12話です。
お待たせしました。
どうぞ。
あれからしばらく店をまわり、一番候補の店へと戻ってきた。京都だから和な物がいいだろうということでちりめん細工屋だ。ここならいろんな物があるからいいのも見つけられるんじゃないかと思っているのだが、どんなのにするかね。小物とかもあるし、アクセサリーもあるのか。ちょっと種類多すぎじゃね?
じっくり時間を使って選び会計を済ます。んー、これでよかっただろうか。大見得を切ったわりにショボくなったかな。ガッカリされないといいが。いや、陽乃の場合はガッカリより、バカにされてここぞとばかりに弄られそう。すげー心配だわ。
気が付けば雪ノ下達との合流まで30分を切っていた。なんか微妙に時間が余った。これから何をしようか考えながら店を出る。
「ん、比企谷か」
「あ? うわ、葉山」
「うわって、ひどいな」
「んなこと微塵も思ってないだろ。一人か?」
「ああ、今は単独行動でね。君こそ一人なのかい?」
「何当たり前のことを聴いている、俺は基本一人だ」
「あはは、にしても珍しいところから出てきたな。興味あるのか?」
「ちょっとした私用でね」
「妹さんへの土産か」
「残念、不正解だ。ま、お前には教えん」
「なんか余計気になるな」
葉山は苦笑いを浮かべる。
「そういやお前、なんとかなりそうなのか?」
「…なんのことだい?」
「今更誤魔化せるわけないだろ。それに俺のところにも海老名さん来たからな」
「やっぱり、俺じゃ無理って思われたか」
「そんなの当たり前だろ。相反する事を同時に処理するには行動に余裕がないといけない。お前は何も捨てないからできるわけがない」
「捨てられるものなんてあるはずないだろ」
「でも全てを取ることはできない」
「それでも俺は全部を丸く収めたいんだ」
「はっ、そんなんだから自分の本当に大事なものを失うんだ」
「う……」
「……お前にとってそんなに周りってもんは大事なのか」
「……ああ、…」
「足枷になっているのに? お前にいらん期待ばっか押し付けるのにか?」
「それでもだよ。それに答え続けないといけないのが俺だ。周りを大切にしなきゃいけないのが俺なんだ」
「いや、知るかそんなこと。いけないとかじゃなくてさ、お前がどうこうしたいとかないの?」
「それは…、」
「なに、そんなこと思っちゃいけないとか言いたいの?」
「っ……」
「なんつーか、馬鹿っていうか不憫っていうか。みんなの葉山隼人は哀れだな」
「お前に何がわかる」
葉山はけして声は荒げなかったが、明確な怒りを含んだ声で言う。
「知るか、周囲に拒絶、失望されるのが恐くて足踏みしてるやつのことなんか。俺は常に拒絶され失望されてきたんだ、そんな恐怖とっくに忘れたわ」
「でも、君は周囲からの異常な期待と理想の押し付けを味わったことなんてないだろ。それがあるのとないのとでは全然違うんだ」
「そうだな、それは俺とは種類が異なる。俺には実感しえないことだ。ははっ、むしろそっちの方が怖そうだな。ある日突然、今までニコニコしていたやつらが掌を返すんだ。そんなの経験したら正気でいられんだろ」
「同じ地獄に落ちるのでも、天国を知っているものと知らないものではその苦しみの度合いは違うってことか」
「まあそういうこったな」
俺は最初から味方なんぞ存在しなかったからな。良くも悪くもそういう環境に素早く慣れてしまった。
「でも俺はお前みたいに周囲からの期待を背負ってもがいているやつを知っている。そいつは自分を押さえ込むのが上手くて、なんだかんだしっかりやれているように見えて、内側はボロボロだった」
「その人はどうなったんだい?」
「この前吹っ切ったよ。いろんなもん乗り越えて前を向いた。かっこよかったぞ」
「一人でやってのけたのか?」
「いや、そいつ曰く、つい最近できた友達のおかげらしい。ま、そのお友達もそいつに助けられてんだがな」
「その人は大きな存在を手に入れたんだな。そんなもの俺には……」
「なに後ろばっか見ていってんだ。その目見開いて周り見ろよ」
「それはどういう…」
「んなもん自分で考えろ。はぁ、今回の件だけは頼まれたから俺が何とかしてやる。でもこっから先は自分の力が及びそうにないことでも己でやらないといけないことが多い。それは自分でやれ」
