ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第0章:遥か此方のストレンジャー
第0話:異邦人×小猫


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 とある世界での戦いを終えたユートは、新たな使命を【純白の天魔王】から与えられ、この地へとやって来ていた。

 

 ユートが嘗て魔を断つ剣の世界へ跳ばされた時に、六五〇〇万年前の地球へと降り立った事がある。

 

 その時、クトゥルーに犯された際に精と共にユートが吸収をした神氣を以て、強大なる五柱の神獣を生み出した。

 

 その時のユートから視て東域に在った日本に応龍、日本の反対側に麒麟、北極に霊亀、南極に鳳凰、地球の中央に黄龍。

 

 それを楔として、派生した世界はユートの管理世界と認識されている。

 

 それ故に何かが起きたらユートが対処していた。

 

 そしてこの世界もまた、そんな派生した平行異世界の一つである。

 

「割りと平和そうだけど、此処で何が起きるんだか」

 

 キョロキョロと見回してみた限り、平和としか思えない光景だった。

 

 勿論、世界規模で見たなら飢餓や戦争、差別という平和とかけ離れた〝現実〟というヤツは在るだろう、だがそれは世の中の人間が解決するべき問題。

 

 ユートがやるのは、滅びを齎すであろう何かに対処をして、排除する事だ。

 

 それは大概が邪神。

 

 特に【這い寄る混沌】という奴は、世界に住まう者達の悪意や悪徳を助長し、自分達で破滅へと導く様に誘導してくる。

 

 勿論、邪神以外の他にも様々に要因はある。

 

 ユートは世界の何処かに拠点を置いて、日常生活をしながら見張るのが仕事。

 

 まあ、使命だの何だの難しく考えずに適当に生きていれば良いのは、幾度目かのお仕事で理解はした。

 

「問題があるとすれば……僕は今回の世界の原典についてを識らないって事か」

 

 最初の世界は【ゼロの使い魔】だったし、取り敢えず原作知識も活用出来た。

 

 途中、何故か【機神咆哮デモンベイン】の世界にまで跳ばされたが……

 

 次の世界も識っていた。

 

 だが、今回は?

 

 ともあれ、この世界の誰かに出逢ってみない事には判断も付かない。

 

 何が起きるかさっぱりだったりするし、一番の憂慮はそれが原作の必然なか、或いはイレギュラーなのかが判らないという事。

 

「参ったな。一応、原作名は聴いているけどねぇ……【ハイスクールD×D】ってどんな物語なんだろ?」

 

 今現在、目の前に在る街が舞台となるだろう事は、取り敢えず間違いない。

 

「まぁ、そんなのも偶には良いかな? 生活してりゃ成るように成るだろうし」

 

 その瞬間、ズド〜ンッ! という鈍い轟音と共に、街が揺らめく。

 

「──っ!? な、何だ? 地震の揺れ方じゃなかったみたいだけど……」

 

 どうやらこの世界に来て早速、何やら厄介な出来事が起きたらしい。

 

「チィッ! 那古人!」

 

 ユートが名を呼ぶと古めかしい本が顕れ、バサバサと解けていくと本のページが人型を執る。

 

「イエス、マイマスター」

 

 長い黒髪をポニーテールに結い、黒服を着た見た目に小さな少女がユートの前に傅いた。

 

 アクアマリンの様な瞳、艶やかな黒髪、白い初雪みたいな肌が美しい。

 

 ユートの持つ魔導書である【ナコト写本ラテン語意訳】の精霊で、ユートに与えられた名は【那古人】。

 

 安直ではあるが、本人は気に入っているらしい。

 

 最初にマスターから貰った〝贈り物〟として。

 

 普段、出歩く際に那古人はユートの姓を借りる事で【緒方那古人】と名乗る。

 

 とはいえそれ程、頻繁には出歩かないが……

 

「那古人、索敵を頼む」

 

「イエス! マスターのお望みの侭に」

 

 三〇cmくらいの大きさになると、震源地を求めて飛んでいく那古人。

 

 ユートはそれを見守り、腕を組んで目を閉じた。

 

