ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第10話:変態×神父

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 旧校舎はオカルト研究部の部室……

 

 黒髪ポニーテールの乙女……駒王学園の【二大お姉様】と呼ばれる姫島朱乃はアンニュイな雰囲気を醸し出し、ソファーに寝転がっていた。

 

 本人の大人っぽい色香も相俟って、スケベな一誠ならずともドキリとさせられる仕草である。

 

「ハァー」

 

 これで何度目の溜息であろうか? 半ば眠っているのではないかと思えるトロンとした瞳は焦点が定まっておらず、何者をも写してはいなかった。

 

 そんな朱乃をオカ研の部員達も心配しているのだ。

 

「朱乃にも困ったものね」

 

 左手で右肘を支え、右掌は右頬に添えて小首を傾げたリアスは、やはり溜息を吐いていた。

 

 昨日からこんな感じだ。

 

 より正確に云えばはぐれ悪魔バイサーを斃した後、旧支配者と呼ばれる怪物と対峙して、不意を突かれて敵に絡め取られた処を助けられ、部室で目を覚ましてからずっとである。

 

 原因はまあ、きちんと判ってはいるのだ。

 

 問題は朱乃がそれをどの様に感じているのかが判らない事と、原因の一端となった朱乃を助けた人物が、未だ部室に来ていない事。

 

 別に逃げた訳ではない。

 

 昨夜の件に関し、生徒会のソーナ・シトリー会長に連絡をしているのだ。

 

 普段のはぐれ悪魔が相手であるなら、特にユートが報告をする必要は無い。

 

 だが、はぐれ悪魔が別物の怪物を喚んだとあれば話は別である。

 

 冥界の魔王に報告を挙げ指示を仰がねばなるまい。

 

 だから、ユートが部室へと未だに来ない事も納得はしている。

 

 しているが朱乃の雰囲気を戻す為、早く来て欲しいと願うリアスであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 【生徒会室】

 

「成程、話はだいたい理解出来ました。直ぐにも冥界の大公を通じて魔王様方に連絡をしておきましょう」

 

「頼むよソーナ会長」

 

「それにしても、旧支配者(グレート・オールド・ワンズ)ですか……」

 

 椅子に深く凭れ掛かり、瞑目するとソーナは『ほう』と軽く嘆息する。

 

 普段、切れ長の瞳を眼鏡で武装するソーナはキツめの印象があるが、今の表情はそんな彼女だからこそ出せる魅力に溢れていた。

 

 近くに待機していた匙も思わず、赤くなりながら惚けているくらいだ。

 

「確か、塔城小猫さんを襲ったのも旧支配者という蛇だったとか?」

 

「まあね。余り噂にはしないで欲しいけど……」

 

「それは勿論です」

 

 ソーナは敢えて生徒達の不安を煽らない様、ユートは恐怖や好奇心が信仰とならない様に。

 

 方向性こそ違え、どちらも噂が拡散する事を望んではいない。

 

「それじゃあ、僕は部室に行くよ。オカ研のメンバーにも説明が要ると思うし」

 

「判りました。引き留めてしまってすみませんね」

 

 ソーナは眼鏡の位置を直しつつも、フッと柔らかな笑顔を向けて言った。

 

「問題は無いよ。悪魔に関わる以上は報告も義務の内だしね」

 

「そう言ってくれると助かりますよ」

 

 ユートも柔らかく笑うと生徒会室を後にする。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 【オカルト研究部部室】

 

「こんにちは」

 

「あ、ユウ! やっ……」

 

「ユウ君!」

 

 リアスの【ユウ】と呼んだ声に反応し、ボーッとしていた朱乃が顔を上げた。

 

「取り敢えず、昨夜の約束通り説明をするから」

 

「是非ともそうして欲しいわね」

 

 主に朱乃の精神の均衡の為にも。

 

 部室内にはユートを始めとして、オカルト研究部に在籍をする者達が現在は、皆勢揃いしている。

 

