彼と彼女はそうして対等になる   作:かえるくん

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 19話です。お待たせしました。

 どうぞ。



そしてそれぞれが動き出す

 受付を終えた俺たちは園内へと入る。あ、流石にもう手は離したから。空気は完璧なクリクマスムードで、周囲の人達はどこか浮かれぎみだ。

 

「集合ってどこなんだ?」

「えっとね、城の前の広場よ」

「遠くね?」

「入り口付近は人多いからって」

「どこも似たようなものだと思うがな」

「でも入り口よりはましじゃない?」

「そうなのか? ま、ひとまず進むか」

 

 俺達はまず多くの店が並ぶスペースに入る。店からは耳やら被り物を身につけた人がバンバン出てくる。

 

「すげーな」

「つける?」

「いや、無理無理。まじで、やめて」

「そんな嫌がらなくても」

「じゃ、ちょっと想像してみ?」

「……ぷっ」

「おい…」

「やばい、なんかリアルで見たくなってきた」

「やんないぞ」

「試しにさ、買わなくていいから。行ってみよう!」

「ちょ、やめ…」

 

 ドナドナされて店内に連れてこられる。人ごみを何とか進み、目的のものの前へとくる。

 

「これを一回つけるだけでいいから」

 

 されるがまま俺の頭に例の耳がつけられる。

 

「これは、言葉にできないわ」

 

 陽乃はそういいながら写メを撮りまくる。おう、もうどうにでもしてくれ。満足したのか陽乃は商品を元に戻し、店を出る。

 

「面白かったー」

「つやつやしてますね」

「まーね」

 

 俺の嫌味になんでもないように陽乃は答える。店が立ち並ぶスペースを抜けると広間に出た。正面には例の城だ。俺達はその広間の外をぐるっとまわって城の前まで来た。人が多くて思うようには進めなかったが、ゆっくりと見てまわるにはちょうどよかった。

 

「この辺にいるのか?」

「たぶん。あ、ほら、雪乃ちゃん達だ」

 

 少し離れたところに雪ノ下と由比ヶ浜、葉山に三浦、戸部、海老名さんがいるのが見える。

 

「あれに混ざるのか…」

「いいじゃない八幡は、皆と知ったなかでしょ。私は3人ほど面識ないわよ」

「でもお前そういうの得意だろ」

「うん。実際なんの問題もない」

「うるさそうだなー、戸部とか。だってもう既にはしゃいでね? と思ったけど陽乃もさっき騒いだな。夢の国すげぇ」

「何言ってるの…。早く行くわよ」

「へいへい」

 

 陽乃の横に並んで集団に近づくと、由比ヶ浜が俺達に気付く。

 

「あ、ヒッキー達来た! やっはろー」

 

 由比ヶ浜の声に反応し他の5人がこっちを向く。

 

「すまん、待たせたな」

「ごめんね、雪乃ちゃん」

「大丈夫よ。私達もついさっきだったから」

「そうそう。問題ないよ!」

「そうか」

 

 軽く同じ部活の二人と挨拶をかわす。

 

「ヒキガヤ君、うぇーい」

 

 戸部、それは挨拶なのか?

 

「よう、相変わらず元気だな」

「そりゃー、こんなところ来たら元気になるしかないっしょ」

「ヒキオ、おはよう」

「おはよう」

「おう、待たせてすまないな」

 

 戸部に続き三浦と海老名さんと少し言葉をかわして離れる。

 

「八幡のこういうの見るの新鮮ね」

「どうよ、最近コミュ力が上がり始めたんだ」

「ふふ、私のおかげね」

「だろうな」

「私、雪乃ちゃんと戯れてくる」

「いってらっしゃい。ほどほどにしとけよ。あいつすぐ活動限界になるぞ」

「わかってるよー」

 

 陽乃は雪ノ下の方に駆けていった。それと同時に俺の肩が叩かれる。

 

「おう、葉山か」

「陽乃さんの話本当だったんだな。初めて聞いたときは耳を疑ったよ」

「ひでえな」

「それにああしている二人もすごい久しぶりに見た」

 

 そう言って葉山は少し離れたところで遊んでいる雪ノ下姉妹を見る。

 

「昔はあんなだったのか?」

「だいぶね、小学生の真ん中くらいまでかな」

「へー」

「君は陽乃さんさえも変えてしまうんだね」

「それは違うぞ。それに陽乃は普通な奴だ。今じゃ怖がっていた昔が謎なくらい」

「へ、へー。そうなのかい?」

「まあ。お前もよく見ればわかるんじゃない?」

「そうだといいな」

 

