彼と彼女はそうして対等になる   作:かえるくん

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 17話です。遅くなりました。そのわりにそんなに話進んでません。

 どうぞ。


季節は冬になった

 今日は久しぶりに部活があるので、特別棟へと向かっている。生徒会長になった雪ノ下はなんだかんだで仕事があり部活の回数は減った。由比ヶ浜は頻繁に生徒会室に手伝いで行っているらしいがいいのだろうか。俺? もちろん帰宅です。

 

 といってもぐうたらしているわけではない。この間から陽乃に勉強を教えてもらうことになり、その課題をやっている。それが学校の課題より膨大な量なんだよ。

 

 俺の数学の成績を見たとき、陽乃の目が点になってたもんなー。高1の範囲から全部復習するってことで陽乃のノートと付箋のついた問題集渡されて……。

 

 でもそのノートがかなり分かりやすいし、問題集も解く順番が考えられているしでとにかくすごいのだ。ここまでしてくれたので、俺は頑張って結果を残さなければと思い日々精進している。できるようになる気しかしない。

 

 まあそれは置いといて、今日は久しぶりに部長様から召集がかけられたのだ。部室につきノックをして入る。

 

「よう」

「やっと来たわね」

「ヒッキー遅い!」

「いや、お前たちが早いんだと思うのだが」

 

 いつもの定位置に座ると、雪ノ下が紅茶を出してきた。

 

「さんきゅー」

「ええ」

「そういや仕事は今何してんだ?」

「今は平塚先生が持ってきたクリスマスイベントの準備をしてるわ」

「イベント? 学校ですんのか?」

「いえ、海浜総合高校との合同で他所でやるわ」

「いきなり合同の仕事って…」

「向こうから話が持ちかけられたみたいで、断れなかったらしいわ」

「早々災難だな」

 

 発足したてでうまく連帯もとれないであろう序盤から他との連帯も求められる合同イベントですか。ドンマイとしか言えない。

 

「それがそれだけじゃなかったんだよねー。大変だったんだよ」

「何かあったのか?」

「向こうの生徒会長がね。こんな感じの人でー」

 

 そう言って由比ヶ浜が両手小さく回す。ろくろ回しだ。由比ヶ浜はそこにも手伝いにいってんだな。もう生徒会に入っちゃえばいいのに、なんかそんな役職なかったっけ?

 

「すまん、何も伝わってこないん。ずっとろくろ回しでもしてるのか?」

「まあ、そう言っても過言ではないわね」

「冗談のつもりだったんだが」

「えっと、ああいう人たちを何て言ったかしら」

「……パリピ?」

「由比ヶ浜、それは絶対違うと思うぞ」

「ちょ、そんなバカを見る目で見ないでよ!」

 

 パリピの生徒会長ってなんかヤバイな。文化祭とか凄そう。

 

「あれか、意識高い系か」

「そう、それよ」

「なんかよくわかんないことばっかり言っててさっぱりだった」

「で、それ大丈夫なのか?」

「その人達ブレインストーミングをやると言い出して、最初は確かに必要だと思ったから乗ったのだけれど、最終的に何も決めないのよ。ずっとカタカナ使っているだけで一歩も進んでいない」

「それでゆきのん、しびれを切らしちゃって……」

「叩きのめしたと」

「正論をぶつけただけよ」

「もう、ゆきのん抑えるの大変だったんだから。協力してやんなきゃなのに」

「それは、悪いと思っているわ。でも我慢できなくてつい」

「ははっ、相変わらすだな。なんとかなったのか?」

「ええ、由比ヶ浜さんと他の部員のおかげで助かったわ」

「まったく、今度から気をつけてよ、ゆきのん」

「ええ」

 

 そこそこ上手くやれているようだ。雪ノ下が暴走するときもあるみたいだが、ちゃんと他がサポートできている。この調子だと大丈夫だろう、雪ノ下も反省しているみたいだし。

 

「今日はそっちはいいのか?」

「準備は順調に進んでいるから今日は休みにしたのよ」

「そうだったのか」

「ただ…」

「まだなんかあんのか?」

「今度から小学生を準備に混ぜることになってね。そっちをまとめるのに少し人手が足りないかもしれないの」

「なんで小学生?」

「向こうの提案で近くの小学校と保育園を引き込むことになって、小学校側がそれなら準備を手伝わせてって言ってきたのよ」

「へー、それでそいつらの相手をする奴がいないと」

「全くってわけではないのよ。ただそういう子達の相手をするのが皆苦手みたいで」

「なるほど、それでちょっくら困っていると」

「そうなるわね」

「先に言っておくが俺は無理だぞ。嫌われる自信ある」

「そこは大丈夫よ。期待してないもの」

 

