ようやっと更新です。
何度もリテイクした結果とはいえ、遅れてしまったお詫びに不満があった時はお受けしますので遠慮なく仰って下さいませ。
試合開始直前の時間というものは、おそらく選手の心に最も迷いが渦巻く時間なのだろう。
どれだけ自信や勝算があっても、実際に戦ってみるまで勝敗は分からないものだ。
分かるのは戦力差と勝利の確率だけで、ジャイアントキリングが起こりうる可能性を0にすることは、余程の実力差がある相手同士の対戦でもない限りは難しい。
また、同じ相手と何度も戦って手の内を知っていくことができるシーズンリーグ制と異なり、競技会である九校戦では同じ相手と一つの競技で一度しか戦うことができない故の、敵の実力が分からないことに対する不安もあるだろう。
幸いというべきか否か、俺は母の魔法によって『深雪に対する感情』に精神の大部分を集約されていることで、そういった理由での影響は最小限に留めることができている。
そんな俺でさえ、『一条のプリンス』との戦いを目前に不安がないわけじゃない。
一条家の《爆裂》は液体を気体に変化させた膨張力を破壊力として利用するという術式だ。原理の応用で水蒸気爆発はプリンスの十八番と見ていいだろう。
『渓谷ステージ』は大量の爆薬がフィールド全域に用意されているも同然であり、『市街地ステージ』には水道管が張り巡らされた危険地帯ということになる。
深雪に危険がおよぶ前に、可能性の段階で未然に処理することを目的としてプリンスたちを挑発して釣り上げたとはいえ、やはり実力差は如何としがたい開きがある相手だった。
ランダムで選ばれるステージ次第では、ただでさえ少ない勝率は0になる可能性は低くなかったのだ。
しかし、それらの迷いや不安は、試合開始の笛が鳴るまでのものでもある。
たとえ心に迷いがあろうと無かろうと、戦いが始まってしまえば戦場に立つ者達に迷いを持つことなど許されない状況へと追いやられる。
戦って勝たなければ、迷いを持って悩み続ける資格さえ与えてもらえない・・・・・・それが戦いというものであり、試合会場もまた人が死なないだけで戦いの場であることに変わりは無いのだから―――
――まぁ、もっとも。
それは逆説的に、戦いの火蓋が切られるまでの待ち時間は、さまざまに渦巻く迷いや不安に振り回される時間でもあるという事になるわけでもあるが・・・・・・。
「なぁ・・・・・・達也」
「これは・・・・・・一体」
そして、手にしたばかりの『黒い布』を持ち上げている二人の男子生徒たちも、そんな試合開始までは持たされ続ける不安に迷わされている者達の一員、ということになるのだろう。
彼らは、俺と共にモノリスコード四位決定戦に出場する2人の選手で、『吉田幹比古』と『西城レオンハルト』という。
幹比古は俺のクラスメイトで、レオは雫と同じクラスの男子生徒。所属する学科こそ違うが同じ第一高校の同級生で、今は同じ競技で優勝を目指すチームメイトでもあるという間柄の2人組。
彼らが今、不安そうな顔を浮かべながら手にしているのは、小野先生から先刻届けてもらった電動バッグの中身として入れられていた代物で、外見上は『黒いマント』と『黒いローブ』という形状をした物品を見下ろしながらの話だった。
「そのマントとローブには、魔法陣を織り込んである。着用した者の魔法がかかりやすくなる効果が付与されてるんだ。
古式の術式媒体で、使い方は刻印魔法と同じ原理で作動するようになっている」
中身を取り出して空になった用済みのバッグを閉じながら、俺は二人に渡した魔法の品の効果と性能について説明をしていく。
・・・・・・あくまで勘に過ぎない憶測ではあるが、なんとなく二人が無言のまま互いの持つマントとローブを見下ろしている視線から、『どちらの方がマシか・・・』と押しつけ合いたがっている本心を隠している―――そのようにも見えなくはなかったが、憶測に過ぎない他人の心の内での話でもある。
敢えて声には出すことなく、説明を続ける方が賢明な状況というものだろう。
