――― 土星 ―――
土星…その美しき環を構成する大小問わない数多の衛星群の恩恵から移民者が多数いたゴールドラッシュならぬレアメタルラッシュで賑わっていた木星に次ぐ太陽系屈しの大型惑星である。
当然ながら地球側も土星の価値を理解しており、宇宙艦隊司令部が置かれる大規模基地が作られるだけでなく、多数のスペースコロニーが存在していた。
だがそれも今や昔話、ガミラス戦が勃発して更なる価値上昇があったものの、そのガミラスに制宙権を奪われると同時に殲滅戦が行われ……基地だけでなく、全てのスペースコロニーも破壊されて、それ等の残骸は環を構成する物質の1つとなり、静寂なゴーストタウンならぬゴーストスター(別の見方をすれば、人類到来前の状態に戻ったとも言える)となっていた。
『……此方、土星…此方、土星…』
だが土星の衛星の1つであるエンケラドゥス…土星内でも最大のレアメタルの鉱脈を持っている氷に覆われた極寒の星に墜落したスペースコロニーから微弱な通信が発せられていた。
「…キヌガサ、もう少し出力を上げた方が良いんじゃないか?」
「駄目。
此れ以上やるとガミラスに探知される危険性がある」
そしてそのスペースコロニーの通信室では、地球帰還が出来なくなるも、なんとか生き延びている艦娘達の一部である巡洋艦のカコとキヌガサが、自分達の生存を地球に知らせようと通信機を動かしながら調整していた。
「カコさん、キヌガサさん、状況はどうですか?」
「「…ハルナ」」
そんな2人の所に、土星で生存する艦娘達を束ねる一人である戦艦ハルナが訪ねた。
「……駄目だ。
どうやらガミラスが通信妨害を強くしていて、ノイズが酷くなっている」
「多分、通信衛星もガミラスに破壊されたか、奪われていると思います」
カコとキヌガサが申し訳なさそうな報告に、分かっていた事とは言え、ハルナが俯きながら溜め息を吐いた。
只、此の数日間、何故かガミラスが電波妨害を強めていたのは分かったが、その理由が分からない上に気のせいだと思い始めていたので、カコとキヌガサはその事を言わなかった。
「…もう少ししたらチョウカイさん達が帰ってきます。
チョウカイさん達は旧司令部で大型通信機を回収したそうなので、それでなんとか出来ませんか?」
数日前から食糧を調達する為に艦隊司令部があったタイタンに向かった巡洋艦チョウカイを旗艦として戦艦ヒュウガ、空母アカギとズイホウ、巡洋艦アオバ、駆逐艦アケボノとウシオの計7人が無事に帰ってくるだけでなく、食糧とは別の収穫物も得た事にカコとキヌガサは素直に嬉しそうにしたが、通信の事では二人揃って相手と目線を合わせた。
「…ユウバリさんを呼んで下さい。
どのみち、あの人に色々やってもらわないといけませんので…」
「……分かりました」
溜め息を大きく吐いたハルナがユウバリを呼びに行こうとし、少し間を置いてキヌガサがハルナを呼び止めた。
「……ハルナ!
