11話です。
まず最初に伏見稲荷大社にやって来た。やはり実物を見るとこの鳥居は圧巻だな。
「じゃあちょっと登ってみましょう」
雪ノ下の一言で鳥居の中の階段を上っていく。まあこの中は登ってみたいよな。だけどお前って…。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「だ、大丈夫ゆきのん?」
「ちょっと、休憩を、しましょう」
壊滅的に体力なかったよな。最後まで行くには今来た分の2倍はいかないといけないぞ。
「落ち着いたらもう降りるか」
「そうだね。他のところにもいきたいし」
「ごめんなさいね。た、体力がないばかりに」
「人も多くなってきたし頃合いだろ」
雪ノ下が復活するまで待ってから階段を降りる。この先はまた今度来たときでいいか。
下まで降りた俺達は次の目的地である東福寺へと向かう。ここも雪ノ下の提案なのだがよく知らないところだ。
東福寺に着き敷地内に入ると、美しく紅葉が目に飛び込んできた。
「うわ、すごいな」
「ここは紅葉で有名なスポットなの。高いところから見れる場所もあるから行きましょう」
この後、死ぬほど紅葉を堪能し北野天満宮へと向かう。俺の要望である学業のご利益があるところだ。着いてみると俺達以外にも結構な高校生がいた。
「結構いるわね」
「あはは、みんな考えること一緒なのかな」
「俺達もさっさとこの波に乗って済ませちまおうぜ」
あまり長くない列に並び、順がまわってくるのを待つ。みんな必死にお願いしているのが見える。おい、ちゃんと勉強しようぜ。
俺達の番がまわってきたのでお賽銭を投げ込み手を合わせる。えーと、小町が無事合格できますように。後、ついでに俺の数学が少しくらいよくなりますように。ま、ちゃんと勉強しないといけないんだけど。いい加減捨てるのはやめよ。
あ! 陽乃教えてくんねーかな。確か理系だったはず。たぶん文理関係なくできると思うが。今度頼んでみよう。あ、まさかこの閃きはいきなりご利益か?
目を開けて隣を見ていると唸りながら手を合わせている由比ヶ浜がいた。お前が一番必死だな。それ、神様もびびってんじゃねーの。そんくらい一生懸命勉強すればいいのに。
お参りを済ませ付近で昼食をとり、しばらく近場の観光名所を巡り嵐山へやって来た。時間は3時頃。宿に夕食まで済ませて6時半に集合しなくてはいけないので時間は結構ある。
ひとまず嵐山を見てまわり、宿の近くの竹林の道までやって来た。
「ここがよくテレビで見るところか。実際なかなかいいところだな」
「そうね、雰囲気もいいし落ち着くわね」
「ここだ! 告白するならここがいいんじゃない?」
「ええ、ここなら問題なさそうね。それに夜はこの時季ライトアップするらいしわよ」
「後で戸部っちに薦めてみる」
「そのライトアップ何時からだ?」
「7時半からみたいよ」
「そうか」
戸部が告白することになっても、とりあえず7時半まではないと考えていいな。
「じゃ、お土産見てまわりたいからひとまず解散でいいか?」
「だね、夕食はどうする?」
「時間を決めて待ち合わせでいいのではないかしら」
「集合が6時半だから5時半には合流した方が良さそうだな」
「場所はこの辺でいいかしら?」
「ああ」
「じゃ、また後でね。ゆきのんあっち行ってみよう!」
「え、由比ヶ浜さん、解散じゃ…」
「いいじゃん! 一緒行こうよ」
「はぁ、まあいいわ」
仲がよろしいようで。さて、俺も行くかな。とりあえず八ツ橋とあぶらとり紙だな。これはどっか大きい店に入ればあるだろ。
しばらく歩いてお土産屋に入る。あぶらとり紙を買い八ツ橋を選ぶ。八ツ橋って結構種類あるけどなんか違うのか? どれが美味しいとかあるのだろうか。もう複数買ってしまおうか、よし、それでいこう。八ツ橋を買い、外に出たところで葉山グループを見かけた。まあ特に用もないのでスルーして他の店に向かう。すると突然肩を叩かれ、振り向くと海老名さんがいた。
「はろはろー、ヒキタニ君」
「あ? 海老名さんか。葉山達はどうした」
「さっきお土産探しのために少し解散したんだ」
へー、俺達と似たようなもんか。でも葉山達も単独行動とかするんだな。ま、プライベートもあるしそんなもんか。
「そうか。で、なんかようか?」
「ヒキタニ君、依頼忘れてない?」
「依頼? なんのことだ?」
とぼけてみる。やっぱりか、タイムリミットも近いしそろそろ来ると思っていたが。
「え、この前奉仕部に行った時…」
「あれを依頼というのか? 依頼ってもんは内容をしっかり伝えてよろしく頼むことだ」
「でもあのときは結衣がいたし…」
「それはつまり俺だけわかればよかったってことか? なら直接俺に言いに来てもいいだろう」
「……」