あるいは、雫にでも見せてやれば大喜びしそうな気もしなくない見た目ではあるが・・・・・・三日で飽きて部屋の隅に追いやられなかった例がほとんどない。そういう由来の見た目をもった品物だ。言葉にして説明しない方が良いものも時にはある。
「そりゃいいんだが・・・一体なんに使うんだ? コレって・・・」
「カーディナル・ジョージの《インビジブル・ブリッド》は魔法の性質上、相手を視認しなければ使えないという欠点があるんだ。だからコレを使えば彼の魔法を防御することはできないまでも、使用を阻止することは可能になるはずだ」
『『はあ・・・』』
はじめて渡された道具ということもあってか、使い方を説明しただけでは要領を得ないといった反応を返してくるレオ。
そんな彼を見て一瞬だけ、渡した相手が雫だったら近くの公園にでも持って行って、隠れて着用した姿で走り回っている光景を連想してしまいそうになり―――かぶりを振って不急不要なイメージを脳裏から閉め出すよう意識する。
その想像によって、二人がイヤそうな顔をしている理由が分かったような気もしたが・・・・・・どうしようもない。どのみち状況と敵との戦力差からして「諦めろ」としか俺には言える立場ではないのだから。
「ですがお兄様、ルール違反にはならないのですか?」
「大丈夫だよ、深雪。大会委員のデバイスチェックは先程、済ませてきたばかりだからね。
ルールブックには“魔法陣を織り込んだ衣類を着用してはならない”とは書かれていないから、それ自体に特定の術式が組み込まれているのでなければ、ルール上の問題もないとのことだった。
・・・・・・もっとも、単にそこまで想定して作られたルールがないから、違反判定できる法的根拠がないだけというのが正確なところではあるようだが・・・」
「また犯罪の理屈じゃねぇか・・・それって」
「もう慣れたけどね・・・けど達也、今度は何をする気でいるんだい・・・?」
そんな二人とは異なり、少し真面目な顔で問いかけてきた深雪からの質問に答えたところ、なぜか正面の二人から今度は白っぽい反応を返されてしまう。
・・・まぁ、今までの流れを考えれば、当然の反応だったかもしれないが・・・色々と起きてきたからな、九校戦が始まってから今日までの間にかなりの数が。
『プールで大地震が発生した』という事があった。同じ一高の女子生徒同士が一位二位を『地獄の優勝決定戦』で争われたこともあった。・・・・・・警戒されるのは仕方がないか。その点だけでも誤解は解くよう努力した方がいいかもしれん。
「安心しろ、レオ。それが無理でも、心配まではしなくていい。
今回のそれには《超簡易魔法式》を使った製品のような機能はない。付与させようにも、起動するのに必要な機構やバッテリーを搭載するスペースがないからな」
そう言って俺は、二人の顔に浮かんでいた『バカな幼馴染み』が生み出すことを可能にしてしまった過去の出来事が今回はくり返される懸念はない理由を説明し、一定の安心感を与えることに成功する。
そして実際、いま二人にいった言葉に嘘はない。
現代魔法に詳しくない者の中には勘違いしている者も少なくないという話を聞くが、根本的に《超簡易魔法式》と、『マウンテン』で開発販売を一手に行っている《超簡易魔法式を使った製品》とは必ずしも=の存在ではなく、別々のもの同士を組み合わせることで成立する類いの電化製品だ。
《超簡易魔法式》は、『保存はできない』とされてきた魔法式を、弱く簡単な魔法だけとはいえ簡易化することで外部媒体への保存を可能にした新技術単体のことを指している。
これだけでも大した技術ではあるのだが、あくまで『保存』は保存であり、それ単体だけで別のなにかに応用可能になる機能まで付与されているものではない。
目的や用途に合った起動方法や、他の製品の機能と連動させて使用するためには、機械による補助を必要とする。
そして機械である以上は、動かすためには何らかのバッテリーは必須とならざるを得ない。
