提督の布団にもぐりこむ駆逐艦の話   作:しらこ0040

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【残酷で優しい君へ】ー不知火編おまけー

■いつかの過去■

 

 私は泣いていた。

 理由は覚えていない。

 誰かが死んだのか、誰かを死なせたのか。

 理由は想像に難くないが、うまく思い出せない。

 ただ泣いていた。両の目を真っ赤に腫らして、見つめる夕日を滲ませていた。

 

「何故深海棲艦と戦わなくてはいけないのですか」

 

 身を震わせながら私は訴えた。流れる涙からは苦痛の味が滲み出ていた。

 

「深海棲艦はただの怪物ではありません。奴らの悲しみに満ちた瞳を覗いた事がありますか。何故戦うのです、何故殺さなくてはいけないのです」

 

 我ながら若いと思う。

 意味ある戦いを望み、意義ある戦争と信じ、誇りある兵隊を演じていた。

 戦う事と戦わされる事を同一視し、殺す事と殺される事を別の次元で考えていた。

 

 司令は私の横で、乾いた瞳で水平線を眺めていた。

 

「何も考えるな」

 

 冷たい風が軍服を揺らす。腰にさした軍刀が、耳障りな音を響かせた。

 

「お前は兵器だよ不知火。拳銃は引き金を引かれさえすれば、標的に同情して弾道を曲げる事は無い。行き場の無い疑問や、「考える力」はきっとお前を苦しませ続ける。ただ殺し、時来たらば死ね。私はこれ以上に優しい言葉は思いつかない」

 

 その声はとても乾いた質感で、私の心に残り続けた。

 鉄の心は、乾いた精神と味気ない優しさの中から生まれた。

 私はこの時、自らが与えうる全てをこの人に捧げると誓ったのだ。

 だから…。

 

『変わりましたね』

 

 あの人を変えた、名前も知らない誰かさんに…

 

 私はきっと、嫉妬しているのだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

◆おまけ◆

 

 朝の陽ざしに手を透かす時に。

 

 この殺風景な部屋から出る時に。

 

 ふと、机の引き出しを振り返る事がある。

 

 大淀さんの所に行く時に。

 

 司令の所に行く時に。

 

 陽炎の所に行く時に。

 

 もう開かない引き出しを、振り返る事がある。

 

 例の爆弾は、無造作に机の中に転がっている。

 

 危険は無い。

 

 信管が抜かれている。

 

 でもその紐に指をかける事は、

 

 「こわくて」

 

 「こわくて」

 

 今の不知火には、とてもできないのであった。

 

 

 

 

◆おまけ2◆

「ねぇ、不知火って寝るときいつもあの恰好なの?」

 

「あの恰好って…ああ、あのワイシャツ?なんかゆったりしたのがええっちゅうてて、新しいのとかしょっちゅう取って来てるみたいやで」

 

「ゆったりって、なにもあんな「よれよれ」のワイシャツ着なくていいのに」

 

「普段ピシッとしとるからやないの、オフではのんびりしたいんちゃうかなぁ」

 

「あんなもんどこで持って来るのよ…」

 

「男物のワイシャツなんて」

 

 

おしまい

 




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