 葉山はそういうと苦笑いした。こいつも難しい性格してんな。もう少し肩の力抜いて気楽にやればいいのに。

 

「あの、そろそろどこか行きましょう。時間がもったいないわ」

「そだね。どうしようっか」

 

 女子が集まって会議をしだす。あいつらに任せた方がそりゃいいよな。遠巻きにそれを眺めていると戸部が話しかけてきた。

 

「ヒキガヤ君」

「どうした。いつになく真面目な顔だな」

 

 いつもの軽いノリではなく落ち着いた調子だ。大事な話なのだろうか。

 

「実は、今回こそしっかり海老名さんに気持ちを伝えようと思うんだ」

「え、まじで」

「まじで。超本気。この前はヒキガヤ君になんとかしてもらったけど、あれからたくさん考えて、でもやっぱどんな返答でもいいから伝えたいと思って」

「そうか」

「で、前回の反省を踏まえて今回はちゃんと優美子にも相談したんだけど、背中押してくれたんよ。隼人君にもちゃんと話した」

「おお、かなり本気だな。俺からは頑張れとしか言えないが…」

「充分っしょ。ヒキガヤ君にはお世話になったからちゃんと報告しようと思って」

「ありがとな。頑張れ」

 

 戸部との話が終ったタイミングで女子達の話し合いも終ったようだ。

 

「最初はスペマンに行くことになったわ。行きましょう」

 

 雪ノ下の言葉に皆で移動を開始する。俺の隣には知らないうちに陽乃がいた。

 

「なんの話してたの?」

「ほら、修学旅行での話したろ?」

「うん」

「今日またやるって」

「へー、大丈夫なの?」

「話もしてるみたいだし大丈夫だろ。今回は完全に見守るだけだ」

「そうなんだ。戸部くん積極的ね」

「まあ、突っ走れるのがあいつなんだろ」

 

 俺達はだらだらとどうでもいいことを話ながら目的のアトラクションまでやって来る。

 

「そういや今から長時間の耐久レースだよな」

「そうね。どうかした?」

「うーん、なんか食い物でも買ってこようかなと。軽い菓子とかあるだろ?」

「そうだね。買いに行こっか」

 

 そういうと陽乃は他の皆のところに注文を聴きに行った。しばらくして戻ってくる。

 

「なんて?」

「皆チュロスだって」

「あー、あの長いやつか」

「そうそう」

 

 陽乃と並んで屋台に向かう。屋台でいいんだよね? なんかもっといい感じの言い方があったりするの? 屋台に到着すると、ここにもだいぶ人が並んでいるので列の後ろにつく。

 

「陽乃、あのさ」

「なに?」

「すげぇ、ぶち壊しなこと言うけどさ」

「それわかってて言っちゃうのね」

「夢の国、なかなかの値段してるよな」

「ほんとにぶち壊しね」

「いや、まあこんなの運営するのに膨大な費用がかかるのはわかるが、こういう所作ろうって時点でなんか感心しちゃうよな」

「珍しく何言いたいか伝わってこないんだけど」

「すまん、なんだかんだ浮かれてるのかもしれん。柄にもなく」

「わかりにくいわよ! 戸部くん見習えば?」

「流石に俺があれをやるのは…」

「少しよ、少し」

 

 そんなことを話しているうちに順が回ってくる。人数分のチュロスを買い、二人で手分けして持って戻る。頼まれたものをそれぞれに渡し、俺達は列の後ろに並ぶ。あ、乗るのはあいつ等とは別になった。

 

「陽乃はこういうのは…、大丈夫だよな。ダメなイメージわかないわ」

「なにそれ失礼ね。まあバリバリ大丈夫なんだけど。…もしかして八幡はダメな感じ?」

「んなわけないだろ。余裕だよ、たぶん」

「たぶんって。ま、乗ればわかるか」

 

 時は経って俺たちの番、乗り込んでアトラクションを楽しむ。楽しんだよ、楽しめたんだよ、たぶん。

 

「八幡大丈夫?」

 

 はい、強がりました。ダメでしたよ。グロッキーです。情けない。

 

「少し、休ませて…」

「全然大丈夫でないじゃない。こんな八幡も珍しいからいいけどね」

 

 そう言って携帯を取り出し写真を撮りだす。

 

「なにとってんの…」

「記録よ。面白いことは一通り」

「えーー」

「あ、はい、これ水」

「助かる」

 

 俺はそれを受け取って朦朧とする中、口をつける。そして飲んだ後に違和感を感じた。あれ、今蓋開けたとき全然抵抗感なかったけど。ボトルを見ると明らかに俺が飲んだ量よりも減っている。

