もし1㍉も乙女ゲーを知らないアタシが悪堕ち転生をしちゃったら?   作:ぴんぽんだっしゅ

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腐って、腐り切ってても公爵。

「…………ね、ねえ」

 

「どうした、食べないのか?」

 

「広い屋敷に六人ておかしくない?」

 

勉強を終えて夕方。

外はすっかり太陽が落ちて居なくなってしまった空をオレンジ色から黒く塗り替えて、カーテンを引いたようなその光景が一日の終わりを告げているように見える、そんな時刻。

 

ジルリットにしごかれた勉強もこの為に頑張れたんだ、と思ういい匂いがダイニングに漂う。

 

今、ここの空気を支配してるのはテーブルに並べられた各種、見た目もこれまた頬っぺが落ちそうな錯覚を覚えてしまいそう、……って、見た目だけて頬が落ちるってどーなのよ?

 

……に、しても器用に飯食うんだな、ジルリット。

 

隣のゼリエもだけど。

 

二人で食べるのに飽きたよってオーウェンに言うとあっさり、そうかって。

 

で、今はジルリットとゼリエも一緒に夕食のテーブルに着いてるってワケ。

 

食事をするってゆーのは、こーゆーものだと思ってるよ、アタシは。

二人で、二人きりで、しかもじとーとしたオーウェンの視線を感じるような食事はもうまっぴらだったんだよねー!

 

「実際は、んむ。むぐ、むぐ、……ごくっ、……四人だ。ゴンドワの家族は東の森に家があるし、ドュースの家族は隣村に家を与えた、二人は通いだ。別に、困れば人は雇うさ。ゴンドワの焼いた鳥肉は旨いぞ?おい、これは何時取れた?」

 

喋るのもオーウェンを見ながらとかじゃない限りは……すっかり調教されちゃったかな?

嫌、嫌い、絶対無理!って思ってた頃よりかなりマシになってんだよね、ゴミから虫程度にはらんくあっぷ!

 

なるほど……コックのゴンドワさんは通いなのか。

それに、庭先でなんかやってるあの人はドゥースさんって言うんだ、外出して貰えないから見てるだけで知らなかったよ!

 

「はい、旦那様。今朝捕って、その場で絞めました。ですので、鮮度は保証します」

 

鮮度抜群なんだ!

旨いはずだよ、この肉!

全然パサパサしてないし、噛んだとこから垂れる、ジューシーな肉汁ドボボドッ!

 

なのに、肉も脂も硬くなくて。

絶品。満足。

アタシの食べてたスーパーの惣菜とは比べるのも恥ずかしいレベル!

 

ハーブじゃないかって思うんだけど鼻先を擽るような、スパイシーって言うの?ツーンと匂って、唾が次々出てくるこの香り。

 

単に肉の匂いだけとかじゃなくて良かった、味付けがちゃんとしてるってそれだけで、手間かけて作ってるんだなーって感じてなんか嬉しい。

 

って、言っても日本のスパイス過多な食卓に慣れてるとやっぱ味気ないのは味気ないよ、そんなの当然だし、贅沢なことだってわかる、ただの愚痴。

 

「だとよ、ティルフローズ。口は食べる為にあるんだ、喋ってばかりだと喉が渇くぞ」

 

オーウェンにグラスと水差しを差し出される。

心配しなくてもちゃんと味わって食べてますからー、お構い無くー!

 

あ、水差しは欲しいけど……、その……触りたくないなぁ。

って、オーウェンの手のひら見てたら水差しをコトンと置いて、オーウェンは手を引っ込めて食事を再開する。

 

「ゴクッ!───ますます、おかしい!離宮では侍女が100以上居たのにー、あむ。んんむ、んぐんぐ」

 

けどさぁ、リズの記憶の中の貴族的な、それはまぁアタシの貴族に抱いてるイメージでもあるんだけど、オーウェンの屋敷って人少なすぎ!

 

そうじゃない?こう、鬱陶しいくらい周りなり、後ろなりに侍女がいっぱい居るもんじゃん、貴族の城屋敷ってゆーのは、違うってか?

 

「おいおい、離宮(あれ)と比べるのか?あそこは特別だぞ?あそこで男に会ったか?逢えるはず無いな、王族以外の男子禁制だ。侍女は皆、あわよくば側室にと、国許を出された貴族の娘なのだぞ?……ガキだって男女別々会えない、徹底してるのだ。特別な場合を、除いてだがな」

 

「へぇー……特別な場合を説明して?ぷりーづ」

 

男子禁制かよ?