 那古人の視界とシンクロをし、那古人が見たもの、聴いた事をダイレクトに知る事が出来るのだ。

 

 那古人が索敵の為に飛んでいって数分が経つ。

 

 那古人が近付くと、街を騒がしているモノが在る。

 

 巨大な蛇が小柄な少女を追い回しているのだ。

 

 少女はショートの白髪、両横に黒い猫の顔を象る髪飾りを着けて、金色の瞳で蛇らしきモノを睨む。

 

「那古人……」

 

〔はい、何ですか?〕

 

「あれは原作の出来事だと思う?」

 

〔さあ? マスターがご存知でないのであれば、私にも判りかねますし〕

 

 困った様な口調で返されてしまう。

 

 那古人は原典(はは)とは違い大分感情が豊かだ。

 

 那古人の原典(はは)は、【ナコト写本】と呼ばれる魔導書で、マスターテリオンが所有していた。

 

 彼に与えられし名前は、【エセルドレーダ】。

 

 那古人と違い洒落た名前である。

 

 エセルドレーダはマスターテリオン至上主義者で、彼の言葉が何よりも優先されるのだが、そこら辺に関しては那古人も同じだ。

 

『万象の全てはマスターの思うが侭、成すが侭に」

 

 それが【ナコト写本】の名を冠する魔導書の、共通した認識らしい。

 

 ユートは場所を確認し、少女の救出に乗り出した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 不覚だった。

 

 少女は、壊れた右肩を庇いながら走る。

 

 いつもの仕事だと思っていたのに、いざ蓋を開けてみれば蛇みたいな怪物に殺され掛ける自分が居た。

 

 少女は巨大な蛇から逃走しながら迂闊さを呪う。

 

 時折、エネルギー弾を飛ばしてくる為、一瞬も気が抜けない。

 

 少女には力(パワー)が有ったが故に、力(パワー)で押し切ろうとしたが、相手の防御力は此方の攻撃力を上回る。

 

 少女は丈夫であった。

 

 故に、相手の攻撃が当たった際には防御で乗り切ろうとしたが、相手の攻撃力は自身の防御をモノともしない威力である。

 

 街は結界を張ってあり、被害は今の処出ていない。

 

 だがこれまで此方の常軌を逸していた化物だ。

 

 結界を破壊して外へと出かねなかったし、決して出してはならない。

 

「ハァ、ハァ……」

 

 もうすぐ先輩達が来てくれる筈ではあるが、それでも這う這うの体で逃げるのがやっとではなかろうか?

 

 少女は脱臼している上、裂傷で血塗れとなり動かない右肩を押さえつつ、壁に身を隠して様子を窺う。

 

「? 居ない、諦めた?」

 

 たが、その期待は裏切られてしまった。

 

 背後が轟音と共に揺れ、次の瞬間には巨大な掌に握られてしまう。

 

「あ、ぐっ……!」

 

 近くで視ると不気味なくらいの容貌で、口から長く先が二又に裂けた舌をチョロチョロと出している。

 

「ヒッ!?」

 

 少女は生理的嫌悪感に、思わず息を呑む。

 

 蛇は自分の口に入るなら丸呑みにするという。

 

 あの巨体だ、少女の小柄な身体など確実に飲み干せるのでは?

 

 蛇の胃に収まり、ユックリと生きながら溶かされていく自身の未来に怯える。

 

 然し何を思ったのか蛇は少女の衣服を剥ぎ始めた。

 

「……なっ! 何を!?」

 

 ビリビリと、弥正しく絹を裂く音が響き渡り、少女の小振りな……というよりペッタンな胸が露になる。

 

 少女は羞恥に頬を紅く染めながら、抵抗しようと試みるものの、壊れた右肩では右腕は動かせず、左手だけでの空しい抵抗しか出来なかった。

 

 スカートも剥ぎ取られ、白く艶かしい太股も曝されてしまい、最後の一枚にも手が伸びる。

 

 ショーツだけは死守せんと押さえていたが、脱がすのではなく剥ぎ取るのだ。

 

 力任せに引き千切る。

 

 蛇にとって、中身の少女が必要なのであり、着ている衣服を大事に脱がす理由など有りはしない。

 

 少女の仲間であり、先輩達が来るまでにはまだ時間が掛かりそうだ。

 

 何よりも、自分自身が蛇から逃げる為に離れてしまったという事実がある。

 

 仮に間に合ったとして、この怪物に勝てるのか?

