魔法苦手なんで殴ります   作:マッキー

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一部の方がお待ちかね?(∴)要素が出ます。

今話の趣旨として、主人公が思いの外ゲス。しかもウザい。変態。かっこいい森崎くん。そして、突然の三人称視点。

以上です。



邪悪の理

Acta est fabula(未知の結末を見る)(アクタ エスト ファーブラ)!

 

 

 

入学二日目の朝。E組は殺伐とした空気に呑まれていた。何故かはわからない。トイレから戻ったら自然とこうなっていた。が、原因はわかる。否、わかってしまった。さすがに目の前で言い争いをされては、嫌でも気づくというもの。

 

言い争いをしているのは一組の男女。女の方は知っている。飛翔天千葉エリカ。男の方は知らん。初めて見る顔だ。

 

不快だ。

 

朝からなんだと言うのだコイツら。煩いぞ。今の俺にあるのは、唯それが不快だとういうだけだ。ああ、本当はそのココロすら煩わしい。

 

平穏、というやつなのか。俺はそれのみを求めている。永劫に、無限に広がりながら続いていく凪––––

 

起伏は要らない。真っ平らでいいんだよ。色は一つ、混じるものなし。

 

「二人共、その辺にしておけ」

 

聞こえてきたのは、お兄ちゃんが仲裁に入った声。それにより、飛翔天と男は、渋々、といった感じではあるが、怒りを鎮めた。

 

ふっ、はは、ははははははっ–––––!素晴らしい!心から喝采しよう。君がお兄ちゃんで、本当に良かった!

 

これで、俺の朝という平穏は保たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今朝、エリカと喧嘩をしていた少年の名は、西条レオンハルトというらしい。気軽にレオって呼んでくれと言われた。

 

結論、めちゃくちゃいい奴だった。

 

なんと形容すればいいだろうか。そう、漢。漢と書いてオトコ。それがレオに抱いた、俺の率直な感想。何処までも真っ直ぐ、それでいて揺るぎない。己がこうと決めたことは絶対に曲げない。そのような男。

 

まあ、この話はとりあえず置いといて、俺が今考えなければならないのは、この状況。

 

「いい加減にして下さい!」

 

この言葉は美月が吐いたもの。普段は物静かな彼女からは、なかなか思考できない言動。それ故、面白くもあるが。

 

美月の言葉の対象者は、目の前の一科生の集団。つまり、揉めているのだ。なにもこれが一度目、という訳ではない。

 

昼食時、食堂で食事をしている際にお姉ちゃんが、俺とお兄ちゃんを見つけて、一緒に昼食を摂ろうとした。が、それを認めぬ者たちがいた。お姉ちゃんを取り巻く一科生の集団(クソのかたまり)。それが起源。

 

その次に、射撃場での衝突。只、一番前で観ているから、という理由で、あの滓どもは啖呵(雑音)を放ってきた。不愉快極まりない。

 

–––––雑草が、思い上がるなよ(雑音、雑音雑音雑音雑音)

 

つまらんノイズで俺の邪魔をするのか?射撃場では真由美先輩が実技を披露していたというのに–––––!

 

余談ではあるが、真由美先輩の実技は素晴らしい!今でも鮮明に覚えている。ああ、ああ、思い出しただけで脳髄が溶けるようだ。これで、俺の『脳内保存用真由美先輩コレクション』が更に潤った。

 

「黙れ!ウィード如きが、ブルームに口出しするな!」

 

未だ続く、くだらん論争。もはや論争とは呼べぬ。アイツらは話を聞くつもりなど、これっぽっちもないのだから。なんだ、コイツら?真由美先輩だけでは飽き足らず、お姉ちゃんまで奪うのか?

 

こうなったのは、お前らのせいだ。俺は悪くない。悪くない、悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない。

 

だから俺は、思考を変えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブルームがどれだけ優れているか、知りたいか?」

 

「ああ、是非とも教えてもらおうじゃねえか」

 

一科の生徒が挑発し、レオが受ける。話し合いは終わりだ、とも受け取れるコレはしかし、意味を成さなかった。いや、正確には、遮られたと言うべきか。それは、一人の少年によってもたらされたもの。その少年はレオの前に躍り出た。

 

「刀夜……?」

 

レオの言葉が疑問形だったのは、刀夜の様子が異常だと思ったから。ふらふらとした足取りで、腕は垂れ下がっている。

 

そして、その異変の意味を理解できたのは、彼の兄と姉である、達也と深雪だけ。そして、その焦りは尋常ではなかった。

 

「離れろ。全員今すぐ刀夜から離れるんだ!」

 

達也にしては珍しい大声。それが、事の重大さを告げていた。故に、レオ達二科生の面々は、刀夜から距離を置いた。

 

「ねえ、達也くん。刀夜くん、どうしたの?」

 

エリカがこの場にいる全員の気持ちを代弁する。

 

「彼奴は、怒ってるんだ」

 

分からない。質問をしたエリカを含む、全員がわからなかった。身勝手な一科生を相手に、怒っているのは皆同じ。それが何故、刀夜から離れる理由になるのか、それがわからなかった。