確かに、同年代の男の子の記憶ってない……そうだよ、無いよ!

保育園とかそれっぽい施設でしょ、離宮ってさ?

 

なのに、無いんだよ……これっておかしいのに、全く気付いてなかった、オーウェンから聞くまでおかしいとも思ってなかったよ。

 

別々にって徹底してんなら、頷ける。

 

特別な場合って気になるな、それってどんな時だよー。

 

「いいから、食えよ。ゼリエを見ろ。もう空にしてるだろ」

 

器用だよな……、ほんとに空になってる。

 

「心が広いんだな、あんた。仮面も脱がずにいるのになんか言わないのかよ。ヘンだろ!」

 

仮面したままの夕食っておかしいって。

絶対変!

 

対面に座るゼリエを指差した、ビシィって。

 

「いい。ゼリエ、動くな」

 

音を鳴らしてナイフとフォークを手放し、一瞬でオーウェンの背後にまで走ったゼリエを一喝。

そのオーウェンの一言でゼリエはアタシを睨みながら席にしぶしぶ戻っていく。

 

いい雰囲気をアタシが壊した。

いい雰囲気だった。

だから、注意のつもりで、軽い気持ちでゼリエの仮面を指差した。

ほんの少し、口を滑らせた程度だってゆーのに、……命の選択をした気分。

 

一瞬で空気が変わった。

ここは戦場?

ゲーセンて名前の戦場で味わったような、そんな緊張感とプレッシャーのある空気に、ダイニングの空気が様変わりしちゃったのだ。

 

「ふぅー。……ティルフローズ、いいか?公私は別けるべきだ。それは解るな?今は公だろう?二人きりで何と呼ぼうが許す、それはいい」

 

アタシにとって、ゴミだなんだと呼んでるのが当たり前だったから忘れてたよ、

 

「人の目がある所では、ジルリットにも教え込まれただろうが、公爵、或いは旦那様と呼べよ?俺は気にしないが、姫様の格を落とす事になる。一度落ちた格を元に戻すには、それはそれは大変なものだぞ……」

 

オーウェンて公爵なんだよね、プライベート以外は気をつけないと本気でアタシの命がヤバくね?

こんなプレッシャーをそう何度も味わいたくない。

そっか、ゼリエがぶっちんキレたのは……アタシが指差したとかじゃなく、オーウェンの事を雑に扱ったからか?

 

こんなの耐えられねっす!

ジルリットもさっきからガンつけてるし、悪かったの?何が、悪かったのかちょっとまだわっかんないんだよねー……これってヤッベェなオイ!

 

気をつけるとこがわかんないんのは、マジ勘弁!

目隠しで地雷元、マップ無しでウィザードリィ、そんな無理ゲーしてるみたいなモンでしょーよ。

 

「失礼しました、ご主人様。わたくしの落ち度です、どうかお叱りください」

 

「よい、許す。ジルリットよ、期日を延ばそう。後……、そうだな、二日で姫様を叩き直せ。謁見までに使える姫様にするんだ」

 

期日って何だよ?

納期か、納期なのか?

 

格をおとすってゆーのもちょっとわかんねっす!

 

だけど、なにこの、……口を挟めない空気。

次になんか言ったらそれだけでゼリエに襲われそうなそんな緊張感。

 

は、……何?

嘘っ……汗が頬から流れ落ちた?

ほんのさっきまで、ふつーに美味しいご飯を食べてたのに!

ご飯、無いからパンだけどっ。

 

そんなに、アタシは間違ってたか?

 

「はい、この身に深くその言葉刻みつけます」

 

「───次は無いのだからな」

 

ジルリットがお辞儀をして、席を立つ。

それを見てゼリエも立ち上がると席を後にした。

 

……良かった。

怯えているアタシがいた。

 

良かったと思った、本気で。

ゼリエの殺気に圧されて空気が重すぎたのが、今は目の前の料理に手をつけられるんだもん。

 

「ゴンドワ、川魚のムニエル絶品だな。ティルフローズ、川魚はどうだ?うまいだろう」

 

少しでも、嫌なことがあると料理はすぐ味を失うけど……、危機は遠退いていってくれた。

 

今は、正直にゴンドワさんの川魚は脂も乗っててとても美味しいし、塩加減はもうちょっとだけど……って食事を楽しめる余裕を感じれるんだから。

 

「少し、見直した……」

 

オーウェンのものの考え方になんか、そう思えたから思った通りに口に出した。声にした。

 

オーウェンは必死なのかも知れない。

改易なんてされてしまって立場がないんだ、多分。

だから、失った信用をなんとか補てんしないとってなってんじゃないの?