チョウカイ達が帰ってくるのでしたら、私達は少しは楽になるから、ハルナも仮眠を取って」
元々、性格的に責任感が強いハルナはイセ、ヒュウガ、そして怪我人にも関わらずアカギが出ていって以降、生存者達1人1人を念入りに確認していたが、自分自身は寝食を取らずにいた為に気持ち窶れていた。
しかもハルナは此の数日間(と言っても土星と地球とでは時間が違うのだが…)全く寝ていなかった。
「……大丈夫です。
ハルナは、大丈夫です」
だが当のハルナはキヌガサとカコに振り向くと、笑顔でそれを拒絶して退室した。
そんなハルナにキヌガサとカコは暫く目線を合わせた後、揃って溜め息を吐いた。
「……ハルナは旗艦には向かないですね…」
で、当のハルナも、カコとキヌガサを気に掛けてしまった自分自身に失望して溜め息を吐きながら廊下を歩いていた。
更に外が見渡せる場所を過ぎようとしたが、思わずそちらに振り向いて立ち止まっていた。
そしてそこから見えるエンケラドゥスの氷原には亡くなった艦娘達への、艤装や鉄骨で作られた墓標が大量に立てられていた。
(……ずっと……ずっと、榛名は悔やんでました…)
「…っ!」
ハルナの心情に連動したのか、通路の奥の方から幻聴が聞こえて、ハルナはそちらに振り向き、そこにはハルナと瓜二つの女性……ハルナの先代である金剛級巡洋戦艦三番艦榛名の幻が立っていた。
「……榛名の、亡霊ですか…」
艦娘には過去に活躍した者の名を引き継ぐ者が多数いたのだが、極稀に先代(特に深海棲艦戦時のが多い)の記憶を引き継ぐ事があった。
現在でも此の現象は防衛軍でも研究が続いているも、未だに解明出来ない上に一部からは精神病の一種等で片付けられて、艦娘達の中でも否定する者がいた。
だがハルナは此の現象が強く出ていて、しかも巡洋戦艦榛名だけでなく、護衛艦たかつき、護衛艦もちづき、護衛艦ゆきかぜ、潜水艦なるしおの4人を随伴艦として衝突炎上事故を起こした『第十雄洋丸』を撃沈処分(第十雄洋丸事件)を施して唯一自衛隊で“殺さず”を貫けなかった護衛艦はるなの亡霊に近い者達をよく目撃していたのだ。
しかも何故か此処数日間は榛名をよく見るようになっていた。
(…沖縄に深海棲艦が侵攻してきた時、榛名は怪我で動けませんでした。
だけど、その為に……その為に、大和1人に重石を背負わせてしまいました…)
先代榛名は深海棲艦との戦いの殆どで最前線に居続けた上、艦娘として活動出来なくなった後も滅亡して行く日本を見続けた為にかなり無念が強く、此の為かハルナは先代の亡霊を見る事が多数あったのだ。
で、近日から先代榛名が言うだけでなく、夢でも見せられるのが、深海棲艦末期に沖縄への艦隊特攻に赴こうとする大和とのやり取りであった。
此れには榛名が大和の教導艦の1人で彼女と親しくしていたのに、大和の特攻を止めたり、艦隊同行すらも出来ず、ただ大和を見送る事しか出来なかった事への無念と罪悪感であった。
「……はぁ…」
榛名の幻が消えた後も、幻がいた方向を見詰め続けていたハルナは溜め息を吐いた後、再び通路を歩んでいき……目的地である大部屋に入った。
「大丈夫ですか?
何処か痛みますか?」
「カザグモ、痛み止を持ってきて!」
「ユウグモ姉さん、もうありません!」
「じゃあ、取ってくる!」
「ユウバリさん、此方に来てください!」
で、その大部屋には傷付いた艦娘達が呻き声を時折上げながら床に寝ていて、その中を巡洋艦ユウバリが巡洋艦ザラ、ユウグモ級駆逐艦の姉妹であるユウグモとカザグモ、戦艦イセの計4人(イセが倉庫に走っていったが…)を従えて出来る限りの治療をしていた。
「しっかりしろ!」
「水が欲しいんですね?」
「フルタカ、此れを使って」
更にユウバリの手伝いは直接出来なくても、片目を包帯で覆っている巡洋艦テンリュウとフルタカ、服で見えないが胴体の大半を包帯で覆っている駆逐艦レーベレヒト・マーズ(通称:レーベ)の計3人が怪我人達1人1人の脈を確認しながら声を掛けていた。
「ああ、ハルナ、戻ったんだ」
「…シグレ、ハルナが分かるのですか?」
そんな6人を見ながら奥に進んでいたハルナだったが、壁に凭れて座っていたシグレに呼ばれて驚いていた。
と言うのも、シグレは両目を包帯で覆っていたので視覚を失っていたからだ。
「なに、気配や足音でなんとなくでだよ」
シグレは笑ってはいたが、失明はしていないものの、目が見えない事には変わりなく、その事での不安や不自由さを表面に出さないでいた。
「だが僕よりもアッチが気になるんじゃないんか?」
「え、ええ…」
シグレが言う通り、ハルナが気にしている艦娘は、下半分以下が失われた左太股が包帯で覆われている巡洋艦ナチと、首に包帯を巻いている巡洋艦ノシロの2人が左右から気にされていた。
「……う、ううぅ~…」
「「…っ! コンゴウ!!」」
艦娘ことコンゴウは今まで寝ていた様だったが、呻き声を上げながら起きた事にナチとノシロが反応した。
「コンゴウ姉様!」
「ユウバリ、コンゴウが目を覚ました!