「先ず、旧支配者に関してだけど……」

 

 ユートの説明は簡潔に行われた。

 

「旧支配者か」

 

「祐斗、何か知っているのかしら?」

 

「ええ、何かの本でそんなのが在った様な……」

 

 恐らくは、フィクションとして出版物が出回っているのだろう。

 

 旧支配者とは旧神と対立する邪悪な神の事。

 

 故に、ユートは旧支配者を邪神と呼んでいた。

 

 旧支配者達はそれぞれ、四大元素(火、水、土、風)のいずれかに属し、旧支配者同士の対立も存在する。

 

 例えば水のクトゥルーと火のクトゥグアの様にだ。

 

 現在は活動が制限されているが、それは星辰の移り変わりによるものと、旧神との戦いに敗れて幽閉された為である。

 

 その為に、眷属や信者が主の復活を画策しており、仮に旧支配者の本体が世に復活してしまえば、人類の文明などあっけなく滅ぼされてしまうだろう。

 

 また旧支配者の中にあって唯一、封印を免れた邪神が存在している。

 

 それが【這い寄る混沌(ナイアルラトホテップ)】という邪神だ。

 

 【這い寄る混沌】

 

 【無貌の神】

 

 【暗黒神】

 

 【闇に棲むもの】

 

 【大いなる使者】

 

 【燃える三眼】

 

 【顔のない黒いスフィンクス】

 

 【強壮なる使者】

 

 【百万の愛でられしものの父】

 

 【夜に吠ゆるもの】

 

 【盲目で無貌のもの】

 

 【魔物の使者】

 

 【暗きもの】

 

 【ユゴスに奇異なる悦びを齎すもの】

 

 【古ぶるしきもの】

 

 【膨れ女】

 

 【千の化身を持つもの】

 

 ……等々数多くの二つ名を持っている。

 

 そして、この世界に邪神の分体を呼び込む方法を教えているのは、ナイアルラトホテップで間違いない。

 

「旧支配者が復活すると、人類が滅びるというのは……本当なのかしら?」

 

「本体が一柱でも復活したなら、間違いなく滅ぶよ」

 

 思い出されるのは、嘗てのクトゥルー復活。

 

 あれも本体ではなく分体に過ぎなかっただろうに、それでもユート達にはどうにも出来なかった。

 

「でもユウ、貴方は昨夜といい小猫の時といい、斃していたわよね?」

 

「所詮、あれは百万分の一くらいの分身体だからね。本体には現代兵器は全くの無意味だし、悪魔や堕天使や天使でも──神や魔王でもどうにも出来ないよ」

 

 本体が相手ならばという註釈は付くが、多少の力で斃せるものではない。

 

「神や魔王でもなの?」

 

「少なくとも、サーゼクスやセラの力では何も出来ないだろうね。昨夜の分身体ならどうとでもなるけど」

 

「その分身体は私達では斃せないの?」

 

「さあ?」

 

「さあ……って、判らないのに退避させたの?」

 

「Yigを相手に、小猫は手も足も出なかった事を鑑みれば、行き成り戦わせるのは危険だったんだよ」

 

「……」

 

 小猫がユートの膝の上でシュンと肩を落とす。

 

 そんな小猫の頭を撫でてやりながら、ユートは更に説明を続ける。

 

「あの旧支配者は分体……実力的には中級の中でも、上位の悪魔に相当するんじゃないかな? リアス部長ならダメージを負わせる事も出来たろうけど、今は戦うのはお奨め出来ない」

 

「どうして?」

 

「ダメージを負わせるだけなら出来る。でも戦えるかと訊かれれば……」

 

「経験不足って事ね」

 

 多少ははぐれ悪魔を斃していたりと、実戦経験も在るのだろう。

 

 然し、どう考えても経験が不足している。

 

 旧支配者の中には、パワーで押すだけでは勝てない様なタイプも居るのだ。

 

