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数人の見張りを残して、上に行ったレイナーレ達はユートと闘っていた。
それと時を同じくして、地下聖堂にも……
「がっ!」
「ぐふっ?」
「ごあっ!」
襲撃が仕掛けられる。
このユートはハルケギニアの風系統魔法で、遍在(ユビキタス)と呼ばれている風で編んだ分身。
周囲の大気を歪めて光の反射率を変えた光学迷彩、それで遍在ユートは姿を消した状態で神父に近付き、当て身を喰らわせてやる。
全くの無抵抗にやられ、神父達は気絶した。
「他愛ないな」
ユートは自身を陽動に、別動隊として分身を作り出しアーシアの救出に向かわせたのだ。
「アーシア!」
「え? ユートさん……」
アーシアは驚愕して思わず目を見開く。
「約束通り助けに来たよ」
「はい!」
涙を浮かべ、潤む翠の瞳は不謹慎だがとても美しく見えた。
遍在ユートは風の刃で脆い部分を斬ると、バランスを失って倒れるアーシアを抱き留めてやる。
「アーシア、これを羽織ると良いよ」
「マント……ですか?」
「色々と見えてるからさ」
「はい?」
よく見てみたら、ユートが微妙にアーシアから目を逸らしていた。
小首を傾げながら、視線を下に移動させると左胸部分が破れ、小振りだが確かな膨らみを持った白いおっぱいが露わになっている。
「キャアッ!?」
羞恥に頬を朱に染めて、思わずユートが持つマントを引ったくり肢体を隠す。
「はう〜、もっと早く言って下さいよー」
余りにも恥ずかしかったのか、アーシアはへちゃ顔で抗議してきた。
「ごめん、ごめん。さて、さっさと此処を脱け出そうかな?」
「あ、はい!」
言うが早いか、アーシアを抱えるユート。
「ふえ? ユ、ユートさん……これはちょっと」
「御約束だろ?」
お姫様抱っこをしてやりウィンクを飛ばす。
本物のユートが戦っている場所とは反対方向に向かうと、戦闘が終了するまでの間は身を隠す事になる。
「さあ、後は僕自身の頑張り次第だよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「先ずはその動きを封じてやろう! 大氷結輪(グランカリツォー)ッ!」
ただ静かに相手を拘束するだけの氷結輪(カリツォー)とは違って、氷の輪がレイナーレを強烈に縛り付けると動きを封じる。
「がっ、はっ!」
ギリギリと縛られて酸素を吐き出してしまい、苦しそうに喘ぐレイナーレに、更なる攻撃を揮う。
「キグナス氷河の最大の拳を喰らえ、極冷竜巻(ホーロドニースメルチ)ッ!」
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァアアッ!」
コークスクリューアッパーと共に叩き込まれる凍気により、レイナーレの躰が巻き上げられつつ凍結し、自由には動かせない身体と鴉の如く翼、それ故にただ頭から落下した。
「ぐふっ!」
地面に叩き付けられるが生きており、手加減しているとはいえ流石は人外だけあって丈夫である。
「さあ、もっとだ。もっと吐き出せ……そう、もっと負の感情をっっ! 恐怖と絶望を!」
アザゼルの下した決定を伝えて、最初にレイナーレを絶望させておき、仲間を斃す事で恐怖を与えた。
レイナーレが恐怖と絶望に嘆き、苦しむ度にユートは悦びに打ち震える。
別に姫島朱乃の様なS的な気質は持ち合わせていないのだが、レイナーレ達の負の感情を回収する為に、敢えてこうしているのだ。
ユートの艦の管制人格で今は眠り続けている存在、彼女を起こす為に負の感情を集める必要があるから。
「う……く……」
何とか身体を起こそうとするレイナーレに、ユートは追撃を仕掛けてやる。
「そら、鳳凰の羽ばたきを受けろ……鳳翼天翔!」
「いやぁぁぁぁぁぁっ!」
炎に焼かれ、風に嬲られ吹き飛ばされたレイナーレは壁にぶつかった。
「お次は降伏か死かを選べる自称、慈悲深い技だ……真紅光針(スカーレットニードル)!」
ユートが指先に収束させた小宇宙が、真紅の爪……蠍の針となりレイナーレの胸元を穿つ。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァアアッ!」
傷痕は小さく、針の穴程でしかない。
然れどダメージその物は相手の中枢神経を刺激し、猛烈な痛みを与える。
レイナーレは痛みに耐えかね堪らず叫んだ。
先程の極冷竜巻(ホーロドニースメルチ)だけで死にかねないと判断し、一撃で死なない様な技に切り替えたユート。
だが、降伏はさせない。
更に真紅光針(スカーレットニードル)を放つ。
腹に、腰に、脚にと……順次撃ち込まれていった。
「嗚呼っ!」
八発目で白眼を剥いて、遂には気絶してしまう。
「イル・ウォータル」
ルーンを唱えると、水塊が顕れた。
ハルケギニアの水系統魔法の【凝縮】である。
攻撃性の無い魔法ではあったが、水が欲しい時には便利に使っていた。
ユートは水塊をレイナーレの顔に投げ付ける。
バシャーン!
