ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第11話:世界×神器

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「ぐっ、こんちくしょう。クソ、クソ、クソがぁぁぁぁぁぁぁっ! 悪魔なんぞと連んでやがるクソ人間の分際でぇ、この俺にこんな傷を負わせやがって!」

 

 白髪の神父は重たくて、上手く動かせない身体を引き摺りながら這っている。

 

 神父の名前はフリード・セルゼン。

 

 両の手脚と背中と股間の玉一つを潰され、這う這うの体で燃えゆく家から脱け出していた。

 

 光剣と光銃と玉一つを喪いながら、何一つ達成出来なかった彼は身を寄せている堕天使の所へ逃げ帰るしかない。

 

 股間からは血と共に止めど無く流れる汚い液体。

 

 フリードは屈辱に端正な顔を歪め、痛む腕を振り上げて地面を叩く。

 

 手が痛いだけで、地面には何の変化も無かった。

 

 それがフリード・セルゼンの全てだと、地面にすら言われた気がする。

 

 フリードにとってそれがいっそう屈辱的であった。

 

 汚辱に塗れその事ばかりを考えていたフリードは、故に気付けずにいたのだ。

 

 自身の背後に、燃える様な三眼が闇に紛れて見つめながら嗤っていた事に。

 

 ソイツは、何故か何処ぞの暗黒英雄(ダークヒーロー)の様であったという。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ごめんなさいね。真逆、以来主の許に【はぐれ悪魔祓い】の者が訪れるなんて計算外だったわ」

 

「いえ、助けて貰えましたから大丈夫で……っ!」

 

「イッセー、ひょっとして怪我したの?」

 

「あ、すいません……その……撃たれちゃいまして」

 

 脚に一発だけとはいえ、悪魔にとって光というのは毒物以外の何物でもない。

 

「あの神父ね? 私の可愛い下僕を……許せない!」

 

 グレモリーは情愛の深い悪魔である、自分のモノを傷付けられる事をグレモリー家の悪魔であれば許容は出来ないのだろう。

 

 静かに然れど深くリアスは怒りを露わにしていた。

 

「兵藤君、これは君の?」

 

 木場が手にしてる物は、一誠が依頼主の所で持っていたモノだ。

 

 光を放っていたが故に、木場が調べていた。

 

「それは優斗から預かっていた物だよ」

 

「緒方君から? 悪魔祓いが使う光剣みたいな武器だったみたいだけど……」

 

「俺にもよく判らねえよ。確かに『光よ』とか叫んでたけどな……」

 

 それを聞き、木場は持っていた武器──偽・瞬撃槍(ラグド・メゼギス)を構えて叫ぶ。

 

「光よーっ!」

 

 ブーン!

 

 空気を振動させる音を響かせて、先端と石突からは光り輝く刃が生まれた。

 

「……光の……槍?」

 

 小猫が驚きながら呟く。

 

 それは確かに、フリードが持っていた光剣と似ている様にも見えた。

 

「いや、違うよ小猫ちゃん……確かに見た目は悪魔祓いの光剣みたいだけどね、質って云うのかな? これは僕ら悪魔に毒となる光とは異なるモノみたいだ」

 

 何よりこの光の刃から、悪魔に対する圧迫感が発せられてはいない。

 

 悪魔なら十字架を近くで見ただけで悪寒を感じるというのに、すぐ傍で光の刃を見ていても武器としての威圧感は在れど、光や聖なるモノに対する圧力などは感じられなかった。

 

「多分だけど、これで斬られても悪魔祓いの光剣で斬られる様なダメージは受けないんじゃないかな」

 

 勿論、これで斬られたらそれだけのダメージ自体は負うのだろうが……

 

「祐斗、それは神器(セイクリッド・ギア)という訳ではないのよね?」

 

「違うでしょうね」

 

 気配から神器(セイクリッド・ギア)とは異なる。

 

 木場の持つ神器(セイクリッド・ギア)は、武器を造り出せるモノだがこれは別物だと思った。

 

 神器(セイクリッド・ギア)は神器(セイクリッド・ギア)特有の気配があり、それをこの武器からは感じられないのだ。

 