早く此方に来てくれ!」
更にハルナが姉コンゴウの所に急いで駆け寄り、ナチがユウバリを呼んだ。
「…Hey、ハルナ、なんて顔をしているのデスカ?
そんなんでは折角の美人が台無しデスヨ」
ハルナの表情からコンゴウはちゃかしを入れて、ハルナの胸を叩こうとしていたが、自分の両腕が失われている事に気付いて苦笑していた。
いや、コンゴウは両腕処か、両足も失い、更に残っている身体の至る所を包帯を巻いていて、胴体部分のボロボロの白い着物が包帯越しにも関わらずに血で赤く染まっていた。
因みにコンゴウの左頬に大きな切り傷が出来ていたが、此れのみは縫合によって痕は残ってはいたが治るに至っていた。
「…っ、畜生。
アカシかチトセが居れば…」
駆け寄ったユウバリがコンゴウの具合に歯軋りしながら処置をしている通り、本来コンゴウは冗談とかを言える状態ではなく、今すぐにでも本格的な治療をしないといけない危険域をとっくに通り過ぎているのだが、コンゴウは激痛を耐えながら普段通りの自分を……陽気な宇宙戦艦コンゴウを最後まで演じてハルナ達を元気付けようとしていた。
だが、全員がコンゴウの様に出来る訳がなく、現状に悲観して“死ぬなら地球で”と思って脱走した者達は少なくはなく、その事がハルナ達を益々追い込んでいた。
だからこそ、コンゴウに他の者達は元気を与えられていた。
不幸中の幸いなのは、此のコロニーは主要鉱山の遥か彼方に落下していた上、警戒していないガミラスは土星に基地等の施設を作らずに警備か輸送の小規模艦隊しか配備させておらず、しかも輸送ワ級を護衛無しで時折エンケラドゥスの上空を通過させているのみだし、更に先日入港した決死輸送船団に保護していた非戦闘員を押し込んだお陰で食料や医薬品にかなり余裕が出来た事であった。
「ごめん、コンゴウ、私では此処までしか…」
「そんな顔をしちゃ、Noヨ。
治療の要のYouが不安になってたら、怪我人達がもっと不安になっちゃうデショ」
元々ユウバリは艤装の修理や整備の専門で、艦娘自体への治療は不得意であり、彼女では応急的な事までしか出来ない為に救える筈の艦娘達を次々に死なせてしまった事に何度も悔しい思いをしてきていた。
只、艦娘用の
だが、コロニーの動力炉が瀕死の為に入渠ドックは使用不可、例え動力炉を直せたとしても、入渠ドックを使えばガミラスに探知される公算が大の為、どのみち使う事が出来なかった。
「誤解してるかもしんないけど、私は此れでも幸運だったのヨ。
ユキカゼがハルナ達を呼んでくれなかったら、私は今頃ガミラスの捕虜だったんですから………?
そう言えば、ユキカゼは?」
「…ユキカゼなら……チョウカイ達と一緒にタイタンへ食料を取りに行きました。
あの娘は強運ですから、ビフテキとか高価な物を持って帰ってきてくれますよ」
先の決死輸送船団を見送った後、傷付いたユキカゼが奇跡的に此のエンケラドゥスに辿り着いた事で、木星沖海戦を知ったハルナ達が原場へと向かい……コンゴウを連行(or曳航)していた軽巡ト級から、コンゴウを奪還する事が出来たのだ。
で、そのコンゴウを救う要因となったユキカゼはと言うと、残念ながらハルナ達に保護されて暫くした後に亡くなっていたが、コンゴウを落ち込ませたくない一心でノシロはユキカゼ生存の嘘を言った。
尤もナチがギョッとした事もあり、多分見抜かれていたと思われるが、ノシロの嘘にコンゴウは「そう、デスカ」と言って微笑んだが、その直後にコンゴウが数度咳き込んで吐血した。
「…ハルナ!!