 

そこで、リズ。

ティルフローズ、アタシとの事で他の貴族にアピールしたいとかか、これは。

 

「ガキは難しい事考えないで、言われた事やってら間違い無いんだ。デザートは胡桃のタルトか、俺の好物だ」

 

「……わ、わわ。美味しい、……いい焼き加減」

 

言われたことをやるってことだって今のとこアタシには難しい。

慣れないことをするんだ、知識としてはリズは持ってて、でも体で覚えてるワケじゃないし。

 

ゴンドワさんの焼いたタルトは甘すぎない、砂糖使わないで果汁だけで甘さを引き出してるって思った。

美味しいんだ、これが!

胡桃って言うけど他にも甘い果物が入ってるんだろーって思った。

 

「ゴンドワは城の厨房にも居たんだ、腕はある奴だぞ。皇帝にデザートを作ったんだからな。あむ、んむむぐ」

「ふーん」

 

本当に美味しかったから美味しいって言ったら、オーウェンがなんか自慢げにゴンドワさんの話を始めちゃった!

そんなつもりじゃなかったんだけどね。

 

「姫様が生まれる前ですが、離宮にもデザートを作って届けた事も御座います」

 

「んぐんぐ、美味いワケだ。店出せば?」

 

離宮にデザート作ってたんなら、その腕はピカイチ!

だって、国で一番の女の園でしょ?あそこって。

 

側室だって、女だもん。

目がなかったはずじゃん、甘い甘いデザートとかさ。

 

「ぷっ、クハハハ!店、そうか店か。誰が買うんだ?貴族しか買えぬ様な高級品の店を出すより、それならば俺のシェフで居る方がマシだろうよ。ガキなりに考えたんだろうが、材料費を考えていないな」

 

吹き出すなよ!

汚いだろ!

 

そっか、もともとオーウェンの顔って汚いんだから、気にすらしないか……。

 

「材料……そっか、高級品なんだ、コレ」

 

タルトにフォークをつきたてて、そのフォークを口元まで持ってきてたのを止めてタルトを見つめる。

 

「そうだな、庶民なら年に一度くらいは口に出来るか出来ないか、それだけの値はするぞ」

 

「うっわ、わー。贅沢なんだ」

 

え、一年に一回くらいしか口に出来ない?

タルトだよね、特になにかが高いって気もしないのにーってアタシ、本気で思ってた。

違うんだね、材料代。

すっごく高いんだってさ。

 

も、びっくり!!

 

「常識にズレがあるのは仕方ないな。貴族なら、まして王族が材料費を気にしだしたらその国は財政がダメになってるだろう」

 

「まぁ、材料費とか考えた事無かった。うん」

 

ぜんせでも買って来て食べるか、店で食べるものだったし。

 

入ってるものがそれぞれいくら?って、答えてみろったってそれは……無理でしょ、知らないもん。

 

作ってる人なら知ってるだろうけど、作ったことが数回あるくらいじゃ、それもタルトじゃないしー!

絶対、わっかんないんだって誰に聞いたってそう、アタシと同じ反応するんだってば!

 

「そんな難しい事はいいって言っただろう。ティルフローズにやって貰いたいのは謁見での受け答えだ。俺のとこに来て格を下げたとなれば、つまり、俺の格も下がるからな」

 

「へー、シビアねー」

 

よく、わかってないけどジルリットから謁見のシュミレーションてゆーか、リハーサルをやって貰って覚えたらいいでしょ。

タルトよか、簡単簡単!

 

「ちゃんと励め。夜はいい、休ませてやる、その分……恥ずかしくない姫様を演じる様、頑張れよ」

 

 

アタシにはオーウェンのそんな言葉より、デザート一つの値段の方が気になって気になって、頭の中はそれでいっぱい!

ショートケーキ一ついくらなんだろう?とか。

チョコレートも簡単には食べらんないのかなーーー。とか、ね?

 

 

 

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