ココロコネクト 面倒くさがりが紛れ込んだようです   作:黒木龍牙

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キズランダム
日常という名の異常の始まり


カタカタカタ………………

パソコンのキーを打つ音だけが響く部室内。

私立山星高校文化研究部、略して文研部は今日も活動中。

他の部活が嫌がったであろう部室棟の最上階の階段から一番遠いところにある角部屋。

まあ、この学校の校則である、全生徒クラブ強制入部ということにおけるひずみから今年生まれたばかりの部活だからしょうがない。

部員は6名、そして全員一年生だ。

黒髪セミロングで凛々しい顔立ちの女子、稲葉姫子。

茶色の短髪でプロレスオタク男子、八重樫太一。

黒髪サイドテールで可愛い顔立ちの女子、永瀬伊織。

バナナヘアで天然バカの男子、青木義文。

栗色ロングヘアでちっこく可愛い物好き女子、桐山唯。

そして、数学だけが取り柄、料理と睡眠が好きな俺、名木沢龍斗。

現在、稲葉が文研部の活動として出している新聞、文研新聞の編集中。

もうすぐ強制下校時刻。

なぜか緊張感の高まる部屋。

そろそろ息苦しくなってきた。

稲葉は焦っている。

納入日がもうすぐなのだ。

だが、現実は非情である。

下校を告げる鐘が校舎に鳴り響く。

 

「だぁ!!やっぱりちょっと終わらなかったじゃねえか!!」

 

Enterキーを感情の昂ぶるがままにターンッ!!ではなくダンッ!!!と叩いた稲葉姫子は背もたれに背を預け腕を力なく下ろす。

 

「いなばーん!!信じてたのにぃ~~~…………」

 

そう叫んだ永瀬伊織は稲葉の肩を持ってグワングワンと揺らす。

 

「しらねぇよ!!伊織!!元はと言えばお前と青木のせいだろうが!!」

 

そう、今回伊織と義文が文研新聞のネタを遅れて出したのだ。

それのせいでこうなったわけである。

だが、何故かその2人が賭けをしていた。

 

「やりぃ!伊織ちゃん、賭けは俺の勝ちだよ!さあ!ジュースをおごるのだ!」

 

「くそぉ………、なんか納得いかねーー!!」

 

「はっはっはー!!とりあえず、稲葉っちゃん、お疲」

 

「てめえらのせいでこうなったんだろうが!!!」

 

ズムッ

稲葉の人差し指と中指が伊織と義文の目をまぶたの上から突いた。

 

「ぐぬおおおお………」

 

「いぎゃあああ!!!目が!!目があああ!!!」

 

…………すげえ。

太一と唯も稲葉を賞賛していた。

 

「お前らが遅れたことがしわ寄せになってこうなったんだ!!だから青木、ジュースをよこせ」

 

稲葉は元から切れ目の目をさらに細くして青木の頭をむんずと掴む。

 

「いや、それとこれとは話が別で」

 

「あ゛?」

 

ギリギリと頭部に稲葉の指が食い込んでいく。

 

「いでデデデ!?わかった!わかったから離してくれ!」

 

「よし」

 

稲葉は義文を離すと早々に部屋を出る。

俺らもぞろぞろと続くが、痛さでうずくまる青木。

 

「遅れたらお前からも一本」

 

「ひい!?すぐ出ます!!」

 

稲葉は鬼畜であったか………。

青木はすぐに出てきた。

鍵を閉め、職員室に鍵を返したのは俺なのだが……………。

 

 

 

 

こんな平和が長く続くとは思っていなかった。

もう三週間になるのか。

人格入れ替わりが終わって。

俺たちは無事、乗り越えてしまった。

つまり、“どこかで壊れなければ終わらない”エンドレスゲームの始まりだということを、その時の俺たちは、まだ知らない。

 

 

 

 

 

それから数日後。

俺はゴッさんに召集された。

 

「なぁ、お前さん頑張りすぎじゃないか?最近だったら俺とお前さんだけで文研新聞作ったしさ。別に遅れたところで何とかなるんだし、っつーかするぞ?一応顧問だからな」

 

