――― 呉 ―――
『…キリシマ、何をやっている?』
通信が繋がっての沖田のキリシマへの一言は此れであった。
「呉の艦娘詰所が崩落して艦娘達が全滅したのです」
そのキリシマの皮肉を込めた報告に、沖田が僅かに反応した。
『…そうか』
だがそれでも軽い返事をした沖田に、キリシマや周囲の者達がギョッとした。
「…そうか…って呉の艦娘が全滅したのですよ!
戦力に致命傷を受けたのですよ!」
『そんな事は分かっている。
だがそれでもガミラスの攻撃は続いているのだろ?』
嫌な事だが、確かに沖田の言う通り、ガミラス艦隊は地盤が緩んだ崩落箇所の周辺への攻撃を続けていた。
当然、このまま何もしなければ艦娘詰所や工廠処か、呉の地下都市その物が住民諸共失われる公算が大であった。
『それに戦うべき時に何故戦わん?』
「…っ!?」
通常なら誤解を招きかねない発言で、実際に大和が軽蔑する様な目線を向けていたが、沖田と長い付き合いのキリシマは彼が何を言っているかを……何より沖田が諦めていない事を察して驚いていた。
「…まだ勝機が失われていないと言うのですか?」
キリシマの質問に沖田が頷いた事に……此の絶望的戦況でまだ勝機があるとの事に、誰もが驚き戸惑っていた。
『…キリシマ、大和を出せれるか?』
「大和!? 大和を出すと言うのですか!?
あの娘の艤装は…」
『飛行出来なくても砲台くらいにはなるだろ?
それとも主砲は撃てないのか?』
勝利の鍵が大和だと言われたキリシマは、思わず壁に凭れている大和に振り向いた。
「…取り敢えず三式でのならば」
キリシマの報告を沖田は「そうか」と納得していたが、大和本人は兎も角として、彼女の艤装が撃つ処か動かすのも怪しいと思う程、錆の塊と化している見た目に兵卒達は疑っていた。
『横須賀と舞鶴から増援を向かわせた。
せめてヌ級をしとめろ』
「分かりました。
やってみます」
沖田に敬礼したキリシマは若干硬直した後、大和に振り向いた。
「……大和…」
「嫌です」
まぁ分かっていたが、自分が言い切る前に出撃を拒否した大和に、キリシマが唇を噛みながら頭を掻いていた。
「此の現状を分かっているのですか!?」
「はい、現在重武装の敵艦隊の攻撃を受けていると言う事をです」
此の大和の言葉に、キリシマの何かが切れようとしていた。
「あれ位の敵戦力でしたら、別に出なくてもほっておけば、勝手に引き上げると思いますよ」
「…貴女、出撃を拒否した艦娘がどんな処分を受けるか知ってるわよね?」
「解体される方がマシです。
天一号みたいな事強要されるくらいならね」
「…何ですって!?」
脅しに近い形のカマが空振りになる処か、大和の天一号の単語にキリシマが反応した。
「あの沖田って人は勝つ為なら艦娘を切り捨てるような人じゃないですか。
実際あの人の指揮下でかなりの艦娘が戦死やMIAになっているじょないですか」
大和の指摘にキリシマは歯軋りをしながら黙ってしまった。
「あの人だって連合艦隊司令部の面々と同じです。
艦娘達には死を強要させて、何だかんだ言って自分は生き残る人でs、っ!」
沖田の悪口を言っていた大和にキリシマの強烈なビンタが炸裂した。
「……それ以上の沖田提督への暴言は許しません!」
兵卒達が後ずさる程、キリシマから怒気が感じられていた。
「貴女はあの人の側で戦っていないから、そんな事が言えるのです!
私もコンゴウ姉様達を死なせたあの人を恨んだ事もありますが、あの人は私達艦娘以上に死者達の業を背負っているのです!」
「…そうですよ。
戦えなかった私が分かる筈が無いじゃないですか」
大和の返事に、先述の何かが完全に切れたキリシマが近くの金属パイプを掴むと、力任せに剥ぎ取って大和に振り向いた。
「…海軍精神注入棒ですか」
簡単に予測出来るキリシマが行おうとする行為に、兵卒達は顔を青くして硬直していたが、大和は負の何かを感じさせる微笑をした。
「……分かってますよ、沖田提督…」
「……?」
だが大和達の予想に反して、パイプを振り上げて少しの間硬直したキリシマは、自分の右腕を固めていたギブスをパイプでおもいっきり殴った。
当然ながらキリシマは悲鳴を上げながら右腕を押さえて屈んだ
「…どうして?