「彼には色々と秘密があるみたいだね」

 

 聞き出せるとも思えない木場達だが、その秘密というのが自分達を害するものではない事を切に祈るばかりだった。

 

「まあ、今日の事については明日にでもまた聞きましょう。本人も後で話すと言っていたしね」

 

 一誠の手当てをし、今夜は解散する事となる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 スタッ。

 

 未だにアーシアを小脇に抱えた侭、ユートは地面へと降り立った。

 

「あ、あの……」

 

 恥ずかしいのだろうか、顔が真っ赤である。

 

「立てるかな?」

 

「は、はい」

 

 地面に降ろされアーシアは自分の足で立つ。

 

「悪かったね。拐かす様な事をしちゃって」

 

「いえ、それは……」

 

 〝様な〟というよりも、これは完全な誘拐だが……

 

 アーシアは何を話して良いのか判らず、受動的に受け答えるしかない。

 

 それでも決心をして自分から話し掛けてみた。

 

「あの、此処は?」

 

「僕の家だよ」

 

「……そうですか」

 

 あっという間にで会話が終わり、とっても気まずい空気が流れる。

 

 どうして悪魔と一緒に居たのか……とか、訊きたい事は山程あるのに、会話が続いてくれない。

 

 クーッ……

 

 そんな時アーシアのお腹から可愛らしい音が鳴る。

 

「お腹、空いてる?」

 

「はわわ、違うんです! これはその……」

 

 羞恥に顔を紅く染めて、腕をバタバタ振った。

 

 クーッ……

 

 再び鳴るお腹。

 

 目を点にしたアーシア、もう誤魔化せないと悟ったのか恥ずかしそうに頷く。

 

「は、はい……」

 

「家に入ってご飯にしようか?」

 

 くつくつと笑いながら、アーシアを自宅に招いた。

 

 自宅内は普通の一軒家らしい内装ではあるが、実の処は秘密基地と言われても納得が出来てしまうもの。

 

 目に付く様な場所は兎も角として、見えない部分には不可思議な機械類が有ったりする。

 

 普通の一軒家とは世を忍ぶ仮の姿、その実態は旧き世に異星にて造られた船。

 

 これは、その技術を継承して建造された現代の遺失宇宙船(ロスト・シップ)。

 

 三五〇m級・機動砲撃戦闘母艦シャブラ・ニグドゥと云って、先史文明時代に建造された生体殲滅艦デュグラ・ディグドゥに因み、スレイヤーズ世界の魔王・赤眼の魔王シャブラ・ニグドゥの名を与えられた。

 

 魔王の名前はデュグラ・ディグドゥの例を見れば験が悪いのだが、ユート自身は闇属性だという事もあったし訳だし、スレイヤーズの最後の敵だったルーク=シャブラ・ニグドゥの事を思うと、何だか無碍にする気にはなれなかった。

 

 生体殲滅艦デュグラ・ディグドゥと違い、機動砲撃戦母闘艦故に直接戦闘能力も高いが、実はその真価は別の所にある。

 

 別名──【神魔因子保有艦】であり、スレイヤーズの世界に纏わる神様と魔王の因子である力の結晶を、中枢部に保有していた。

 

 それの意味する処は剰りに大きい。

 

 何故なら、この力の因子を媒介とする事によって、あの世界の神聖魔法と黒魔術を遺失魔法(ロスト・マジック)を含めて、仕様をする事が可能となっているからだ。

 

 遺失魔法(ロスト・マジック)……

 

 既に滅びている神族や、魔族の力を借りた魔法。

 

 赤の竜神(フレア・ドラゴン)スィーフィード

 

 水竜王(アクア・ロード)ラグラディア

 

 魔竜王(カオス・ドラゴン)ガーヴ

 

 冥王(ヘルマスター)フィブリゾ

 

 スレイヤーズでは喪われた筈のこれらの力も借り、魔法を発動出来るのだ。

 

 またこの艦の管制人格にはユートの使い魔にして、那古人の先輩であり姉たるモノが憑いており、安全性は確保されていた。

 

 〝マーズプロジェクト〟最初期を支える足として、ユートがユーキの力を借りて建造された艦だ。

 

