ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第9話:はぐれ×邪神

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「ハァー」

 

 頭を抱えながらリアス・グレモリーは溜息を吐く。

 

「良い? もう教会に近付いちゃ駄目よ」

 

「何で?」

 

 それは原作で一誠が言われた言葉ではあるがユートは勿論、原作を持っていないのだからそんな事情は知らない。悪魔の一誠ならばまだしも、人間のユートが教会に近付いてはならないなど、意味が解らない。

 

 仮に知ってたとしても、悪魔ではないユートに適用されるモノではない筈だ。

 

「貴方は人間だけど、私達に関わり過ぎてるの」

 

「! ああ、そういう事」

 

 リアスの説明で気付く。

 

「へ? どういう事?」

 

 

 一方で、訳も解らず一誠は疑問を口にする。

 

「要するにだ、僕は確かに人間だけど悪魔に深く関わっていて、知らず知らずの内に魔の残り香が染み付いてるって事だよ」

 

「の、残り香ぁ?」

 

 クンクンと腕に鼻を近付け自身を嗅ぐ一誠の姿は、いっそ清々しい程に滑稽であった。

 

「そういう意味じゃなく、気配の残滓って意味」

 

「へ?」

 

 間の抜けた表情で自分を見る一誠に、ユートは懇切丁寧に説明をしてやる。

 

 それを聴いて、漸く得心がいったのか納得が出来たという表情になった。

 

「ま、確かに気配に敏感な者なら僕が悪魔ではないにしても、関係を持つ人間だと気付くだろうね」

 

「そうよ。場合によっては光の槍が飛んできてもおかしくないわ。一誠、貴方も悪魔なのだから教会に近付かない様にね?」

 

「は、はい!」

 

 【悪魔祓い】というものについて、確りレクチャーを受けた一誠は、リアスの言葉に背筋を伸ばして返事をしたものだった。

 

「けど、悪魔祓いって……そんなに凄いんですか?」

 

 悪魔を滅ぼす事を生業としている悪魔祓い。

 

 とはいえ、一誠からすれば悪魔祓いなど漫画の中だけの存在だった。

 

 今は自身が滅せられる側になり、少しは自覚もあるがそれでも直接出会っていない故に実感が沸かない。

 

「ふむ、一誠。これを撃ち込まれたらどうなるか判るかな?」

 

 ユートがテーブルに置いたのはたった二発の弾丸。

 

 普段ユートが使っている魔弾──魔術的な儀式を施した弾丸ではない。

 

 ザワリと、それは悪魔である一誠達が嫌な気分になる弾丸であった。

 

「これ、何だよ? スゲー気持ちわりい……」

 

「聖油──聖別が為されたオリーブオイル内に籠めた弾丸で、名前は【聖弾(セイクリッド)】」

 

 そしてもう一発の弾丸を指差し、説明を入れる。

 

「此方は聖銀に祝福を籠めた弾丸……名前はその侭で【福音弾(ゴスペル)】」

 

 嫌な感じは、【聖弾(セイクリッド)】の何倍にも感じられた。

 

「僕はそもそも悪魔祓いじゃないけど、魔の存在には効果も高いからね。便利に使っているんだよ」

 

「そ、そう……それ、近付けないでね?」

 

 口元をヒクつかせつつ、リアスは笑顔で言う。

 

 此方側に来る前の世界に於いて、ユートは学園都市──とあるに非ず──では教師をしていたが、其処の明らかに中学生に見えない生徒の一人、ユートが曰く銃黒(ガングロ)一号、銃黒二号に売っていた魔導具の一つだったりする。

 

 元ネタはエクソシストと悪魔が組み、悪魔祓いをする漫画からの出典だ。

 

「あらあら、お話しは済みましたか?」

 

「朱乃、どうかしたの?」

 

 いつものニコニコ顔を少し曇らせ、朱乃は要件を口にだした。

 

「はぐれ悪魔の討伐依頼が大公から届きました」

 

 はぐれ悪魔。

 

 上級悪魔により眷族に転生させられた転生悪魔が、主を裏切り乃至は殺害して逃亡をする様な事件が稀に起こる。

 

 強大無比なる力を無秩序に揮い、世界に悪影響を及ぼすとし【はぐれ悪魔】は見付け次第、始末される。

 

 それは天使や堕天使も同じ見解な為、はぐれ悪魔は三界から逐われてしまう。

 