「昨夜もそう。敵を前に、気を逸らしていたから不覚を取る。とはいえ、本来は旧支配者の招喚なんて簡単には出来ないから、頻繁には出ない……と良いな」

 

「可能性はあるのね?」

 

「這い寄る混沌がどういう経路で招喚法をバラ撒いたのか。そもそも旧支配者の招喚には星辰、生贄、正しい儀式、象徴などが揃わなければ出来ない。それにも拘らず、小さな分体とはいえ招喚出来た……」

 

 這い寄る混沌のやろうとしている事が解らない。

 

「召喚といえば、ユウ君は酷いですわ」

 

「は? 朱乃先輩?」

 

「私の事を部長から訊きましたね?」

 

「あー、マナー違反なのは理解してるけど、緊急避難措置って事で……」

 

 ユートが朱乃を召喚した魔法は召喚対象をよく知る必要があり、補助としては召喚対象の事を詠唱に盛り込まねばならなかった。

 

「という訳で、私の秘密を暴いたのですから責任を取って下さいな」

 

 ユートの隣に座り、腕に絡み付くと自身の匂いを擦り付けるかの如く、頬を刷り寄せる。

 

「差し当り、小猫ちゃんとしている事を私にもして欲しいですわ♪」

 

 朱乃の行動に小猫は頬を膨らませて、一誠が嫉妬の混じる視線を向けてきた。

 

 どうやら朱乃は、ユートに擦り寄る方向に決めたらしい。

 

 ユートは少し呆れながら朱乃の行為を受け容れた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 最近、駒王学園に於いて【二大お姉様】と称される姫島朱乃がユートに急接近している。

 

 そして、普段の業務では兎も角としても、それ以外では小猫と同じ様にユートに甘えていた。

 

 其処には【お姉様】たる威厳など微塵も無く、一誠辺りだと血涙を流す勢いで嫉妬をしている。

 

 これまでは小猫がユートの膝に乗って、お菓子を口まで運んで貰うという行為が常態となっていたのが、今は朱乃も含まれていた。

 

 流石に2人も膝に乗せられない為、朱乃はユートの隣に陣取り首に腕を廻して撓垂れ掛かっている。

 

 その上で、ユートの手ずから食べ物を口に入れて貰っていた。

 

『乙女の秘密を暴いた罰ですわ♪』

 

 と、実に愉しそうに朱乃は言う。

 

 ユートに秘密を知られ、それを切っ掛けに寄る辺とした退廃的な依存。

 

 普段凛としている姿は、自らの弱さを覆い隠す為の鎧であったという訳だ。

 

 姫島朱乃は悪魔に成る以前より、人間であるとは云えない過去を持っていた。

 

 退魔の一族の人間である【姫島朱瑠】と、堕天使である【バラキエル】との間に生まれたハーフ。

 

 バラキエルは雷の力を持った堕天使で、得意な技は【雷光】だった。

 

 故に今は【雷の巫女】と呼ばれている朱乃も、悪魔の身に在りながら【光】の力を持ち合わせている。

 

 本来なら【雷光】を扱える筈の朱乃は、自身の内に在る【光】を忌避して使おうとはしない。

 

 理由は過去のとある事件で生じた父、バラキエルとの確執にあった。

 

 この侭で良いとは思っていないが、今は朱乃を思い切り甘えさせる。

 

 いずれ、自身の血に向き合う時が来るその時まで。

 

 それに、甘えてくるのは暇な時だけであり、仕事の時はいつもの朱乃である事も一因だった。

 

 ユートの仕事を邪魔せず自分の仕事を滞らせない。

 

 ユート的には、公私を弁えるなら良いじゃないかという感じだ、一誠の視線がウザいけど。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「くっそー! チャリに追い付くって、何だよそれ」

 

 必死に自転車を漕ぐ一誠だったが、平然と自分の脚で走り並走してくるユートに文句を垂れる。

 

 そう、全力全開手加減無しで一誠が漕ぐ転車に余裕を持ってユートは並ぶ。

 

「っ! どんな脚っ、してんだよぉぉぉぉおお!」

 

 叫びながら一誠は仕事場へ向かうのであった。

 

 着いた先は、グレモリー眷族を喚び出したお宅。

 

「ちわーっ! グレモリー屋でぇぇぇす」

 

 ズコッ!