 あのユーキが関わっていながら、ユートの足を引っ張る筈がない。

 

 まあ、今は家として活用されている辺り彼女は号泣しそうではあるが……

 

 家に入ると那古人が出迎えてくれた。

 

「お帰りなさいませ、マイマスター」

 

「ただいま」

 

「あ、あの……お邪魔します……」

 

 那古人はアーシアを一瞥すると、フッと冷たい視線で言い放つ。

 

「邪魔をするなら帰って下さい」

 

「はう!?」

 

 余りにも痛烈な一言に、アーシアは思わず目尻に涙を浮かべてしまう。

 

「ああ、冗談だから。一応は歓迎してるんだよ」

 

「そ、そ、そうなんでしょうかぁぁぁ?」

 

 何か気まずい空気の侭、夕飯を摂る事になった。

 

「あ、あの……美味しいですね? お料理が得意なんですか?」

 

「当然ですね。お兄様に対して不味い料理を出すなど万死に値します。そんな女が居たら八つ裂きにしたいですね!」

 

「(うう……怖いです)」

 

「いや、本当に殺ったりはしない……と良いな」

 

 希望的観測だった。

 

 お風呂場……それは少女が入るだけで正しく現代の理想郷(アルカディア)。

 

 或いは桃源郷である。

 

 那古人とアーシアは連れ立って入浴していた。

 

「あの、那古人さんの肌は白くて綺麗ですね?」

 

「それは、褐色や黄色の肌は汚いという事ですか?」

 

「え? えーっ! ち、違います……別にそういう意味ではないです!」

 

「冗談ですよ。それにしても……成程、アーシア・アルジェント……貴女はそのろりふぇいすと、未成熟なぼでぃで、私のお兄様を誑かしたのですね?」

 

「た、誑か……てっ、えーーっ!?」

 

 アーシアは那古人の言葉に真っ赤になって叫んだ。

 

「クスクス、金糸の様な髪の毛にスベスベな白い肌。膨らみ切らない小振りな胸……良いですね」

 

「は、はわ……あっ、ん! な、那古人……さん……やめ……っっ!」

 

 後ろから抱き付きつつ、耳朶を甘噛みしながら手を指を、アーシアの未成熟な肢体の肌に這わせる。

 

 アーシアは吐息を洩らしながら、抗う事も出来ずに為すが侭になっていた。

 

 入浴から約二〇分……

 

 グッタリとしたアーシアに予備のパジャマを着せ、軽々と抱き抱えるとリビングまで連れて来る。

 ユートは自室に戻ったか今は居ない。

 

 気絶するかの如くソファーに横たえられたアーシアを見つめ、那古人は口角を吊り上げながら呟く。

 

「クス、歓迎しますよ……アーシア・アルジェント。お兄様の……いえ、マスターの新しい眷族候補さん」

 

 これが後の世で、【星銀の乙女】と名高いアーシア・アルジェントの第一歩となるのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ふみゅ?」

 

 思わず萌えてしまいそうな声を上げ、男なら凝視したくなる仕種で少女が目を開けた。

 

 ソファーの上で眠っていたアーシアだったが、唐突に目が覚めてしまい暗い部屋で寝ぼけ眼を擦りつつ、キョロキョロと見回す。

 

「は……れぇ? 此処あ、ろこれすかぁ……?」

 

 まるで酔っ払ったみたく呂律も回っていない。

 

 ドスン!

 

「はみゅ!?」

 

 狭いソファーで不用意に動いた所為で、落ちてしまい床に顔をぶつけた。

 

「い、いらいれふー」

 

 滂沱の如く涙を流して、顔を押さえると翠の輝きを手から灯す。

 

 輝きを受け、顔の痛みがスーッと引いていった。

 

 アーシア・アルジェントの有する神器(セイクリッド・ギア)、【聖母(トワイライト・ヒーリング)の微笑】である。

 

 然し正に災い転じて福と成すという処か、己が置かれている状況を思い出す事が出来た。

 

「そ、そうでした。私は、フリード神父様が悪魔崇拝者(サタニスト)の方を殺害された場所で、ユートさんと再会して……さ、拐われて来たんでした!」

 