 先日、男の堕天使が一誠を狙ったのも、そのはぐれと勘違いされたからだ。

 

 街外れの廃屋へ移動するグレモリー眷属とユート。

 

 報告では、グレモリーの領域に入り込んだだけではなく毎晩人間を誘き寄せては喰らっているらしい。

 

 オカルト研究部の面々は夜の闇の中、不気味に聳える建物の近くに来ていた。

 

 那古人は来ていない。

 

 先に家に帰り夕飯の準備をしているだろう。

 

 那古人を使う様な事態にはならないだろうし、何より必要なら喚ぶ事も可能。

 

 なら無駄に連れてくるよりは、食事の準備でもして貰った方が建設的だろう。

 

「……む、血の臭い」

 

 袖口で鼻を押さえながら小猫が顔を顰める。

 

「濃度の高い魔氣……か。居るね、はぐれ悪魔が」

 

 それも腐れ果てた気配、だがはぐれとはいえ悪魔には違いない筈。

 

 それがこれだけの腐臭を内包する気配を放つなど、有り得ない話だ。

 

 ユートは眉根を寄せて、懐から招喚符を取り出すと招喚の準備をしておく。

 

 嫌な予感──第六感(シックスセンス)に引っ掛かるモノを感じていた。

 

「さあ、征くわよ!」

 

 腰に手を当て不敵な表情で笑いつつ、【王(キング)】であるリアスが命じる。

 

『『『はい!』』』

 

「了解」

 

 それに応えるはユートとグレモリー眷族。

 

 屋内に入ると、より一層の気配が感じられた。

 

「イッセー、いい機会だから悪魔としての戦いを経験しなさい」

 

「マ、マジっすか? お、俺なんて戦力にはならないと思いますけど!」

 

「そうね、それはまだ無理でしょう」

 

 自分で言っておいて何ではあるが、ハッキリ肯定されると哀しい。

 

 一誠は肩を落とす。

 

「でも、悪魔の戦闘を見る事は出きるわ。今日は私達の戦闘をよく見ておきなさい。そうね、序でに下僕の特性を説明してあげるわ」

 

「下僕の特性?」

 

 首を傾げる一誠にユートが軽く説明する。

 

「一誠が悪魔に転生した時に使われた道具があって、それには特性というモノが存在するんだ。その道具を【悪魔の駒(イーヴィル・ピース)】と呼ぶ」

 

「イーヴィルピース?」

 

「チェスをベースに造られていて、全部で十五の駒を魔王から与えられる訳だ。内訳は【兵士(ポーン)】が八個、【騎士(ナイト)】が二個、【戦車(ルーク)】が二個、【僧侶(ビショップ)】が二個、【女王(クイーン)】が一個だね」

 

「成程、まんまチェスの駒と同じって訳か」

 

 詳しく知らないにせよ、チェスは割かしメジャーなだけに、一誠も駒の名前くらいは知っていた。

 

「聴いた話だと、木場が【騎士(ナイト)】で小猫が【戦車(ルーク)】、朱乃先輩が【女王(クイーン)】で、もう一人居るのが【僧侶(ビショップ)】だとか」

 

「は? もう一人?」

 

 一誠が驚き目を見開く。

 

「名前も能力も知らない。だけど確かに居るらしい」

 

 部室内に気配が常に在る事を鑑みると、恐らく封印でもしているのであろうと当たりを付けている。

 

「まあ、今は居ないと思えば良いよ。このシステムは三界の戦争の後に、魔王の一角のアジュカ・ベルゼブブが開発したと聞く」

 

 前にアジュカ本人から、ユートはこの話を聞いた。

 

「ま、魔王……様?」

 

 魔王としての名前は一種の称号というか役職名だとユートは聴いており、現在は世襲ではなく七十二柱の貴族──とは言っても既に半壊している──の中から輩出されるらしい。

 

 例えばリアスのグレモリー家から兄のサーゼクスがルシファーの名を前魔王から受け継ぎ、ソーナのシトリー家からは姉のセラフォルーがレヴィアタンを継いでいる。

 

 ベルゼブブを継いだのはアジュカ・アスタロトで、アスモデウスを継いだのがファルビウム・グラシャラボラスだという。

 

「数百年前に一応の終焉を見せた戦争で、三種族は致命的な人口減少に見舞われてしまった。まあ、自業自得なんだけどね」

 