「わかっているさ。本当なら今回だって俺がなんとかしたかったんだ」
「お前は自分に甘過ぎる。しっかり力量と手札を把握しろ。それを越えたものを望むから失敗するんだ」
「くっ、なんでもできる君が羨ましいよ」
「それは誤解だ。俺の手札とお前の手札が全く違うからそう見える。俺のできないことは大抵お前ができる。逆もまたしかりだ」
「君ってやつは…、そうやっていつも俺を見透かしてくる。やっぱり君を好きにはなれないな」
「いや、いらんし。好きとか言われたら鳥肌立つわ。まあ、みんなからあぶれるのが俺だ。みんなの葉山君に期待なんてしてやらん。どうせしても応えられんだろうしな」
「いってくれるな」
「今までの行いを振り返ってから言ってみろ」
ふと時計を見ると約束の時間が近くなっていた。少し距離があるからもう向かった方がいいかもな。
「悪い、時間だ。俺はもう行く。あと今回の件は貸しだからな」
「君に借りを作るのは怖いな」
「無理難題は言わねーよ。俺の手札にお前がいるだけで幅がかなり広がるんだ。そのためだ」
「つまり、俺は君の駒にならないといけないということか」
「悪く言えばな、でも一回だけだ。俺的には貸しを山ほど作って常時駒として持っていたい」
「あはは、俺を駒扱いするなんて君が二人目じゃないかな」
「一人目が容易に想像つくな」
今こうなってんの、その一人目の影響受けたからだとは言えんな。
「あ、あと一つ謝っとくわ。最初で戸部をとめられんくてすまなかったな。由比ヶ浜が予想外だったろ」
「っ、君はなんでもわかるんだな」
「なんでもはわからん、わかることだけだ」
きまった。言ってみたかった、羽○さんのセリフもどき。え、恥ずかしいからやめた方がいい? でも言うじゃん、言わぬは一時の後悔、言うは一生の黒歴史って。はい、言わないですよね。しかもそれじゃ今黒歴史作ったことになっちゃう。おい、葉山なに顔ひきつらせてんだ。
「葉山、今のはなかったことにしよう」
「なら、それで借りはチャラに…」
「いや、俺は今とっても恥ずかしいことを言ったわ。全然忘れなくていいぞ。墓まで持ってけ」
「冗談だよ。じゃあ俺も行く。はぁ、君だけは頼りたくなかったのに」
「へっ、ざまあねーな」
「そこは慰めてくれるんじゃないのか」
「俺がお前にそんなことするわけないだろ」
葉山と別れて合流場所へと向かう。あいつはあいつで苦労しているが、その原因はあいつの甘さだ。はぁ、三浦はあいつのどこがいいのかね。おかん体質だからかな。
俺が合流場所に着いた五分後くらいに二人がやって来た。それから夕食を食べ、宿へと戻ってきた。部屋のメンバーは今までと一緒である。つまり、戸塚も一緒だ、ついでに葉山達も。
集合して、先生の話を聞いてからそれぞれ部屋へ解散し、そっから入浴時間だ。今は6時45分、戸部はまだ部屋にいるし由比ヶ浜の話がいってるはずだから先に風呂入っても大丈夫だな。風呂でどうするか考えよ。
「あ、八幡お風呂行くの?」
「おう、戸塚はどうする?」
「僕晩御飯食べ過ぎちゃって。今日は入浴時間長いみたいだし、もう少しゆっくりしてから入るよ」
「そうか、俺は先に行ってくるな」
「いってらっしゃーい」
ナチュラルに振られたぜ。部屋を出て大浴場に来た。色々済ませ湯に浸かる。
へー、疲れたー。これからまた疲れるけどー。さて、どうするか。まず戸部に告白させてしまったら終わりだ。そして海老名さんが今誰とも付き合うつもりがないことを戸部に伝える必要もある。改めて考えるとマジめんどくせ。
そうなると告白シチュエーションを作らせたら不味いな。戸部は俺が説得するとして、最悪今回のごたごたを教えてもいいんじゃないかと思う。あいつならそれで踏みとどまるだろうし、そこで終わったりはしないだろ。
なら早めに話をつけないとな。風呂を上がって着替えを済ませる。まだ7時15分、早く部屋に戻って戸部と話すか。
この時は知りもしなかった。既に事態は動いていることを…。
_____________
足早に部屋へと戻る。戸を開けると戸塚しかいなかった。あれ、なんで?
