ココロコネクト 面倒くさがりが紛れ込んだようです   作:黒木龍牙

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その犠牲の先に

「どうも…………、お久しぶりです……。……あ……メールしましたね……、でも……会うのは少し空きましたし……久しぶりで……」

 

「…………フウセンカズラ」

 

覇気のない後藤龍善の声が俺以外いない教室に緊張感を走らせる。

掃除が終わり、俺が最後の片付けを終わらせると、教室に入ってきたのだ。

 

「終わるのか?」

 

「ああ………、はい………、そんな所です……」

 

歯切れの悪い言葉、独特の雰囲気を放つフウセンカズラ。

教室奥の掃除用具入れとスライドドアまではかなりの距離がある。

だが、引き込まれるように、覇気のないフウセンカズラが大きく、近く感じる。

終わる、と聞いたのは、もちろんだが現象のことだ。

肯定の言葉を口にしたが、少し嫌な予感がする。

 

「…………永瀬さん……、太一さんと…………何かあったみたいですよ?」

 

「……………」

 

「おや、反応なしですか」

 

「いや、真顔だったのか……俺」

 

心底驚いている。

反応ができなかっただけだ。

 

「………まあ、そんなことはどうでも良いです」

 

どうでも良いものなのか?

伊織がどうかしたって結構だぞ。

 

「…………私は、永瀬さんを………、殺すように見せます……」

 

「は?」

 

「ええと………もう一回言った方がいいですか……?」

 

「…………どうしてだ?」

 

「その方が面白「じゃなくて、俺に言った理由」……………貴方は、……代わりに死ぬふりを受けるかどうか、です。貴方の意見は推奨しないといけないものですからね」

 

…………?

なぜ俺を推奨するんだ。

いや、まあ、お前が面白がるのはわかる。

 

「でも、なんで俺が死ぬ役を演じねばならんのだ?と言うより俺を選んだ理由は?」

 

「………貴方は……自分の事をどれほど、面白いか分かっていない………。貴方は……太一さん以外に……かなり深く、踏み込んでいます………。皆さんへの……ダメージは……かなり大きいかと……」

 

「だからってなんでアポなんか……」

 

「いえ……、貴方は死ぬ可能性があるからですよ……」

 

死ぬ……、可能性?

どう言う事だ?

死ぬように見せる、という事では無かったのか?

 

「もし……永瀬さんだったら、致命傷になる前に病院に運ばれます………。ですが……、貴方の体は他の人より……、脆いんですよ……」

 

「脆い……?」

 

「ええ………、どうやら貴方の体は…………、かなり……、傷ついている……ようですね…」

 

どう言うことだ?

 

「………で……しますか……?しませんか………?」

 

伊織がするのか、俺がするのか。

俺がしなければ、伊織は怪我をするのだろう。

寝込むのだろう。

もしかしたら、死の覚悟を迫られるのだろう。

俺がすれば、伊織は助かる。

伊織は無事だ。

面倒臭いが、そんなの

 

「決まってるだろ?」

 

 

 

 

 

藤島の通学用自転車で俺、八重樫太一は街を走っていた。

永瀬を探しているが、見当たらない。

あっという間に街は夕焼け色に染まり始めている。

走って走って走って………、でも、見つからない。

1人の人間を見失い、この街から見つけ出すことはこんなに難しいことなのかと実感させられる。

大川にかかっている橋の上。

夕焼けに染まる街を風景に永瀬伊織はそこにいた。

橋の柵に身を寄せ、川を見ているのは永瀬伊織だった。

強めの風を避けるように顔を後ろに向け、腰を柵にあてがった時だ。

俺と目があった。

 

「た、太一っ………おわっ!」

 

「あっっぶない………!」

 

永瀬が後ろにつんのめり、ギリギリ腕を掴んだ。

危うい状態でなんとか橋側に戻ってきた。

 

「ほ、本気で焦った………。というか太一、なんでここに…………?」

 

永瀬は柵に寄りかからず、こちらを向いて立っている。

目元には確かに、涙の跡が確認できる。

ずきりと、胸に痛みが走る。

自転車をちゃんと止め直し、頭を下げる。

 