 それはそれで複雑だな。少しくらい…、そんな風に見えるポイント俺皆無だったわ。

 

「それで一人の負担が大きくならないように皆で交代しながらやろうってことになったんだ」

「それで、たまにでいいから私達の方を手伝ってもらえないかしら」

「え、なんで?」

「そこに人を割かないといけなくなったから念のために。今のところ順調だから問題はないのだけれど、おそらく本番が近づくにつれ忙しくなるから人手が欲しくて。毎日じゃなくてたまにでいいからなんとか頼めないかしら」

「まあたまになら別にいいぞ」

「ありがとう、助かるわ」

 仕事の話が済むと、いつも通り三人がそれぞれ好きなことをしだした。俺はいい感じに冷めた紅茶に口をつけ、本を開く。最近は家じゃ勉強しているから読書は学校でしかしていない。

 

 しばらく静かな時間が続くが、突然開けられた扉にそれは壊される。といってもカツカツ足音聞こえてたから全然突然じゃなかったんだけどね。この先生名前に反して全然静かじゃない。

 

「やっぱりやってたか。邪魔するぞ」

「平塚先生、なにか用ですか?」

「ちょっとな。今日はイベントの準備が休みだと聞いたからここにいると思ったんだ」

「それで?」

「いや、雪ノ下達にはいきなり大変な仕事を押し付けてしまったからな。詫びでこれを持ってきた」

 

 そう言って平塚先生は懐から紙切れを八枚取り出した。ディスティニーのペアチケットだ。

 

「なんでそんなものたくさん持ってるんですか?」

「この前友人の結婚式があってな…。当ててしまったんだ。」

「それでそんなになります?」

「ふふ、1つの結婚式でこんなになるわけないだろ。友人が一気に四人結婚式あげたんだ。そこでそれぞれペアで出されていてな……。まさか私もこんなに引き当てるとは思っていなかった。祝儀で金は飛ぶし、惨めにはなるし、それが短期間で4回も……。どうせなら酒がよかった」

「つまり先生じゃ使い道のないうえ、使いきれないそれを頑張っている生徒会にプレゼントってことか」

「比企谷、もうちょっとオブラートに包んでくれてもいいんじゃないか?」

「結構包んだつもりなんですけど…」

 

 先生がみるみる落ち込んでいく。

 

「ま、他の役員にも渡しといてくれ。私は帰る」

 

 そう言って雪ノ下に手渡すと先生は出ていった。

 

「ゆきのん!これ今度一緒いこうよ!」

「そうね、でもイベントの準備があるし」

「ちゃんと今のペースでいけば大丈夫だし、色々参考にするところがあるかもよ」

「そうかしら」

「それに今はクリスマスシーズンだからパンさんグッズも……」

「愚問ね、それは既に調べてあるわ。行きましょうか」

「ありがと、ゆきのん!」

 

 雪ノ下はパンさんで釣り上げられたのだった。

 

「しかし、私は年間パスを持っているのよね。だからこのチケット要らないのよ」

「え、そうなの? でもこれペアチケットだし…」

 

 そう言ってチケットをまじまじ見つめていた二人の顔がこちらを向く。え、なに。

 

「なんだよ。俺は人ごみいやだぞ」

「まあそうよね、あなただもの」

「んー、じゃあ優美子達に誘ってみていい?」

「いいわよ」

 

 由比ヶ浜は携帯をポチポチやりだす。するとすぐに由比ヶ浜の携帯がなった。流石に早すぎないか?

 

「返信来た。えっと、行きたいって。優美子は年間パス持ってるらしいから私と姫菜でそのチケットかな」

「そうなるわね」

「あ、あと隼人くんたち誘っていいかって来てるけど…」

「別に構わないわ。こっちから誘ったのだし、それに特に関わることもないでしょうから」

「じゃ、オッケーってかえすね」

「なかなかの大所帯だな」

「そう?こんなもんじゃない?」

 

 さいですか。皆さん元気ですね。

 

「そう言えば俺はいつ手伝いにいけばいいんだ?」

「来週から小学生が加わるから月曜日でお願いできるかしら」

「わかった。イベントはいつなんだ?」

「再来週の天皇誕生日よ」

「思ったより先だな」

「余裕をもって準備は進めたいもの」

「ふーん」

 