 

 一誠は思わず脱力して、ずっ転けてしまう。

 

「アホか! 俺達は何処の酒屋だよ?」

 

 叫ぶ一誠だが、ユートが腕で制する。

 

「? どうしたんだよ」

 

「死臭だ……」

 

「へ?」

 

「それに血の臭い、一誠は帰れ。ヤバいかも知れないからね」

 

 中に気配が在る、死臭の漂う屋内での気配だ。

 

 間違いなく犯人。

 

 自分だけならば如何様にも出来るが、戦いの素人であり覚悟も未だに皆無たる一誠では足手纏いだ。

 

「ば、莫迦な事を言ってんなよな! 俺だって部長の眷族なんだぜ?」

 

 キョドっているのだが、それでもハッキリと言う辺りこれ以上は言っても無駄だと判断した。

 

「好きにしなよ。死んでも自己責任だから」

 

「う゛!」

 

 ユートはソッとドアノブを回して、家の中へと侵入をする。

 

「鍵も掛かってないか……一誠、声を出さないでよ」

 

「お、応……」

 

 抜き足、差し足、忍び足……まるで怪盗の如く注意深く速足に歩く。

 

 リビングらしき場に着き一誠は込み上げるモノを抑え切れず……

 

「ゴボッ、オエェェェ!」

 

 吐いてしまった。

 

 恐らくは家人だろう人間の男が、血塗れになり壁に逆さまで磔になっている。

 

 切り刻まれた死肉から、臓物がはみ出て垂れ下がり普通の神経ではとても見るに堪えない。

 

 所謂、アンチクロスの形に磔にされた男は、両掌や足や胴体の中心に極太の釘が打ち付けられていた。

 

 遺体から血が滴り落ち、床には血溜まりが出来て壁には血で文字──日本語に非ず──が書かれている。

 

「な、何なんだよこれは」

 

「『悪い事をする人はお仕置きよー』って、聖なるお方の言葉を借りたものさ」

 

「これ、ヤったのはお前か……悪魔祓い?」

 

 ユートは振り返りもせず背後に居るであろう者へ、怒りを籠めて訊ねた。

 

 一誠が振り向くと、其処には十代後半くらいの白髪美少年が佇んでいる。

 

 まるで神父の様な装いであるが、瞳は凶暴そのもので邪悪な光を灯していた。

 

「んー、んー? これは、悪魔君ではあーりませんかー! もう1人は……悪魔に協力する邪悪な人間って事でござんすか?」

 

 実に愉しそうに、まるで……そう、獲物を見付けた様なギラついた眼でユートと一誠を視ている。

 

 【悪魔祓い(エクソシスト)】の事は、リアスから一誠も説明を受けていた。

 

 神の祝福を受けし悪魔の仇敵、それが【悪魔祓い(エクソシスト)】だ。

 

「先程の質問はー、イッエース、イエス、我らが主たるイエス様々ってねー♪ 俺が殺っちゃいましたよ。だってー、悪魔を喚び出す常習犯だったみたいだし、殺すしかないっしょ?」

 

 余りに巫山戯た物言いに一誠は唖然となった。

 

「何せ、俺は神父♪ 少年神父ー♪ デビルな野郎をぶった斬りー、ニヒルな俺が嘲笑うー♪ お前ら悪魔の首刎ねてー、俺はおまんま貰うのさー♪ ってか? ギャハハハハ!」

 

 突然、歌い出す神父。

 

「俺のお名前は……」

 

