流れ星のような幸運だと思ったのに、どうしてこうなった 作:ルーニー
「うっわぁ。我ながら汗くせぇってか服が張り付いて気持ちわりぃ」
『コンナ時期ニ換気モセズニ部屋ニ引キコモルカラダ』
風呂はいったほうがいいなぁと気持ち悪さに不快感を露にしていると、階段を降りる直前でドアが開く音がした。
その音がした方を見ると、髪を1つに纏めている少年が憂鬱そうな表情を浮かべて出てきていた。
「ん?スバルか」
星河スバル。俺の双子の弟で、親父がいなくなったショックで人間不信、ではないのだがそれに近しい状態になっている。人と関わるからこんな目に遭うんだと、親父がいなくなったことでそう思っている。
今でこそ俺や母さんとは色々と話すが、親父がいなくなってすぐは母さんとすら話そうとしなかったほどだった。まぁさすがにそれは今後にかなりの影響が出るから何とかして母さんと治したのだが、それでも未だに家族以外とはほとんど関わろうとしない。
「今日もいつもの場所にいくのか?」
「うん……」
「そっか。まぁ俺みたいにずっと部屋に引きこもってるよかいいか」
いつもの場所というのは小学校の裏にある展望台のことだ。そこには自由に使える望遠鏡や昔のものとして機関車が置かれている、子供達の遊び場とも言える場所だったりする。スバルは毎日そこに行って空を見て、親父の乗っているステーションが見えるんじゃないかと期待している。
正直なところ、地球と同じ生き物が棲める星が見つかっていなかったら食糧関係で生きていられるとは思えない。冷たいと思われるかもしれないが既に3年が経った今、生存はしていないだろうと俺は思っている。
けど、それをスバルに言うつもりはない。スバルは賢い。もう既に親父がどうなっているのかは想像しているが、それでも諦めずに親父を追っている今を崩してしまうと、恐らく2度と立ち上がろうとはしないだろうから。
「リオンは……それ取りに外に行くの?」
「そそ。手ぬぐいも結構汚れちゃってさ~」
「そんなことしてたら母さんまた怒るよ。不健康だって」
「……俺も外に出た方がいいかなぁ」
普段なら、というか前なら外に出るより作業していたいと思っていただろうけど、今、というよりここ数年どうも作業が全然進まなくなってきてる。前はそんなことなかったのに、今じゃ作業やっている方がストレス溜まってきてるからしばらくは触らない方がいいかもしれない。
部屋の片づけをせにゃいかんなぁとあの大量のガラクタをどうやって片付けようか悩んでいる中、スバルは俯いてしゃべろうともせず俺の隣を歩いている。親父が行方不明になってから人とのかかわりを避けるようになっていたスバルだが、今でも家族以外とは接しようとしない。部屋に引きこもっていた時期を考えればまだいい方なんだろうけど、人間不信に近い状態なのは兄といてちょっと不安なところもある。
まぁ、こればかりは俺がどうこう言って直るもんじゃないし、前みたいに徐々に直っていくようにするしかないか。
相変わらずの暗い雰囲気をどうするか悩みながらリビングに出る。部屋に入ると母さんと、帽子をかぶったふくよかな男性が話し合っていた。スバルはそれに気付いていないのかそのまま歩いていたが、一声かけて少し嫌そうな表情を浮かべているのを見るに気付いててスルーしていたらしい。
まだここまで人付き合い嫌いになっていたのか。ずっと交流していなかったとはいえ、ずっとこのままってのもマズいんじゃなかろうか。
そんなことを考えながらスバルと一緒に挨拶はしたが、この人誰なんだろうか。母さんの様子を見るに知り合いみたいだけど。
「母さん、その人は?」
「この人はNAXAでお父さんの後輩だった天地さん」
「はじめまして。天地です」
「どうも」
「ど、どうも……」
親父の後輩さん、天地さんは人懐っこい笑みを浮かべて挨拶をした。
しかし、後輩さんか……。いや、まぁそりゃ後輩ぐらいいるだろうけど、まさか今の時期に後輩の人がうちに来るとは思わなかったな。いや、待てよ?この人見覚えがあるような……。
「NAXAでは君たちのお父さんにお世話になった。今はNAXAを辞めて個人の研究所を開いているんだ」
「…………」
んー。どーこかで見たような記憶があるんだけど、なーんか違和感があるんだよなぁ……。なんだろ?
どっかで見たことがあるような気がすると悩んでる俺を見てか、天地さんは少し苦笑している。
「多分覚えてないだろうけど、君たちとは1度会ったことがあるんだよ」
あー。やっぱり?会ったことあったんだ。でもいつの話よ?全く思い出せないってか会ったような気はするけどなんか違う気がしてならないんだよなぁ。なんだろ。
「君たちとは先輩の乗った宇宙ステーションが行方不明になったことを報告しに来たときに会ってるんだよ。あの時は君たちもショックだったから僕のことは覚えていないと思うけどね」
……んー?あー。あー。そういやあの時男の人が親父が行方不明になったって言いに来てたな。え?その人?もっと痩せてなかったか?なんでまた、こう、お腹や頬がご立派になっちゃってるんだろ……。
「そうだ。君たちにお土産があったんだ」
そう言って渡されたのは、青っぽい色のサングラスのようなものだった。スバルの方も同じものを渡されて不思議そうな表情をしている。
「……これは?」
「ビジライザーという特別な眼鏡で君たちのお父さんが仕事で使っていたんだけど、詳しい機能は分かっていないんだ」
「……仕事って、じゃあなんでそれが2つも?」
「多分、予備なんじゃないかな。特別なものだし、修理に出しても時間がかかることを考えて余分に持っていたんだと思うよ」
あぁ。まぁ特別なものだったら修理にも時間かかるだろうし、その間仕事ができませんでした、なんて冗談にもならないだろうからなぁ。そりゃ予備ぐらい持つわな。うん。
しかし、なにに使っていたか分からないってどういうことなんだ?厚みもないし、遮光、って言うほど光を通さないわけじゃない。時間があるときにジャンクマンに機能を調べてもらうかな。
親父の使っていた物ってのも気になったし、天地さんから差し出されたそれを受取ろうとすると、スバルが差し出した腕を掴んで止めてくる。何するんだというように視線を送るが、スバルの方も俺に対して何しているんだと言わんばかりの視線で送り返してきていた。
「リオン、今手汚れてるんでしょ」
「あっぶね忘れてた。スバルナイス」
いやぁ、危うく油ギッシュな手で親父のものに触るところだった。スバル親父が大好きだからな。これを汚されるのがいやだったからあんなことをしたのか。納得納得。
とりあえず、ビジライザーは母さんに持ってもらうことにして、俺は油を落とすために外に出るのだった。
ちなみに一抹とは絵筆のひとなすり、ひとはけ程度らしいです。(g○○辞書より)
うん。量じゃなかったね。