彼と彼女はそうして対等になる   作:かえるくん

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 お待たせしました。18話です。

 どうぞ。


夢の国へ

 月曜の放課後、俺は生徒会の手伝いでコミュニティーセンターへとやって来た。駐輪場に自転車を止めて施設内に入る。結構大きい施設で他の団体も使っているらしい。

 

「そういえば、どこに行けばいいんだっけ」

 

 雪ノ下に聞くの忘れてた。由比ヶ浜にでも連絡して教えてもらおうと携帯を出したところで声をかけられる。

 

「あれ、比企谷?」

「ん? 折本か。なんでここに?」

 

 この前偶然あったばかりの折本かおりだった。どうやらひとりらしい。

 

「私? 私はうちの生徒会のイベントの手伝いかなー」

「お前って海浜総合だったよな」

「うん、そうだよ」

「イベントってクリスマスイベント?」

「そう! それそれ。もしかして比企谷も手伝い?」

「ああ、たまにでいいからって」

「へー、でもなんで?」

「生徒会長と同じ部活なんだ」

「なるほど。って、あれ? 生徒会長の名前って」

「あいつは陽乃の妹だ」

「確かに、似てるかも」

 

 折本は目を閉じて頭をひねりながら言う。顔でも思い出しているのか?

 

「で、それどこでやってんだ?」

「2階だよ、こっち」

 

 歩き出す折本の後ろを追う。2階に上がる階段を登り、折本は少し先の部屋の前で止まると扉を開け入る。それにつづいて俺も入る。

 

「総武の人達はあっちに集まってるから」

「おう、サンキューな」

 

 折本が指を指した方に目を向けると雪ノ下達がいた。近寄って声をかける。

 

「よう」

「やっはろー、ヒッキー」

「こんにちは、来てくれて助かるわ」

「気にすんな。で、何してんだ?」

「とりあえずもうすぐ来る小学生達に飾りつけの準備をしてもらおうと思ってそれの準備を…」

「なるほど。俺は何をすれば?」

「そうね、ひとまずあそこで雑務している会計君の手伝いをしてもらえるかしら」

「雑務か……」

「嫌ならこの後来る小学生の相手になるのだけれど」

「よし、雑務な、雑務超大好き」

「あなたって人は…」

「あはは…」

 

 苦笑いする二人を置いて会計の元に向かい、あれこれ教えてもらい仕事に取りかかる。

 

 集中して仕事をしていると、部屋が少し煩くなっていることに気付く。書類から顔をあげると10人ほどの小学生がいた。しかし特に関係ないので俺は自分の仕事に集中する。しばらく仕事をやり続けていると不意に肩を叩かれた。

 

「ん?」

「あの、ひ、久しぶり」

「……お前は」

「お前じゃない」

「ルミルミか」

「ルミルミ言うな、留美」

 

 夏のキャンプで出会った少女、鶴見留美がいた。

 

「久しぶりだな。その、あん時は悪かったな、怖い思いさせて」

「あれ八幡が考えたんだってね。あっちの二人から聞いた」

 

 そう言うと留美は少し離れたところで作業をしている雪ノ下と由比ヶ浜に目を向ける。

 

「そうだ。だから責めるなら俺にしろ、他のやつは俺の案にのっただけで…」

「ありがとう」

「……へ?」

「だから、あの時はありがとう」

「何でだ? 俺がやったことは誉められることじゃないぞ」

「それはそうだけど、本気で考えてくれたのは八幡が初めてで、実際にどうにかしてくれたのも八幡だったから」

「そうか…。あの後はどうなった?」

「私がはぶられることはなくなったよ」

「あの時の奴等は?」

「流石にね…、もう仲良くはしてないかな」

「だよな」

「でもね、みんなそれぞれ違う子と仲良くしてるよ。私も…。だから八幡は自分を責める必要はないよ」

「いや、1つの関係を壊したのは事実だからな、そうもいかないんだよ」

「そうなんだ…」

「……なあ留美、今が楽しいか?」

「うん。ちゃんと楽しいよ」

「なら、まあ良かったかな。ありがとな」

「私も、本当にありがとう。あと朗読劇出ることになったからちゃんと見てね」

「おう。お安いご用だ。頑張れよ」

「うん」

 