九校戦が始まる直前に何者かの襲撃を受けた際、道路においておくことで襲撃者の存在を確信するのに用いた『場に留まる魔法式を吸引する用紙』は、その理屈の前半部分を応用している。
《超簡易魔法式》がもつ『魔法式を保存する機能だけ』に特化させることで、ただ『吸引して保存し続けるだけ』の道具とすることで薄い紙切れ一枚の大きさでの使用が可能になっていた、というわけだ。
あのときの紙と理屈としては同じもので、薄い布きれ一枚の内部に機械式の機構とバッテリーまで仕込むことは流石に不可能であり、仮に小型化を突きつめて可能になった場合でも『試合で用いる競技用の衣類』として使うことを考えれば耐久性の面で現実性はないだろうな。
「いや、だからそれ同じだって。
――まっ、今度のには変な機能がないってのを納得できる理由だったけどな」
「だね。またプールの水が揺れたり、空から物が飛んできたり、変なことが起きる心配まではないってことだから安心できるよ」
「むしろ、それらが可能なほどの性能が付与できたなら《カーディナル・ジョージ》と《クリムゾン・プリンス》との試合にも安心して臨めたがな。
可能だったのは、単純な機能一つだけを追加しただけのオモチャだ。それ以外には何もない」
『『って、やっぱり何か仕掛けてあるんじゃん!?』』
立て板に水の容量と言うべきなのか、追加事項として何気なく言ったつもりだった言葉にも2人は敏感に反応して、ツッコむように声を上げられるが・・・・・・こればかりは仕方がないと諦めてもらうより他ない。
もともと《一条のプリンス》率いる三校相手に出来合いのチーム編成で、それも本戦決勝が始まる前の時点で九校戦の決着そのものまで確定させてしまおうという目標設定が普通に考えれば無茶の極みなのだ。
ただプリンスたちに勝てばいい、というだけだったなら、これらの機能や手段は必ずしも必須ではないかもしれなかったが、絶対にここで俺たちの勝利によって勝負を決することで結果的に深雪にはなんの危険もなくなった状態で純粋に決勝戦へ臨ませることができる状況を作り出す。――それだけの成果を引き出すためには必要不可欠にならざるを得ない。
「あの~・・・達也くん?
私たちから依頼しておいて言うことじゃないのは分かってるし、まだ試合中だからお祭り騒ぎは控えさせてもいるんだけど・・・・・・決勝戦に進んでくれた時点で新人戦の入賞だけは確実になったわけだし、あんまり無理はしないでいいって言うか、やり過ぎないでくれると助かるんだけどなぁ~って、生徒会的には思ったりもしてるんだけど・・・・・・」
「分かってますよ、会長。ですが試合に出ることを受けた以上は勝ちに行きます。当然でしょう? そもそも勝ちを狙わないのでは特例でレオたちを選手に認めてもらった意味がないですから」
「それはまぁ・・・そうなんだけどぉー・・・・・・」
生徒会長の七草真由美先輩からも眉を曇らせながら告げられた忠告に、俺は誠実な解答だけを帰して、配慮に感謝するだけで提案は謝絶する方向へと話を持って行く。
実際問題この試合による結果は、一高全体にとっても最高級の箔をつける結果をもたらすものだ。
そしてそれは二科生であるレオにとっても、家の事情があるらしい幹比古にとってもメリットこそあれ損にはならない。会長たちからの要望にも叶うもの。
――ならば、この程度の公私混同は許容されて然るべきだと、俺自身は割り切ることにしていた。
個人としての利害と組織からの要望が、結果的に合致するなら矛盾はなく、ウソにもならない。
世の中には、世界有数の大企業を運営する豪腕経営者でありながら、娘のことになると会社一つを新設させてしまったほどの御仁もいる。
それと比べればという理屈を頭の中で用意した上で、俺は色々な事柄については敢えて見て見ぬフリをして2人に作戦を説明していく。
「・・・・・・・・・(ジト~~~~ッ)」