 

 先輩達の戦闘能力は自分より上だが、単純なパワーというか腕力は自分の方が上回っている。

 

 寧ろ先輩達も敗北して?ブルリと寒気が奔った。

 

 敗北が頭を過ったのと、肌へ直接的に風が当たる物理的な両方の意味で。

 

 少女は白い肢体を完全に曝している。

 

 蛇が両手で少女の両足首を持って宙に固定した。

 

 両腕がフリーになると、大事な部分を隠せてるが、こんな処を誰かに視られたら羞恥から死にたくなる。

 

「……くっ、この蛇は変態ですか?」

 

 何をする心算なのかと考えていると、メキョリ……と気味の悪い水音を立て、蛇の下半部から男性器にも似た太くて赤黒いモノが、ポタポタと粘液を滴せながら伸びてきた。

 

「……ヒッ! 真逆?」

 

 事此処に至って漸く蛇の行動を理解する。

 

 羞恥で紅くなっていた顔を青褪め息を呑む少女。

 

 蛇は自分の触手を、少女の秘部に突き立てるべく、勢いを付け降ろしていく。

 

「──! や、待っ!」

 

 考えていたものより斜め上の自分の未来に、少女は目を固く閉じた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 紅い髪の毛の女性は焦りを覚えていた。

 

 大切な仲間からの連絡が途絶えてしまったのだ。

 

 後輩であり、倶楽部活動の部員であり、下僕でもある家族みたいな少女……

 

 今回もいつもと同じ仕事の心算であった。

 

 彼女──紅髪の女性……リアス・グレモリーは悪魔である。

 

 然も純血の悪魔であり、爵位を持つグレモリー家の次期当主という立場だ。

 

 爵位を持つ悪魔は【悪魔の駒(イーヴィルピース)】と呼ばれるチェスの駒で、他の存在を下僕へと変える事が出来る。

 

 主に人間、他には妖怪や爵位を持たない悪魔。

 

 悪魔以外は種族的な特徴を残し、悪魔へと転生をする事になる。

 

 これは数百年前、聖書の神と悪魔と堕天使の三竦みの戦争が終結後、極端に減った悪魔を補充する意味があった。

 

 また、悪魔化した存在にも爵位を得る機会も与えられており、これが勢力の拡大を促している。

 

 リアスも何人かの下僕が存在しており、自らが主宰する【オカルト研究部】を駒王学園へと立ち上げて、共に所属していた。

 

 リアスは下僕を大切にする傾向が強いが故に焦る。

 

 とっくに仕事が終わった筈の後輩の少女が、連絡を絶って既に一時間余り。

 

 部員と捜しに出た先で、連絡をしてきた彼女は怪物に襲われたという。

 

 【悪魔の駒】の女王(クイーン)であり、副部長の下僕に結界を展開させて、街への被害を抑えておいて少女の魔力を辿り、捜索を続けている。

 

「リアス、落ち着いて」

 

「これが落ち着いていられますか! 小猫なら滅多な事は無いと思ったけど!」

 

 送還の陣が起動しないし転送も出来ない。

 

 某かの特殊な力が空間転送を妨げている様だ。

 

 これでは焦るなという方が無理だろう。

 

「だけど、小猫ちゃんをどうにか出来る程の相手……はぐれ悪魔か堕天使なのでしょうか?」

 

 金髪の少年が疑問を部長のリアスへぶつける。

 

「それは私にも判らない。兎も角、急ぎましょう!」

 

 三人は更に脚を速めて、仲間を救うべく走った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 少女は覚悟するしかなかった、これからクる痛みと衝撃と屈辱を。

 

 どうしようもない絶望感に苛まれながら。

 

 勢いよく振り下ろされ、自らの秘所に突き刺さらんとするソレを、涙に濡れた瞳で茫然と見ていた。

 

 次の瞬間……

 

 ズチュッ!

