彼と彼女はそうして対等になる   作:かえるくん

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 9話目です。

 どうぞ。


ようやく旅の一日目が終わる

 新幹線を降りた俺達は次にバスに乗り込んだ。目的地は清水寺のあるところらしい。もちろん隣の席は戸塚。戸塚のおかげでこの旅行抜群の安定感だ。

 

 数分間バスに揺られ目的地に着いた。バスから降りると恒例のクラスごとの集合写真の撮影をして、大勢でぞろぞろと拝観入り口に並ぶ。結構待ちそうだが俺の得意分野だ。こんなものボケーっとしておけば知らないうちに入れている。

 

 そう思って一生懸命ボケーっとしようと意気込んでいたところで声をかけられた。

 

「ヒッキー…」

「あ? 由比ヶ浜か」

「面白そうなところ見つけたから行こうよ」

「え、今並んでんだけど」

「でも進まないでしょ?」

「いや、こういう待つの得意なんだけど」

「確かに得意そう…。じゃなくて! 戸部っちの依頼もあるしさ」

「え、俺どうでもいいんだけど。戸部も結構本気みたいだし大丈夫じゃねえの?」

「そうだけど…。ほら、少しでも可能性はあった方がいいじゃん。もう姫菜たちも呼んでるしさ」

 

 いや、全く期待できないと思うんだが。焼け石に水ってこの事だろ?

 

「ちなみにどこ行くんだ?」

「なんか胎内めぐり?ってやつ」

「む、少し気になるな。行ってみるか」

 

 なんか聞いたことあるぞ。暗い中を進んで最後にお祈りするやつだろ。後で探そうと思ってたんだが別に今でもいいか。

 

 由比ヶ浜の後をおってその場所に行くと葉山、三浦、戸部、海老名さんの四人がいた。お金を払い、入り口までいったところで葉山が口を開いた。

 

「結構暗いみたいだから俺が先に行ってみるよ。みんなはその後に続く感じでいいよね」

「あーし隼人の次行くわ」

「私は優美子の後ろかな」

「じゃ、俺次行くっしょ」

 

 どうやら蛇というかムカデというか、一列で行くようです。葉山が揉めてもいないのに率先して提案するのは珍しい。これはこの前の陽乃との推測、いいとこついているんじゃないか? 由比ヶ浜はまたもや難しい顔をしていた。もう諦めればいいのに。

 

 俺は一番後ろについて進んでいった。本当に真っ暗で少し肌寒い。手すりは必須だ、なんも見えん。葉山たちの小さいしゃべり声もしっかり聞こえてくる。戸部は例外、あいつ本当にテンション高いよな。逆に尊敬するわ。

 

 しばらく進むと奥の方に淡い光が見えてきた。ほう、あれが随求石か。なんかこの雰囲気ゲームでありそう。

 

 石に辿り着くとそれぞれ石を回してお祈りした。俺は最後で、既にみんな外に出ていった後ゆっくりお祈りした。

 

「ヒッキー遅かったね」

「まあな、結構ああいう暗いところ好きなんだよ」

「へー、そうなんだ」

「それより少し急いだ方がいいんじゃないか? 他のやつらもういったんじゃね」

「そうかもな、ちょっと急ごうか」

「んじゃ、行くべ」

 

 そこそこ急いで清水寺の本堂に向かう。なんとかクラスの連中が入る前には戻ることができた。というか俺、かなりナチュラルに葉山たちと行動を共にしたな。変なの。

 

 本堂に入り、さらに進むと清水の舞台である。うわ、本物の清水の舞台だよ。幾度となくテレビで見てきたけど自分の足で立ってみると何か来るものがあるな。欄干に近寄って見ると綺麗な紅葉を見ることができた。ほんとすげぇ。

 

 ちなみに地面まで十数メートルあるらしい。清水の舞台から飛び降りるっていうけどこれ死んじゃうよね。相当な覚悟じゃないと……。あのことわざ軽々しく使うの止めようかな。

 

「うわ、すご……」

 

 どうやら近くの由比ヶ浜も感動しているようです。俺もしばらくこの余韻に浸りたい。

 

「あ、ヒッキー! 写真、写真!」

 

 おう、お前は浸らないタイプだよな。異様に切り替え早い。

 

「写真か? ならほれ、カメラ貸してみ」

「え、はい」

「はい、とるぞー。よし、オッケーじゃね」

「うん、よく撮れてるね。や、じゃなくて!一緒に……」

「おーい! 結衣ー!一緒に写真とるし」

 

 三浦と海老名さんがやって来た。

 