 辛辣な事を言うがこれは紛れもない真実な訳だし、莫迦みたいな年月を争いに費やせば、そうなる事など当たり前の話に過ぎない。

 

「で、悪魔の側は【悪魔の駒】で少数精鋭という制度を採ったんだ。人間や妖怪や竜を悪魔に転換させて、それで数を増やした。その内にチェスみたいなシステムから、下僕自慢が始まってルールの有るゲームが始まったって訳。正に生きた駒を使ったチェスだよね」

 

 やれやれとユートは米国風味なオーバーアクションで首を竦めた。

 

 貴族は見栄っ張りだから……そう考えているのだ。

 

「まあ、少しアレな説明だったけど強ち間違いではないわね。それで悪魔の間では【レーティングゲーム】と呼ぶ、等身大のチェスみたいなのが流行っているのよね。それと【駒集め】と称して、優秀な人間を自分の手駒にするのも。強力な下僕を持つ事はステータスになるから」

 

「は、はぁ……」

 

 駒集めと聴いて、何と無くトレーディングカードを想像する一誠。

 

 ゲームが強いという事は即ち、悪魔としても立派だという訳だ。

 

 実はユートも聞いてはいなかったが、駒同士によるトレードもある。

 

 先程正に一誠が思った通りで、トレーディングカードみたいな感覚だ。

 

「私はまだ成熟した悪魔ではないから、公式な大会などにはまだ出場出来ない。ゲームをするとしても色々な条件をクリアしないと、プレイは出来ないわね」

 

 当分、ユートもレーティングゲームをする機会は無いという事だ。

 

「じゃあ、木場達もゲームをした事は無いって事?」

 

「うん、そうだね」

 

 一誠の問いに頷く木場。

 

 一誠の中で想像していた悪魔のなイメージが、音を立てて崩れていった。

 

「悪魔って、悪魔って……はっ! そうだ、部長! 肝心な俺の駒は? 役割や特性って何ですか?」

 

「そうね、イッセーは」

 

 リアスが一誠の駒の特徴を正に口にしようとして、言葉を途中で止め奥まっている場の闇の方へと向け、切れ長な瞳で睨み付けた。

 

 ゾクリ……

 

 一誠にも判る。

 

 背筋を奔る寒気。

 

 立ち込めていた敵意が……ネットリとした殺意へと変わっていた。。

 

 ユートも眉を顰める。

 

「不味そうな臭いがする。でも美味そうな臭いもしているぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」

 

「はぐれ悪魔バイサー! 貴女を消滅しにきたわ」

 

 ケタケタと異様な笑い声が屋内に響く。

 

 現れたのは、上半身が裸の女性のモノだが、下半身は巨大な獣──名状し難い姿をしていた。

 

 数メートルの巨体、四足の下半身は全てが太くて爪も鋭い。

 

 尾は独立して動く蛇で、それは紛う事なき〝怪物〟の姿で、人の形をしている悪魔しか見ていない一誠は驚愕していた。

 

「主の元を逃げ、己の欲求を満たす為だけに暴れ回るなんて、万死に値するわ。グレモリー公爵の名に於いて、貴女を消し飛ばして上げる!」

 

「小賢しいぃぃぃ! 小娘如きがぁぁぁぁぁ! その紅の髪の様に、お前の身を鮮血に染め上げてくれるわぁぁぁぁぁっ!」

 

 バイサーが怒りの声色で吼える。

 

 其処に在るのは憎悪。

 

 それも、その憎悪は個人に対してではなく、種族に対してのモノであった。

 

 ユートはとある理由から負の感情には敏感だ。

 

 故にこそ理解した。

 

 あのバイサーとよばれているはぐれ悪魔……アイツは悪魔という種族そのものを憎んでいる……と。

 

 その為に力を欲し、人間を害していたのだろう。

 

 バイサーがはぐれ悪魔だという事は、元々は悪魔では無かったという事。

 

 何故、主を殺した?

 

 何故、追われると知りながらはぐれ悪魔となった?