 

 嫌な水音が少女の耳に響くものの、想像していた痛みと衝撃は無く、寧ろ浮遊感を感じていた。

 

「……え?」

 

 それと同時に、何かの温もりに包まれる少女。

 

 少女には仲間が居る。

 

 それは少女が所属している部活動の先輩達であり、オカルト研究部には現在、三人の先輩が活動をしているがその内の二人は女性。

 

 しかも、二人とも妬ましいくらい【きょぬー】だ。

 

 この様に──所謂処の、お姫様抱っこで抱えられていれば嫌でも感じる。

 

 【きょぬー】を。

 

 だとすれば、それを感じない相手は男……

 

 木場祐斗であろうか?

 

 閉ざされていた目をソッと開くと、少女の予想は外れていた。

 

 確かに男ではあったが、その顔は見た事が無い。

 

 黒髪に黒瞳。

 

 木場祐斗は金髪碧眼で、貴公子然とした佇まいをしており、こんなにも荒々しい気配ではなかった。

 

「大丈夫だったか?」

 

「あ……はい」

 

 羞恥に頬を染めながら、少年の顔を見て応える。

 

 バサリ……と、身に付けていたマントを少女の肢体を覆い隠す様、少年は羽織らせた。

 

 あの荒々しさが消えて、寧ろ木場祐斗にさえ出せない本物の貴公子みたいな、たおやかな雰囲気に変わった少年。

 

「貴方は?」

 

「緒方優斗。通りすがりのお節介焼き……かな?」

 

「ユート?」

 

 少女の先輩と同じ名前。

 

 それより気になるのは、やはりあの怪物。

 

「あの怪物は何ですか?」

 

 故に、知っているなら訊いておきたかった。

 

「アレは邪神の中の一柱、旧支配者のYig。古代はムー大陸やクン=ヤンに於いて、崇拝されていたという蛇の神だ」

 

 ユートは旧支配者について知識がある。

 

 それは旧支配者が戦うべき相手だからだ。

 

 Yig自身は能動的に暴れはしないが、招喚された所為であろうか今は暴れまくっていた。

 

「アイツは、自身の分け身である蛇に敬意を持つ者に温厚だが、蛇を虐げる者に対しては恐るべき存在だ。蛇を殺したりしたか?」

 

「いえ。そんな事は……」

 

 少女は首を横に振る。

 

「だとすると、誰かが君を害する目的で喚んだのか」

 

 ならば余計に戸惑う。

 

 生きていれば、何処かで何等かの恨みを買っていてもおかしくないが、あんな蛇を嗾けられる程の恨みを向けらる覚えは無かった。

 

「取り敢えず、討論の暇は無さそうだな」

 

 蛇は喪われた腕を再生、此方へと向かってくる。

 

 どうも少年──緒方優斗が斬ったらしいが、自分の攻撃はまるで歯が立たなかったにも拘わらずに、彼の攻撃ではあんなダメージを受けていた。

 

 少しヘコむ。

 

「いったい、何者?」

 

 怪物の正体を看破して、傷付ける事すら可能。

 

 本人はお節介焼きなどと嘯くが、依然として正体不明なのだ。

 

「おいで、那古人!」

 

「イエス、マイマスター」

 

 少女は驚愕してしまう。

 

 何処からともなく、ゴスロリっぽい服装の女の子が飛んできたのだから、当然と言えば当然か。

 

「「ユニゾン・イン!」」

 

 緒方優斗と名乗る少年と那古人と呼ばれた女の子、この二人が一つになる。

 

 それでまた驚愕した。

 

「麒麟星座(カメロパルダリス)、フルセット!」

 

 それは八八の星座を象る聖衣と呼ばれし神器。

 

 ギリシアはアテネに存在すると云われる聖域。

 

 其処には戦女神アテナが住まうという。

 

 アテナは地上を邪悪から護る為に、自らの許に集った少年達と共に戦った。

 

 然し、アテナは武器を執る事を嫌う。

 