「気づいてやれなくて、本当に、すまなかった……。約束したのに。あれだけ大層な口を叩いていたのに……。こんな情けない……結果になって……」

 

永瀬は腰を柵に当てて、夕焼け色に染まる空を眺めた。

 

「人って………自分ってなんなんだろうね……。外見さえそのままなら、中身が入れ替わっても誰も気づかない。かと思えば……、誰かのふりをするだけで他人になれてしまう…………。太一が悪いわけじゃないよ!うん、全然悪くない!……こんな状況で言われたら、そう信じるしかない……、太一の反応は真っ当だったわけだ。だってずっとお互いがお互いの言っていることを信じるっていう信頼関係で、私たちは成り立ってたんだし……。あの……、本当にごめん。もう二度とあんなことはしないから……。本当に……ごめんなさい」

 

しゅんと、永瀬の姿勢が萎れ、謝罪、懺悔の言葉を口にした。

俺は、その姿を見て、背中を押された気がした。

 

「じゃあそれは……、永瀬が永瀬なりに考えて、進もうとした結果なんだろ?なら、ありがとう。だから、“次は俺の番だ”」

 

俺は今まで、それに気付かないでいた。

俺は今まで、それに見向きもせず生きてきた。

それは今さっき、核心に至った。

臆病なままでは、それを手に入れるに至らない。

進んでも、それが手に入らないかもしれない。

傷つくかもしれない。

でも………、それだけのリスクで、それは無限の可能性を秘めている。

 

「最近、いろんなことがあったけどさ……」

 

青木、桐山、名木沢、稲葉そして………永瀬………。

全ての事が自分の活動力になる。

 

「俺はそれで、たくさんのことを知ったし、学ぶ事ができた。それで、気づいたんだけどさ、俺って……………」

 

永瀬の瞳には、真剣な俺の顔が映っている。

 

「無表情な鈍感キャラっぽいんだ」

 

「……………知ってるよ?」

 

「あれっ」

 

衝撃の新事実だと思っていたのに…………。

 

「えっと……、まあ、簡単に言うと、永瀬に憧れているってことだ」

 

「憧れ………てる?こんな私に?」

 

「ああ、俺は永瀬みたいにいろんな表情で、笑ったり、怒ったり、喜んだり、悲しんだり、明るくなったり、暗くなったり、ふざけたり、真面目になったり……、まあ例をあげるときりがないからここで切るけど、やれたらいいなと、思ってるんだ」

 

そう、憧れてる。

色々な表情を次々と繰り出し、楽しく過ごしている、人生を楽しく生きている永瀬伊織に。

 

「で、でも……、それは私が演じて来たもの……であって……、憧れるようなものじゃない……。わた、私は……、ほんとの自分さえ見失った……、欠陥品なんだから」

 

「そんなことはない」

 

永瀬の時折見せる暗闇。

自分の中には、答えと呼べるかは分からないが、今の永瀬の欠陥品という言葉に関して、絶対的に否定できる物があったからだ。

 

「な、なんで、そんなきっぱり……」

 

永瀬は一瞬ぽかんとした後、そう尻すぼみに言いつつ、下を向く。

 

「ふざけたり、ボケたり、恥ずかしがったり、下ネタぶっ込んだり、無茶やったりやらせたり、ノリでなんでもやっちゃったり、実は策士だったり、勢いで暴走したり、その割に機微に敏感だったり、何も考えてなかったり、逆に深く考えすぎていたり、ポジティブだったりネガティヴだったり……………。どれが永瀬ってことじゃなく、“全てが永瀬だろう”?」

 

そう言い切った。

ふう、自分の言いたいことは全部言った。

 

「いや、待ってよ……。そんな人間いるわけ……」

 

「人に対して性格を変えるなんて誰でもやってるし、永瀬はそれが少し振り幅大きいだけだと思う」

 

そう言い切ると、永瀬と俺は思ったことを口にした。

 

「「…………ていうか途中からただの屁理屈だね(だな)」」

 

思わず2人で笑った。

ここ数年、ここまで全力で笑ったことは無いんじゃないかと、思うくらい。

だが、その笑いは、途中で途切れる事となる。

 

「あれ?龍斗?」

 

「え?」

 

