提督の布団にもぐりこむ駆逐艦の話   作:しらこ0040

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【鎮守府の眠り姫】

「うわぁ!!」

 

  私は暗中からのささやきに、驚愕して腰を浮かせた。

 

「誰だ!!は、初雪…か?」

 

「眠い…」

 

 私は飛び上がって、部屋の電気をつけた。部屋のサイズに似つかわしくない大きなベッドの中心で、毛布の下でもぞもぞと何かがうごめいている。

 

「初雪だな!ど、どこから入った!」

 

「窓が開いてた…」

 

「空いてたってな…」

 

 この部屋は作戦棟の三階だ。窓の外では植込みの大木の枝がゆらゆらと風に揺れている。

 

「か、感心しないな。何か私に用か?」

 

「スー、スー、」

 

「寝るな!初雪!」

 

 私は力まかせに布団をひっぺがした。中から飛び出したセーラー服の少女がごろごろと転がり、ベッドの上で大の字に寝転がった。初雪は薄目を開けて、瞳の動きだけで私を睨み付けた。

 

「なに?眠いんだけど…」

 

「それなら自室で寝るといい」

 

「ダメ…こういう作戦だから…」

 

 今【作戦】と言ったか。駆逐艦は皆いたずら好きだ。最近はすっかり忘れていたが、着任当初はよくからかわれて頭を抱えたものだ。

 

「その【作戦】の報告書はちゃんと秘書艦を通したのかい?」

 

「うんにゃ…」

 

「悪いヤツめ」

 

 初雪は私がこの鎮守府を任された頃から共にいる古株で、かつては主力艦として深海棲艦と戦っていた。ただ戦闘の激化と共に艦隊に戦艦や空母が増えてくると、自ら前線を降りて今は主に遠征任務についていた。かつては私の秘書官だった事もあり、多少は気心の知れた艦娘(ふね)だった。

 しかし…。

 

「ひさしぶり…」

 

 彼女は抑揚のない声でそう言った。元秘書艦とはいえ、今や数多い駆逐艦娘の中の一隻、共に海を駆けた記憶はもう過去のものになりつつある。

 

「もう夜も遅い、嚮導は何をしているんだ」

 

「嚮導艦の許可は取ってある…」

 

 駆逐艦の嚮導艦は漣だ。明日灸を据えなければ。

 

「で、駆逐艦達で何か企んでるのか?」

 

「うん…」

 

  初雪は隠すそぶりも無く、こくこくと頷いた。

 

「初雪、私への意見具申は秘書艦を通して…」

 

「嫌…」

 

  一蹴される。

 

「……」

 

「今日はここで寝る。提督とお話しする…」

 

「まったく…」

 

 「話す事など無い」などとは口が裂けても言えなかった。私はベッドに手をついて初雪の横に腰を下ろした。初雪はそんな私を見上げて、まぶたをすぼめて眠そうな声で続けた。

 

鎮守府(ここ)は変わった…」

 

「……」

 

駆逐艦(わたしたち)はもうお荷物?」

 

 愁いを帯びたような声色に、ひやりと心臓をなでられる。初雪の言葉が、私の心臓に焼印の如く押し当てられていた。ちりちりとした熱い痛みに、私は否応にも眉間のしわを深めざるをえなかった。

 

「そんな訳あるか、駆逐隊は鎮守府の誇りだ」

 

 本心からの言葉だった。しかし、実際に駆逐艦(かのじょたち)がそれを自覚できていないのは、初雪が直接ここに来た事からも明白であった。

 

「みんな、提督の言葉を聞きたがってる…」

 

 気づけば初雪がまっすぐに私を見つめていた。私は思わず彼女から視線を外に逸らし、極力意識しないようにして初雪に背を向けてベッドに座り込んだ。

 

「駆逐艦の運用は目下検討中だ。じき攻勢作戦が始まれば彼女達の艦娘魂を頼りにする時が来る。それまで…」

 

「そうじゃない…」

 

「……」

 

「そういう事じゃない」

 

 わかってるよ、そんな事っ!

 

 私は心の中で舌打ちし、眉間に皺をよせて考え込んだ。彼女たちが望んでいるのはそういうものじゃない。いっその事私が直接にでも駆逐艦寮の様子を見に行けばいいのだ。彼女たちとふれあい、声を聞く場を用意すればいい。しかし…。

 

「できれば、やっているさ…」

 

 口に出しておいて真っ先にやってきた後悔の念に、私は両手で顔を覆った。「やってしまった」という行き場の無い後悔が、出口を求めて頭の中でぐるぐるしている。

 今のは完全に弱音、というか私側の言い訳に過ぎない。しかも秘書艦に洩らすでもなく、駆逐艦代表?の彼女にそれを伝えるとは。「今は大変な時期だからマジでちょっとまっててね」と言うようなものだ。

 彼女はそれを受け入れるしかない。それが何の解決にもなっていない事を知りながら。初雪がここまで来てくれた勇気も決意も、背負っているであろう駆逐艦娘達の意思も、その全てを不意にする事になる。

 私は目をつぶって彼女の返事を待った。ジクジクとした鈍い痛みが、胸の奥でその領域を広げていった。

 

 しかし、初雪から放たれた言葉は、私の思いもよらぬ一言だった。

 

「これから毎晩来るから…」

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