「まあ戸部を止めてくれとでも言いたいんだろ?」
「やっぱりわかってたんだ」
「まあな、俺だし。でもあのあと何も言ってこなかったからさほど重要でないのかと思ったが」
「でもわかってたなら…」
「わかってたならやってくれてもよかったじゃないかって? 俺は何でも屋じゃないぞ。やるわけないだろ」
「でも文化祭じゃ相模さんを助けてたよね」
「あれか。確かに助けたな」
「じゃあなんで」
「俺は何の見返りなしに、危機回避なしに行動したりしない。何もなしに行動するならよっぽど近いやつのためじゃないと動かない。相模の件は危機回避だな」
「どういうこと?」
「あのまま相模を放置してみろ。おそらく相模は非難される。そうすればあの文実の実態が表沙汰になり、さらにそれは加速する。最悪いじめに発展して相模が自殺なんてことになる可能性も0じゃない。そこまでいかなくても責任問題どうのこうのでかなり面倒なことになりかねん。そこで俺に色々擦り付けられても困る。結構派手に動いていたからな」
「それに比べ今回の件は俺に何の影響もない。それでお前達がバラバラになろうがどうでもいい。だから特に動かなかった」
「そうなんだ…」
「それに海老名さんの頼み方も気にくわなかったしな」
「それは…」
「ったく、俺をなめすぎだ。なんでもするお人好しなわけないだろ」
「ごめん」
海老名さんは絶望した面持ちで呟く。でも三浦にああ言った手前ここで放置したりはしない。あいつは本気だからな、無下にしたりは出来ない。
「そんなに告白はダメか?」
「ダメだよ。振った後に上手く続く関係なんて存在しないよ」
「まあ難しいだろうな」
「私は今が好きなんだ。みんなでバカやってられる今が…」
「そりゃな、ぬるま湯ほど気持ちいいものはない」
「何が言いたいの?」
「今のお前らの環境はぬるま湯以外の何物でもないだろ。表向きは仲はいいが誰も互いを信じられていない。特に葉山と海老名さんはそれが明らかだ。今回の件ではっきりしただろ?」
「う、でも」
「でも? 今回の件の始まりは海老名さんが戸部の気持ちから逃げたことからだ。なぜ向き合わない?」
「私じゃ無理だから。誰とも付き合うなんて出来ないよ。腐ってるし」
「はっ、都合のいい理由だな」
「なら、ならどうすればいいのっ…。誰にだって踏み込まれたくないところがある、言えないことだってある。失うのだって怖い。どうしたらいいのか……、わからない」
「そうか、だから周りに頼ったと」
「それしかできなかった」
「あのグループから離れるってことはやっぱできなかったのか?」
「うん、前の私なら出来てたかもしれないけど…、今じゃもう」
「はー、まったく、それってもうそれくらいあいつらの存在がでかくなってるってことだろ? だから一線引いたままの自分をもどかしく感じる」
「……」
「なら逃げるなよ。自分のために自分で動け」
「そんなことできたらやってるよ」
「なら何も求めるな。失う覚悟も出来ないのに手に入れられるわけがない。何かを維持するのにだって代償が必要だ。その代償を払えないならそれを持とうとするのもやめるんだな」
「……」
「まあ逃げたきゃ逃げればいいじゃねーか。その先で何があろうがそれも全部自分の責任だ。それをお前の周りのやつらが許すとは思えないがな」
「え、それはどういう…」
「お前の周りには強者が多いってことだ。で、どうする? 俺に頼るか?」
「え、何とかしてくれるの?」
「まだ何も考えていないが、体育祭での借りもある。それと何とかするっていう解釈は困るな。この問題を解決するのはお前らだ。俺じゃ出来ない、ただそのリミットを伸ばすくらいはできるだろう。もちろんただじゃないがな」
「ただじゃないって?」
「貸しってことにして俺が何か頼んだときに動いてもらうつもりだ。それでも構わないというなら頼まれてもいい」
「比企谷君、お願い。私に猶予をください。今すぐは無理だけど、もう逃げられないのはわかってるから。怖くて仕方がないけど、乗り越えるために時間をください」
「わかった、なんか考えて見るわ。っても俺だからどんなやり方になるかわからん、臨機応変で頼むぞ」
「わかった。本当にありがとう」
海老名さんと別れる。さて、どうするかね、それは後で考えるか。お土産から済まそう。
あ、陽乃に一応報告しておこうかな。時間的に学校も終わってそうだし。休憩できる場所に移動し、携帯を取りだし電話を掛ける。
「もしもし」
「もしもし?八幡?」
「ああ、陽乃、今大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと待って……、大丈夫だよ」
「何か取り込み中でした?」
「大学の友達といただけだから」
