彼と彼女はそうして対等になる   作:かえるくん

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 どうも、10話目です。

 ついに二桁いきました。

 ではどうぞ。


八幡は彼女の話を聞く

 修学旅行二日目。今日はグループで行動する日である。朝からバカみたいに混雑しているバスに乗って映画村までやって来た。葉山達は皆、江戸のような町並みを見てはしゃいでいた。

 

「八幡大丈夫?」

「おう、なんとか」

 

 俺はすでに人混みにやられグロッキー寸前です。

 

 色々アトラクションを見てまわり、最後にお化け屋敷に行くことになった。あまり得意じゃないから断りたい、断りたいけど……、

 

「八幡!お化け屋敷だって!僕好きなんだー。楽しみだね」

 

 こんな満面の笑みの戸塚を前にそんなことは出来ない。してはいけないのだ!

 

 8人は多いということで四人ずつに別れて行くことになった。俺と行くのは戸塚と川崎、由比ヶ浜である。先に葉山たちがはいった後、それに続いて俺達も入る。

 

「あたしこういうの苦手なんだよね」

「へー、川崎はおばけが怖いのか?」

「え、あんたも怖いんじゃないの?」

「いや、おばけは別にどうってことないな」

「は、じゃあなんでそんなにびびってんの?」

「え、そう見えるか?」

「逆にそんなんで見えないわけなくない?」

 

 今の俺の状況を説明しよう。楽しそうに進む戸塚の後ろに引っ付いてます。

 

「僕も怖いのかと思ってた。違うの?」

「違うんだ。俺が苦手なのはビックリすることだ。こういうところは急に驚かしてくるだろ?下手したら心臓止まる。じわじわ来てくれるなら大丈夫だ」

「じゃあヒッキー、怖い話とかは大丈夫ってこと?」

「そうだな、どうせ作り話だし。それよりもリアルにあった人間のどろどろした話の方が…、っっ…………」

『ぎゃーーー』

 

 急におばけ出てきた。俺を除く3人は大きな悲鳴をあげている。え、俺? 声が出ませんでした。その後も何度か気を失いそうになりながら進んでいき、なんとか出た。

 

「八幡、大丈夫?」

「な、なんとか」

 

 はい、本日2回目の大丈夫?入りましたー。にしてもすごいな、なんで戸塚はそんなにツヤツヤしてるんだ。一緒に出てきた他二人もボロボロなのに。そんな俺達を確認した葉山が切り出す。

 

「結構遊んだな。そろそろ次に行こうか」

「えっと、次はどこ行くんだっけ?」

「金閣寺とかあるところだったはずだ」

 

 ぞろぞろとバス乗り場へと向かう。かなりの混み具合だったので、俺の提案でタクシーで移動することになった。あー、快適でござる。

 

 それから色々な寺や庭を見て見てまわり、龍安寺へ行くため歩みを進める。その途中で由比ヶ浜が話しかけてきた。

 

「あんまりうまくいかないね」

「そりゃそうだろ。こんなんでポンポンうまく行くなら今頃世界はリア充だらけだ」

「そうだけど…。やっぱ、戸部っちに頑張ってほしいじゃん?」

「戸部は充分頑張ってんだろ」

「うん。でも力になりたいからさ」

「その気持ちを悪いとは言わんが、お前はもうちょっと全体を見た方がいい。ほどほどにしとけ」

 

 そう言い残して到着した龍安寺に入る。ここにはあの有名な庭があるんだよな。どの角度から見ても全部の石を見ることが出来ないらしい。こういうのって実際試してみたくなるよな。

 

 その庭へ行くと先客の中に雪ノ下を見つけた。

 

「よう」

「あら、奇遇ね」

「だな。もうすぐ由比ヶ浜も来ると思うぞ」

「そう、なら少し話をして来ようかしら。依頼も任せっきりだし、一応考えたルートも渡しておきましょう」

「へー、そんなの作ったのか」

「なにもしないわけにはいかないもの」

「そうか」

 

 話を終えて、雪ノ下はちょうどやって来た由比ヶ浜の元へ行った。俺は早速いろんな角度から庭を見てみることにした。ほー、本当に見えないんだな。何を思ったらこんなの作れるんだろうか。

 