 

「なんだ、お前は」

 

突然目の前に現れた、刀夜に問いかける一科生。名を森崎駿。森崎の本家に名を連ねる者。

 

しかし、森崎の質問に対する答えは、返ってこなかった。刀夜は森崎の問いを無視––––否、そもそも聞いてはいなかった。

 

刀夜は目の前にいるゴミのやま(一科生の集団)に目を向ける。右から順に、糞、塵、屑、滓。今の刀夜には、目の前の集団が、人の形をした塵にしか見えていなかった。

 

しかし、そんな刀夜でも、しっかりと『他者』と認識できる者が二人。

 

理解者(しずく)その友(ほのか)

 

入学式で出会い、自分の口調が好きだと言い、認めてくれた理解者とその友達。

 

ああ、あれはダメだ。壊しちゃいけない。

 

外道に成り下がった今の刀夜にも、それくらいの理性は有った。もとより、彼が外道となったのは一科生の理不尽な言い訳。姉の意見も聞かないで、無理やり姉を引き摺り込もうとする、その身勝手さ。

 

そう、彼の根底に有ったのは、唯の姉弟愛。そして、友人を思う、心。それだけは、どれだけの下衆に成り下がっても忘れない。

 

「おい、お前!聞いているのか!」

 

怒号。とても話を聞いているとは思えない刀夜(ソレ)に、痺れを切らせた森崎が、怒りをぶつける。

 

「ああ?なんだお前は。知らないぞ」

 

刀夜は自分に話しかけてきた塵に目を向ける。しかし、その目は焦点が合っておらず、森崎を見ているとは思えなかった。だが、森崎は感じ取ってしまった。その目から。その男が発する怒り(邪悪)を。いまこの瞬間、森崎を覆い尽くす、(くろ)(くろ)(くろ)。圧倒的邪悪が、森崎のイメージを黒で塗り潰した。

 

「くは、くわはははははははっ–––––!糞が、糞の領分を忘れて口を開くとは笑えるぞォ!なあ、おい、お前の事だぞ糞」

 

突然の罵倒。巨大な悪性に、己を見失いそうになりがらも、森崎の耳にはしっかりとその言葉が入ってきた。

 

「誰が糞だこの下衆ッ!糞はお前だろ!」

 

故に激昂する。森崎の誇りが、自分より格下のソレに貶されるのを許さなかった。

 

「ああ、ああ、ああァ!口を開くなよ、塵屑が。気持ちが悪いぞ」

 

会話になっていない。森崎の目の前にいる下衆が放つのは、まるで独り言。

 

「おい、お前!僕の話を聞いているのか!」

 

「ふ、ははは、はははははははっ……!いいぞォ、何を言っているのかさっぱりまったく分からない!何故俺が塵と話をしなければいけないんだ?ああ、やはり塵は塵だなァ!腐って見える!掃除がいるぞ」

 

期待していたわけではない。もとより意味のない問いかけであると、森崎も理解していた。だが、言わずにはいられなかった。叫ばずにはいられなかった。それほど森崎は、苛立っていた。いや、最初の罵倒から既に、凄まじい怒りを抱いていた。だけど我慢した。だが、それも限界だ。

 

森崎は素早くCADを抜き出し、刀夜に狙いを定める。

 

クイックドロウ。本来よりも速く魔法を発動させるための、CAD操作技術。

 

それを見ていたエリカが、刀夜と森崎の間に割って入ろうとする。

 

「達也くん⁉︎」

 

だが、エリカの腕を達也が掴み、それを止めた。達也は理解している。今の刀夜は誰にも止められない。それどころか、今割って入れば、エリカが危険だ。

 

「どうして止めるのよ!このままじゃ刀夜くんがっ!」

 

しかし、もう遅い。高速化された魔法はもう、放たれる瞬間だった。

 

「喰らえ外道!これが森崎の誇りと魂だッ!」

 

瞬間、閃光と共に魔法が放たれる。そして、そのまま刀夜には吸い込まれるように、直撃した。

 

そして–––––

 

「あ?いまお前、俺に何かしたか?」

 

絶望。魔法を受けて尚、その下衆は顔を歪ませ、嗤っていた。

 

確かに森崎は、殺傷性のある魔法を使用したわけではない。しかし、人体になんの影響も無いというのは不自然だ。その極大の外道は、魔法を受けてダメージどころか、微動だにしない。

 

しかし、森崎は少しも臆さない。怯まない。

 

あの外道を打ち倒す為、再び術式を構築する。

 

森崎の誇りを穢させはしない。我らの司波さんを奪わせてなるものか。目の前の下衆とは思いの質が違うのだ。

 

「うおおおおおおおォォォ!!!」

 

しかし、咆哮と共に打ち出そうとした魔法は、突如飛来したサイオン弾により、霧散した。

 

その隙を外道は見逃さない。腕を振り上げ、塵を捻り潰そうとする。

 

「滅尽めっ––––」

 

「止めなさい!自衛目的以外の対人魔法は、犯罪行為ですよ!」

 

瞬間、外道の腕が止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めなさい!自衛目的以外の対人魔法は、犯罪行為ですよ!」

 

俺の耳にそんな声が聞こえた。この声、聞くだけで心の闇の全てが純化されていく。間違いない。この声は我が女神のもの!