「あ、おかえり」
「戸塚、お前一人か?」
「そうだよ。五分くらい前に葉山くん達が出ていったから」
「え、なんで?」
「戸部くんが海老名さんに告白しに行くんだって。夏にいってたやつ本気だったんだね」
「え、まじか。なんかいってた?」
「えっと、近くの竹林でライトアップされると同時にするんだって。すごく壮大だよね」
だな、すごく壮大でロマンチックだ。それなら案外上手くいったり……、するわけないだろ!は!?誰だよそんなアホなこと言い出したやつ!もうシチュエーションできちゃってんじゃん!
「ちょっと出てくるわ」
「八幡大丈夫? 顔色よくないけど」
「大丈夫……じゃ、あまりないな。でも心配すんな、なんとかする」
「八幡のことだからまた一人でしちゃうんでしょ。でも無理はしないでね。僕じゃ力になれないみたいだけど……、どんなことになっても僕は八幡の味方だから」
「その言葉で十分だ。サンキュー戸塚」
部屋を飛び出し、竹林の方へ急ぐ。こりゃ着くのはぎりぎりだな。どうするかも考え直さねーと。
あはは、一番最初にこれが浮かぶって、流石俺だな。あまり気乗りはしないが他に思い付かん。急いでるときに一つ思い付くとそれ以外出てこなくなるよね。待て、そんなこと言っている場合じゃない。
海老名さん、葉山、三浦には話しているから誤解はないだろう。三浦はいない可能性も高い。問題は戸部だ、これは最悪恨まれるのを覚悟しないといけないか。しっかり謝らないといけない。
もうこの愚作でいくしかない。はぁ、ったくついてねーな。
陽乃は何て言うかな…。
考えがまとまったところで竹林に着いた。戸部達はどこにいるんた?探しながら進んでいくと、見つけた。
「あ、ヒッキーやっと来た。もう始まっちゃうよ」
「おい、なんでこんな早くなったんだ」
「大岡くんがライトアップと同時にすればって提案してそれで」
おのれ、モブ。
「お前ら、これ失敗すんぞ」
「うっ…」
「そうね。やっぱり無理だったわね…」
「はあ、まあここは俺がなんとかする。いろんなやつとの約束もあるし」
「ごめん」
「ごめんなさい、任せるわ」
そうこうしているうちにライトがついた。戸部が口を開く。
「海老名さん、俺……」
さて、やりますか、俺らしい愚作とやらを。
戸部の前へ割り込む。そして…、
「海老名さん好きです。付き合ってください」
俺の突拍子もない言葉を聞いて海老名さんは驚き目を見開くが、すぐに俺のしたいことがわかったのがすぐに答える。
「ごめんなさい。今誰とも付き合う気はないの。じゃ、もう行くね」
はあ、こんなもんかね。
「だってさ戸部、今は時期じゃないみたいだ。もう少しあとでもいいんじゃないか?」
「ちょ、ヒキタニ君……」
「悪いとは思っている。恨んでくれても構わない、それくらいの事をしたんだ。お前の覚悟踏みにじって本当にすまなかった」
そう言い残して戸部のもとを離れる。すると葉山がやって来た。
「悪い。君のやり方は知っていたのに…」
「別にいい。俺に頼るんだからそれくらいの覚悟はしとけ」
「ほんと、すまない」
そういって葉山は戸部の方へと向かった。俺もやることやったし帰るか。そう思って方向転換したとき、目の前に雪ノ下と由比ヶ浜が出てきた。
「あなたのやり方、嫌いだわ。上手く言葉にできないけれど、とても嫌い」
苦い顔をして雪ノ下が言う。
「先に戻るわ」
「ゆきのん……」
雪ノ下は早足で去っていった。俺と由比ヶ浜だけが残される。
「……上手く、収まったのかな」
「ひとまずって感じだろ」
「…なにするのかと思ったけど、一瞬本気かと思っちゃった」
「んなわけないだろ」
「でも、もうこういうのやめて。人の気持ち、もっと考えてよ。いろんなことわかるのになんで、それがわかんないの」
そういって由比ヶ浜も去っていった。
…………やべ、やらかした。完全にやらかした。この二人計算にいれるの忘れてたわ…。葉山達のことしか考えてなかった。
でもあいつらがアホな依頼受けたのも悪いわけだし、俺のやり方はこうだって知っていたはずだ。まあ、あいつらのこと考えてなかった、配慮してなかったのは悪いな。そこは今度謝っとくか。
でも俺が謝ると、あいつらにも反省してもらわないといけないんだが。あの様子じゃ、今は動揺してるかなんかで考えもまとまらんだろう。学校に戻ってからでいいか。