 予定を消化した俺達は宿へと戻ってきた。ちょうど夕食の時間の前だったので、部屋に荷物をおいて食べに行く。その後風呂をゆっくり済ませて部屋へ戻ると、なんかすごい人数が集まっていた。え、なにこれ。

 

「おい、戸塚」

「あ、八幡おかえり」

「おう。なんだこの人数」

「皆で麻雀大会することになってクラスの男子がほとんど集まってるんだ」

「なるほど、それで葉山のいるこの部屋が会場になったわけか」

「そうみたい。僕も参加するけど八幡もどう?」

「流石にここまで騒がしいのはな、遠慮しとくわ。外出てくる」

「わかった。今度一緒にやろうね」

「おう」

 

 戸塚に手を振って部屋から出る。さて、どうしよう。コンビニに立ち読みでもしに行くかな。

 

 宿を抜け出してコンビニへやって来た。何を読もうか探していると声をかけられた。

 

「ん、ヒキオじゃん」

「よお」

「そういやあんたらさ、何企んでるわけ?」

「いや、特には」

「海老名にちょっかいだしてんじゃん」

「あー、俺らってより頑張ってんのは由比ヶ浜だな」

「はあ、結衣何やってんだし。どうせ戸部のためなんだろうけど」

「知ってたのか?」

「流石に見てりゃわかるし」

「だよな」

「ちょっとさ、話しない?」

「俺とか?」

「あんたしかいないでしょ。立ち位置的にあんたが適任なのよ」

「まあ、いいぞ。場所移るか」

 

 コンビニでそれぞれ飲み物を買って宿に戻る。一階の休憩スペースに机を挟んで座る。この時間だとみんな遊んでこんなところには来ないだろ。

 

「で、なんだ?」

「あーしさ、昔海老名にしつこく男進めちゃったことあんのよ。そしたらあいつ他人事みたいにもういいやって言ったんだ。そん時の顔がさ、笑ってんのに目だけ異様に冷めてんの。あーしでも超びびったわ。慌てて謝ってなんとかなったけど」

「へー、そんなことがあったのか」

「あの目ってさ、人を見限ったときの目だと思うのよ。普段から一線引いてるなとは感じてはいたけど、あんなにさくっと切られるなんで思ってなかったし。あいつにとっては、ただ楽しくしているだけの今の状態が一番居心地がいいんだと思う」

「だろうな」

「だから結衣を止めてくんない?」

「それは海老名のためか? わかっているとは思うが戸部はかなり本気だぞ。なかなかの覚悟もある」

「海老名のためってより、あーし達グループのため。もしこのまま戸部が海老名に何かしたらきっと壊れる」

「そうか、だから戸部に自分の気持ちを殺させ、今まで通りさせることでグループを維持すると。そんなにうまくいくか?俺はそうは思えないが、そんなもんまたすぐぶっ壊れると思うぞ」

「じゃあどうすればいいわけ?なんか隼人も色々してるみたいだけど、上手くいってないみたいだし」

「まあ葉山はすべてを綺麗にまとめようとするからな。今回はほとんど無理に近いだろ」

「あー、もうまじ、なんなわけ!? このままじゃヤバイし」

 

 そう言って三浦は頭を抱える。

 

「にしても意外だ。お前って結構考えてんだな」

「あんた、バカにしてる?」

「いや、普段はわがまま言ってることが多いから」

「まあそうだけど…。あーしさ、今のメンバーかなり好きなのよ。なんだかんだこんなあーしをみんな受け入れてくれるし。でもこんなことになってさ、みんなどこか一歩引いていることがわかって。はぁ、あーし達って結構薄っぺらだったんだよね。あ、戸部は除く、あいつは一歩も引いてないわ」

「でも戸部が一番お前らの繋がりを信じているんじゃないか? あ、いや、もしかしたら何も考えてないだけかもしれん」

「そんなこと言うなし。でもそれができんのが戸部じゃん? あーしももっと隼人や海老名に踏み込みたいし、結衣にも普段遠慮なんてさせたくない」

「別にしてみりゃいいじゃねーか」

「でも隼人達はそれを望んでないでしょ。これはあーしのもっと近づきたいってわがまま」

「普段はわがままなのにな」

「レベルが違うっしょ。下手したら取り返しのつかないことになるんだから」

「そうだな、だからそれをするにはかなりの覚悟がいる。でもそれだけ、その先にあるものは尊くて美しい。まさに一度限りの大博打って感じだな。成功すればとびっきりを手に入れられ、失敗したら失う」