それを横に立って見つめながら、不安や心配そうと言うより、明らかに疑いと疑惑のこもった眼差しで俺一人だけを凝視されながらの作戦ミーティングは終わりの時間を迎え―――まもなく、試合開始のブザーが会場内へと鳴り響くときが訪れる。
――新人戦モノリス・コード、準々決勝が行われる会場を閲覧できるようモニターが設置されている観客席は、ざわめきに包まれていました。
それは当然の反応だったと、私――達也さんたちと同じ一高に通っている同級生の『柴田美月』でさえ、そう思います。
今まで達也さんが示してきた実績の数々はもちろんですけど、モノリス・コードが始まってからの西条くんや吉田くんたちの力を最大限につかった戦い方と勝利の仕方は、見ている人達をあっと言わせるものばかりでしたから。
だから、たとえ準々決勝と言えど、“あの達也さん”と三高のエースさんたちが戦う好カードとして、他の観客の人達が普通の試合よりもザワめいてしまうのは仕方がありません。
・・・・・・そう思いたいところなんだけど・・・・・・
「アッハハハハ!! お、おかし~。何アレ? 何アレ! あははははははっ!! あ~っ、おなか痛くて苦しい~ッ!!」
「え、エリカちゃん、エリカちゃん! ち、ちょっと・・・・・・周りの人の目、目をぉ・・・ねぇ!?」
縋るような思いで何度もたしなめて、それでも聞いてくれない隣の観客席に座ってる同級生の女の子の大爆笑し続けてる笑い声に、人見知りを自覚している私はついに懇願する気持ちまで込めはじめて嘆願して、やっと・・・・・・笑い声が収まってくれたみたいだった。
―――普通の人の笑い声レベルに押さえただけの声量だったけど・・・・・・。
「あ~、笑った笑った~、笑いすぎて死ぬかと思ったわ。
いや流石は達也くん、私としたことが意表を突かれちゃった上に笑わされてしまうなんて、これだから目が離せないのよねー。思わず笑い死にさせられかかっちゃうとは、サスタツね」
「・・・・・・私も死ぬかと思っちゃってたよ・・・・・・恥ずかしさで、エリカちゃんのせいで・・・」
「ゴメンゴメン、悪かったって。ちょっと今回のだけはツボに入っちゃっただけだから。もうバカ騒ぎしないし、バカ笑いもしない。約束するわ。だから機嫌直して、ね? 美月」
「もぅ・・・・・・お願いだからね? 今度だけだよ、本当に・・・・・・」
「だいじょーぶだいじょーぶ、私を信じなさいって。―――多分」
「たぶんッ!?」
なにかスゴく余計な一言が最後に小さく付け加えられてたような気がしたんだけど!?
私また今みたいに、周りの人達から突き刺さってくる視線の嵐で死にたくなるほどの恥ずかしさを感じなきゃいけない時きちゃうって事なの!?
「だから大丈夫だってば、本当に。――でも本当になんなんだろうね? レオとミキたちの2人だけ付けてる新装備みたいな奴。
あの達也くんが格好付けの飾りで余計な重しを付けたがるとは、あんまり思えないんだけど」
「うん・・・私も気になって『視て』たんだけど、私の頭だと達也さんが何を目的にしてるかまでは分からなかったし・・・ただ吉田くんのローブに、いっぱいの『精霊』が群がってるのが解るだけで・・・」
「えっ? 精霊?」
独り言じみた私からの返事を聞いて、エリカちゃんが驚いたみたいに反応しながら会場に視線を移すと、訝しそうになる姿が視界の端に映っていた。
当然の反応だと私も思う。だって、こんなの見えただけだと、達也さんの考えてる作戦なんて解るわけないもの。それだけだと意味ないよね、やっぱり・・・・・・。
「・・・う、う~~ん・・・・・・見えない。見えないわね・・・やっぱ美月の眼が特別ってことなのかしら。
そっちは何か見えた、ほのか? さっきから試合会場をジ~~っと見続けてるみたいだったけど」
「ええ・・・大丈夫です。見えてます。私にはハッキリと、達也さんたちが勝利する凜々しい雄姿がハッキリと見えてますから大丈夫です!☆」
「いや、幻想だから!? それ幻想で幻影だから! 見えてないし大丈夫じゃないからね!?