 留美は元気よく返事をすると小学生の集団に混ざった。本当に上手くやれているようだ。それを確認し終わると仕事に戻る。

 

 やっていた仕事が一通り済み、暇になったので雪ノ下のところへ報告にいく。

 

「仕事、終わったぞ」

「ありがとう。ご苦労様」

「他になんかあるか?」

「そうね、終わってそうそう悪いけど書記の子が隣の保育園に定期連絡に行くのだけれど一緒に行ってもらえるかしら」

「わかった。んじゃ、行ってくるわ」

「お願いね。書記はあの子だから」

「了解」

 

 書記ちゃんと軽く自己紹介をして部屋を出る。そのまま一回に下り施設の外に出て、後ろをついていく。保育園は本当にすぐ隣だった。

 

「ここです」

「怖がらせないようにしないとな」

「大丈夫ですよ」

 

 園内に入り、保育士さんがいる部屋へとやって来た。

 

「あの、私は話をして来るのでこの辺で待っててください。なんかあったら呼びますので」

「わかった」

 

 そう言って書記ちゃんはノックをすると教室に入っていった。俺は扉の横で待つ。これ、俺必要だった? 

 

 ボーッとしていると不意にズボンが引っ張られた。足元を見ると青い髪の幼女がいた。俺はしゃがんで目の高さを合わせる。

 

「どうかしたか?」

「あのね、さーちゃんがこないの」

「そうか、さーちゃんこないか」

「うん」

「なら、もうちょっといい子にして待ってような」

「うん!」

 

 どうしよう。みんなどこで待ってるんだ? どっかの教室か? そんなことを考えていると幼女に裾を引っ張られた。

 

「なんだ?」

「きてきて!」

 

 あどけなく駆ける幼女の後を追う。たくさんの絵が張られているところで止まり、指を指す。

 

「あれ! あれがさーちゃんだよ!」

「そうか、あれがさーちゃんか」

 

 どれを指しているか全くわからないが、とりあえず反応しておく。いや、流石にこんな小さい子の相手は難しいって。さーちゃん早く来てくれ。

 

「あ、さーちゃん来た!」

 

 どうやら俺の願いは届いたらしい。その子が走っていく方に目を向けると川崎がいた。

 

「川崎じゃん」

「なんで比企谷がこんなところにいんの?」

「生徒会の手伝いで少しな。ほー、紗希だからさーちゃんか」

「ちょ、それで呼ぶな。あ、けーちゃん、お名前」

「かわさきけーか!」

「ひきがや、はちまんだ。よろしくな、けーちゃん」

 

 腰を落として言う。

 

「はちまん? なら、はーちゃんだね。はーちゃん!」

 

 そういうけーちゃんの頭を軽く撫でる。

 

「妹のお迎えもしてんのか」

「まあね、バイトに行かなくて済むから」

「そうか」

「じゃ、あたし達は帰るから。ほら、けーちゃん」

「はーちゃん、バイバイ」

「バイバイ。川崎もまたな」

「ん。またね」

 

 帰る川崎姉妹を見送ってしばらくすると書記ちゃんが出てきた。

 

「お待たせしました」

「なんかあったか?」

「いえ、大丈夫そうです」

「そうか」

 

 うん、俺いらなかったね。まあけーちゃんに会えたからよしとしよう。

 

 この後書記ちゃんとコミュニティーセンターに戻ると、もう今日は終わりと言うことで解散となった。

 

 それから2回ほど準備に参加をした。進行具合はかなり順調らしくイベントも大丈夫そうだ。

 

 そして土曜日、ディスティニーに行く日になる。

 

 

   _____________

 

 

 

 俺は朝早くから電車に揺られている。ディスティニー行きの電車に乗り換えると人が多くなった。こんなにみんなディスティニー行くのかよ。これ合流できんの?