チョット通信室に来てくれ!」
そんな時に血相を変えたカコがハルナを呼びにきて、そのハルナが“行く”か“拒否”するかで迷っていたが、ユウバリ達の処置を受けているコンゴウが咳き込みながらも目で「Go!」と言ったのを確認し、未練を感じさせながらカコの所に行き、一度コンゴウへ振り向いた後に先に行ったカコを追って通信室へ走っていった。
『…彼等、イs…カン………んは……z…』
で通信室に入ると、キヌガサが左耳にインカムを押さえながら通信機を必死に弄っており、カコも到着すると直ぐにキヌガサを手伝っていた。
「キヌガサさん、どうしたのです!?」
「さっきから地球からの一方通信が入ったんです!
しかも此れは藤堂長官直々のです!」
“藤堂”の単語が出た時点で重要なモノだと分かり、ハルナも通信機に取り付いて調整をした。
だがノイズだらけの通信は少しして切れてしまったが、キヌガサだけは通信のある程度が聞けたらしく、少しの間だけ硬直した後に宇宙地図を取り出して何かを確認していた。
「どうしたんだよ、キヌガサ?」
「…何でかは知らないけど……防衛軍は、日本に最後の戦艦娘を主体にした艦隊を編成させて、大マゼラン銀河のイスカンダルって言う惑星へ遠征させるんだって!!」
何故そうするのかは分からないが、少なくとも大規模になるだろう遠征艦隊には間違いなくアカシやチトセが同伴する、そして地球に残っている日本の戦艦娘……10人中でコンゴウ、ハルナ、イセ、ヒュウガの4人は此の土星にいて、ナガト、フソウ、ヤマシロの3人は既に亡く、ムツとヒエイの2人は
「やったぞ、キヌガサ!!」
「此れで地球に帰れる!!」
此の事でカコとキヌガサがお互いの肩を抱き合って喜んでいて、ハルナも此の事をコンゴウ達に知らせようと急いで走っていった。
「…姉様、コンゴウ姉様!!
地球から艦隊が来ます!
きっとキリシマ達が近くに来てくれます!………っ!?」
コンゴウに朗報を伝えようとしたハルナだったが、そのコンゴウの近くでユウグモ、カザグモ、ユウバリの3人は屈んで、シグレは両足を抱えて丸くなって、テンリュウは壁に頭を付けながら殴り続けて、フルタカとノシロは立って天井を向いて泣いていて、ナチ、ザラ、レーベの3人は泣かずに悔しさを滲ませている光景から全てを察した。
此れはハルナの背後でいつの間にかにいるも、段ボールを落としていたイセも同じであった。
「……そんな…」
…コンゴウが死んだ……自分の役目を終えたのを察したかの様に笑みを浮かべて二度と動かなくなっていた。
その胸元の袖口からは、コンゴウ級の4姉妹揃っての写真が、血塗れ且つ皺だらけの状態で僅かに出ていた。
「ねえぇさまあぁぁー!!!」
ハルナの絶叫が虚しくコロニー内で響いていた…
大和
「作者に代わって、感想か御意見を御待ちしています」
武蔵
「金剛(コンゴウ)が逝ったか…」
大和
「ええ、生きて同行してくれたら、戦闘面は兎も角として、精神面では頼もしい存在になってくれた筈ですから…」
武蔵
「そう言えば大和、作者はどうした?」
大和
「作者なら…」
比叡
「作者は何所ですか!!?
“ゴジラvsモゲラ”だけでなく、金剛お姉様を、あの様に死なせた、あの馬鹿作者は何所に行きました!!?」
大和
「さ、作者なら、ついさっき、ガミラス戦で亡くなった艦娘達の供養をしに、高野山に行きました!」
武蔵
「だからそのガンダム試作二号機みたいな楯とバズーカを下ろせ!」
最後に一つ、微々たるモノですが、プロローグでの古代兄弟の先祖である少年の両親が何所で死んだのかを、一話での大和の同世代の戦艦娘にウォースパイトを(ガングート? アイツは諦めろ)、各々追加しました。
特に父親のは“古代”の姓と、松本零士作品を知っていれば、ニヤリとするかもしれません………っ!?
比叡
「見付けました!!!
作者、ちょっとお話があります!!」
ぎゃあぁぁー!!!
此所まで追い掛けてきたぁぁー!!!
そして、話し合うスタイルじゃなぁぁーい!!!
大和&武蔵
「「……雉も鳴かずば撃たれまい…」」
本作でのヤマトの最後はどうしてほしい?
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実写版通りに、特攻
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なんとしてでも、地球に帰還