 本来、誘拐されたなら身の危険こそ心配するべきではあるのだが、アーシアはずれた思考に嵌まったらしくイヤンイヤンと、頬を赤く染めて頭を振る。

 

「嗚呼、私は主にお仕えする身なのに……」

 

 其処ではたと気付く。

 

「そう言えば、ユートさんはどちらに?」

 

 よく周りを見れば、夕飯を摂ったリビングであると判った。

 

「ユートさんは寝室でしょうか?」

 

 時間が時間だし、寝室の方で寝ているのだろうと当たりを付け、ユートの寝室を捜すべく歩き出す。

 

 事情を知らないアーシアにとって見れば見る程に、不思議な造りの家だった。

 

 外観に比べると明らかに広過ぎる。

 

 アーシアは知らないが、この家は遺失宇宙船(ロスト・シップ)アウローラの生活空間を利用し、住まいとしていた。

 

 【アウローラ】とは──この艦の本来の姿をカモフラージュした時の名称で、赫い本体とは違って銀色に輝いている。

 

 彼の一九五m級・戦闘封印艦ヴォルフィードに外装を加え、ソードブレイカーとしていた原作と同じ措置を採っているのだ。

 

 この艦、生活空間がべらぼうに広く取られている。

 

 実際の大きさは三五〇m級だけど、内部は空間湾曲技術を用いる事によって、生活空間だけで十倍もの空き空間を確保していた。

 

 充分な広さのプラントも在って、宇宙船というよりは地球と同規模のコロニーと言った方が正しい。

 

 生活の空間が三五〇〇m程度なのは、単純に現在は必要が無いからに過ぎなかったりする。

 

 家として機能させている訳だから、もう豪邸といっても過言ではあるまい。

 

「ふぇーん、広くて何処にユートさんが居るのかさっぱりですぅ」

 

 涙目になりながら一軒家に見えたのに理不尽なまでに広い家を、アーシアは歩き回る。

 

「え?」

 

 ふと気が付くと光る矢印が足下に……

 

「も、若しかしてこの矢印の先にユートさんが居るのでしょうか?」

 

 アーシアは疑問に思えよと突っ込みを入れたくなる程に、素直過ぎる娘さんであった。

 

 矢印に従ってアーシアがテクテクと歩いて行って、その後ろで黒のゴスロリに身を包んだ那古人が『やれやれ』と嘆息している。

 

「まったく、手間を掛けさせないで欲しいですね」

 

 放っておくと迷子になりかねないと思って、ユートの寝室まで矢印で誘導してやったのだ。

 

「ふあ〜あ!」

 

 アーシアがユートの部屋に入ったのを確認した後、欠伸を噛み殺すと自分に与えられた寝室に戻る。

 

 一方のアーシアは求めていたユートを見付けられ、御満悦であったという。

 

「漸く見付けました!」

 

 とはいえ、ユートは寝ているから何も言わない。

 

 疲れている所為もあり、敵性の気配以外には気付かない状態の為、アーシアの侵入をアッサリと赦してしまった。

 

「うー、眠いです」

 

 歩き回ったからか疲れたアーシアは眠たくなって、ユートのベッドに潜り込んでしまう。

 

「寝てるし、大丈夫……ですよね?」

 

 ユートに心を許しているからか、アーシアの大胆不敵な行動はユートの予想を斜め上で越えている。

 

「あれ?」

 

 違和感を感じてユートの躰をペタペタと触ったら、どう考えても服を着ている様には思えなかった。

 

「ユートさん、寝る時は裸派ですか?」

 

 ユートは寝る時パジャマなどを着る事は無い……訳でもないが、昔は兎も角、全ての戦いが終わったハルケギニアで、恋人達と寝るユートは寝る前に何戦かヤる為、寝間着だのパジャマだの着るのが面倒になり、着ない事も多い。

 

 今日は疲れたから面倒になり、服を脱ぎ捨て素っ裸で寝たと云う訳だ。

 

「うーん……まあ良いか。お休みなさ〜い」

 

 元々、寝起きな上に深夜という事もあり、思考能力が最低にまで落ちている事も手伝って考えるのを放棄すると眠ってしまう。

 