 

「え、おま、これ」

「なに?」

「何って、飲みさしじゃ」

「ごめん。嫌だったよね」

「いや、別に嫌って訳じゃないが」

 

 あれ、意識したらなんか熱くなってきた。

 

「ないが?」

「お前がいいのかよ」

「わたし? わたしは全然大丈夫よ、八幡だし。だから渡したんだけど」

「そ、そうかよ」

 

 陽乃結構なこといってるけど…。俺も言葉にできねーよ。

 

 何てことを思っていると再びシャッター音が響く。陽乃を見るとにんまり笑って携帯を構えていた。

 

「何してんだ?」

「八幡の赤面を記録」

「そりゃ、赤面くらいするだろうよ。逆になんでお前平気なの…」

「だって嘘だもん」

「へ?」

 

 意味のわからない発言に変な声が漏れる。

 

「飲みさしっての、嘘」

「え、でも蓋も量も…」

「前もって開けて減らしといた」

「……なんだと」

「八幡のいいリアクションみれるかと思って。結果ばっちりだった」

「はぁー、なんだよそれ、完全にやられたわ。てか手込めすぎだろ」

「だって最近してやられてばっかだったんだもん。ここらででかいの返しとこうかと」

「……倍返し覚悟しとけよ」

「えー、今やっと返したばっかりだよ」

「陽乃、終わりなき勝負ってのはそんなもんだ」

「なにそれ。なら、やられる前にまたやろう」

「次は効かんぞ」

 

 はぁ、俺達何やってんだ? あほか。でもこれ楽しいんだよな。

 

「そういや、他のやつらは?」

「もうお昼の時間だし店少しでもすいてそうなところ探しにいってる」

 

 携帯をつけて時間を確認すると一時を回っていた。結構待ってたんだな。俺は携帯を胸ポケットにしまう。

 

「なら、俺達も早いとこ合流するか」

「もう大丈夫なの?」

「さっきので吹っ飛んだよ」

「…てへっ」

「あーはい、可愛い可愛い」

「軽いわね。わたしのこれ貴重よ」

「そうなのか。ま、これでいつでも見れるが」

 

 そう言って俺は携帯を取り出す。画面は録画モードになっている。ぱぱっと保存。

 

「え、なにそれ」

「え? 録画だけど?」

「なんで…」

「なんかあるかなーと思って、いいの釣れた」

「ちょ、まじで? カウンターパンチ早くない?」

「流石だろ。よし、編集終わり。陽乃のあれだけ切り取っておいたから」

「えー、け、消してよ。動画は恥ずかしさのレベルが違うって」

「やだね。しばらく経ってからまた見せてやるよ」

「わたしの優位な立場はほんと一瞬よね。くっ、ならわたしはアルバムでも作ろう」

「え、そんなに写真あんのかよ」

「ふふっ、秘密よ」

 

 それからしばらく二人して騒いでしまった。途中で冷静になり二人一緒に首を捻って苦笑いした後、雪ノ下達のもとへ行くことにした。陽乃が連絡を取り合流する。

 

「あなた達、なんでそんなに疲弊してるのよ」

「ちょっとな…」

「騒ぎすぎちゃったかな」

 

 皆を待たせたことと店探しの謝罪と礼をいって昼食を済ます。それから色々なところをまわって買い物をすることになった。俺は小町へのお土産でも買おうかと物色していると肩を叩かれる。

 

「ちょっといいかな?」

「ん、海老名さんか」

「話があるんだけど…」

「はあ」

「ここじゃなんだから」

 

 そう言って店からでる。といってもあちらこちらに人が溢れているので静かなところはあまりない。海老名さんは皆から離れたいのか店から見えない建物の陰に来た。建物の角のところだ。

 

「あのさ、戸部っちのことなんだけどさ」

「ああ、それがどうかしたか?」

「その、お願いがあるんだけど、また…」

「海老名、話す相手が違うでしょ」

 

 突然の声に海老名さんの声は遮られる。振り向くとそこには三浦がいた。

 

「優美子…」

「海老名、なんでまたヒキオに全部投げるし」

「だってまた戸部っちが…」

「ならヒキオじゃなくてまずあーし達じゃない?」

「……でも、私達じゃどうにも」

「そういう問題じゃないでしょ。誰ができるかとかじゃなくて、あーし達でなんとかしないといけないんじゃん」

 

 縮こまる海老名さんに三浦がくってかかる。俺は、そっとフェイドアウトした方がいいのかな? でも動けないよね。

 