 

 人に揉まれに揉まれながらなんとか電車を降り、改札を出る。陽乃にメールを送るとまだ電車の中らしい。俺は改札の邪魔にならなさそうなところで待つことにした。

 

 しばらくすると携帯がなった。

 

「もしもし」

「あ、八幡? 今どこにいる?」

「改札でて少し右に行ったところ」

「んーと、あ、見つけた」

「え、どこ」

「ここ、ここ」

 

 ざっと見渡すが見つからない。人が多すぎる。

 

「すまん、わからん」

『もー酷いなー、ここだよ』

 

 携帯からと同時に、すぐ後ろで声が聞こえた。

 

「ふぁ?」

 

 思いっきり振り返ると携帯を持った陽乃がいた。

 

「あはははっ、なに今の! 面白い、もっかいやって!」

「やるわけないだろ」

 

 ジト目で陽乃を睨む。

 

「もー、そんな怒らない怒らない」

「別に怒っちゃいねーよ」

「びっくりした?」

「それなりに。覚えとけよ」

「はいはい。ほら、早く行って並ぶよ」

 

 そう言って陽乃に手を掴まれひっぱられる。

 

「あれ、集合とかしねーの?」

「中で合流よ」

「俺、チケット受け取ってないんだけど」

「ふふん、既に雪乃ちゃんから預かっています」

「流石」

「でしょ」

 

 陽乃と二人で長蛇の列に並ぶ。

 

「えぐい量の人だな」

「こんなもんよ。皆夢を見にね」

「なるほど、こんだけ現実から離れたい人がいると」

「その言い方はやめようよ」

「それもそうだな。で、1ついいか?」

「なに?」

「この手、いつまでこうしてるんだ?」

 繋がったままの手を少しだけ上げて聞く。

 

「……いつまでがいい?」

「え、まあどうしてもいいんだが」

「なら、しばらくこのまま、ね」

 

 微笑みながら陽乃はそう言った。ん、なんか、やばい。言葉にできねぇ。手汗大丈夫かな。

 

   _____________

 

 

 しばらくして陽乃の顔に目を向けると、遠くを見て難しい顔をしていた。

 

「陽乃、どうかしたか?」

「え? あ、なんでもないよ」

 

 咄嗟に貼り付けたような笑みを浮かべて言う。なんか様子がおかしくないか? 陽乃がこの笑い方を俺にすることはあの日からなかった。

 

「あのな、今更それで俺を誤魔化せるわけないだろ」

「別にそうじゃないよ。でも八幡を家のことに巻き込むのは…」

「はぁ、陽乃」

「なに?」

 

 陽乃の目を見る。

 

「もうな、お前に降りかかる災難は俺に降りかかった災難のようなもんなんだ。だから思いっきり俺を巻き込んでくれ。俺は修学旅行からお前にたくさん助けられたからな。今度は俺の番だ」

 

 陽乃は少しの間目を閉じ、ゆっくりと口を開く。

 

「あの、この前ね、お母さんに呼ばれて、もう20になったから本格的にお見合いしなさいって言われて。私は、そんなことしたくない」

「今まではそういうことなかったのか?」

「あったことはあったわ。でも今回は結構本気っぽくて」

「なるほど。それいつあるんだ?」

「いや、まだ決まってないわ。しなさいって言われただけだから」

「なら、まだ少しは余裕がありそうだな」

「何かするつもり?」

「んー、まあ、お前の母さんとタイマンでもはるか」

「正気!?」

「他人の家事情に足突っ込むんだ。そのくらいの覚悟はないとな」

「えー、大丈夫?」

「それは実際やってみないとな」

「あんまりおすすめできないんだけど」

「まあ、最終手段だから。もっといい手があったらそっちにすればいい」

「そう。その、ありがとね。楽になったかも」

「別に、それに……」

「それに?」

「いや、なんでもない」

「ま、おかげで今日は楽しめそう!」

「そうか」

 

 陽乃はさっきと違っていつもの笑顔になる。それに俺を笑い返す。

 

 

 お前が見合いするのがなんか嫌だ、なんてまだ言えないだろ。

 





 という事で物語は終盤に差し掛かります。なのに少し文が荒いのはすいません。

 八幡のコミュ力が著しい成長を遂げています。ルミルミにもこういう終わり方があってもいいんじゃないかなーと思ってあんな感じにしました。

 では、また次回に。


 新シリーズの方もぜひ。

 Twitterのアカウント作ったので更新の通知とかそっちでできたらと思います。@ttkk628gg よかったらこちらもご利用ください。

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