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ。事情を聴く。ついて来なさい」

 

そしてもう一人、風紀委員長と名乗った少女。ボーイッシュな見た目。それでいて女性の魅力が溢れている。女性でありながら、男に見立て、それでもあまりある女性の魅力。その者、咒をつけるなら––––

 

二元論。

 

「では、其方の少年が、今にも一科生の生徒を殴り飛ばそうとしているのは何故だ?」

 

俺がくだらん妄想に浸っている間に、事は進んでいたらしい。てか、今にも殴り飛ばそうとしてる少年って、俺の事だよね。

 

そして、真由美先輩と目が合った。彼女はゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

ああ、貴女が一歩一歩、俺に近づくたびに、この世全てがどうでもよくなってしまうほど、歓びに満ち溢れる!

 

「ねえ、刀夜くん。本当に彼を殴ろうとしたの?」

 

「いえ、違います。俺がそんな、野蛮な人間に見えますか?これはアレですよ、そう!驚いたんです!その反動で偶々、た!ま!た!ま!人を殴り飛ばそうとしているような姿になったんですよ。ええ、ええ」

 

嘘を吐くことをお赦しください、我が女神よ。俺とて、貴女に嘘を吐くのは心痛い。

 

「だってよ、摩利。もういいじゃない。刀夜くんにも非はない事だし」

 

「はあ……会長がこう仰られている事だし、今回の件は不問にします。以後、このような事はないように」

 

「またね、刀夜くん」

 

それだけ俺に告げ、真由美先輩は二元論のもとに戻っていった。それを見届けた後、俺は二人の少女のもとに向う。

 

口調を『彼女』仕様に変えて。

 

「すまない、今回の件、怒りで我を忘れていたとはいえ、責の半分以上は俺にある。心から謝罪しよう。二人を巻き込んで、本当にすまなかった」

 

そして俺は、雫とほのかに頭を下げた。

 

「謝らなくていいよ。刀夜はお姉さんを守ろうとしただけなんだから」

 

なんと慈悲深い。狂っていたとはいえ、あれだけ他人を糞だ、塵だと罵倒とした俺を、赦してくれるのか?

 

「言ったよね?理解ある人には理解ある回答を。これは私が高校最初に出会った、最高の理解者に贈る言葉。忘れないでね」

 

「雫……」

 

ああ、忘れぬとも。雫が理解者であったのは俺とて同じこと。その言葉、我が身に重く、受け止めよう。

 

「あの、一ついいですか?」

 

そして、口を開いたのは、今まで黙っていたほのかだ。

 

「何かな。この罪深い身に出来ることなら、なんでもしよう」

 

「私、お兄さんに謝りたいんです」

 

「お兄ちゃんに?」

 

「はい。ここにいる私達が、風紀委員長に連れて行かれなかったのは、お兄さんのお陰だと思うんです」

 

なるほど。確かにそうだろうな。お兄ちゃんがあそこで何も言わなければ、今頃どうなっていた事だろうか。

 

「わかった。助力しよう。俺もお兄ちゃんには感謝せねばならぬ身ゆえ」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お兄ちゃんに謝りたい、というほのか、及び雫を引き連れ、俺はお兄ちゃんのもとに来た。

 

「刀夜……」

 

「言いたい事はわかる。だけど後にしてくれ。お兄ちゃんに謝りたいという人がいる。ほら」

 

俺はほのかをお兄ちゃんの前に出す。

 

「光井ほのかです。さっきは生意気言ってすみませんでした。それと、ありがとうございます。大事にならなかったのは偏に、お兄さんのおかげです」

 

ほのかの謝罪を聞いたお兄ちゃんは、目を見開いた。一科の生徒からの謝罪と、感謝の意に意表を突かれたのだろう。

 

「どういたしまして。だけど、同じ一年生なんだ。お兄さんは辞めてくれ」

 

「では、なんとお呼びすれば?」

 

「達也でいいよ」

 

「わかりました。それで、その、もう一つお願いがあるのですが……駅までご一緒してもよろしいでしょうか?」

 

おや、これは些か予想外。未知とはこの事か。まさしく、未知の結末をみる(Acta est fabula)

 

未知の合間に俺は、隣の雫を見る。だが雫は首を振った。彼女も予測していなかったようだ。

 

「良いので?」

 

「ほのかがいいなら」

 

「それは結構」

 

雫も問題ない事だし、後はお兄ちゃん次第か。

 

「構わないよ」

 

「本当ですか⁉︎」

 

お兄ちゃんの許可が降りた瞬間に、ほのかの口から溢れた歓喜の声。よほど嬉しかったのだろう。何故かは知らぬが、な。

 

 

 

 




主人公が外道に成り下がった時が、一番筆が進んだのは別の話。

主人公に魔法が効かない理由。怒ると屑になる理由は、まだナイショッ!

そして、これが最後のあだ名。第七天 二元論!(渡辺摩利)
以上です
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