 

「(恐らくは、無理矢理に悪魔へと転生させられて、逃げ出した……か)」

 

 そういう事もよくあるのだと、悲し気な表情をしたサーゼクスから聞いた。

 

「雑魚ほど洒落の利いてる台詞を吐くものね。祐斗」

 

「はい!」

 

 命令に従い、その手に剣を持つと一瞬で飛び出す。

 

「イッセー、さっきの続きをレクチャーするわ。祐斗の役割は【騎士】、特性はスピード。【騎士】となった者は速度が増すの」

 

 確かに木場は一誠の目にも留まらぬ速さで動いて、鞘から抜いた剣を揮う。

 

「ぎゃぁぁぁぁああっ!」

 

 斬られたバイサーの悲痛な聲が廃屋内に谺すると、いつの間にか両腕を断ち斬られていた。

 

「祐斗の最大の武器は剣。目では捉えきれない速力と達人級の剣捌き。二つが合わさる事で、あの子は最速のナイトになれるわ」

 

 リアスは自信満々に説明をする。

 

「な、なぁ優斗。今の木場の動きって見えたか?」

 

「見えたけど、何?」

 

「いや、良いわ」

 

 ガックリと肩を落とす。

 

 優斗にとって、木場くらいの速度は見切れて当然。

 

 木場は並の青銅聖闘士では相手にならない速さなのだが、生憎とユートは並ではないのだから。

 

「次は小猫ね。あの子の駒は【戦車】。特性は……」

 

「この……小虫めぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 リアスの説明を遮る様にバイサーの雄叫びが響き、巨大な足で小猫を踏み付けてしまう。

 

「小猫ちゃん!?」

 

「心配なんてしなくったって大丈夫だよ、一誠」

 

 ユートが言うと、応える様にバイサーの躰を持ち上げる小猫。

 

「【戦車】の特性は到ってシンプル。バカげた力と、屈強なまでの防御。無駄よ……あんな程度で小猫を沈める事は出来ない。決して潰せはしないわ!」

 

「……吹っ飛べ」

 

 足を持ち上げた小猫は、高く放り投げてしまい自らもジャンプする。

 

 拳を揮うとバイサーの腹を殴り飛ばした。

 

「最後に朱乃ね」

 

「はい、部長。あらあら、どうしようかしら?」

 

 笑顔で頬に手を添えて、タレ気味な目でバイサーを見遣る。

 

 その瞳は飽く迄も穏やかではあるが、眼光は獲物を視る狩人であった。

 

「(未熟だな。自身の優勢を信じて疑わないが故に、獲物を前に舌舐めずりか。一気にトドメを刺さないと機を逸する事もある)」

 

 口出しは今の処しない、だが先程から嫌な予感がしているのだ。

 

 それがユートに焦燥感を懐かせていた。

 

 朱乃は雷によりバイサーを攻撃し始める。

 

 但し一撃では殺さずに、じわじわと嬲っていた。

 

「朱乃は魔力を使った攻撃が得意なの。雷や氷、炎などの自然現象を起こす力。そして何より、彼女は究極のSよ。普段はあんなに優しいけど、一旦戦闘になれば相手が敗北を認めても、自分の興奮が収まるまでは決して手を止めないわ」

 

「うう、朱乃さん。俺、怖いっす」

 

 すっかり怯える一誠。

 

「(究極のSねぇ。極端な者程、極端に走る。相手を屈服させて悦む反面、逆に屈服させられたい願望を持っていそうだね)」

 

 サガの様に極端な正義を持った男が、極端な悪を内包していた様に……だ。

 

「ユウ、貴方の力も見てみたいわね」

 

「ん、もうやるべきはやり尽くしてると思うけどね」

 

 朱乃と入れ替わりに前へと出る。

 

「はぐれ悪魔バイサーよ、君は何故……主を殺してまではぐれになった?」

 

「……」

 

「だんまりか。僕は人間、悪魔じゃない。最期くらい本心を吐露してみたら?」

 

「……家族を人質に悪魔にされ、家族も寿命で死んでしまった。もう我慢などしない……悪魔など滅びてしまえば良い! 殺せ、それでこの憎しみは完遂する」

 

 狂気。

 

 凶気。

 

 狂喜。

 

 そして気が付く。

 

「そういう事……か」

 

 この嫌な予感の正体……木場が、小猫が、朱乃が、バイサーに攻撃をする度に膨れ上がった。

 

 最早、この流れは止めようがないのだろう。

 

 しかも朱乃が執拗に攻撃をしていた為、余計な力が流れてしまっていた。

 

「はぐれ悪魔バイサー……その憎悪は僕が受け止めよう。汝に黄金の祝福在れ、福音弾(ゴスペル)!」

 

 ユートが手にするモノは自動拳銃。

 