「なんかずいぶんと知った口聞くじゃん」

「まあな、経験済みだ」

「え、あんたが?」

「おい、失礼だな。ほんとだぞ」

「うっそ、成功したわけ?」

「ああ。今じゃ勝負に出て良かったと心底思っている」

「へー、そうなん。でもあーし達には…」

「そりゃ、まだ覚悟出来てないからな。葉山は足踏みしたままだろうし、海老名さんは踏み込まれると逃げそうだ。まあ、そんな覚悟ぱっとできる訳がない。それまでの関係が長ければ長いほどな」

「だしょ。厳しいくない?」

「さあな、俺にとってはどうでもいい話だからな。お前らが諦めようが諦めまいがどっちでもいい。厳しくても好きにすればいいんじゃね?」

「ここに来て急に適当じゃん」

「ここから先は俺がどうこう言うことじゃないからな。お前が決めることだ。でもこうやって戸部が動き出したことでお前達は揺らいでいる。綻びも見え始めた。なら、この辺が仲良しごっこの潮時なんじゃないのか?」

 

「葉山はみんなで仲良く、戸部は告白したい、海老名さんは変わりたくない、由比ヶ浜は応援したいっていうわがままを現にぶつけまくってる。みな自分の思うように、したいように動いている。なら別にお前も好きなようにしていいだろ」

 

 話は終わりだという意思表示のため立ち上がり、部屋へ上がる階段に向かう。

 

「わーった。あーしもっと考えて、頑張ってみる。ヒキオ、話聞いてくれてあんがと。あんた、なんかいい風に変わったと思うわ」

「そうか、サンキューな。まあせいぜい頑張れ。あ、そうだ、今回の戸部の件、俺は基本動くつもりはないが海老名さんから直接俺に頼みが来たら何かしらかするかもしれん。まあやってお前らの延命治療のようなもんだろうが。だから、そんな焦る必要はない。覚悟はしっかり考えて決めろ」

「うん。まじであんがと。あーし達のことなのに」

「別にいい。ただでするわけでもないしな。んじゃ、戻るわ」

 

 三浦と別れて階段を上がり、部屋に戻る。男子達はまだ麻雀大会をしているようだ。お前ら呑気だな、三浦はあんなに悩んでたのに。特にすることもないので戸塚がやっているところでもみよう。

 

「よう戸塚、調子はどうだ?」

「あ、八幡帰ってきたんだ。まあまあって感じかな。そうだ、八幡今からでもやる?」

「そうだな。次どっか開いたら入れてくれ」

 

 そうして俺は麻雀大会へ参戦した。

 

  _____________

 

 

 三日目の朝。超眠い。昨日遅くまで起きすぎたわ。あんなに盛り上がるとは思ってなかった。朝ごはんギリギリでいいかな。でも今日でここの宿は終わりで、今晩は嵐山の方の宿に泊まることになる。そのため荷物をまとめてロビーに出しておかないといけない。起きないとなー、まだ寝てたいなー。

 

 部屋のメンバーはもうすでに朝食を食べにいっているようで誰もいない。身支度をして部屋を出ると、ちょうど朝食を済ませてきたのであろう戸塚とばったり会った。

 

「あ、八幡起きたんだ」

「おう、おはよう」

「うん、おはよう。出ていく前に声かけたんだけどね、起きそうになかったから先に食べてきちゃった」

「全然全然構わないぞ。そういえば今日は自由行動だか戸塚は部活の友達とまわるのか?」

「うん、そのつもりだよ」

「なら次会うのは今日の宿だな。楽しんでこいよ」

「もちろん! 八幡もね」

「おう」

 

 戸塚と別れて朝食を食べに行く。時間が遅いのであまり人もいず、快適だ。今日は自由行動なんだよな。どこ行くかなー。今日でお土産は買っておいた方がいいだろう。明日だとみんな買うから人多そうだし、色々店をめぐれるのは今日だからな。

 

 朝食を終え部屋に戻ると俺以外はもうすでに出発しているようだった。身支度を済ませ、大雑把に部屋を整えた後荷物をまとめて一階ロビーに降りる。荷物を指定の場所において宿を出ると由比ヶ浜と雪ノ下がいた。

 

「あ、ヒッキーやっときた! おそい!」

「え、どうしたんだお前ら」

「どうしたって、ヒッキー待ってたんじゃん」

「まじ?」

「三日目は一緒にまわろうって約束したでしょ」

「あー、そういやそうだったな。悪い、ずいぶん待たせたな」

 

 ごめん、八幡すっかり忘れてた! てへぺろ!