殴る価値無しだと言うのですか?」
「……か、勘違いしないで下さい」
キリシマの行為に大和が驚き戸惑っていたが、直ぐにキリシマはひび割れ箇所に左手を突っ込むと、そのままギブスを力任せに引き裂いた。
「…防衛艦隊は連合艦隊と違って暴力行為や、力でのごり押しを基本禁止しているのです。
それに沖田提督はそう言うのに厳しい人ですから」
「だからと言って…」
「私も今から坊ノ岬に行ってきますから、おあいこですからね」
キリシマの言った意味を理解出来ない大和はキョトンとしていた。
「確かにあの作戦は愚行の中の愚行の、作戦とは言えないモノで、ひねくれるのも分かります。
ですが、そんな馬鹿な作戦に……十死零生の愚行に大和、貴女自身が自分に命じた筈です。
それも直属の上官であった伊藤整一提督や駆逐艦達の反対を押し切ってです。
最も此れは沖田提督の推測ですけどね」
最後の部分で苦笑したキリシマに、大和は何か反論しようとしていたが、何故か言葉を飲み込んでしまった。
「舞鶴方面からナガラ以下の水雷戦隊が到着した模様です!」
「…分かりました。
大和、貴女は諦めない心と、負けを認めて帰る勇気を持ち合わせた、誰よりも心の強さを持っていると信じています」
兵卒の言う通りなのか、ガミラス艦隊の攻撃による震動がいつの間にか止んでいて、此の急所間にキリシマは自分の艤装を纏い始めていた。
「航行に支障がでない様になんとか修理は出来ましたが、まともな武装は副砲以下僅かしかありませんので…」
「分かったわ」
艤装の状態の報告して出来れば止めようとしていた兵卒を遮って射出台に上ったキリシマだったが、何か思う事があるのか、目を瞑って溜め息を大きく吐いていた。
「……見ていなさい、悪魔達。
私も最後まで戦い続けるわよ。
例え最後の一人になったって………私は決して絶望しない!」
木星沖海戦から帰還後に、自分に言い聞かせる様に一人呟いていた沖田の姿が頭に浮かび、それと似たような事を言いながら顔の包帯を外すと射出機を起動させ、深海悽艦戦とは違って、真上に向かって勢いよく打ち出されていった。
「……その先にあるのは絶望しか無いのですよ。
その事が坊ノ岬でよく分かったんですよ、私は…」
大和の不吉な呟きに、キリシマを敬礼しながら見送った兵卒達は誰も気づいていなかった…
――― 数刻前・艦娘詰所 ―――
『…直ちに戦闘配備!
繰り返す、ガミラス艦隊接近!
総員戦闘配備!…』
「…ガミラス艦隊の攻撃が始まったそうです!
直ちに戦闘配備に入るようにとの指令が入りました!」
キリシマが大和を連れて射出室に入るのとほぼ同時刻、艦娘達の詰所では放送だけでなく、駆け込んだオオヨドの伝令でも伝えられていた。
「とても戦える状態じゃないのよ!
土方の糞提督は何言ってんのよ!」
「そんな事、私に言われても知りません!
それに土方提督は不在の様です」
だがカスミが反論した通り、此所にいる艦娘達はカスミが体の至る所に包帯を巻いている姿から見て取れる様に、誰もがガミラスにやられて傷付いていた。
しかもその殆どが立ち上がる処か、ベッドの上で動けず寝ている状態で、オオヨドやカスミ以外で取り敢えず歩ける者は十人に満たないでいた。
「しかしこのままでじゃあ、此所だけでなく、呉そのモノがやられるわよ」
「それにやられっぱなしってのも癪だぜ」
只、それでもイスズやアサシモの様に戦闘服に着替えて準備を始め、寝ている者達の中にも起き上がろうとしている者が多数いた。
「アンタ達、馬鹿なの!?
例え此れを凌いでも特攻をさせられるかもしれないのよ!」
だがカスミの言う通り、木星沖海戦での大敗に加えて地球脱出作戦を聞いて、戦う事に疑問を抱いている者がかないるのか、何人かの艦娘が反応している事から嘗ての帝国海軍の様に「御国の為に」との一言が通用しなくなっている様だった。
「だからこそ出ないと。
今の上層部だと出撃拒否をした者を即解体処分にしかねませんよ」
「それは……確かにそうだけど…」
「それにカスミ、貴女はガミラスに尻尾を巻く気ですか?」
ハマカゼの指摘だけでなく、イソカゼの発破にカスミがムッとなってやる気を見せた事に、当人に気付かれない様にハマカゼとイソカゼがサムズアップをし合っていた。
まぁ最も、元々素直な性格でないカスミが、本気で拒否する気が無いを知っていたからの二人の手であった。
「それに、どうもキリシマだけでなく大和の出るみたいよ」
「大和!? 大和がいるの!?」
更に此の間にオオヨドとやり取りをしていたイスズから大和の存在を伝えられて、最初は驚いていたカスミだったが、俄然やる気になっていた。
只、キリシマの存在にイソカゼとハマカゼが露骨に嫌そうにしていたが…
「…でも大和の艤装はまだ水上用のだから、まだ飛べないのよ」
「だから私達が殆ど動けない大和を援護しないといけないのね」
イソカゼの言葉に全員が一斉に頷いた。
「…アキヅキさん、艤装の準備を出来てますか!?」
「はい、何時でもいけます!!」
方針が決まり、最後にオオヨドが自分達の艤装の準備をしていたアキヅキに質問し、そのアキヅキ(と長10cm砲ちゃんx2)が問題がない事を伝えた。
「…水雷戦隊、出るわよ!!」
イスズの号令にカスミ以下の駆逐艦娘達四人(オオヨドが出遅れていたが…)が「おお!!」と一斉に答えて、大破して寝ている者達が見送る中を出撃しようとしたが、特大の爆発音が聞こえたと思ったら天井が崩落して、此の場にいる者達全員を彼女達の悲鳴諸共飲み込んでしまった。
「…っ!?……う………うわ!!」
暫くした後、キリシマの命令で見に来た兵卒が、崩落した艦娘達の詰所の現状に顔面蒼白になって座り込んでしまい、少しして慌てて立ち上がると、そのまま悲鳴を上げながら戻っていった。
だがその直後から崩落箇所で、打撃音とも爆発音とも取れる音が響き始めていた。
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