 【暴君】の魔銃を術式として喚び出したモノ。

 

 【魔なる存在】に対し、ユートは聖弾(セイクリッド)を六連装式回転拳銃の【イタクァ】で、福音弾(ゴスペル)を自動拳銃【クトゥグア】で撃ち放つ。

 

 バイサーは六発の聖弾を躰と四肢に受け、頭に福音弾(ゴスペル)を受けると、光になって消滅した。

 

「はぐれ悪魔バイサーよ、汝の魂に幸いあれ」

 

 クルリと踵を返し皆の許へと戻る。

 

「貴方、実は悪魔祓い?」

 

 リアスは冷や汗を流してユートに質問した。

 

「違うよ、確かに悪魔祓いの力を参考にしてるけど、僕自身は教会とは何ら関係を持っていない。それより早くこの場を立ち去った方が良いね」

 

「え?」

 

「バイサーは、自身の死をトリガーにして招喚の罠を仕掛けている」

 

 そう言った途端、魔方陣がバイサーの居た場を中心として描かれた。

 

「な、何?」

 

「遅かったか……」

 

 それは、人間と同じくらいの大きさの蜘蛛で、昆虫の器官を多数持つ。

 

『オオオオオオッ!』

 

 真紅の目で体は黒檀色の毛で覆われ丸太のような脚を持ち、甲高い声を出す。

 

 その姿は下半身が蜘蛛、上半身が人間のグロテスクな存在。

 

「旧支配者の一柱、アトラック=ナチャの分体か」

 

 バイサーが周囲の人間を誘き寄せ、自らの生命と共に生贄として招喚したのであろう。

 

 本体に比べればそんなに大した脅威でないのだが、厄介な事には違いない。

 

「旧支配者? それって、前に小猫が手も足も出なかったっていう……」

 

 蛇神Yigの事だ。

 

 あれは硬い鱗に覆われ、小猫の攻撃が通らなかったのが原因であり、分体なら旧支配者を相手に勝てないという訳ではない。

 

 所詮は分体に過ぎない、本体でもなければ戦える。

 

 とはいえ、何の準備も無しに戦うのは無謀を通り越して愚かだと云えよう。

 

「リアス部長、廃屋周囲に結界を敷いてくれる?」

 

「え? わ、判ったわ」

 

 意図は読めた為、リアスも余計な事は訊かずに指示に従った。

 

「我、喚ぶは最も旧き魔導の知識を受け継ぐ存在……昏き漆黒の闇の淵より疾く来よ、【ナコト写本】の娘たる者──那古人!」

 

 招喚符を消費し、那古人を喚び込む呪文を唱えると魔方陣が形成される。

 

 魔方陣の中心には漆黒のドレス姿の那古人が立ち、すぐにユートへと傅く。

 

「御側に、マイマスター」

 

「那古人、モード:魔を断つ剣!」

 

「イエス、マイマスター。モード:デモンベイン!」

 

 那古人の内に記されている術式、鬼械神(デウス・マキナ)エミュレータ。

 

 鬼械神(デウス・マキナ)を使えない状況での肉体上に対し、術式として擬似的な機神招喚を行う技術。

 

 一種の強化術式である。

 

「「ユニゾン・イン!」」

 

 那古人との融合により、術式制御を那古人が行ってユートが戦闘を行う。

 

 那古人はユニゾン・デバイスではないが、魔導書の精霊という本来なら実体を持たない存在なのを利用、融合を可能としていた。

 

「さて、征くか。みんなは危険だから外に出て、結界の強化に務めて欲しい!」

 

「え? 手伝わなくても良いという事?」

 

「そう、可成り危険な技も使うから巻き込まない自信は無い!」

 

 正直に言えば、現段階でのグレモリー眷族では足手纏いにしかならない。

 

「キャアッ!」

 

「朱乃!?」

 

 行き成りの悲鳴に驚いて見てみれば、朱乃がアトラック=ナチャ・アバターの糸に絡め取られて首を絞められている。

 

 シャカを相手に星雲鎖を返された瞬の状態に近く、所謂『逝くかね? ポトリと』という感じだ。

 

「待ってなさい、直ぐに私が助けるから……」

 

「ストップ!」

 

「な、何故止めるの!?」

 

 苛立ちを隠しもせずに噛み付いてくるリアス。

 

「今、あの糸に下手に触れたら落ちるぞ……首が」

 

 ゾッ!