橋で話していた俺らだったが、同じ文研部員である、名木沢龍斗が歩いてきたのだ。

だが、いつものどこか力の抜けた感じではない。

空気感は似ているが、どこか“生ぬるい”。

 

「どうも………、八重樫さん、永瀬さん」

 

「………フウセンカズラ……」

 

「……はい………、そうです……」

 

一気に壁を作るよう、俺は永瀬に寄る。

永瀬も威嚇するように、言う。

 

「な、何をしに来たの!?」

 

「ああ、少し………、まあ……、先に謝っておきます………、ごめんなさい……」

 

フウセンカズラはブレザーを脱いで永瀬に放る。

 

「ああ………、あなたたちが面白すぎるから……」

 

フウセンカズラは幅の狭い橋の手すりに登り、立つ。

 

「な……、に……を…………………?」

 

「ああ…………、だから……ごめんなさい……と………」

 

名木沢の体が、川の方に傾く。

だめだ、ダメだダメだダメだ!!!!!

 

「名木沢!!!!!」

 

俺は手を伸ばす。

指が名木沢の制服のズボンに届き、掴む。

だが………、すり抜け、名木沢は

 

 

ーーーーーーーー暗転ーーーーーーーーーーー

 

「おい、唯?青木?どうしたんだ!?」

 

見慣れた部室。

俺は桐山と入れ替わったようだ。

俺は桐山の姿で床にへたりこんでいる。

目線の先には、不安そうな稲葉と、絶望的な表情の青木が、いた。

 

 

 

ふと、目がさめる。

目の前には、太一、伊織、稲葉ん、唯がいた。

そしてここは、少し暗い廊下で、目の前のドアの上には手術中なるランプが赤く灯っている。

この身長からして、義文か……。

 

「ああ…………、事情は分かってるつもりだが………、溺死か?」

 

「まっだ死んでねえよ!!!」

 

べチンと稲葉んのツッコミが入る。

思いっきり頰を叩かれ、めっちゃ痛い。

稲葉達に説明された。

俺はあの橋でフウセンカズラに操られ、川に落ちたのだと。

太一と伊織がいたが、俺が落ちた瞬間、太一に義文が、伊織に唯が入れ替わったため急な判断ができなかったらしい。

まあ、救急車をすぐに呼んでくれたらしいから大丈夫だろうが。

気分は、なぜか少し好調だった。

 

「…………じゃあ、数分後には死ぬって事だ」

 

「なんで……、そんなあっさりしてるの?」

 

伊織が、震えた声で、そう聞いた。

俺は、少し考え、答える。

 

「別に、死ぬのが早いか遅いかだ。それに………、自分の“暴走”で“お前らが死ぬ”ことが無くなるんなら、俺は死ぬのは万々歳だ」

 

そう言った。

言ってしまった。

瞬間、稲葉んに叩かれた反対側の頰に、茶色の革靴がめり込む。

俺は吹っ飛ばされないよう腰を落とす事で、衝撃を回避した。

だが、これは痛い。

青木の体なのに容赦ないなぁ。

あ、青木の体だからか。

唯は俺に蹴りを放った後、吠えた

 

「ふざっけんじゃないわよ!」

 

唯は瞳に涙を溜め、怒鳴る。

 

「あんたが暴走することは、あたし達が傷つくときくらいでしょうが!!!」

 

「…………そう……だったか……」

 

俺は泣き崩れる唯を伊織に任せる。

 

「俺は、俺で死ぬ。だから、お前らと話させてくれないか?」

 

 

 

 

「なあ、なんで最初に俺なんだ?」

 

「いや、疲弊してたし……」

 

最初は義文だ。

太一の体を借りて話している。

一番最初に謝りたかったからだ。

 

「悪いな、お前の体で殴られたり蹴られたりして」

 

「ああ……、まあ、それはいいかな。そんなことより色々話そうぜ」

 

こういう時、義文の気前の良さにすごく助けられる。

相変わらず器のでかいやつだ。

 

「リョウ、頑張って、唯の中でお前を越えられるよう、頑張るよ」

 

そう言い切った

 

「あー、そういえば、お菓子どうなったんだ?」

 

「忘れてた!」

 

「おい!」

 

