提督の布団にもぐりこむ駆逐艦の話   作:しらこ0040

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【真実の炎(ひ)】

 翌朝の司令室。

 そこには三人の影があった。机を挟んで向かい合う提督と「監察艦」大淀。そして不安げな表情で提督の横に並び立つ不知火。大淀は提督より一通りの説明を聞き、十分に吟味した上で大きくうなずいた。

 

「解体しましょう」

 

 指令室の真ん中で、大淀がにっこりとほほ笑む。

 

「解体しましょう」

 

「私の話聞いてた?」

 

 机に座って肩をすくめる提督に対し、大淀は眼鏡をギラつかせてぐいと迫った。

 

「弾の撃てない大砲の維持にかける費用はありません」

 

 その言葉に不知火は小さく身を縮こませる。体の前で組んだ指を強く握りこむ。提督は横目でその仕草を確認し、それを気取られぬようにすばやく正面へ視線を戻した。

 

「不知火には私から仕事を与える」

 

 大淀はその言葉を聞くと、「またか」とばかりに眉をひそめて大きくため息をついた。

 

「はいはい、飲み屋の女将の次は何ですか?お皿洗いですか?ゴミ出しですか?」

 

「不知火は大淀の秘書にする」

 

「はい、なんか言い出したよこの人」

 

 訝しげに眉間のしわを深める大淀に向かって、不知火が一歩歩を進める。

 そして大声で宣言した。

 

「宜しくお願いします、大淀お姉ちゃん」

 

「なにこれ可愛い!秘書にしたい!」

 

「決定」

 

 指を鳴らす提督、表情を咲かせる不知火、大淀はすぐさまげんなりと頭を抱えた。

 

「そもそも私はもうこ↑こ↓の所属じゃないんですか…」

 

「お姉ちゃん大好き」

 

「はい、ここの子になります」

 

「じゃ、さっそく仕事にかかってくれ」

 

 提督は目をつむって、よしよしと頷いた。口元だけを笑みの形に歪めて。

 

 

 

 

 

 

「無理を言って申し訳ありません」

 

 早足で廊下を歩く二人。

 不知火がいつもの調子で切り出した。横を歩く大淀は、それを受けて小さくうなずいた。

 

「いいのです。私もあの人のやり方に毎度ツンケン文句を言ってばかりというのも気が引けますから」

 

 大淀は作戦棟の入り口で立ち止まり、横の不知火へ顔を向けた。胸の前でファイルを抱え直し、右手で眼鏡の位置を正す。太陽の陽ざしを反射して眼鏡が白く発光した。

 

「不知火さんは今日来る新人さんを迎えに行ってください。『旅行』の準備をして、お昼には食堂に」

 

 不知火はいつも通りの制服姿で、踵をそろえて敬礼した。

 

「了解致しました、大淀さん」

 

 大淀の答礼を受けて、彼女を残し作戦棟を出る。大きなガラス戸の外で、大淀が声をかけてきた。

 

「…お姉ちゃんとは言ってくれないのですか?」

 

 不知火は戸惑いながら入り口の人影を振り返った。こういう冗談をこの人はどんな顔をして言うのだろうか。残念ながら不知火の位置からでは逆光でその表情は窺い知れない。

 不知火は大声を張り上げた。

 

「いってきます、お姉ちゃん」

 

「結構」

 

 満足したように大淀が頷いたのを見て、不知火も踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 新人の艦娘。

 

 艦娘製造の妖精たちは深海凄艦があがるたび、運用など度外視で艦娘作りに打ち込んでいる。生まれた艦娘は殆どがその鎮守府に配備される事になるが、特に遠征・哨戒任務の多い鎮守府は駆逐艦の新配備が多い傾向があった。

 不知火は作戦棟を抜け、あのバス停にやってきた。北上と殴り合ったあのバス停である。ここに実際バスが訪れる事はもうないのだが、出撃用の浅橋に近いこの場所は待ち合わせ場所として今でも艦娘達に重宝されていた。

 木造の小屋の表面が日光に焼けて、ちりちりと揺らいでいる。昨夜の雨が嘘のように太陽が強く照りつけていた。

 

 陽だまりのスポットライトの下に、彼女はいた。

 

 不知火は言葉を失った。

 

 風になびく髪は、燃えるような橙色の輝き。二つに結んだ髪が風に流れ、白い手袋に包まれた細い指がそれを強引に抑えている。明るい色の瞳は、まるで宝石の様に深い色を携えている。曲がったリボンがはたはたと風に揺れる、羽織った黒のベストは不知火と同じ制服だ。

 

 照りつける太陽を眺めていた少女の瞳が、不知火をとらえる。目が合うと、向日葵の花のようにぱっと笑顔を咲かせた。

 

「やっと会えた。あんたが、案内役?よろしくね、あたしは…」

 

 少女はそこで言葉を切った。どう話を続けていいかわからなかったからである。初対面のはずの不知火が、自分の顔を見てぼろぼろと涙を流していのを見て少々面食らったというものある。こぼれる涙を拭おうともせず、不知火は直立したまま肩を震わせていた。

 

 少女は何も聞かなかった。優しく微笑むとゆっくりと不知火に歩み寄り、震える妹の肩を優しく抱きしめた。

 

「初めまして、不知火」

 

 話さなければならない事があった、伝えたい事も、だが止めどなく溢れる涙がそれを口に出す事を許さなかった。少女の肩に頭を押し付けて、両の肩を指先が白くなるまで抱きしめていた。少女の手が、柔らかく不知火の髪を撫でた。

 

 頬を寄せ、小さくつぶやく。

 

「ただいま、不知火」

 

 




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