にしてもあいつらがあんなになるとは思ってなかったな。そういうもんなのか? こんなんだから配慮が足りないって言われんのかな。
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宿への道をのんびり帰る。新しい面倒事は生まれたがひとまず肩の荷が下りた。ぼちぼち歩いていると前に人影が見えた。
「ヒキタニ君」
戸部だ。
「戸部か。なんだ、殴りにでも来たか? 大人しく受けないといけないな。さあこい!」
「や、ちょ、ヒキタニ君俺をなんだと思ってんの?」
「え、違うのか? てっきりさっきのを怒っているのかと」
「怒ってるっていうか、ヒキタニ君の話を聞いときたい的な?」
「なんだそれ」
「いや、さっきのヒキタニ君の告白が全然本気とは思えないっつーか、振られたのに落ち込むより先に俺に謝ったから。ただ邪魔をするなら謝ったりしないっしょ」
「お前、思ったよりアホじゃないな」
「さっきから言うことひどすぎじゃね?!」
「すまん、で、何が聞きたいんだ?」
「なんであんなことしたのかとか?」
「なんで疑問になってんだ。話してもいいが、面白い話じゃないぞ?」
「それでも俺が絡んでんなら聞かないわけにはいかないっしょ」
「そうか、なら教えてやる」
そういって今回の始まりから終わりまでを歩きながら話す。
「つまり、俺が早まっちまったせいで…」
「いや、お前が自分を責める必要はない。むしろ告白しようとした度胸は誉められるべきた」
「そんなことないっしょ。俺全然軽く考えてたし、みんなのこと見えてなかったんだ」
「まあ、そうだな。で、お前どうすんの?」
「どうって?」
「海老名さんのこと」
「やっぱ、諦められないっしょ。今回かなりマジだから、今度はまたいろんな覚悟していくべ」
「そうか、なら頑張れ。次は邪魔したりしないから」
「ヒキタニ君、マジサンキューな」
「ああ。そうだ、俺ヒキガヤなんだけど」
「え、まじで? 俺今まで間違ってたの? 隼人くんもいってたからてっきり、マジごめん」
「直してくれるんなら別にいい」
「まじ紳士じゃんヒキガヤ君、っべー」
「さっきの策を聞いて紳士はないだろ」
「でもそこまでしてなんとかしちゃうとかやばいっしょ。大先生じゃね?ヒキガヤ大先生!」
「あんま調子乗ると塵にすんぞ」
「ちょ、冗談だって。ごめんなさい」
「冗談だ」
「いや、トーンがガチだったんだけど」
「気のせいだ」
「えー。ま、いいか。それよりヒキガヤ君、さっさと部屋戻って風呂いくっしょ。俺ヒキガヤ君のこと色々誤解してたから、結構おもしろいってわかったし。もう仲良くなるしかないべ。だからまず一緒に風呂にでも」
「わり、俺もう風呂入った」
「え、ヒキガヤ君、それはないべ。じゃ、もう一回いっとく?」
「いくわけないだろ」
「なら夜一緒に遊びたおすべ」
「昨日も一昨日も遊んでるだろ」
「じゃ、今日も問題ないっしょ」
「はぁ、勝手にしろ」
騒がしい戸部の相手をしながら部屋へ戻ってきた。俺と戸部が一緒にいたのを見て葉山が驚いた顔をしている。さらに戸部の態度を見て目を見開いている。葉山よ、戸部は予想以上にやるやつだぞ。てめえも早いとこ前を向け。
この後俺を除いたメンバーは風呂にいった。戸塚は帰ってきたときに部屋にいなかったから先に風呂にいったのだろう。
静かな部屋のなかでぼんやりする。明日で修学旅行も終わりだな。帰ってからの厄介事ができはしたが大方いい旅行だったんじゃないか。歴代一位だろう。最後まで楽しもう。
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騒がしいまま修学旅行の終わりは近づいてくる。
帰ってからぎくしゃくした中に持ち込まれる一つの依頼でまた苦労するはめになることを、珍しく人の輪の中で遊んでいる彼はまだ知らない。ほんと、彼はとことんついていない。
ほら、また負けてるし。
ふー、なんとか修学旅行終わりそうですね。次回の最初の方で旅行は終わりです。
そしてさっさと生徒会選挙編に入っちゃいます。
では、また次回。
あ、短編を書いたのでそちらもよろしくです。こっちを待っていた方にはすいません、どうしても一色ちゃんを書いてみたくて。この話じゃそんなに出番無さそうだし…。