「ああ、要らん要らんよ。お前の名前なんて覚える気は大宇宙から見た埃一粒すら無いし、そんな無駄メモリを使うくらいならねぇ、そこ行くオバサンの名前を覚えた方がまだ有意義だ」

 

 微妙に扱き下ろす。

 

「あー? クソ悪魔の味方してるクソ人間の分際で、巫山戯た事抜かしてんじゃねーっスよー? だったら今すぐにでも死ねやぁ! このクソ砂利がぁっ!」

 

 懐から刀身の無い剣の柄と拳銃を取り出し、柄から光の刃を空気が震動する音と共に現出させる。

 

「な、なんだあれ?」

 

「うん? サイブレードみたいなモンかな?」

 

「サイブレード?」

 

「精神力を刃に転換させる剣の事だよ。まあ、あれは光の粒子を祝福で纏めているシャイニィブレードって処かな?」

 

 【サイブレード】とは、スレイヤーズと同系統の言葉が多用されるライトノベル──【ロストユニバース】に出てくる武器の事。

 

 主人公の【ケイン・ブルーリバー】が常に好んで扱っており、物語の序盤から最終決戦まで使用された。

 

 まあ、形はどうあれ……実は欠陥武器である。

 

 理由は、精神力抽出器、精神力増幅器、出力端子がコードで繋がっていなければ精神力を刃に換える事も碌に侭ならないからだ。

 

 頑張れば一瞬、刃を形成する事も出来るのだが……

 

「無視ってんじゃねーよ、俺的にお前らアレなんで、斬っちゃいますよ、撃っちゃいますよ? OK?」

 

 神父が一誠に向かって駆け出し、サイブレ……でなく光の刃を出した剣を横薙ぎに放つ。

 

「今からお前らの心臓に、この光の刃を突き立てて、この格好良い銃でドタマにフォーリンラブっちゃいまーッす!」

 

 煌っ!

 

「がっ!?」

 

 刃を躱す一誠だが、太股に奔る激痛に呻く。

 

 見れば銃口から煙が立ち上っている辺り、どうやら音も無く撃たれたらしい。

 

「どーよ、エクソシスト特製の祓魔弾の威力はよー? 銃声なんざぁ、発しません。何せ光の弾だからね。思わず達してしまいそうなエクスタシーが、俺と君を襲うだろ?」

 

 煌っ!

 

 再び放たれる祓魔弾。

 

 シャリィンッッ!

 

 甲高い音を響かせつつ、祓魔弾が弾かれる。

 

「アアン?」

 

 それは光を発する槍の様にも見えた。

 

「偽・瞬撃槍(ラグド・メゼギス・レプリカ)」

 

 この武器が発するモノは神父の光の刃や祓魔弾とは異なり、純粋な光などではなく先程の話にも出てきた【サイブレード】と同じ原理で、精神力を刃に転換したものである。

 

 それは【闇を撒くもの】が生み出した五つの武器……その一つ、瞬撃槍(ラグド・メゼギス)を象りながら名を騙る武器。

 

 故にこそその銘とは──【偽・瞬撃槍(ラグド・メゼギス・レプリカ)】。

 

「一誠、持ってろ」

 

「あ、ああ」

 

「クトゥグァ!」

 

 一誠に偽・瞬撃槍(ラグド・メゼギス)を渡し、叫ぶと手の内に顕れるは赤黒い自動式拳銃クトゥグァ。

 

 ユートは神父を……そして神父はユートを互いに睨み付けた。

 

 煌っ!

 

 BANG!