 それで良いのかシスターと突っ込む人間が、生憎と此処には誰も居なかった。

 

 朝、起きたら大騒ぎになってしまった訳だが、それは些細で余りにもどうでも良い話である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 アーシアを家に残して、学園に来たユートは普通に授業を受けていた。

 

 退屈な事この上ない。

 

 識らない知識は貪る様に求めるユートだが、識っている事を何度も繰り返すのは苦痛でしかなった。

 

 放課後、ユートはいつも通りに部室へと向かう。

 

 因みに一誠は原作では休んでいたが、ユートのお陰でダメージが小さかった事もあって、何事もなく登校して授業を受けた。

 

「来たわね、ユウ。昨日の話をしましょうか」

 

 リアスが腕組みして待ち構えていたのは驚きだ。

 

「うふふ、部長ったら今か今かと放課後になるのを待っていたんですのよ?」

 

「朱乃! 余計な事を言わないで頂戴!」

 

 普段の優雅さをかなぐり捨てて、真っ赤になり朱乃を叱責する。

 

 ユートは訊かれるが侭、昨夜の話をした。

 

 とはいえど、基本的には一誠の説明に多少の補足が入った程度。

 

 【はぐれ悪魔祓い】である神父が依頼人を殺害し、そんな現場に居合わせたのがユートと一誠。

 

 一誠を後ろで待機させてユートが神父と戦闘。

 

 途中、アーシア・アルジェントという名のシスターが乱入して、会話の最中にキレた神父がアーシアに対して暴行を加え始める。

 

 そんな神父に拳銃で両の手脚と、背中と○玉をぶち抜いた直後に、リアス達が魔方陣で顕れたのだ。

 

 リアス達が一誠を連れて撤退した後は依頼人の家を焼き尽くし、アーシアを連れて帰宅をしている。

 

「……とまあ、こんな感じかな」

 

「あらあら、まあ……」

 

 朱乃が何故か引き攣った様な笑みを浮かべていた。

 

「……ユウ先輩……誘拐は犯罪です」

 

 無表情に言い放ち、小猫がカプリと手に齧り付く。

 

 少し痛い。

 

「それじゃあ、その連れ帰ったシスターはユウの家に居るのね?」

 

「まあね。放ったらかしにする訳にもいかないし」

 

「くうう……美少女シスターと一つ屋根の下だと? 羨まし過ぎるぜ優斗!」

 

 ナニを想像したのか? 一誠は悔しそうに魂の咆哮を上げていた。

 

「妹(シスター)と一つ屋根の下なのは、いつもの事だけど?」

 

「そっちじゃねぇ! って言ってもも、それも羨ましいに違いはないけどな!」

 

「次に、これだけど」

 

 リアスが手にしているのは昨夜、一誠に貸してあった偽・瞬撃槍(ラグド・メゼギス・レプリカ)。

 

「これは貴方の物よね?」

 

「……そうだけど」

 

「悪魔祓いが使う光剣みたいな武器よね?」

 

「刃を出したなら判る筈。それから出る刃は光の刃に見えて、実際には光そのものじゃない」

 

「ええ、祐斗もそう言っていたわ」

 

 リアスが念を籠め叫ぶ。

 

「光よっ!」

 

 ブーンッ!

 

 空気を振動させ、紅色の刃が顕現した。

 

「へえー? リアス部長の魔力だからかな、刃の色が独特のモノだね。因みに、僕の場合は漆黒だけど」

 

 普通の人間や神族、魔族が使った場合は共通の色にしかならない。

 

 だが特殊な波動の持ち主だと、それが刃の色となって顕れる様で、製作者たるユートも予想だにしていない機能。

 

 ユートは深き闇の色。

 

 リアスは紅色。

 

 「その武器は異界の魔王【闇を撒くもの】の生み出した五つの武器を模して、造り上げたモノだよ」

 

「っ!?」

 

 ユートの言葉に、全員が驚愕を露わにした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 先史文明時代よりも更に刻を遡り、旧き神話の時代のとある世界。

 

 赤の竜神スィーフィードの世界に於て、水竜王ラグラディアの記憶にして異界の記憶の奔流【異界黙示録(クレア・バイブル)】により伝えられた超神話。

 