 少年達は、そんなアテナの為に自らを鍛え抜いて、無手で敵に挑んだ。

 

 彼らの蹴りは大地を割り拳は空を裂いたという。

 

 だが哀しいかな、敵はやはり神と神の闘士達。

 

 海皇ポセイドンと、仕える海闘士(マリーナ)。

 

 冥王ハーデスと、仕える冥闘士(スペクター)。

 

 戦神アレスと、仕える邪闘士(バーサーカー)。

 

 ギリシャ神話の神々だけでなく、北欧の地を治めているオーディンと、それに仕える神闘士(ゴッドウォーリア)達。

 

 オリンポスに天帝ゼウスや他のオリンポス一二神、それに仕える天闘士(エンジェル)が存在する。

 

 そんな存在と戦うには、幾ら極限まで鍛えていようとも所詮人間。

 

 少年達は常に傷付き斃れていった。

 

 アテナはそれを嘆いて、神々の秘法をへパイトスにより賜わると、ムー大陸の人々でアテナを奉じる一族達にそれを与えてプロテクターを造らせる。

 

 始まりは海皇ポセイドンの闘士、海闘士(マリーナ)が纏う鱗衣(スケイル)を真似た事にあった。

 

 天に座する星々の神話に纏わる概念を与え、プロテクターを聖衣(クロス)と銘打つ事となる。

 

 現代に於いて聖衣は八八の星座から象られており、最高位に黄道一二星座から黄金聖衣。

 

 次に二四の白銀聖衣を、最下級に四八の青銅聖衣、それら、聖衣を与えられた少年達をアテナの聖闘士と呼んだ。

 

 ユートは嘗て、その神話を受け継ぐアテナと聖闘士の戦いに加わった事がありその時に黄金聖闘士の一人である牡羊座のムウから、自作の【聖衣】を改造して貰って、青銅聖衣となった麒麟星座(カメロパルダリス)を手に入れた。

 

 一二宮での戦いでアテナの生命を救った一人として特別に、アテナの聖闘士の末席に名を列ねる事を赦されており、その後も紆余曲折あったが海皇ポセイドンや冥王ハーデスとも戦う事になる。

 

 尤も海皇ポセイドン以降の戦いは、とある世界に再転生した後での事だが……

 

 元より、再構築した時には牡牛座のアルデバランの血を与えられ、黄金聖衣に最も近い青銅聖衣となっていた麒麟星座(カメロパルダリス)は、修復に蠍座のミロの血液を提供されて、冥王との戦いではアテナの血で究極最後の聖衣として甦っている。

 

 今再び邪神にして旧支配者の一柱たるYigを相手にして、ユートは麒麟星座(カメロパルダリス)を身に纏ったのだ。

 

「あれは真逆、神器(セイクリッド・ギア)?」

 

 裸マントが艶かしい少女の言葉、それこそがこの世界に於けるキーワードである事を、ユートはまだ知る由もなかった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 戦闘が始まって既に数分がすぎており……

 

「うりゃあっ!」

 

 幾度かのぶつかり合いの末に、ユートの拳がYigへ突き刺さる。

 

 然し巨体の上に意外な程の筋肉と外郭を覆う鱗で、ダメージが通らない。

 

 Yigが拳を振り上げ、ユートの身体に振り下ろしぶつけてくる。

 

「かはっ!」

 

 速度自体は速いといえ、それはユート程ではない。

 

 だが、ユートの攻撃が当たった瞬間を狙われては避ける事も叶わず、吹き飛ばされてしまう。

 

 轟音を上げてコンクリートの壁に激突し、壁は脆くも崩れ落ちた。

 

 漫画などでそういう場面もよく見受けるが、実際にそれを受ける方は堪ったものではあるまい。

 

 普通の人間なら、ぶつけた部分の骨が砕け散って、内臓が慣性による勢いで潰れてしまうだろう。

 

 そうなれば良くて数分後に死亡、悪くすれば即死という結果が出る。

 

 ユートの場合は小宇宙による身体強化をしてあり、麒麟星座(カメロパルダリス)の最終青銅聖衣の防禦が護ってくれていた。

 