 

 互いに一発ずつ放ったのを切っ掛けに、狭いリビングで戦闘を開始する。

 

 神父は祓魔弾を連発しながら、光剣を揮ってユートを斬り裂こうとしていた。

 

「偽・烈光剣(ゴルン・ノヴァ・レプリカ)ッ!」

 

《おう、おう! 久方ぶりの出番だぜぃ!》

 

 ユートもまた、一誠に預けた偽・瞬撃槍(ラグド・メゼギス・レプリカ)と同じ武器である偽・烈光剣(ゴルン・ノヴァ・レプリカ)を出して、神父の攻撃に対応する。

 

「光よっ!」

 

 刃を外し、キーワードとなる言葉を紡ぐと、精神力を刃へと転換して剣としての様相を醸し出す。

 

 【偽・烈光剣(ゴルン・ノヴァ・レプリカ)】は、闇を撒くもの──ダークスターが生み出した五つの武器の一つたる烈光剣(ゴルン・ノヴァ)を人工的に造ったモノ。

 

 何故、言葉を発するのかと云えば、ハルケギニアにてこれを造る際に、才人へと渡す為にデルフリンガーを改造したからである。

 

 サイブレードの【抽出器】【増幅器】【発信器】を完全に一体化したモノで、キーワードを使い手が紡ぐ事により、使い手の精神力を汲み出して増幅し、刃に転換する事が可能だ。

 

 また光の刃を意志一つで飛ばす事も出来るし、本物と同様に魔法を精神力の刃に纏わせ、増幅して斬ったり飛ばしたり出来る。

 

 シャリン! シャリン!

 

 普通の金属の刃がぶつかったなら、決して鳴る筈の無い軽快な音を響かせて、光剣をぶつけ合う。

 

「こんの、いい加減くたばれよーっ!」

 

 焦れてきたのか、叫びながら祓魔弾を撃ち放った。

 

 ユートはそれを躱すと、行動後硬直をしている神父に向かって駆け出しつつ、偽・烈光剣(ゴルン・ノヴァ・レプリカ)を袈裟懸けに振り降ろ……

 

「な、何をしてるんです」

 

「なっ!?」

 

 余りに聞き覚えのある声を聴いて、ユートも神父も動きを止めると視線を声がした方向へ向けた。

 

「アーシア……か?」

 

「おんや、助手のアーシアちゃんじゃありませんか。どうしたの? 結界は張り終わったのかなかな?」

 

「それは……っ!?」

 

 神父の質問に答えようとしたが、その最中に壁を見て一瞬だけ硬直する。

 

「イ、イヤァァァァァァァァァァァァァァアアッ!」

 

 アーシアの視線の先には神父が殺って、壁に打ち付けられているこの家の住人が存在していた。

 

 まともに見てしまって、絹を引き裂く様な悲鳴を上げるアーシア。

 

「可愛い悲鳴をありがとうございます! そっかー、アーシアちゃんはこの手の死体は初めてですからね。ならなら、よーく、篤とご覧なさいな。悪魔君に魅入られたダメ人間さんはぁ、そうやって死んで貰うのですよぉ♪」

 

「そ、そんな……」

 

 アーシアがユートと一誠を見て、目を見開いて驚きを露わにする。

 

「フリード神父、その人達は……?」

 

「人? まあ、片方はそうみたいだけど、もう片方はクソ悪魔君だよ」

 

「ユ、ユートさんは悪魔だったんですか?」

 

 思わずユートは転けた。

 

「何でだよ? 悪魔はあっちの方だ!」

 

「あ、あれ?」

 

 どうも、悪魔祓いの神父と戦っていたユートの方が悪魔だと思ったらしい。

 

「ハハハ、どっちにしてもクソ悪魔君と、それに味方するクソ人間さ。ってか、君らって知り合いなの? 悪魔に魂を売ったクソ人間とシスターとの、爛れた恋のラブラブリーな関係ってヤツですかぁ?」

 

 アーシアの澄んだ碧い瞳がユートを見つめる。

 

「ギャハハハハ! 清らか〜なシスターちゃんをー、悪魔に魂を売った人間が肉欲的な誘惑をしちゃって、アーシアちゃんは『もう主はどうでも良いんですぅ、貴方の太くて固くてドス黒いモノが欲しいのぉ!』とか言っちゃってさぁ、其処らで一発かましちゃう仲だったり?」