 それを読み解いた者は解き間違え、それが世に流布されてしまった。

 

 世界とは、混沌の海に突き立てられた杖の上に広がる平面大地である……と。

 

 そして魔王の中の魔王──金色の魔王たる存在は、嘗て天空より混沌の海に堕とされた存在であり、全ての魔王を統べる者。

 

 無論、宇宙(そら)すら往く現代人からすれば、それはナンセンスな説だ。

 

 世界とは球状で、宇宙と呼ばれる虚空に浮かぶ宝玉にも等しい奇跡である。

 

 然しその奇跡すら多岐に亘って存在していた。

 

 虚空の宇宙を混沌の海。

 

 其処に浮かぶ惑星を杖の上に広がる大地。

 

 世界は次元の海を隔てて幾つも存在している。

 

 並行して在る世界。

 

 そんな世界で、創造主たる総ての混沌を生みだせし存在は、光と闇を分けた。

 

 光の側を神と呼ぶ。

 

 闇の側を魔と呼ぶ。

 

 其れを統べる者を王と呼んでいた。

 

 力の象徴たる竜の姿をした神は、魔王とその腹心達を相手に戦い続ける。

 

 赤の竜神スィーフィードに対するのは、赤眼の魔王シャブラ・ニグドゥ。

 

 【スレイヤーズ】の物語に於ける【神魔戦争】で、ぶつかり合い赤の竜神は滅ぼされ、赤眼の魔王は七つに分断されて人間の魂に封じ込められてしまった。

 

 赤の竜神は滅びの際に、自らの分身を五つ遺す。

 

 水竜王(アクア・ロード)ラグラディア。

 

 空竜王(エア・ロード)バールウィン。

 

 地竜王(アース・ロード)ランゴート。

 

 火竜王(フレア・ロード)ヴラバザード。

 

 直接、世界の光の側の後継として君臨する竜王達。

 

 そして、赤の竜神の記憶と力のみを人間の内に転生させた存在、【赤の竜神の騎士(スィーフィード・ナイト)】である。

 

 【スレイヤーズ】の原作の時代に赤の竜神の騎士を継いだのは、主人公リナ・インバースの姉のルナ・インバースだった。

 

 原作の時代から千年前、復活したシャブラ・ニグドゥの一欠片と水竜王との戦い──【降魔戦争】で滅ぼされた水竜王の知識こそ、【異界黙示録】である。

 

 世界は一つに非ず。

 

 異なる世界では、異なる神と魔の戦いがあった。

 

 漆黒の竜神ヴォルフィードと、闇を撒くものデュグラ・ディグドゥの戦いだ。

 

 その戦いの最中、【闇を撒くもの】はその本質として闇を世界中に撒いた。

 

 即ち……自らが生み出した五つの武器をバラ撒いたのである。

 

 デュグラ・ディグドゥの揮った武器であり、魔王の一部としてそれ自体が高位の魔族にも等しいそれは、各世界に撒き散らされた。

 

 烈光剣(ゴルン・ノヴァ)

 

 瞬撃槍(ラグド・メゼギス)

 

 毒牙爪(ネザード)

 

 破神槌(ボーディガー)

 

 颶風弓(ガルヴェイラ)

 

 烈光剣(ゴルン・ノヴァ)は赤の竜神の世界に渡り、【光の剣】と呼ばれる武器として伝わっている。

 

 先史文明時代の神話で、【闇を撒くもの】デュグラ・ディグドゥは自身の武器たる烈光剣(ゴルン・ノヴァ)により、天使キャナルに討たれたと云う。

 

 赤の竜神の世界に在った筈の武器だが、リナ・インバースと冥王フィブリゾの戦いの最中で、フィブリゾが漆黒の竜神の世界に還してしまった。

 

 ある意味、同じ魔族に足を引っ張られた形である。

 

 ユートは原作だの物語だのを抜き、この神話を説明した。

 

 ユートはその神話に語られる伝説の武器を、人工的に造り上げたという事。

 