 

 完全に足が止まる。

 

 現状では力の均衡により何とか持ち堪えているが、変な力を外から加えたりしたら、あの鋭い糸は朱乃の柔らかい首など容易く落とすだろう。

 

「だったらどうするの? この侭じゃどの道、朱乃の首が落ちるか絞め殺されるかのいずれかよ!」

 

「彼女の情報を知り得る限り教えてくれる?」

 

「情報? スリーサイズで何とかなる訳?」

 

「テンパる気持ちは解らないでも無いけど、そんなの知ってどうしろと? 朱乃先輩の出生、在り方、能力などだよ。それを基に術式を構築して召喚する!」

 

 魔法使いが使う悪魔召喚法に近いし、機神招喚みたいなものでもある。

 

 術式に召喚対象の情報を組み込む事により、ピンポイントで召喚する技法。

 

「…………判ったわ」

 

 個人情報を伝える事になるから逡巡したが、リアスは知っている限りの情報を伝えた。

 

 ユートはその情報を基にして、魔方陣を形成しつつ呪文を詠唱する。

 

「汝、堕ちたる光の使徒の落とし子よ、暗き果て無い闇の翼の申し子よ。光より来たりて雷を鳴り響かせ、冥界の底より召喚に応じ、我が許へ疾く来よ……汝は【雷光の巫女】たる存在、天より堕ちた者と土より生まれし者の狭間より生誕せし者、汝が名を【姫島朱乃】……召・喚っ!」

 

 ユートの目の前に召喚陣が完成し、アトラック=ナチャに首を絞められて喘いでいた朱乃が姿を消して、召喚陣から顕現した。

 

「ゲホ、ゲホッ!」

 

 先程まで首を絞められ、新しい空気を無理に吸い込み噎せる朱乃。

 

「さあ、朱乃先輩を連れて早く離れて! 少しばかり派手に征くから」

 

「わ、判ったわ。ユウの方も気を付けなさい」

 

「了解!」

 

「さ、行くわよイッセー、祐斗、小猫。小猫は朱乃を担いで頂戴」

 

「……判りました」

 

 全員、建物の外へ出る。

 

 それを見届けるとユートは戦闘の構えを執った。

 

「さっさと終わらせるよ、那古人!」

 

〔イエス、マスター〕

 

「術式選択:クトゥグア、イタクァ」

 

 ユートの右手には自動拳銃クトゥグアが、左手には回転式拳銃イタクァが顕現して握られる。

 

 相手は仮にも神。

 

 聖弾(セイクリッド)にしても、福音弾(ゴスペル)にしても普通の弾丸と変わりないだろう。

 

 ならば、普通の魔弾を使うのみ。

 

 派手にやるといっても、流石に神獣弾は危険過ぎて使えない為、今回はノーマルの魔弾に入れ換える。

 

「喰らえ!」

 

撃つ、射つ、討つ!

 

 BANG! BANG! BANG! BANG! BANG!

 

 トリガーを引き、マズルフラッシュを煌めかせながら銃口から放たれる魔弾。

 

 イタクァから撃ち放たれた魔弾は軌道を変化して、アトラック=ナチャ・アバター弱い部分へ無理矢理に食い込む。

 

 それで出来た隙を突き、クトゥグアの大弾をドテッ腹に打ち込んだ。

 

『キシャァァァッ!』

 

 悲鳴を上げるアトラック=ナチャ・アバター。

 

 然し、敵も然る者。

 

 口から糸を一斉に吐き出すと、ユートの手足を拘束してしまった。

 

「チィッ!」

 

 絡み取られ、身動きを封じられたユートにアトラック=ナチャ・アバターは近付くと、その鋭い牙で噛み砕かんと迫ってくる。

 

〔マスター!〕

 

「心配は要らない、撃ち抜けイタクァ!」

 

 未だに手にするイタクァのトリガーを引くと、弾丸が銃口より放たれた。

 

 無論、両腕と両脚を大の字に固められている以上、弾丸も明後日の方角へ飛んでいく。

 

 跳弾を期待出来る状況でも腕も無い。

 

 とはいえユートとて無駄に戦闘経験は積んでいない訳で……

 

 クィッ!