「急にすいません。とりあえず報告しておこうと思いまして」
「あ、例の告白の件?」
「はい、一応動くことになりました。貸しってことにして」
「そう、どういう経緯で?」
陽乃に今までのことを大雑把に説明する。
「という訳です」
「なるほど、あれだね。やっぱり八幡はお人好しだね」
「別にそんなことはないですよ」
「いやいや、普通そこまでしないって」
「そうですかね」
「うん、だってほっといても問題ないことだもん」
「まあそうですけどちょっとした借りもあったし、みんな前向きだしたし」
「向かせたのは八幡でしょ」
「う、まあ否定はしませんが」
「そうやって一回はチャンスを与えちゃうんだから。なんだかんだ優しいというか甘いというか」
「ははっ、そうですね。俺は案外人間が好きなのかも、いや違うか、人間の可能性を信じていると言った方がいい」
「なるほどね、それで八幡のやり方はああなのね」
「というと?」
「八幡は当事者の感情をうまい具合に操作して事態を収めるよね」
「そうですね」
「その中でも悪意を操作することが多い。文化祭とか夏のキャンプとかの件がそれでしょ。八幡の策が成功する度に人の醜さが証明される。でも本当は自分の策が失敗することを期待してるんじゃない? そうすれば人間が汚くないことが証明できるから」
「……よくわかりましたね。ま、今回は直接手出してますが」
「私と八幡が似てるって言ったのは誰だっけ? 二人とも人間の醜さをよく知っているじゃない。私はそうではないことを自分を通して、自分の中に探している。なら八幡は逆に、周りにそれをしているのでは?と思っただけよ」
「さすがですね。でも俺は周りの人間を利用しているだけだから誉められることじゃないです」
「それでも周りには八幡に助けられたと思う人がいるはずだよ。その気持ちを八幡は否定しちゃいけない。その感情は相手のものだから。それにそれも八幡の行動がもたらした結果だから受けとる必要があるんだよ」
「はぁ、確かに救ってくれたなんて言われたら、俺は拒絶しそうですね。そこまで見透かしますか、かなわねーな」
「でしょ! 八幡検定一級だもの」
「なんすかそれ、あげてもいいですけど」
「かわりに陽乃検定一級あげるよ」
「それは…、ありがたく貰っておきます」
「あと、大変なときは私も頼ってよ」
「そんなこと言われなくても、そんな時は陽乃にさっさと話してると思いますよ」
「そう。ならいいけど…」
「陽乃こそちゃんと俺を頼れよ。お前そういうの慣れてなさそうだからな」
「う、うん。ありがと…」
「……どうです? グッと来た?」
「あ! からかったな! もう! えー来たわよ。超グッと来たわよ。うっかり惚れるレベルよ!」
「え、そんなに?」
「だ、だってそんなこと初めて言われたんだもん、あんなの。あー、急にペース乱されまくりじゃない。もう知らない! お土産金額二万にアップ!」
「は! あれまじだったの?! ちょ、二万は洒落になんないって」
「最近八幡が私を年上扱いしてるのかわからない」
「い、一応?」
「なにそれ」
「だって最近陽乃からかいがいがあって」
「それ前まで私の台詞だったのに、いやまだ譲らないから」
「おう、頑張れ」
「それとお土産審査厳しくなったから」
「まあそのくらいは頑張ります」
「よろしく」
「あ、からかったけど、ちゃんと頼ってくださいよ」
「うん。じゃ、旅行残り楽しんで」
「おうよ、じゃ」
ふー、なんかだいぶ長いこと電話してたな。よし、早速陽乃の土産探すか。
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「あ、陽乃お帰りー、って顔赤いけどどしたの」
「え、そう?」
「うん、なかなか。珍しい」
「電話でなんかあった?」
「いや、特になかったよ」
「あやしー、もしかしてついに陽乃に男か?」
「え、まじ?!」
「違うって。そんなんじゃないから」
「あ、顔また赤くなった」
「うわ、めっちゃ気になる。今まで誰一人寄せ付けなかったのに」
「だから違うって」
「こりゃビッグニュースね」
「そうね、最近取っつきやすくなったと思ったらそういうことか」
「ちょっと、話聞いて?」
「おけ、話を聞こうじゃない。で、どんなやつ?」
「大丈夫、広めたりはしないから」
「そういう意味じゃないから!」
この後何とか誤魔化して逃げ切った陽乃だった。
なんか会話文が多い気がするけどまあいいか。
最近陽乃出せてなかったから出しました。予定にはなかったんだけどね、書きたくてつい。あと勢いで八幡をフレンドリーにしすぎるから修正が大変でした。そろそろ敬語をやめさせよう。
次で修学旅行終われるか微妙になりました。
ではまた次回。