 

 アーシアはいまいち神父の言っている意味が理解出来ていないのか、ハテナと首を傾げていた。

 

「チッ、品の無い奴だ」

 

 舌打ちするユート。

 

 これならば、普段から『おっぱい、おっぱい』などと言っている一誠の方が、まだ数段マシに思える。

 

「アハハハハ、悪魔に魅入られた人間と教会関係者ってのは相容れませんよぉ。悪魔崇拝者(サタニスト)ってなぁ、魂の奥底まで腐肉の塊ですからなぁ!」

 

 此方が黙っていれば調子に乗って、可成り好き勝手な事をほざく神父。

 

「ふん、凶行が過ぎて教会を叩き出されて、堕天使に尻尾を振る狗がよく言う。はぐれ悪魔祓い!」

 

「おやおや、俺様がはぐれ悪魔祓いだとよくご存知だこと。あれですか? 君はストーカー?」

 

 嘲笑う神父はとんでもない冤罪を吹っ掛けてきた。

 

「まあ、何はともあれだ。俺的にはこの屑男さん共を斬らなけりゃ、お仕事完了出来ないんでね。ちょちょいっと逝きますかねぇ」

 

 光の刃を突き付ける様に神父が構える。

 

「ま、待って下さい!」

 

 そんな神父とユートの間に立ち、アーシアが両腕を横に真っ直ぐ広げて神父の前へと立ちはだかった。

 

 神父は表情を歪めると、ヤレヤレと頭を振る。

 

「マジですかー、アーシアたん。君さー、自分が何をしてるか判っているんでしょうかねー?」

 

「はい、フリード神父……お願いします、この方達を許して下さい……見逃して下さい」

 

 蚊帳の外の一誠は、彼女の言葉に声を詰まらせた。

 

 よもや教会に属しているシスターが庇ってくれるなんて、思いもよらない。

 

「もう嫌なんです。悪魔を殺したり、悪魔に魅入られたからって人間を裁いたりするのは……そんな事……きっと間違っています」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ? ぶぅあっかか、クソアマ。てめえ、頭に蛆でも沸いてんじゃねえかぁ? 悪魔も悪魔崇拝者(サタニスト)も等しくクソだって、教会で習ってんだろうがよぉ! こんの、クソビッチが……いっぺん、レ○プかまして聖水で子宮(ナカ)と頭ん中身を素敵に洗浄すっか?」

 

 バキィッ!

 

「キャァアッ!」

 

 腐れた事を言いながら、神父は拳銃を持っている手でアーシアの頬を手加減もなく思い切り引っ叩く。

 

「ギャハハハハ! 悪魔崇拝者に穢されたシスターを神父の俺ちゃんの聖水でぇ……浄化ぁってか?」

 

 戦いも忘れ、本当に襲う気なのかアーシアの服を破り去る。

 

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ほーら、アーシアたん。俺ちゃんの聖剣(エクスカリバー)は勝利(にんしん)を約束されていて立派だぞーっと! 真っ白なモノを頭から被って身も心も漂白されちゃいなさ〜い!」

 

 露わになった胸元を庇い悲鳴を上げるアーシアに、ズボンのチャックを開けようとする神父。

 

 その目に余る行為に見兼ねたユートは、左手を翳すと叫ぶ。

 

「イタクァ!」

 

 言葉に従いユートの左手の内に、メタルシルバーの輝きを反射する回転式拳銃(リボルバー)が顕現。

 

 BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! BANG! 