「いやいや、ゴッさんに手伝ってもらってる時点で、俺はまだ甘いって事ですよ。次、あいつらが間に合わないなら、俺が1人で作ります。構図とかもわかったんで」

 

「いやいや、あいつらを頼れよ~。穴を埋め合うための、友達じゃねぇの?」

 

人格入れ替わりの時の事を言われた。

今回は間に合ったものの少し遅れて、たまたまゴッさんの目に止まった俺が召集された。

ゴッさんと俺で少しお小言を言われた。

それくらいだったのだが、ゴッさんに謝られた。

そしてさっきの話に至る。

 

「穴を…………埋め合う……………」

 

「あ、まだ書類の整理終わってねぇ!んじゃ、また!」

 

ゴッさんは放課後の人が少ない校舎の廊下を早歩きで去って行った。

あの人は時々いい事を言うから何とも言えない。

さて、俺は部室にでも行くかと荷物を背負い直して、部室棟に歩を向けた。

 

 

 

 

「で?なにがどうした?」

 

部室に着いたのだが、かなり惨憺とした状況だった。

唯が伊織に抱きしめられて泣いており、稲葉はいないし、太一はいまだに呆然としているし、唯一普通なのは義文だけ。

そんでもって長机が真っ二つに割れている。

 

「え、ええと………、太一と稲葉っちゃんが倒れてるのが見えて………、唯がそれを見て取り乱して………、で机を割って………」

 

「伊織、唯の手は?」

 

「血が出てる、保健室に」

 

「頼めるか?」

 

「了解!唯、立てる?」

 

「……う…………ん……」

 

よし、で、太一だ。

右手の平を見つつブツブツと何かをつぶやいている。

 

「で?太一、どうした?」

 

「……った…………」

 

「は?」

 

「柔らかかった…………」

 

アホかこいつは。

俺は太一のほおをびろーんと引っ張ってみた。

 

「いはいいはいいはいいはいいはい!!!(痛い痛い痛い痛い痛い!!!)」

 

「ぼーっとしていたが、どうした?で、何が柔らかかったんだ?」

 

「や、ややや、柔らかい!?何のことだ!?」

 

だめだこいつ。

どうせラッキースケベ発動しただけだろう。

俺は何かムカついて太一の頭を平手で殴っておいた。

 

 

 

机は後日新しいのを入れることとなった。

金は学校側でなんとかするそうだ。

まあ、俺がもともとボロくなっており、重い荷物を置いたら割れたと適当にでっち上げておいた。

保健室から2人が帰ってきたがそのまま解散となった。

まあもちろんのこと、唯は精神的に結構突き刺さったらしく、しょんぼりしていた。

義文と伊織、そして太一が目の前でボケツッコミをしている中、俺は唯と歩いていた。

 

「ごめん、色々取り乱して……………」

 

「何があった?」

 

「そ、それはその……………」

 

顔を赤くしてモニョモニョと口先を動かすだけで声は聞こえてこない。

 

「太一が稲葉んの胸を揉んでいたとか?」

 

「な、何でわかったのよ!?」

 

「マジかよ…………」

 

例えばで答えを言い当ててしまい、2人とも動揺する。

けれど、と唯はその光景を思い出しながら疑問を口にする。

 

「でも、今考えるとおかしいのよね………」

 

「まあ、稲葉んがそんなことするとは思えねぇな」

 

「しかも稲葉が太一を押し倒してたのよ?おかしくない?」

 

「おうふ、マジか………」

 

普段、稲葉ならそう言うことはしない。

というより、普通なら部室に俺たちが来るということがすぐにわかるはずだし、まずまずそういうキャラじゃない。

っつーか、その相手が太一か………。

唯が取り乱すのも頷ける。

 

「だとしても、あれはやりすぎだな」

 

「うう………分かってるってばぁ……………」

 

と言いつつかなり不満げだ。

 

「どうした?机の件に関してだったらまだ弁明の余地があるぞ?」

 

「んー、じゃあ、言うけど、頭の中で『止めろ』声が聞こえたのよね………、で体がそれをしないといけないって感じで動いて机をこう………」

 

「……………なるほど、疲れてるんだったら寝ることをオススメするぞ」

 

「疲れてないってば!」

 