「あ、ヒキオじゃん。ちょうどいいや。写真とるし、よろしく」

「私のもよろしく」

「仕方ない、了解した。ほれ、撮るぞー。はい、ピーナッツ」

「ちょ、ヒキオ、なんだしその掛け声」

「何って、ちょっとした千葉のPRだ」

「いや、それ誰もわからんしょ」

 

 え、まじ?ピーナッツといえば千葉だろ? それぞれのカメラで数枚撮ってから返そうとしたところで三浦が声をあげる。

 

「あ、隼人ー! 隼人たちも一緒に撮ろー」

「ああ、そうだな。ん、ヒキタニ君がとってくれるのかい?」

「まじ? 俺のもよろしく!」

 

 いつもの葉山グループ四人がやって来てカメラ四つ寄越してきた。ちょ、別に撮るのはいいんだかこんなにカメラキープできねえよ。

 

「あ、八幡! って、どうしたのそのカメラ!」

「撮るの頼まれてな」

「それじゃ撮れないでしょ。僕が持っとくから」

「さんきゅー、助かるわ」

「これ終わったら一緒に撮ろうね」

「了解」

 

 戸塚ナイスアシスト。そして俺のカメラに遂に出番が来るか。

 

 さくさくと業務をこなし、やっと撮り終わった。というか途中からどんどん人が増えていったんだけど何?知らないうちにカメラの数、十は越えてるぞ。おまけに戸塚のとなりに川崎までヘルプに来てくれてるし。

 

 それぞれにカメラを返し終わったあと、皆は元のグループに戻って行った。よし、次は俺達の番だな。

 

「じゃあ、俺達も撮るか」

「そうだね。誰かに頼もうか」

「それならあたしがやろうか?」

「いや、お前も一緒に撮ろうぜ」

「そうだね、3人で撮ってもらおうよ」

 

 俺は見渡して場を離れようとしていた葉山に声をかける。

 

「おい葉山」

「なんだい?」

「俺達さっきお前らの写真死ぬほど撮ったからお前が代表で俺達の写真撮ってくれ。3人分だしいいだろ?」

「君が頼み事なんで珍しいな」

「これは頼み事じゃねーよ、取引だ。全然見合ってないが」

「確かにそうだな。そのくらいやらせてくれ」

「よろしく」

 

 そうして俺達は3人で写真を撮った。小町ちゃん、お兄ちゃんちゃんと普通の修学旅行できてるよ。

 

 本堂を出てから奥の神社へと向かう。縁結びの神様で有名らしく先ほどから多くの生徒が騒いでいる。お守りを買うための列もすごい。

 

 そしてちゃっかりその列に並んでお守りを購入した。え? 俺のなわけないじゃん。

 

「おい、川崎」

「ん、なに?」

「これ、大志に渡しといてくれるか?」

「え、これって。小町、いいのかい?」

「いや、それがな。この前小町と話していたときにあいつに全く望みがないことが発覚してな。なんか俺があれこれいう必要もなかったみたいで。気休め? いや、慰めか? みたいな感じだ」

「ま、よくわかんないけど渡しとく」

「頼む」

 

 大志、強く生きろよ。

 

 特にすることのなくなった俺は辺りを見渡すと、人が密集しているところを見つけた。そういえば恋占いの石ってやつがあるらしいな。高校生超好きそう。その騒ぎを遠目に見ていると戸塚が話しかけてきた。

 

「八幡、みんなおみくじ引いてるみたい。僕たちもやろうよ」

「たまにはいいかもな、行くか」

 

 おみくじ売り場に行くと既に葉山たちが開封作業をしていた。

 

「よっし、あーしさすがだわ」

「へー、優美子大吉だ。すごいね。私凶だよ」

「あはは、俺も凶だ」

「っべー、隼人くんが凶引くとかあんだな。あ、俺も大吉じゃん。あがるわー」

「えー、私末吉だー。あれ、ヒッキーも引いたの?」

「まあな、大吉だ。戸塚は?」

「僕も大吉だったよ」

「まあここのおみくじは凶の次に大吉が出やすいからな」

「そうなの?」

「らしいぞ。末吉はレアな方みたいだ」

「んー、そのレアはあんまり嬉しくないかなー」

「そうなんヒキタニ君。んじゃ、別に隼人くんも海老名さんも普通なんじゃね?」

「そうだな。それに凶が一概に悪いって訳でもない。書いてあることはそこそこいいことだったりするっぽいぞ」

「あ、本当だ。私のそんなに悪くかいてないや」

「俺も。ヒキタニ君よく知ってたな」

「テレビで見たことあっただけだ」

 

 にしても大吉って久しぶりに引いたな。でも内容はなんか微妙じゃね?なんだよ最終的にいい感じで終わるでしょうって。俺的に最初から最後までいい感じがいいんだけど。

 