思わず笑う。

死ぬ間際だというのに。

 

「まあ、少なくとも、俺は伊織ちゃんと2人でムードメーカーするつもりだからさ。心配ご無用、ってな」

 

「……おう。元気でな」

 

「ああ……………ずっ………、じゃあな」

 

泣いている義文と抱きしめ合う。

これが最後だ……。

 

 

次は稲葉ん。

太一に体を借りたまま、話をすることにする。

 

「すまなかった」

 

稲葉んの開口一言が謝罪だった。

頭を下げ、そしてその一言。

 

「いや……、お前のせいじゃないし……」

 

「私がもう少し連絡を取っていれば……、こんなことには、ここまでひどくなることは無かった!!」

 

そう言いつつ稲葉んは頭を下げ続ける。

俺はしどろもどろになってしまう。

人に謝られることなど、全く体験したことないからだ。

参ったな、と思いつつ、なんと言えばいいか考える。

 

「そうだな………、じゃあ、お前さんが悪いと仮定しよう」

 

「いや……、事実そうだ……」

 

「だが、なんだ?お前さんが早く連絡したところで、太一に入った唯と、伊織に入った義文がすぐに行動できると思うか?」

 

「ぐっ……」

 

「パニックを起こしてどちらにしても遅れる確率の方が高いだろう?」

 

言い詰まる稲葉ん。

パニックになった状態だと、判断能力が著しく下がる。

あの状況で救急車を呼ぶ、周りの人に助けを求める、という判断は正解だ。

だが、まだ何か言いたそうなのでこう言った。

 

「過去は変えられん。これは事実だ。受け入れ難いとしても、お前らは受け入れないといけないんだ」

 

「そう…………だな………、だが、まだ死ぬと決まったわけじゃねぇ。私はそう、信じてるから、次が最後の一言だ」

 

「おう、どんとこい」

 

深呼吸して、稲葉んは言った。

 

「私は、お前に支えられて、多くのことをお前らと体験できた。だから、ありがとう。またな……」

 

瞳の端に涙を少し溜めながら言った稲葉の姿は、凛々しい姿と相まってかなり……、可愛かった。

 

 

次は太一、義文に再び体を借りて、話し合う。

未だに唯に蹴られた頰が痛い。

ごめん義文。

 

「すまなかった」

 

「お前も謝罪か、太一」

 

「…………なんだよ、かなり真面目に言ってるんだが……」

 

「残念ながら、俺は最後まで泣かないからな。お前らと違って毎日死ぬ覚悟してきたんだ。お前らに謝られたってなんも思わねえ。そもそも、男に真剣になられて、同性が喜ぶかよ」

 

「……………一部には」

 

「俺はホモじゃねえ、ガチレスすんな」

 

太一に対してだと、口が悪くなる傾向にあるようだ。

俺は自分で言いつつ、すまないと思ってしまっている。

 

「………伊織を頼んだぞ」

 

「なっ」

 

「稲葉もだ。お前になら、まあ、任せられんこともない」

 

「ま、待て待て。どうしてそんな話になる!」

 

この鈍感男はまだそういうことを言うのか。

 

「あの2人は少なくとも、お前に好印象を抱いている。心を開きやすいと思ったんだよ」

 

すると、太一の顔が赤くなっていった。

気に入らなかったので頭をはたく。

 

「いてっ」

 

「きめえ、まあいいか。んじゃ、次は唯」

 

 

 

唯。

今度は伊織に体を借りている。

 

「うっ…………ひずっ……」

 

「おい、そろそろ泣きやめ」

 

「ううう………、むりぃ………」

 

「ったく」

 

唯はずっと泣き続けている。

まあ、しょうがないか。

俺らは椅子に並んで座っている。

唯の頭を撫でつつ、肩に寄りかからせる。

 

「なあ、唯。俺を、安心させてくれ……。唯は、“強いだろ”……?」

 

「う………ん……………、がん……ばる………。ねぇ………、私………、言うの、忘れてた」

 

「ん?」

 

「私……、とっくに、リョウが、好きだったけど……、“ちょっと違った”の」

 

ああ、そうだったか。

俺らは向き合う。

 

「私はーーーーーーーーーーー」

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