 お陰で身体を打ち付けられて『痛い』のと、肺の中の空気を吐き出して『苦しい』程度で済んでいる。

 

「くっ! 流石に旧支配者の末席に名を列ねる蛇神。簡単にはいかないか」

 

 Yigとて主神レベルでこそないが、神の名を冠する存在には違いない。

 

「本体ではなく、分体なのがせめてもの救いか……」

 

 神本体の直接招喚など、実際には簡単には出来るものでもなく、普通は分体を招喚する。

 

 分体では幾ら斃しても、本体に還るだけで然したる意味も無いとはいえ……

 

「いったい、何処の莫迦が喚んだんだ?」

 

 分体だから招喚コストは少ないが、だとしても相当の供物を要した筈。

 

 神の招喚など、本来は割りに合わないものだ。

 

 マスターテリオンの様に明確な目的意識を持っての招喚ならまだ話も解るが、こんな所で女の子を追い回している辺り、暴走しているのかも知れない。

 

 それなら招喚した人間は今頃、生きてはいないのだろう。

 

「喰らえ、流星拳!」

 

 Yigに一秒間に数百発の拳を撃ち込む。

 

 凡そ、マッハ六のパンチは白銀聖闘士級の速さだ。

 

 一二宮の戦いに於いて、牡牛座(タウラス)のアルデバランとの模擬戦を行い、小宇宙に目覚めたユートだったが、当時は小宇宙を放つのには段階を践まねばならなかったものだ。

 

 即ち、魔力と闘氣と霊氣と念力の融合昇華。

 

 本来ならそんな事をするのではなく、修業によって内在する小宇宙を自覚的に鍛えるのが普通なのだが、ユートは融合昇華させると小宇宙と同じエネルギーになると知っており、一気に目覚めたのだ。

 

 既に末那識には覚醒していた為、小宇宙さえ使えれば第七感(セブンセンシズ)を使えた。

 

 それでも一瞬の停滞が命取りの戦いでは、致命的な隙となってしまう。

 

 再転生の後で、海皇ポセイドンとの戦いでは瞬時に小宇宙を練る事も出来る様になったが、小宇宙を黄金の位階にまで高めるのは、流石に困難を窮めていた。

 

 今も白銀聖闘士の位階には直ぐに至れたが、やはりセブンセンシズを常時発動は出来ていない。

 

「流星拳を避けもしないで防ぐか!」

 

 見様見真似とはいえど、星矢の技は特別な技法などを必要としないシンプルな技だ。

 

 魔法での再現こそ難しかったが、マッハのパンチを放てれば誰でも撃てる。

 

 廬山昇龍覇の様に大幕布を逆流させる必要も無く、凍気を放つ必要も無い。

 

 小宇宙で気流や嵐を発生させる訳でもなく、熱風を放つ訳でも無い。

 

 音速の拳で殴るだけだ。

 

「今度はこれだぁぁっ! 一角獣跳蹴(ユニコーンギャロップ)ッ!」

 

 向かい様に百発の蹴りを見舞う技。

 

 Yigの背後に着地して再び構えを執る。

 

 聖闘士の技が悉く通用しておらず、しかも瞬発力は意外と速かった。

 

「グフッ!」

 

 尻尾を鞭の如く撓(しな)らせて、ユートの身体を打ち据える。

 

 またもや崩れ落ちる壁。

 

 ユートは起き上がって、治療(リカバリー)を掛けつつ快復を試みる。

 

〔マスター、準備完了!〕

 

「よし、術式を発動」

 

〔イエス、マイマスター〕

 

 融合していた那古人からの合図を受けて、ユートが命令を下す。

 

〔術式稼働、モード:リベル・レギス!〕

 

 紅い悪魔の様な容貌。

 

 リベル・レギスのオーラがユートの背後に顕現し、まるで一つになるかの如く融合した。

 

 鬼械神(デウス・マキナ)が存在しない場所や、余りにそぐわない場所では世界の修正力が働いて招喚が阻害される場合もある。

 

 そういう場所では、術式化したリベル・レギスと融合する事でその力を揮う。

 