 おみくじが終わると次は音羽の滝である。学業、恋愛、長寿のご利益がある水が三筋流れている。わー、真ん中にすごい大きなペットボトル持った大人がいるよ。そんなことしてるから結婚できないんだと思います、平塚先生。

 

  _____________

 

 

 清水寺を出た後、他に数ヶ所巡り宿泊する宿にやって来た。部屋割りはクラスごと二、三部屋で、グループがいくつかドッキングして8人くらいである。先生の話の後それぞれの部屋に荷物を置きに行き、すぐ夕食であり、その後入浴だ。

 

 つつがなく夕食、入浴を終え、ある意味一番盛り上がる修学旅行の夜だ。戸塚の風呂? そんなのは神のみぞ知るでいいんだ。俺達が踏み込んでいい領域ではない。

 

 葉山たち四人は既に麻雀を始めていた。俺は何しようか、もういっそ寝たろうか。と、そんなことを思っていたときにまたしても戸塚が誘ってきた。

 

「八幡、僕たちも遊ぼう」

「そうだな。で、何やるんだ?」

「これ、八幡できる?」

 

 そう言って出してきたのは花札だった。

 

「一応、こいこいだよな?」

「うん、それそれ」

「あれだな。夏によく見る某アニメ映画に憧れてルール勉強したな」

「八幡もなんだ。僕もあれみてたらなんかやりたくなっちゃって覚えたんだー」

 

 こうやって実際やってみて思うけど、あの映画かなり運いいよな。揃えたい役のうち一枚は大抵持っていかれるし。

 

 しばらく遊んだ後、飲み物を買うために部屋を出て一階に降りて自販機へ向かう。おい、マッ缶ねーじゃんか。まじかー、もうブラックでいいや。コーヒーを買って近場のベンチに座る。

 

 しばらくボーッとしていると知った顔が現れた。お土産コーナーに直行し、ご当地パンさんストラップを凝視している。そう、雪ノ下だ。あ、こっちに気づいた。

 

「こんなところで何をしているのかしら、ハブ谷君」

「別にハブにされたわけじゃねーよ。騒がしかったから出てきただけだ。そういうお前こそハブじゃねーのか?」

「面倒な話の矛先がこっちに向いたから逃げてきたのよ」

「へー、で、あれ買わなくていいのか」

「ええ、見ていただけだもの。あなたお土産は?」

「良さげな店が今日はなかったからな。明日、明後日見かけたら買うつもりだ。小町からはリスト預かってるしな」

「そう」

「お前はお土産買うのか?」

「一応ね、家に適当に」

「姉ちゃんに買ったりしねーの?」

「そうね、何か見つけたら買ってあげてもいいかしら」

「ほう、意外だな。お前のことだから買わないかと思った」

「私は別に姉さんが大嫌いって訳ではないもの。文化祭でも言ったように一応認めてはいるのよ。でもまあ…、いろいろあるよの」

「そうか」

「それに最近なんか以前より柔らかくなった気がするのよ」

「へ、へー、それは良かったな?」

 

 そうなのか、雪ノ下相手にも少し変わったみたいだな。

 

「この頃すごく楽しそうなの」

「ふーん」

「いったいどうしたのかしら、何か知っている?」

「え、い、いや。俺が知るわけないだろ」

「そうよね」

 

 おう、冷や汗ダラダラ、あぶねー。

 

 ちょっとしたピンチに見舞われた俺は視線を他所に向ける。すると明らかに怪しい格好をした我が部の顧問を見つけた。あの人何やってんの。

 

「おい、あれ平塚先生じゃね?」

「本当だわ、何かしらあの格好。恥ずかしくないのかしら」

「お、こっち見たぞ。てかこっち来た」

「おい、君たちこんなところで何をしている」

「先生こそ何処行こうとしてたんすか?」

「ちょっとラーメン屋に行こうと」

「それっていいんでしょうか」

「いや、あまりよくないからこんな格好してるんだ。しかしばれてしまったな。うん、君たちも来たまえ、ご馳走しよう。赤信号も皆で渡れば怖くない、だ。」

「え、まじすか。奢りならその話乗りましょう」

「私は結構です」

「そうか、まあ無理強いはしない」

 

 雪ノ下とは別れて先生と二人でタクシーに乗り込み、ラーメン屋へ行った。この人とは無駄に趣味が合うんだよな。でもイラッとさせられることも多いし。この人ほど両極端の感情を与えてくる人も珍しい。

 

 美味しいラーメンを食べたあとタクシーを拾うため大通りへと向かう。すると途中で開いている酒屋を見つけた。そうだ、一か八か先生に頼んでみるか。

 