「あーしさ、あんたのそういうところ大っ嫌いなのよ。自分からは何も言わない。ぼかしてばっかり。嫌なら嫌って言えばいい、踏み込まれたくなければ踏み込むなって言えばいいっしょ。なんでそれをしない?」

「…そんなことしたら壊れちゃうじゃん。人の繋がりなんて脆いんだよ。些細なことが原因ですぐなくなる。だから、できるわけない」

「何言ってるし、あんたは一人になるのが嫌なだけでしょ」

「…え?」

「一人にならないためにあーし達といるんでしょ。自分に都合のいいグループを欲してるだけ。今のあーし達はただ毎日馬鹿みたいに騒いでいるだけで、何か綻びが生まれれば誰かが濁してなあなあで済ませちゃう。そんな楽チンなもの」

「……」

「あーしはさ、もっとあんたに踏み込みたい。こんな上っ面じゃなくて、もっと互いの意思表示がちゃんとできるような関係になりたい。なのに、あんたはいつも一線を引いてくる。隼人だってそう、肝心なことは何も言わないで、出来もしないのに自分で全部やろうとする。近づくの、あーしじゃさ、やっぱダメなん?」

 

 三浦は海老名の正面に来る。三浦が背を向けたので俺はこの場から退場することにした。そっと下がって三浦達から見えない位置に移動する。ちょうど建物の角を挟む形だ。ふと、近くに人がいることに気付く。

 

「や、やあ」

「…葉山か。聞いてたのか?」

「偶然にも…」

 

 そんな俺達をよそにむこうの二人は話を続ける。

 

「別にそういうわけじゃ」

「…じゃあなんで」

「怖いんだよ。たまらなく怖い。踏み込まれるのも、失うのも。私は今のメンバーは好きだよ。だから捨てるに捨てられなかった。失うのが何よりも嫌だった。だから…」

「なら約束するし。あーしは逃げずにあんたと向き合い続ける。あんたが逃げそうになったら掴んで離さない。もし逃げても追っかける。戸部だってそれくらいの覚悟を持ってる。あーし達を信じるし。ちゃんと返事して、思ってること言ってきな」

「本当に?」

「嘘じゃない。あーし達もいい加減歩き出すべきでしょ。それぞれが欲しいものを手にいれるためにさ」

「……わかった。優美子、ありがと…」

「え!ちょ、泣くなし。もー、ほら。ハンカチ」

 

 どうやら決着ついたようだな。俺は隣の葉山に目を向ける。

 

「だってよ」

「……」

 

 葉山は難しい顔をしてたたずんでいる。

 

「案外、皆の葉山隼人をただの葉山隼人として見てくれるやつは近くにいたのかもな」

 

 俺はそう残して去ることにした。なんかかっこつけみたいで恥ずかしい。

 

「君は…」

 

 後ろから葉山の声がしたので振り返る。

 

「君は本当に…、誰でも変えてしまうんだな」

「おい、だからそれは違うっていってるだろ」

「どうしてだい?」

「俺が変えたんじゃない。互いに影響しあって変わるんだ。俺は奉仕部に入って、陽乃に会って、お前らと関わって、間違いなく変化した。俺も昔は変わることは逃げだと思っていたし、変わらないことがいいと思ってた」

「…今は違うのか?」

「別に変わることが良いって話じゃない。もっと前提的なもの、変化ってのは必然なんだよ。俺らの意思に関係なく、人と関わったり何かを経験したりすれば俺達は変わる。だから俺がどうこうって話じゃないんだよ」

「……まさかボッチを名乗る君からそんなことを聞かされるなんてね」

「うるせぇよ」

「俺も…、しっかりしなきゃな」

「いや、お前はもっと力を抜け。なんでも背負いすぎだ」

「まったく君は…、君だけは好きになりたくないな」

「大歓迎だね。皆に含まれないのが俺だからな。皆の葉山くんに好かれるなんてごめんだ」

 

 俺達は顔を合わせて笑う。俺がこいつに直接的な期待をすることはない。なんたってなかなかのヘタレだからな、俺に似て。

 

「あははは、やっぱり君なら心置きなく嫌いだって言えるよ」

「くくっ、勝手にしろ。せいぜい頑張れ、ヘタレさん」

「君こそ頑張りなよ。ヘタレ君」

 

 俺達は今度こそ別れて、俺は陽乃のところに行くことにした。店に戻って陽乃と小町の土産を探して買った。皆もそれぞれの用が終ったらしく、他のアトラクションに移動する。

 

 そうして日は暮れ、パレードの時間がやって来る。戸部は気合いをいれている。

 

 そしてもう一人、密かに決心を固めている人がいた。

 

 





 また次回に。

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