 説明としてはそれで充分であるが故に、瞬撃槍(ラグド・メゼギス)の偽物として、偽・瞬撃槍(ラグド・メゼギス・レプリカ)と呼ぶのである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「とまあ、神話に準えて造ったのがこの精神力を刃に転換して、魔力の増幅器としても作用する武器って訳なんだよ」

 

「へえ? そんな神話なんて何処で知ったのかしら」

 

「企業秘密だよ。だけど、さっきも言った様に、世界は一つじゃない。異世界には異世界で伝説や伝承の類いも在るって事だね」

 

 木場がふと気付く。

 

「【闇を撒くもの】が生み出したのは五つの武器……という事は、緒方君が神話に準えて造ったなら他にも四つ有るのかな?」

 

「有るよ。偽・烈光剣(ゴルン・ノヴァ・レプリカ)だろう、偽・颶風弓(ガルヴェイラ・レプリカ)に、偽・毒牙爪(ネザード・レプリカ)、偽・破神槌(ボーディガー・レプリカ)が」

 

「そんなに……?」

 

 因みに偽・瞬撃槍(ラグド・メゼギス・レプリカ)はタバサ、偽・毒牙爪(ネザード・レプリカ)はイザベラ、偽・颶風弓(ガルヴェイラ・レプリカ)の方はシーナ、偽・烈光剣(ゴルン・ノヴァ・レプリカ)は才人、偽・破神槌(ボーディガー・レプリカ)はユエが使っていた。

 

「僕は模倣が得意だから、それを活かして様々なモノを造ってきたんだよ」

 

 ユートが現在、持っているモノは殆んどがハルケギニアで造ったマジックアイテムだが、中には現代で造ったモノも多々在る。

 

 それらも、大概が趣味と実益を兼ねた〝ネタ道具〟な訳だが……

 

 アニメや漫画やラノベなどに登場する、ネタであると同時に実用が出来る模倣品だった。

 

「兎に角、これは返して貰うから」

 

「あ……」

 

 リアスは名残惜しそうに手放す。

 

「そういえば、【はぐれ悪魔祓い】の神父はどうなったのかしら?」

 

「神父の方は知らないよ。興味も無いし、火に巻かれなかったなら生きてるんじゃないかな?」

 

「そ、そう……」

 

「あんな変態神父がどうなろうと、知った事でもなかったし……」

 

「……イッセー先輩とどっちが変態ですか?」

 

「ちょっ、小猫ちゃん?」

 

 小猫の抉り込むが如く、痛烈な言葉に慌てる一誠。

 

「実害が無い分、一誠の方がマシ……かな?」

 

「ゆぅぅぅとぉぉっ!?」

 

「つまり、ヘタレ先輩」

 

「小猫ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!?」

 

 ユートと小猫が代わる代わる言葉のナイフで刺す。

 

「もうやめて上げなよ……兵藤君のライフはもう0だと思うよ」

 

 木場が苦笑いで言う。

 

「それじゃあ、僕はそろそろ帰るよ。アーシアに身の振り方を訊かなきゃいけないしね」

 

 教会に帰るのか、それとも離れるのか。

 

 この二択だけでも早々に決めてしまわねば。

 

 この侭、なあなあで済みはしないだろうし、済ませようとも考えていない筈。

 

 向こうが行動に出る前に此方が動かねば、後手に回ってしまうのだから。

 

「(そういや、今回は出て来なかったな。あの子)」

 

 そう思ってた矢先の事、先に戻っていた那古人から念話が入った。

 

〔マスター、アーシア・アルジェントが居ません〕

 

〔居ない? 真逆!〕

 

〔置き手紙がありました。『Sopra questo, il disturbo non e applicato.Rinvio alla chiesa.』……と書かれています〕

 

「チッ、あのおバカ」

 

「どうしたの?」

 

「どうやら匿っていた子が置き手紙を残して、出て行ったらしい。捜してくる」

 

 言うが早いか、ユートはあっという間に部室を出てしまい、部屋に残された面々はどうしたら良いのかが判らない。

 

 捜すと云うか、アーシアの居所は〝家〟に生命波動を登録してある為、比較的簡単に見付けられた。

 

 アーシアが公園で転んで怪我をした子供を、暖かな翠色の光を放ち治療している場面に出会す。

 

 翠の光が煌めき傷が塞がっていく。

 

「あれは神器(セイクリッド・ギア)か?」

 

 この世界では超常の力を人間が使うには、神器(セイクリッド・ギア)というのは格好の物であろう。

 

「アーシア!」

 

 ビクッ!