 

 魔弾が途中で曲がって、Uターンをしながら還ってくる。

 

 イタクァの魔弾を操作、自らに絡み付く糸に目掛けて飛ばしたのだ。

 

 左腕の糸が魔弾によって切られ、自由になった端から右腕に絡む糸を切るべく魔銃を破棄し、新しい術式を編み上げた。

 

「……ヴーアの無敵の印に於いて力を与えよ、力を与えよ、力を与えよ!」

 

 左手の中に炎と共に顕現したのは、漆黒にして無骨な鉄の板。

 

 斬り裂く刃にして魔杖。

 

「バルザイの偃月刀!」

 

 糸を斬り、自由を取り戻したユートはバルザイの偃月刀を投擲した。

 

 ある程度、自由飛翔しながらアトラック=ナチャの動きを牽制し、斬られる隙を見出だしてはクトゥグアを撃ち放つ。

 

〔マスター、この侭ですと極め手に欠けます〕

 

「だね。デモンベインだと最強の術式が少し派手過ぎるか……」

 

〔リベル・レギスに換えますか?〕

 

「それだと一度、ユニゾンアウトしなきゃだしねぇ。ま、相手は戦闘を得手とするタイプじゃなし、隙を突いて断鎖術式を起動する」

 

〔イエス、マスター!〕

 

 ユートはバルザイの偃月刀とクトゥグアを破棄し、更に新しい術式を紡ぐ。

 

「双子の卑猥なる者よ……ロイガー&ツァール!」

 

 地水火風の四大属性の内風に属する旧支配者。

 

 【双子の卑猥なる者】という異名を持った存在を、術式として構築した二振りの刃。

 

 基本的に二振りを一組として活用するそれは、両手に持って二刀流で戦うか、若しくは重ねて十字剣として投擲するのか選べる。

 

 放たれる糸を絡め風を刃に纏わせて吹き飛ばしていくと、十字に重ねて投擲。

 

 その威力を受けて仰け反ったの見て、特殊な呪法を起動させる。

 

「断鎖術式解放、壱号【ティマイオス】、弐号【クリティアス】!」

 

 ユートの膝に仮想再現が為されて、脚部シールドが顕現した

 

 断鎖術式とは時空間湾曲機構で空間湾曲によって起きる反作用を利用し、高機動力を得る事が出来る特殊な術式の事。

 

 ナコト写本・ラテン語意訳を編纂する際、別の魔導書の記述を混ぜたユートはデモンベインをエミュレートする為に、特殊性の高い術式を織り込んだ。

 

 それが、【時空湾曲機構・断鎖術式】と【第一近接昇華呪法】と【第零封神呪法兵葬】である。

 

 全ては術式で再現したモノではあるが、どれもその目で見て【叡智の瞳】により解析して覚えたモノだ。

 

 ただ、流石に【第零封神呪法兵葬】を使う為には長ったらしい呪文詠唱が必要となり、しかも消耗が半端ではない事もあって使い勝手が良くないが……

 

 【断鎖術式】を起動させた状態で、アトラック=ナチャを蹴り上げたユートは天井へと放り上げた。

 

 ユートの脚に浮かぶ魔術文字が輝く。

 

 断鎖術式により、空間湾曲されてユートの周囲の時流が乱れ、ごく短い感覚での時間遡行、跳躍、重力異常に謎の力場の発生、次元の収縮と拡張による時空間エネルギー漏れが起きる。

 

 それにより、物理力学を無視した超跳躍を行ったり重力制御を駆使する事で、慣性を捻じ曲げた様な超機動を行えるのだ。

 

 その際に起きるエネルギーを直接、攻撃に転用するのが【近接粉砕呪法】……

 

「アトランティス・ストラァァァァァイクッ!」

 

 回し蹴りを放ち、その名にし負う威力を魅せた。

 

 アトラック=ナチャ・アバターは木端微塵となり、膨大な空間湾曲エネルギーによって建物すらも木端微塵となる。

 

「ユ、ユニゾンアウト!」

 

 那古人が分離し、ユートは肩で息をしていた。

 

 何しろ、生身で鬼械神の力を降ろすのだ。

 

 大きく消耗してしまう。

 

 苦し気にするユートを心配そうに見つめる那古人。

 

「大丈夫ですか?」

 

「も、問題無いよ……」

 

 右手で那古人を制して、ユートは顔を上げると眼前の〝嘗て廃屋だったモノ〟を見つめた。

 

「……少しやり過ぎたか」

 

 離れた場所に居たリアス達の呼び声を背中に聴きながら、嘆息をしてユートは独り言ちるのであった。

 

 

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