提督の布団にもぐりこむ駆逐艦の話   作:しらこ0040

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【私のご主人様】

 

 その後、話したりない(#゜Д゜)/と騒ぐ漣をなんとかなだめて、私は毛布を深くかぶった。

 

「じゃあ、提督ぶとんやります」

 

 初雪から聞いたのだろうか。漣もかつて、提督ぶとんを嗜んだ駆逐艦の一人であった。

 私は布団を丸めて作った隙間に彼女をいざなう。

 

「ほら、こっち来い」

 

 私の腕の中に納まった漣が、すんすんと鼻先を私の胸にこすり付ける。私は気恥ずかしくなって、彼女を抱きしめたまま上から毛布を掛けた。漣は一通り満喫したのか、やや満足げな表情で私を見上げた。 

 

「一緒に眠るのなんて、ほんとに久しぶりですね」

 

 たしかに。

 提督ぶとんが廃止されて以降、こうやって艦娘といっしょに布団に入るという事自体がまれであった。このたび提督ぶとんが復活するまで、おおよそ一年近い期間だ。

 

 しかし、こうやって漣と共に床につくのは、もう一つ特別な意味があった。

 

「初めは、私とおまえの二人きりだったからな」

 

「はい…」

 

 漣は私の初期艦だった。

 

 あの時は、この大きな鎮守府で二人、肩を寄せ合って眠ったのだ。お互いに不安があり、二人とも否応なくぬくもりを求めていた。

 

 あの時の私は、側に寄り添うこの駆逐艦の事を愛していただろうか。艦娘と深海棲艦、何も知らなかったあの時。純粋な気持ちでこの小さな軍艦を受け入れていただろうか。

 

 5年前。全てを知り、信条も誇りも、全てを捨てたあの日。大事なものを置いてきてしまったのではないか。

 

「漣、お前は私の艦娘(ふね)だ」  

 

「はい、ご主人様…」

 

 あの夜と同じ暖かさを抱きしめながら、夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

【エピローグ:悪意の混入】

 

 翌日の作戦棟。

 ミーティングルームの長机に一人、艦娘が腰かけていた。がらんとした部屋の隅で、頭を抱えている。

 彼女は今朝久しぶりに作戦棟に足を踏み入れた。提督から呼び出しを受けていたのだ。

 

 

 

「軽巡…じゃなかった、雷巡「北上」。えー、召集に対し参上しました」

 

「雷巡洋艦「北上」。本日付で諸艦を駆逐艦嚮導に任命する」

 

「う~い。え、ええええええええっ!?きょ、嚮導!?ガキどもの?や、嫌ですはい!ダルい、面倒くさい!!!」

 

「おまえこれを機会に駆逐艦(こども)嫌い直せ、そんなんだから雷巡で唯一艦隊入り逃してんだろうが!」

 

「やだー、やだー、え!?うそでしょ!まじかよやってらんない助けて大井っちー!」

 

 

 

 以上回想。

 北上はそのままミーティングルームまで重い頭を抱えてやってきたのだ。苛立った様子で結わいた髪を弄び、指先ではじくを繰り返していた。

 

「なんで、アタシが嚮導…しかも小うるさい駆逐艦なんか…」

 

 平穏で喉かで退屈な鎮守府ライフに訪れた、願っても無いサプライズ。

 

「なんか、何とかして辞めなければ。例えば駆逐艦(ガキども)を片端からくびり殺すとか。あー、いやアタシ自身が手を下しちゃダメか。無茶苦茶な指導をして轟沈させる、これか。だが、指導元がアタシである以上、直接手を下してるのとあまり変わらない気もする。駆逐艦が自主的に行える事で、できるだけアタシが責任逃れできる方法…」

 

「北上さん」

 

 うんうんと唸り声を上げて頭を悩ませる北上は、呼び立てられる声に気付いて顔を上げた。ちんちくりんの前嚮導殿が部屋の入り口にちょこんと立って彼女を見上げていた。

 

「申し訳ございません、お待たせして」

 

 その駆逐艦は駆け足で近寄ってきて、北上の隣の椅子に腰かけた。椅子に座ったまま北上に正面から向き合って、深く頭を下げた。

 

「前嚮導艦「漣」です。業務の引き継ぎに参りました」

 

 そう言って漣は抱えてきた書類を北上に手渡した。

 

「なんだコレ漣っぺが作ったの?優秀ジャン、なんでこれでクビになるんだよ…」

 

「そ、それは…はは」

 

 漣はバツが悪そうに頭を掻いた。口で言いつつも対して興味のない北上は、それを無視して書類に目を落とした。

 業務手順と事務フロー、諸注意を書き綴ったメモやら年功行事のスケジュールなど。見ているだけで頭痛がしてくる。

 

「何これ?『駆逐艦による待遇改善要望申請会【もぐりこみ】』?」

 

 北上はその中に、薄い用紙の走り書きのメモを見つける。それは手書きの報告書であった。その一枚を抜き出して問う。漣はそれを見て焦ったように説明しだした。

 

「あ、それ漣が最後まで担当してた案件で、まあそれやったせいでクビにされちゃったんですけど…」

 

 この報告書には提督の承諾印が無い。それだけで北上は事情のある程度を察した。 

 

「ふーん、これやったら「クビになっちゃった」んだ、へ~」

 

 内容をざっと読み流し把握する。

 実に馬鹿な駆逐艦の考えそうな、パーフェクトな計画だ。

 何がパーフェクトかって、駆逐艦をちょいとそそのかせばアタシは何もしなくていい。ってところがスーパーにパーフェクトだ。

 

 北上は口の端を歪めて笑みの形を作り、すぐにそれを漣に悟られないように書類の陰に隠した。

 

「採用」

 

 まとめた書類の中に手書きの報告書を持って席を立った時、北上は先ほどの苦悩が嘘のように上機嫌だった。

 

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