 

 一気に六発の弾丸を撃ち放った。

 

「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 

 アーシアの可憐な悲鳴とは違い、汚ならしい悲鳴を上げる神父は両手、両脚から血を流している。

 

 イタクァの弾丸が、神父の手脚を撃ち抜いたのだ。

 

 更に背中からも血を流しているが、何故か〝股間〟を押さえながら翻筋斗(もんどり)打ち倒れていた。

 

「ゆ、優斗……お前は何つーおっそろしい事を」

 

 他人事ながら、一誠も思わず股間を押さえて……というか、庇って青褪める。

 

 ユートの撃った弾丸が、神父の玉を撃ち抜いたのを一誠は理解していた。

 

 この痛みでは神父のナニは最早、永劫に役には勃たない事であろう。

 

 性犯罪に走ろうとした者に対して、急所攻撃は確かに覿面だろうが、何ともはや空恐ろしい事を平然と行うものだ。

 

 同じ男の所業とはとても思えない。

 

 そう、ユートこそは……

 

「(全ての男の敵だぜ!)」

 

 一誠は戦慄しながら思ったものだった。

 

 其処へ紅色の魔方陣が顕れると、光の中から仲間達が飛び出して来る。

 

「助けに来たよ、緒方君、兵藤君!」

 

「あらあら、何だかおかしな展開ですわね?」

 

「……神父」

 

 木場、朱乃、小猫が一誠とユートを庇う様に動く。

 

 といっても、唯一の敵らしき男は未だに翻筋斗打っているのだが……

 

「どういう状況?」

 

 リアスは、何とも言えない表情で事態を見つめた。

 

「丁度良い、リアス部長は一誠を連れて此処を離れてくれる? 事情は後から話すからさ」

 

「? でも……」

 

「部長、この家に堕天使らしき者達が複数、近付いて来ています!」

 

「何ですって? 判ったわユウ。ちゃんと説明して貰うわよ」

 

「了解」

 

 リアスは片脚を光に穿たれ動き難くなっていた一誠に肩を貸し、朱乃達を伴って魔方陣から脱出を図る。

 

「部長、優斗は?」

 

「この魔方陣は、私の眷族以外は跳べないのよ」

 

「そんな!?」

 

 人間であり、眷族ですらないユートでは魔方陣によるジャンプは出来ない。

 

 それを聴き、一誠は驚愕してしまう。

 

「大丈夫だよ。自前の脚で退却するから」

 

「絶対だぞ!」

 

 消え行く一誠に、ユートはサムズアップで応えた。

 

「さて、と……アーシア」

 

「は、はい?」

 

「悪いんだけど、君を誘拐させて貰うよ」

 

「──へ?」

 

 ユートはアーシアを脇に抱えると、クトゥグアの弾丸で壁をぶち抜く。

 

 壁が砕けて出来た穴を通って家から脱出。

 

「翔封界(レイ・ウィング)ッ!」

 

 ユートは飛翔魔法を使って翔んだ。

 

 

 【翔封界】

 風の結界を纏い、高速飛行を可能とする呪文。制御が難しく使い勝手が乏しい為にスレイヤーズ世界では廃れつつある魔法。高度、重量、速度の総和が術者の力量に比例するため最高速で飛行するには地面すれすれを飛ぶ必要がある。持続時間は術者の集中力により長距離は移動できない。風の結界を利用して多少の攻撃をはじき、敵に体当たりをしたり、水中に濡れずに潜るといった応用も可能。

 

 

 

「はわわわーっ!?」

 

 初めて夜空に舞っているアーシアは、余りにも驚き過ぎて目を白黒させる。

 

「クトゥグア……」

 

 驚くアーシアを他所に、ユートはクトゥグアの弾倉(マガジン)に神獣弾を装填して撃ち放つ。

 

「神獣形態っ!」

 

 ユートの言葉に従うかの如く、弾丸は焔の獣へ姿を変えて家を燃やし尽くす。

 

 他には飛び火しない様、精緻なコントロールで暴れるクトゥグアを制御して、家も遺体も灰にする。

 

 周囲は大丈夫と確認。

 

 何とも言えない表情で焼き尽くされた家を見つめ、視線を逸らすとアーシアを抱えた侭、月夜の空を飛翔するのであった。

 

 

 

.




 【翔封界】の詠唱って、無かったっけ?


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