 

 アーシアの肩が跳ねて、ソッと声のした方を見る。

 

「ユ、ユートさん……」

 

「大人しく待ってろって、僕は言ったよね?」

 

「あの、その……」

 

 しどろもどろになって、上手い事言い訳が出来ないアーシアを見て嘆息する。

 

「さっきのは、アーシアの神器(セイクリッド・ギア)なのかな?」

 

「え? は、はい。神様から戴いた素敵な力です」

 

 笑顔を浮かべているが、淋しさの入り交じる無理な貼り付けられた笑顔。

 

 ユートは詳しく話を聴いて憤慨する。

 

 幼い頃、怪我をしていた犬を救いたいとアーシアが願ったら発現した神器(セイクリッド・ギア)。

 

 それを見てたカトリック教会の関係者はアーシアを本部に連れ帰り、治癒の力を宿した【聖女】として担ぎ祭り上げた。

 

 訪れる信者に加護と称し身体を治療し続ける。

 

 彼女の分け隔て無い優しさも相俟って、アーシアは周りからも【聖女】として崇められる様になった。

 

 そこにアーシアの意思など無かったが、力を使って誰かを癒すのは嫌ではなかったし、何より誰もが優しくしてくれる。

 

 それだけで充分だった。

 

 仮令、彼らが裏で異質なナニかを視るような眼で自分を眺めて、まるで【人を治療出来る生物】として、人間ではないと思われようとも……だ。

 

 然し転落の時は無情にも訪れる。

 

 傷付き倒れた悪魔に治療を施した事により、彼女を【異端】として追放した。

 

 【悪魔をも癒す魔女】

 

 治療とは神の奇跡だ。

 

 故に神の愛を賜れぬ悪魔や堕天使に治療は効かぬ。

 

 それは前例のある事実。

 

 ユートもサーゼクスから神のシステムについて聴いている。

 

 だからこそ、悪魔を癒せる者を教会の傍には置けない事を理解出来た。

 

 システムに狂いが生じてしまえば、アーシアだけの話ではなくなってしまう。

 

 熾天使(セラフ)の最高位ミカエルとて、其処は苦渋の決断を要したであろう。

 

 問題なのは天界の天使ではなくこれまでアーシアを担ぎ上げていた教会連中、それに彼女の治療を受けてきた者達。

 

 散々、アーシアを利用しておいてこの仕打ちには、ユートも怒りを感じた。

 

「(神は死んだ……か)」

 

 ネタではなく、この世界の事実として。

 

「きっと、私の祈りが足りなかったんです。これも主の試練なんです。お友達もいつか沢山出来ると思ってますよ。夢があるんです、お友達と一緒にお花を買ったり、本を買ったりして……お喋りして……」

 

 徐々に声は窄み、涙が滲み始める。

 

「アーシア……」

 

「え?」

 

 手を差し伸べるユート。

 

「あ、あの……?」

 

「まあ、信仰やら何やらは判らないけど、君が欲している友達くらいにはなれると思うからさ」

 

 アーシアは手を取る。

 

「良いんですか? 私……世間知らずですし、日本語だって喋れません。文化も判りませんよ?」

 

「某・紅い部長は言っていたよ。初めは誰でも素人だそうな」

 

「私、友達と何を喋って良いかも判りません」

 

「慣れていきゃいいさ」

 

「……私と友達になってくれますか?」

 

「勿論だよ」

 

 ユートは知っている。

 

 異端な存在であると知られた時に、自らが背を向けた人達から手を差し伸べられた際の悦びを。

 

 ユートは人間でありながらも、○○○○○○○○○○なのだから。

 

「無理よ」

 

 突然の声に振り向けば、其処には長い黒髪の少女が立っている。

 

「レイナーレ様!」

 

 レイナーレ、それは一誠を殺した堕天使であった。

 

 

.

 

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