 文化祭の反省だろうか。まあ俺はそこまで頑張る必要は無さそうだな。

 

「そろそろ時間だし帰りましょうか」

「おう、じゃな」

「さようなら」

「バイバイ」

 

 俺は一足先に部室を出て帰る。季節はすっかり冬になった。

 

 

 

   _____________

 

 

 

「はー、すっかり街はクリスマスムードだな」

「そうね、まだ二週間くらい先なのに。皆楽しみなんだろうね」

 

 休日の日の暮れる頃、陽乃と二人でぶらぶらしている。ありとあらゆるところにイルミネーションが施されており、ケーキやチキンの広告がたくさん貼られている。

 

「これは、夜は凄そうだな」

「イルミネーションか。最近あちこちでやるようになったわよね」

「嫌いか?」

「別に嫌いじゃないわ。ああいう人工的な美しさもありよ。でもほら、イルミネーションって日中は逆に不格好じゃない?」

「まあ、確かにな」

「こういう二面性のものって二通りあると思うの。きれいと醜いのどちらが先に来るかで、その二つってだいぶ印象が違うじゃない? イルミネーションはどっちかなーって思ってね」

「極端な前者だろうな。皆きれいな部分しか見ないから、いや、そもそも綺麗なものって認識しているから昼間は何も感じないんだろ、昼間の不格好さはないも同然だ」

「そうよね。そう考えるとちょっと親近感がわいてね」

「あはは、なるほど。そういうことね。葉山なら共感してくれんじゃないか?」

「あの子は絶対に認めないわよ」

「言われてみればそうだ」

「ま、今はそんなことも少なくなったけどね」

「逆に最近はポンコツな面ばっかだもんな」

「誰のせいよ」

「さぁ」

 

 色々な店を外から眺めながら歩く。

 

「あーあ、今年もクリスマス来ちゃったなー」

「クリスマス嫌いなのか、珍しいな」

「毎年クリスマスにパーティーやるご贔屓様がいてね。そっちに駆り出されるのよ」

「うわ、ご愁傷さま」

「八幡はなんかあるの?」

「ないな、家でごろごろする予定だ」

「はー、なんか面白いことないかなー」

「そう言えば今度雪ノ下達は大所帯でディスティニー行くみたいだぞ」

「え、なにそれ」

「平塚先生がペアチケット持ってきてな。それで」

「八幡は?」

「人ごみ嫌だから断った」

「なんで断っちゃうのよ! そこは私も誘って行こうぜっていうところでしょ」

「なに、行きたいの?」

「たった今行きたくなった」

「なんじゃそりゃ」

「よし!」

 

 陽乃は急に意気込むと携帯を取り出し、どこかに電話しだした。

 

「…あ、もしもし雪乃ちゃん? あの、聞いたんだけどさ、今度ディスティニーに行くらしいじゃん。……そうそう、それどうなってる? ……ほんと? それ私も八幡連れて一緒にいい? ……ありがと! じゃ、よろしくー」

 

 電話を終えた陽乃は俺の方を見てにっこりと笑う。

 

「今度の土曜、ディスティニーだから」

「え、俺も?」

「もちろん、八幡いないとつまんないじゃん」

「う、……まじで?」

「いいじゃない、どうせ暇でしょ」

「人ごみが…」

「大丈夫よ。最近たくさん私と外出してるからある程度は耐性ついたって。」

「俺チケットないよ?」

「それがね、生徒会の会計君が要らないって言ったらしく余ってるんだって。一枚は隼人の友達が使うみたいなんだけど、もう一枚余って困ってたみたいだから八幡の分にしてもらっちゃった」

「陽乃のぶんは?」

「年パスよ」

 

 なんでそんなにみんな年パス持ってんだよ。千葉県民だからか? なんか持ってない俺が千葉嫌いみたいじゃん。

 

「仕方ない、勉強見てもらってるし、クリスマスは大変みたいだからその我儘に付き合ってやろうじゃないか」

「……素直じゃないんだから」

「うっせ。にしてもよく雪ノ下がオッケーしたな」

「ふふん、最近私と雪乃ちゃんは仲良しなのだ」

「ほー、それは良かったな」

「うん」

 

 本当に嬉しそうに陽乃は答える。その笑顔は反則だろ。

 

 俺達はそれから少し散歩をして別れた。

 

 その後しばらくはさっきの陽乃の笑顔が頭から離れなかった。 

 

 




 このペースだと30はいかないかもしれませんね。

 今後もよろしくお願いします。

 では次回。


 新シリーズもよろしくです!

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