 尤もユートが使う鬼械神(デウス・マキナ)はリベル・レギスではないが……

 

「重力結界!」

 

 ユートはYigの居る場に重力フィールドを発生させて、動きを封じ込めた。

 

 曲がりなりに神の一柱。

 

 直ぐにも抜けるだろう、だがその一瞬の隙が有れば充分だった。

 

「ン・カイの闇よ!」

 

 一一個の重力塊が、Yigを襲う。

 

 受けた部位は消し飛びこそしなかったが、ダメージは与えている。

 

 お陰で動きが鈍り、瞬発力も落ちた。

 

「トドメだ喰らうが良い、極低温の刃……ハイパーボリア・ゼロドライブ!」

 

 それはリベル・レギスに備わりし、極々低温の白き炎を纏う右掌……リベル・レギスの必滅窮極奥義。

 

 即ち、【ハイパーボリア・ゼロドライブ】

 

 Yigの鎌首を、それによりバッサリ斬り落とす。

 

 生命力が高い事に定評のある蛇の神。

 

 それだけでは安心出来ず更なる一撃を見舞う。

 

「終わりだ! 天狼星(シリウス)の弓よ!」

 

 黄金の弓に、光の矢を番うと撃ち放った。

 

『ギィヤァァァァァァァァァァァァァァァアアッ!』

 

 Yigの躰は木端微塵に砕けて、光を放ちながら消えていく。

 

「ふぃー」

 

 残心を忘れず辺りに気を配るが、特に怪しい気配も無いのを確認の上で、一息を吐いた。

 

「来た早々、これとはね。先が思いやられるな」

 

〔ですね、マスター〕

 

 麒麟星座(カメロパルダリス)の聖衣を解除して、先程の少女の所に戻る。

 

 少女は未だに逃げも隠れもせず、ジッと此方を窺う様に見つめていた。

 

「(金の瞳か……マスターテリオンを思い出すな)」

 

 夜中だというのに、何故か鮮烈に輝いている様にも見える金の瞳。

 

 それに見据えられるのは悪くなかった。

 

「大丈夫だったかな?」

 

「……あ、はい」

 

 Yigに襲われた恐怖か或いは元々の無口か……

 

 少女は言葉少なく返す。

 

「アレは何ですか?」

 

「知らなくて良いモノだ。望むのなら、記憶を消して無かった事にして上げる」

 

 少女は首を横に振った。

 

「なら、口を噤んで誰にも話さない様に。一度は出て来たからね、下手に言之葉に上ると、それを信仰としてまた顕れかねないから」

 

「多分、私が帰らないから仲間が捜してます。事情を説明しないと……」

 

「なら仲間にだけ」

 

 今度は首を縦に振った。

 

「マントは君に上げるよ。夜中とはいえ、裸体で街を闊歩したくはないだろ?」

 

 そう言うと、初雪の様に白い頬を赤く染めながら、再びコクリと首肯する。

 

 少女の魔氣に気付いてはいたが、ユートは追及する事もなく離れようとした。

 

 だが直ぐに思い直し少女に訊ねる。

 

「この近くに高等学校って在るかな?」

 

「あっちに駒王学園が」

 

「ありがとう」

 

 礼を言い、今度こそその場を離れていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 少女は訊きたい事が沢山あったが、さっさと行ってしまった為に、お礼も言えない侭となる。

 

 暫く歩くと、先輩達が此方へと向かって来た。

 

「小猫ーっ! 大丈夫だったの?」

 

 長く美しい、紅い髪の毛の先輩が訊ねてきた。

 

 きっと心配していただろう事は容易に想像出来る。

 

 駒王学園の先輩にして、少女──塔城小猫の主たるリアス・グレモリー。

 

 この主様は、とても仲間想いだから。

 

 話さねばならない。

 

 リアス・グレモリーの領域にて起きた、奇怪な事件とその顛末を……

 

 一方で、学園について訊いてきたと云う事は、彼とはまた会えるのかも知れないと、そう考えて無表情の中でも胸を踊らせていた。

 

 

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