って言うか、まだ戦い始まってもいないでしょうが! 雫! アンタからも何か言ってあげなさいよ! アンタの幼馴染みがなんか大変な域に達しちゃってる気がするんだけど!?」
「・・・・・・うう、ぅ・・・恥ずかし、ぃ・・・・・・ひねく、れ者がガンバってっ、て・・・・・・恥ずか、しい・・・・・・(赤~~~~////)」
「まだアンタそれやってたの!? まだ治ってなかったの!? 観客席に来てからずっとじゃないの! 早く治しなさいよ! 早く治って治しなさいよ幼馴染みを! 治せー! 早く治して治りなさーいッ!」
「・・・う、うぅ・・・・・・ガンバっては、ダ、メ・・・・・・ひねくれ者、は・・・ガンバッてって言、っちゃダメ・・・ダメ・・・・・・な、のに・・・・・・(赤面ブンブン)」
―――なんとなく、エリカちゃんが笑うの辞めてくれたはずなのに、周りの人達から突き刺さってくる視線がさっきとあんまり変わってないような気がしますけど・・・・・・気のせいです。
気のせいだと信じて、私は少しでも皆さんのお役に立てるように、自分の『眼』が何かに使えることを信じて、達也さんたちの試合に視線と意識を集中させます。
私は集中してるんです。決して周りのことが眼に入ってない訳じゃありません。
だから今の私に見えてないだけで、色んな人から色んな眼で見られちゃってるなんて事はありえません! 恥ずかし過ぎるからないんです! 絶対にないって私は信じてます!ええ、心の底から本当に! ウソだったら私、恥ずかしくて死にたくなっちゃいますから私は信じる!!!
――試合会場となるフィールドの、自分たちとは対極に位置する側に姿を現した者達の異様な風体に、戸惑いにザワめいてしまっていたのは俺たちだけじゃなく、観客席でも動揺だったはずだ。
「遮蔽物のない草原ステージが決まった時点で、正面からの一対一による撃ち合いしか活路がなくなった奴が、なにかしら仕掛けてくるとは思っていたが・・・・・・まさかこの段になって、こんな隠し球を用意してくるとは」
「・・・同感だね。これだと当初に立てた僕の作戦は使えるのか、微妙になった。少なくとも、あのローブとマントがどういう効果をもっている装備か確認するまでは・・・」
遠くに見える、黒と黒の奇妙な影のようにも見えるソレ。
選手用に参加者たち全員が着用を義務づけられている鈍色のプロテクターとは異なり、正真正銘「真っ黒」な色だけで染め尽くされた大きめの布を、身体の上からまとった姿で対戦相手の陣地に現れた一高のチーム陣。
見た目だけなら時代錯誤な感すらある、如何にもな『魔法使い』といった風体の『マント姿の選手』と『ローブ姿の選手』
前衛を務めるのだろう司波達也だけは、そんな動きにくい格好をしてはいなかったものの、逆に言えば俺たちと対戦するまでと同じ格好なのは司波達也だけということになる。
――状況から見て、俺たちへの対策として用意したものと考えるしかないのが現状。
俺とジョージはそう考えたし、司波を評価するのに抵抗があるチームメンバーでさえも無心ではいられなくなっているようだった。
「ただのハッタリじゃないのか?」
「いや、ヤツがそんな小細工を使ってくるとは考えにくい。むしろジョージのことを知っていたヤツのことだ、『インビシブル・ブリット』対策と見た方がいいと思う」
「そういう風に思わせるための作戦かもしれないぜ?」
「その可能性もあるだろうな。だがその場合には同じ事だ。ただのハッタリなら今のまま普通に進めば勝ちを得られる。何らかの対策なら考える必要がある。
・・・・・・考えておくに越したことはない、ということさ。ただのハッタリだった時には。どのみち結果は変わらないのだから」
「ぐ・・・うぅむ・・・・・・」
腕組みをして、チームメンバーも渋々といった体ではあっても考えざるを得ない状況を受け入れてくれる気になってくれたようだった。
実際この状況は少々、やっかいなことになっている。
ジョージが発見した《基本コード》を用いた魔法インビシブル・ブリットは、司波の使う《グラム・デモリッション》と同じように現時点で有効な対策とされるものが存在していない魔法の一つだ。