そんなこんなで駅で唯と別れ、帰ろうとペダルに足をかける。

すると、義文がコンビニに入っていくのが見えた。

駅に入るのは唯たちよりも遅れるだろう。

 

俺はその後すぐに、その場から自転車で走り去った。

まさか次の日、あんなことが起こるなんて、思いもせずに。

 

 

次の日、唯、青木が補導され、俺はその場にいたという事で同行した。

 

 

 

 

 

いろいろ警察に聞かれた次の日、俺と義文は登校していた。

だが、唯は来れなかった。

放課後、唯以外の全員が揃っていた。

 

「で、何があったかはだいたい聞いてる。だが、何で龍斗まで駅にいて、更に警察に行ってたんだ?」

 

「自転車のタイヤがパンクしててな。慌てて電車で学校に行こうとしたら、見事にその場に居合わせた。ついでに警察に被害届を提出しに行ったからだ」

 

「被害届?何のだ?」

 

たしかに今の内容だと、少し違和感がある。

まあ、それに関しては触れて欲しくなかったのだろう。

龍斗は笑顔で稲葉に訴えた。

『聞かんでくれ』

と。

稲葉は改めて、唯の事を聞いた。

 

「唯は、今どうしてる?」

 

「家に、自分の部屋に閉じこもってる。まあ、心の整理が今はできないだろ。出来ることはない」

 

「本当にか?俺らに出来ることは、絶対に「無いんだよ。無いからこう言ってるんだ」…………そうか………」

 

「俺だってかなり考えた。俺は唯を傷つけないために、今はこう言う形を取ってるんだ………。それに………、一番ウズウズしているバカが俺の目の前にいてずっと黄色い髪が揺れてる」

 

そう、今何か打開策はないのかと、一番言いたいのは青木義文だ。

何が起きたのかを説明せねばならない。

中央駅にて、山星高校の女子生徒が秋高高校の不良に絡まれていた。

それに出くわした唯がそいつらをぼこぼこにした。

だが、やりすぎた。

それを見て通報した人たちがいたらしく、警察が来たのだ。

唯はおとなしく補導されるも、そこに義文が乱入、といった形だ。

唯の一部始終を見ていたのと、友達だということで、俺もついていったという形になる。

太一は少なくとも、伊織、唯の悩みを聞いた。

そして少しだが、唯の背中を押したのはあいつだ。

だからこそ、今回も、と考えるかもしれない。

だが、今回は重すぎる。

そんなことを皆が考えている中、ドアが開いた。

 

どんよりとした空気が流れる。

思い出したくない、以前の現象の時に体験したあれだ。

猫背になり、目は半分しか開いていない、後藤龍善が立っていた。

だが、それは後藤龍善ではない。

 

「ふうせんかずら……………」

 

「ええ……、どうも………」

 

 

 

 

 

 

夜、俺は家に帰ってから、ふうせんかずらの言ったことを箇条書きでまとめていた。

 

「1・欲望を一時的に開放させる。

2・発生はランダム。

3・どの欲望が暴発するかはわからない。

4・現象が起きるときは脳内に声が響く。

5・面白くなったら終わる。

6・命は奪われることはない。」

 

このくらいか。

俺はまとめた後、毛布にくるまる。

嫌な寒気がした。

俺はそれをコピーアンドペーストで唯に送信した。

返信はすぐに帰ってきた。

 

『私はどうすればいいのかな。自分が外にいたら、迷惑しかかけられないよ………。どうしたらいいかな。何かあったら教えてください』

 

そう帰ってきた。

いつにない弱い唯。

俺は戸惑っている。

そして俺はこう返した。

 

『いざとなれば、俺や青木が止めにかかる。別に俺らを傷つけたとしても、しょうがないで済むし、青木は喜んでコンボ決められに行きそうだろ。いつ出てきてもいいからだから、今は自宅療養でいいと思うぞ』

 

俺にはそう言うことしかできない。

俺は力なく携帯をベッドに放り投げ、俺はベッドにうつ伏せで倒れ込んだ。

毛布が気持ちよすぎて意識は夢に……………

 

 

 

 

 

俺は1人、何かにナイフを何度も何度も突き立てていた。

明らかに夢だ。

そう確信している。

だが、手にベタつく赤い液体はすぐ乾いて肌を赤黒く染める。

それがよりリアルさを、引き立たせている。

突き立て、俺は後ろに倒れる。

だが、突き立て、息絶えたはずのそいつが上半身を起こして、俺の首を掴む。

その顔は………………

 

 

 

「伊織っ!?」

 

俺は夢から覚醒した。

窓の外はまだ暗く、肌寒い部屋に、叫んだ声が消えていった。

俺は何という夢を見ているのだ。

脂汗をかいていた。

何度目だ?

