ばしてくる仮面の女のことが気になって気になって、止めておけなくなった好奇心から聞いてしまった。

 

「んえっ?解りませんか」

 

ジルリットはどうしてそんなことを聞かれたのか解らないといった様に鼻にかかった上ずった声をあげて、アタシの顔の真横に顔を寄せてきた。

 

「金で雇われ……」

 

ピチャッと音がしそうな粘着質を孕んだ視線が真横から痛いほど刺さってくる。

 

ジルリットも、ゼリエとは違った怖さがある。

 

仮面に隔てられた表情を見ることが出来ないから、生まれでる恐怖だったかも知れない。

 

「いいえ。ふぅー、……わたしの知識はご主人様よりのもの。奴隷ですよ」

 

「アタシの知ってる奴隷と、違うなーって」

 

「奴隷が、……知識を持っているのがいけませんか?ティルフローズ様はそう、お考えになりますか?」

 

ジルリットとアタシはお互いの視線をバチバチと火花散らしながら話す。

 

オーウェンが言う奴隷とはジルリットのことだったんだな、とか。

 

「そっちじゃなくて、こう……物腰が柔らかいってゆーか、気品溢れるってゆーか」

 

ジルリットの所作だったり、纏っている雰囲気はアタシの思う所の奴隷のそれとは大きく違ってたんだ。

 

「あなたくらいの歳には、ご主人様の奴隷でしたので、じっくり躾て戴いたのです。なんら不思議はありませんでしょ?」

 

「じゃぁ、オーウェンをジルリットさんが蹴っ飛ばしたり……」

 

なるほど、貴族のオーウェンが納得の行くだけの知識をジルリットは教え込まれてるんだ、それってきっと。

リズが持ってる知識よりずっとレベルの高いものなんだろーな。

 

「あり得ません」

 

あれだけ、蹴ってくれってアタシには頼み込んでくるオーウェンが、だよ?

 

「望んでも?」

 

おかしくないか?

ジルリットなら望めばすぐに蹴ってくれる、そうでしょーよ。

 

「やれと言われれば、……ですが。そのような事はありません」

 

ジルリットのこと、なんだと思ってて更にアタシのこと、どうしようと思ってんのよ?

オーウェンのやつ!

 

「アタシには、ゴミでカスでしか無いんだけど」

 

「ふっ…………」

 

ああ、今ですね。ジルリットさんが殺し兼ねないおぞましい殺気を放って、仮面の奥から瞳を光らせて睨みつけてくるんですが……。

 

「す、すすごぉく怖いんでやめて欲しいなぁ。顔もホラ、こんなに近いし」

 

「……まぁ良いです、いえ、良くは無いのですが」

 

何かジルリットの気に障るようなことを口ばしらないように、それからはしばらく無心でノートに向かった。

 

トラウマになっちまうって、アレは。

PTSDだよ、PTSD!

夢にも見そうなんだよなー。

 

「そろそろ明日にしましょう」

 

「あ。うん、おやすみなさい」

 

夕食の時間が迫っていた、気付けばこんな時間だ。

この世界───セレウェは時間の概念がすでにある、現代の日本のように小型化を成功させた時計って無かったけど、大きな柱時計なら存在するみたい。

 

ボーン、ボーン!と数回時計が内蔵された鐘を叩く。

外も薄暗くなってきたし、お腹もくぅぅと音を立てる。

 

その日は夕食を食べて部屋に帰ると、泥になったようにただずっと朝起こされるまで何も考えずに寝た。

 

 

 

 

「良い頃かと思ってな」

 

「なぁ、朝一で話さなきゃなんねー……話さなきゃいけない事で?」

 

次の日の朝、ダイニングに連れて行かれずにリビングに引き入れられた。

纏っている雰囲気からジルリットなんだと思う。

 

リビングの扉をくぐるとすぐ、オーウェンの憎たらしいゴミ箱みたいな顔があった。

にまにまと笑ってて、ぞくりと震える。

嫌い、嫌い過ぎるんだ。

DNAに刻まれてるレベルで。

 

「ジルリット、どう思う、な?」

ソファーに座りな、と手でジェスチャーしてくるオーウェンにアタシはふてぶてしく睨み返して突っ立っているとジルリットに両肩を掴まれてひょいっとソファーに座らさせられる。

強制ですか……、そうですか。

 

「甘ったれ、……ですが。飲み込みは良いです。気を引き締めさせればボロも出ないと思います」

 

「そう、か。……よう、ティルフローズ。今日は姫様として扱うわけじゃあないからテキトに喋る。でな、都に帰りたいか?」

 

ジルリットからそれでも高評価を貰ってたらしいアタシは、オーウェンの口からでた、『都に帰る』というフレーズに瞳を輝かせた。

これ以上ないくらいに目を開いて大きな水色の粒が零れてしまいそうになってたって事もあるかも知れないのだ。

 

それはそれは、大ニュースだったんだから。

 

「ん、その顔だと、帰りたいか。……さて、じゃぁ聞くが……都で学校に通うか、残ってジルリットと勉強するか、選ぶんだ。いいか?ティルフローズ」

 

 

 

アタシの答えは、そんな事を言われるずっとずっと前に決まってて……それは、リズのこと。

 

絶対、ぜーったい、最後はわたくしたちが勝ちます!

 

 

勝つ為には、ド田舎でボーッとなんかしてられないんだ。

 

 

都に、離宮に帰らなきゃ。

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