発見されたばかりの魔法式で、検証も研究もさほど進んでいないのだから当然だ。
そして『不可視の弾丸』は、読んで字の如く攻撃手段を目視することができないのが最大の利点と言っていい。
《炎》や《雷撃》といった既存の現象を人為的に起こさせるため、自然界にエイドスで影響を及ぼさせる通常の魔法による攻撃方法は、必然的に『その現象を起こさせる自然界のプロセス』が攻撃の兆候として発生するのをショートカットさせる術がない。
その点で作用点に直接加重を掛けるインビシブル・ブリットは、貫通力こそ無いとはいえ、敵の動きを制限させる牽制用の魔法として、事こういう場においては圧倒的なアドバンテージを誇っていると断言できた。
司波自身が相手というなら別として、残る二人には彼の魔法に対処できる手段がない。そう考えて作戦は想定していたのだが・・・・・・あるいは見直しが必要な可能性が出てきてしまった――そういう状況が今の俺たち三高がおかれている現状だったのだ。
やがて試合開始を告げるブザーが鳴り響く中、俺たち三高メンバーと、一高の前衛を務めるであろうアタッカーの司波達也は敵陣に向かって同時に前進を始める―――そのはずだった。
『『なにッ!? 前進してくる・・・どういうことだ!?』』
だが、俺とジョージが意見を出し合って立案した予測は大きく外れることになる。
確かに司波達也は、開始早々のロケットスタートで前へ向かって躍り出てきて、迎え撃つため俺自身も前進をはじめてヤツとの距離を縮め始める第一歩を踏み出すところから試合はスタートしていた。そこまでは俺たちの計算通りの展開だった。
だが、そこから計算はズレ始める。
後衛として司波のサポートについていたはずのローブ姿とマント姿の2人まで、司波に続いて前進し始めるなんて、ヤツめ!
一体どういう作戦で俺たちに勝とうと、こんな無謀な突撃戦法を・・・!?
「正樹ッ!」
「ああ、ジョージ判ってるさ! モノリスを守るはずのディフェンスまで前に出てくる以上、こっちも人員を下げさせてる意味はない! 全員で迎え撃って迎撃するッ!
俺がオフェンスとして司波を押さえる間に、お前たちは残る2人を倒してくれ! 頼むぞ!」
『『了解ッ!!』』
小気味よい返事を耳にして笑みを浮かべてから、俺は前へと進み出る!
司波達也・・・・・・お前が「策」に自信があるというのなら、俺は自分の鍛え上げてきた「強さ」に絶対の確信を抱いているっ。
お前の「策」と、俺の「強さ」!
どっちが上か、今ここで決着を付けてやるッッ!!!
そして俺は正々堂々―――司波深雪さんに想いを伝える権利を、この手に掴んでやるさッ!!
試合会場では、選手たち同士がぶつかり合い、互いの思いと想いが(多少のズレを交えながらだけど)正面から火花を散らし合い。
応援席では、試合会場の激戦ぶりもさることながら、一部では見目麗しい美少女たち同士による妙な騒ぎに耳目が集まり、観客たちの好奇心は男たちの試合と色とりどりの美少女たち密集地帯とで大いにザワめきまくる原因となっていたのだが―――さておき。
それらとは別の理由で、大会運営委員が詰めている本部席近くのスタンドでも、異なるザワめきを発生させる原因が姿を現していたことを、来賓たち以外の観客や選手たちは誰も知らない。
「く、九島先生! このようなところへ如何がなされました!?」
「なに、たまにはコチラで見せてもらおうと思ってな。年寄りの道楽だ、過剰な気遣いはしないでくれると有り難いな」
そう言いながら入室してきた、好々爺然とした細身の老人だったが・・・・・・運営委員の重鎮たちとしては当然、気を使うなと言われて気を使わずにいられる相手では無論ない。
日本魔法協会の理事にして、十師族の長老から直々の来訪を受けておきながら、ろくな接待もできなかったというのでは日本魔法師社会で生きていける場所ではないのだ。
『な、何をしている! 早く椅子を! 最も座り心地の言い革張りの椅子を先生のためご用意するのだ! 早くッ! なんなら他の者が座っている物を借用してしまって構わん!!』