伊織を殺す夢を見たのはこれで何度目だ!?

いい加減、もうやめてくれ。

そうでなければ、俺は……………。

……………。

汗がひどい。

シャツが肌に張り付いている。

俺は着替え、外に出る。

気分を変えるために………。

だが…………、何の因果か。

伊織と近くの公園で会った。

 

「龍斗?どしたの?」

 

「………嫌な夢を見たんだ………。気分転換だな。そっちは?」

 

「似たような感じ」

 

「そうか………」

 

伊織はブランコに座って、星を眺めていた。

………、ああ………、やっぱり……こいつは、綺麗だな……。

 

『告白しろ』

 

声が聞こえた。

現象だ……。

俺の口は、俺の指導権を外れた。

 

「なあ、伊織…………」

 

「ん?どしたの?」

 

『止めろ!』

 

「っ!」

 

自分の声が響いた。

俺は、これ以上の関係を求めていない。

今で十分なのだ。

目の前に血まみれで、同じく血に濡れたナイフを持った自分が見え、そう叫んだ様に感じた。

 

「なんでもない…………。寒くねえのか?」

 

「ん、大丈夫。夢、よっぽど辛かったんだね」

 

こいつはまた、的確に言い当ててくる。

 

「まあ、私はそういう時、星を見るかな…………」

 

「星………か………」

 

上を見上げる。

思いっきり公園の木が邪魔して見えなかった。

 

「あ、こっちからだったら見えるよ」

 

え〜、それ早く言ってよぉ……。

俺はすぐにブランコの方に歩いて近づく。

結構綺麗に見えた。

 

「ここはお気に入りなんだ。まあ、最近知ったんだけどね」

 

「へぇ、そうか」

 

携帯を取り出して見てみると、午前四時の文字が。

伊織はブランコを漕いで飛んだ。

ブランコの柵より向こう側に着地。

ブランキングファイトかよ。

 

「あ、私帰るね」

 

「んなこたわかる。送るよ。この前不審者見たし」

 

「お、悪いねぇ」

 

「調子に乗んな」

 

いししし、と歯を見せて笑う伊織。

釣られて笑ってしまった。

伊織を送って家に帰ると五時だった。

その後、すぐに学校の準備をまとめ、出発ギリギリまで寝た。

案の定眠気は取れず、いつもは起きている授業さえも寝てしまった。

 

 

 

 

 

「ああ…………、やはりあなたは面白い………。あなたは部外者でしたが………巻き込んで正解でした……………。引き続き……、5人と1人でお願いします。………まあ、もう2人は眼をつけているんですがねぇ………。まあ……、彼らはいいでしょう………。運命までは……干渉する気になれませんし……」

 

闇の中でそう囁いた後藤龍善はもちろんのことアイツだ。

そして、その手にあるのは、太一のクラスの生徒名簿。

開かれたページの黒髪で背が高い筋肉質な生徒の写真を指差していた。

名前が書かれている。

『浜墻 雄友』

そして別の名簿を取り出す、後藤 龍善。

これは龍斗のクラスの名簿だ。

そして開いたページに指を走らせ、止めた。

背は低く、少しふっくらしている背の低い女子

『福内 悠花』

 

「彼らが加わると面白そうですしねぇ…………。まあ……それはまた………今度ということで……」

 

黒が除かれ、後藤が戻ってくる。

 

「れ?また寝てたのか?って、書類片付いてねぇ!!!」

 

…………まだやってたんですか?後藤先生………。




お久しぶりです
色々あって長い期間空いてしまいました
これからもちょっとどれくらいかかるか分かりませんが投稿して行きます

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