 

「あなたはろくに約束も覚えてられないのかしら鳥谷くん」

「お前の毒舌は朝から絶好調だな。すまん、昨日、一昨日の戸塚との旅が楽しくてつい」

「はぁ、あいかわらずね」

「それにヒッキー眠そうだね。寝れなかったの?」

「いや、昨日の夜遅くまで起きててな」

「あら、あなたは皆が遊んでいる中さっさと寝るのではないのかしら?」

「いや、わりと俺もそうなると思っていたんだが今回の旅行はそうでもないらしい。なんか普通の旅行ができている」

「珍しいこともあったものね」

「だな、これも偏に戸塚のおかげか…」

「あはは、良かったね」

「まあ、それは置いといて待たせたのは本当に悪かったな。どっかで何かしらかおごるくらいはしよう。高いのはなしな」

「それなら許してあげる。何かってもらおうかなー」

「由比ヶ浜さん、そういうのはここぞというときにとっておくべきよ」

「雪ノ下、お前こえーよ」

 

 ひとまず歩き出す。そういや今日はどうするつもりなんだ?

 

「おい、今日はどこ行く予定なんだ?」

「そうね、本当は依頼のこともあるから彼らの近くにいるべきなんでしょうけど……」

「まあ、それはやめといた方がいいだろうな。後をつけるのは誉められたことじゃない」

「そうなのよね。けれど、由比ヶ浜さんに考えたルートを渡してもらっているから今日は気にしなくていいでしょう。最終目的地はみな一緒なのだし確認はそのときでもいいのではないかしら」

「それでいいんじゃね? 俺はこの依頼あまり気が進まないからな」

「そうね。やっぱりやめとけばよかったかしら」

「でも戸部っちも頑張ってるし…」

「その話は今はいいだろ。受けてしまった以上しっかり落とし前はつけなきゃならんし。その前のことを今とやかく言ってもい見ないだろ」

「そうね、とりあえず今日は行きたいところに行くってことでいいかしら?」

「うん、それでいいよ! でも行きたいところかー、私あまりお寺とかわかんないし」

「なら有名どころをおさえていくのでいいんじゃないか? それなりの催し物とかもあるだろうし」

「そうね、私は何ヵ所か行きたいところがあるのだけれど付き合ってもらえるかしら?」

「うん、もちろんいいよ!」

「俺も構わないぞ。あ、俺今日のうちにお土産を物色したいんだが」

「嵐山の付近は店がたくさんあるらしいから、早めに嵐山に着くようにしましょう。私も見てまわりたいし」

「私も!」

「助かる。あ、どっか途中で学業の神様が有名なところもないか?」

「あら、あなたが学業で神頼み?」

「違うよゆきのん、たぶん小町ちゃんのためじゃない?」

「そうだ。ついでに自分のもするつもりだ。数学あがんねーかな」

「私もやろう!全部上がるかもしれない!」

「あなた達…、そんなので成績よくなれば誰も苦労はいないわ。努力しなさい」

 

 ですよねー、わかってたよ。でも気分的な問題がさ、あると思うんだ。プラシーボ効果みたいなのあるかもしれないじゃん? あ、ないですよね、はい。

 

「で、最初はどこ行くんだ?」

「まず伏見稲荷大社にいこうと思うのだけれど」

「ほう、あの千本鳥居があるところか」

「あ、私もそれ知ってる。テレビで見たことある」

 

 ああいうところってすごくキツネ出そうだよな。アニメの見すぎか。

 

 行き先が決まった俺達はひとまずバス停へと向かう。

 

 修学旅行三日目はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 陽乃になに買おう……。




 ようやく三日目です。修学旅行は後2話くらいかなー。

 いつも読んでくださってありがとうございます。

 ではまた次回。

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