『ははは、はい本部長! 今すぐにッ!!』
『それとお茶とお茶請けだ! 最高級の茶葉とお菓子をご用意するのだぞ!? 安物などもってきて私の顔に泥を塗った物が一人でもいた時には、全員を南鳥島支部に左遷させてやるから、そのつもりでおれっ!?』
『は、ははははいーっ!? 今すぐにお茶!お茶!ロイヤルティーッ!?』
・・・・・・まぁ、ザワめきと呼ぶべきなのか呼んでいいのか、別物だったのか微妙な気がしなくもない光景ではあったが・・・・・・さておき。
下の者から見れば天の上の住人だろうと、相手と比べれば吹けば飛ぶ下っ端公務員の一人に過ぎない九校戦の運営をになう大会本部長としては、お偉方の現場視察など正直うっとうしい限りではあったが、この機に覚えめでたきを得られたなら出世は間違いなき超超大物がVIPルームから自分たちの職場に降りてきてくださったことは望外の幸運。
なんとしてもコネを得ようと、必死になって揉み手こすり手で這いつくばるように媚びへつらった態度で腰を折る。
・・・・・・存外に公務員のお偉いさんというのは、大変そうな職業ではあるようだった。ある意味ではの話だけれども。
「もちろん我々、大会委員にとって先生に試合をご覧いただけるのは光栄なことと存じますが、誰か注目すべき将来有望そうな選手でもおりましたのでしょうか?」
「なに、一人面白そうな若者を見つけたのでね。より近い場所から、試合内容を拝見したくなったのだよ。
VIPルームの映像は、どうも観客たちに配慮したものだけ見せるよう、AIによる調整が過ぎているように感じたのでね」
「は、ははははご冗談を、先生。我々は常に魔法師協会に属する一員として、誠実で公正な正しい情報のみを協会理事の皆様方には提出させて頂いております。
ですが、時に残酷すぎる描写などが入ってしまう可能性を考慮するあまり、行き過ぎた配慮をしてしまっている者も中にはおるやもしれません。すぐにも調査した上で報告させて頂きます」
「ふむ、そうかね。それは助かるな。他の者達も喜ぶことだろう、ハッハッハ」
朗らかに笑い飛ばして、冷や汗まみれとなった本部長を黙らせて後ろへと下がらせて。
魔法師協会理事のトップにして、世界「最巧」とまで言われた魔法師であり、十師族制度の設立者ですらある、生きながら伝説的な存在となっている老人は、穏やかな瞳に猛禽のような鋭い光を灯らせながら彼を―――会場を一人、敵陣へ向かって疾走していく少年だけを見つめていた・・・・・・。
そして本部近くのスタンドが、一人の少年を見るためだけに訪れていた思わぬ来賓によって、試合内容や選手たちの異様な風袋とは異なる理由でザワめいていたのと同じ頃。
彼ら本部近くにいたVIPたちには知る術がなかったが、一般の応援席でも一つの奇妙なザワめきを発生させていた、もう一つの理由があった。
「キャーッ☆ 達也さん頑張って下さーっい!♡ 素敵です! スゴいです! さすがは達也さんです! 略してサスタツです~~~~ッ♪♪ カッコいい~~~ッ!♡♡!」
「まだ落ち着かないの!? むしろ悪化してない!? 落ち着きなさい、ほのか! いくら何でも熱くなりすぎだから! いつものアンタじゃなくなってるからね!?
冷静に戻ったとき絶対にスッゴい恥ずかしさで落ち込みまくるパターンなぞちゃってるから落ち着きなさいってば、ほのか~~~~ッッ!?」
「・・・・・・うう、うぅ・・・・・・ひねくれ者、が・・・・・・ガンバ、ッテ・・・・・・(プルプル真っ赤っ赤~~/////)」
「コッチの方もまだなんかい! いい加減に落ち着きなさいよ!? この赤っ恥幼なじみコンビ~~!!! 流石に私も恥ずかしくなってきたんですけど、ちょっと――ッ!?」
「私は・・・集中。試合に、集中・・・・・・周りからの視線なんて無い・・・・・・(プルプル赤面あか~~~////)」
美少女たちのテレた顔・集団発生地帯になってしまっていた応援席の存在を、VIPたちは誰も知らない。
知らない方が多分よかった―――かもしれない。
つづく