「先生、頼みがあるんですけど」

「ん、なんだね?」

「酒を買ってくれませんか」

「いや、流石に生徒に酒を買え与えるのは…」

「すいません、俺じゃなくて親父に買いたくて」

「ほう、君がそういうことを考えるとはな」

「こっちに来る前にちょっとありましてね。俺も変な感じです。で、頼めませんか」

「いいだろう。でも他言無用だぞ」

「そりゃこっちが頼んでますからね。助かります」

「構わん。いつか君と飲める日が来るといいな」

「え、まじすか。そういえば先生って教え子と飲んだりするんすか?」

「ああ、といっても陽乃くらいだが」

「へー、陽乃と。あの人酒強いんですか?」

「かなり強いぞ。ん、今陽乃って言ったか?」

「あ、や、気のせいでは?」

「ふ、そんなことで誤魔化せるとでも?」

「いえ、けしてそんなことは」

「なるほど、この前会ったときにやたらとスッキリしているように見えたのは君のおかげだったのか」

「そこまでじゃないです。乗り越えたのは陽乃自身ですから。逆に俺が助けられてる方ですよ」

「そうか、君はそういう相手を見つけられたんだな。陽乃も。私はあまり力になれなかったようだな」

「それはないんじゃないですか? 陽乃にとって先生の存在は大きいでしょうし、俺だって先生に奉仕部にぶちこまれなければ陽乃と出会えてませんから」

「そういってくれると嬉しいな」

「ただ先生にはもう少し色々良く見て考えてほしいですね。すいません、少し図々しいことを言いました」

「いや、構わんよ。教え子にこんなこと話すのもなんなんだが……。実はこの前私の恩師と会ってな、君たちとのことを話したら怒られたんだ。少し無責任が過ぎる、方法は悪くはないが生徒が危ない橋を渡る前にちゃんと動くべきだってな。思い返してみるとその通りだったよ。私はいつも最初と最後だけ、基本外から見ているだけで、その結果君が損をする方法を取らせ続けてしまった。今更だが、すまなかった」

 

 そんなことがあったのか。少しこの人を見くびっていたかな。

 

「別に構いませんよ。俺は損してるなんて思ってませんし」

「相変わらずだな君は。でも雰囲気は良くなったように思うよ」

「どうもです」

「さ、さっさと親父さんへの土産買って戻るぞ」

「お金はこれでお願いします」

「郵送だよな?」

「はい」

「ではいいものを選んでやろう」

 

 ほんと、嫌いになるになれない、憎むに憎めない人だ。

 

 酒を買い、送り終わって宿まで戻ってきた。部屋に戻る頃には出てから一時間ほど経っていた。それなのにお前らまだ遊んでんのかよ。ってもまだ11時過ぎくらいだし普通か。

 

「あ、八幡おかえりー。かなり遅かったね」

「おう、ちょっとな」

「そうだ、今葉山くん達と交代で麻雀やってるんだけど八幡も混ざる?」

「お、ヒキタニ君じゃん。ちょ、隼人くん達まじ強くてさー、混ざってくんね?」

「別にいいが俺もそこそこできるぞ」

「まじ? っべー、弱いの俺だけかよ」

「戸部くん、僕もそんなに出来ないから。さっきから僕と戸部くんだけローテーションみたいになってるし」

 

 そんな会話をしていると部屋にでかいのが入ってきた。

 

「はちまーん、我と遊んでー」

「何しに来た材木座」

「もうお主しか頼りがいないのだ。我は交代待ちなのだが一向に交代がやってこない」

「どんまいだな。で、何するつもりだ?」

「ウノを持ってきた」

「ウノか」

「ちょ、材木座君それファインプレーだわ。隼人くん麻雀やめてウノにするべ」

「ウノか。大人数でできるしいいな」

 

 おい戸部、それもう麻雀勝てないからだろ。それにお前のせいで、急にザ・リア充に話しかけられた材木座が石と化したじゃねーか。

 

「おい材木座、しっかりしろ」

「は! 何事だ?!」

「今からウノだ。お前もやるんだろ、安心しろ。葉山はハブにはせんだろ」

 

 騒がしいまま夜は更け、12時になった頃お開きになり就寝となった。

 

 結局戸部弱いじゃねーか。

 





 すいません、ようやく一日目が終わったところです。修学旅行長くなっています。どうしてもおみくじと平塚先生のくだり、他の細かいところも削るに削れなくてこんなことに。

 まだ海老名さんとも、三浦とも、葉山とも話せてないし。

 次回そこら辺書けるかな? ではまた。

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