破裂する様な音と共に濡れ鼠となったレイナーレ、口から気管に入った水の所為で咳き込みながら目を醒ましてしまった。
「ゲホッ! ゴホッ!」
「簡単におねんね出来ると思わない事だね」
「ヒッ、ヒィッ! もう、もう許してぇ……!」
どうしてこんな事に?
仲間だったドーナシークとカラワーナはアッサリと死んで、連れていた神父達も目の前で虐殺された。
ミッテルトもこの侭ならトドメを刺される。
自分はただ、誰かに愛されたかっただけなのに。
それが自分達、堕天使を纏めるアザゼルやシェムハザならば言う事はない。
もう誰も自分を莫迦になど出来ないし、同時に愛して貰える。
遥か古の事、未だレイナーレの翼が白かった頃……神を愛する事にこそ、至上の歓びを見出だしていた。
だがいつの頃からだろうか……神を愛し、神の為に働く事に虚しさを覚える。
幾ら自分が最大限の愛情を神に捧げても、何も返ってくるものが無い。
当然だ、天使の神への愛とは無償の愛。
神は愛して当たり前で、見返りを求めるものなどではないのだから。
神への愛にレイナーレが疑問を持ったその時には、それは決まっていたのかも知れない。
レイナーレは堕ちた。
思えば酷いシステムだ、天使が僅かにでも欲望を抱いたなら、簡単に白の翼は黒へと反転する。
アザゼル達もそうだった、本来なら神にのみ捧げねばならない愛を、人間の女に少しでも向けたというだけで堕ちたのだ。
朦朧とした意識は、水を掛けられて覚醒し目の前には人間の癖に悪魔の如く、同胞やカラワーナを殺した男が居た。
恥も外聞もなく許しを請うたが、男は冷たく言い放ったものだ。
「力を持たない下等生物を相手に情けない。アーシアを連れ去った時の無駄に高いプライドは何処に行ったんだ? なぁ、レイナーレさ・ま?」
「う、あ……」
レイナーレの顔に最早、今までの人間を蔑んだ眼など無く、得体の知れぬ化物を恐れる眼である。
若し助かるなら、靴を舐めろと言われたら舐めた、ペットになれと言われたらなっだろう、処女を求められたなら悦んで散らされたと思う。
だけどこの人間の男には助けようという意思など、全く有りはしなかった。
「下級だの下等だのお前らは言うが、そもそも超常の存在を駆逐するは、いつも人間なんだ。そしてそんな力を持つ者を化物(えいゆう)と呼ぶんだよ」
脆弱なのが人間であると同時に強壮なのも人間。
予め与えられているのは伸び代を持つ才くらい。
異形の血を引いていればまだその力を持てもしようが、そうでもなければ確かに初期値は低いのだ。
それでも、その気にさえなったら幾らでも伸ばせる事こそが強味。
超常の存在は力を予め持っているが故に伸ばす努力を怠り、力を獲た人間によって滅んでいった。
今回の件もそうだ。
レイナーレは同じ堕天使から莫迦にされ、アーシアの持つ力を奪おうとした。
鍛える事を怠り、横着をしようとした結果がこれなのだから笑えてしまう。
「次はこんなのはどうだ? 海賊虎爪(ヴァイキング・タイガー・クロー)!」
数千、数万……否、もう亜光速に届くであろう凍気を孕む拳が、レイナーレの肉体を少しずつ、少しずつ削っていく。
「アガァァァァアアッ!」
神闘士(ゴッドウォリアー)が一人、ゼータ星ミザールのシドが使う技だ。
黒きサーベルタイガーを象る神闘衣(ゴッドローブ)を纏うシドは、その両拳を鋭い牙に見立てて敵を切り裂くのである。
ユートは竪琴を取り出し爪弾き始めた。
ポローン、ポローン♪
美しくたおやかな調べが辺りに響き渡るが、竪琴の弦が伸び始めてレイナーレの身体に絡み付く。
「ヒッ! な、何?」
ギチィッッ!
「が、あ……っっっ!?」
竪琴の弦で拘束されて、しかもギリギリッと一誠を魅了した肢体に食い込み、締め付けてきた。
首にまで掛かる弦。
「あ、あ……嗚呼……」
「弦葬送曲(ストリンガー・レクイエム)」
エータ星ベネトナーシュのミーメの必殺技。
ユートは楽器をそれ程には得意としておらず、少なくともバイオリンやギターなどはやった事が無い。
そんな中、ハルケギニア時代から使っていた楽器は割と得意としていた。
それこそ竪琴(ハープ)、オカリナ、横笛の三種。
精霊に聴かせるべく練習をして、何とか聴かせられるレベルになった楽器で、これら以外だと現在の処はやれない。
ハルケギニアにあったのがこの三種だという事も、それに拍車を掛けていた。
横笛が出来るから当然、海闘士(マリーナ)七将軍の一人、セイレーンのソレントの技も使えるだろう。
「嗚呼ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」
「お前は薄汚い心根だし、この美しい調べと共に逝くかね? ポトリ……と」
首がポトリと逝くだけでは済まず、この侭だったらバラバラ死体が出来る。
ドシャッ!
弦葬送曲(ストリンガー・レクイエム)から解放、レイナーレは地面に叩き付けられる様に転んだ。
顔を足で無理矢理に上げさせると、レイナーレの顔にはハッキリとした恐怖と絶望が浮かんでいる。
肉体の痛みだけに非ず、ユートが恐怖や絶望を煽る為にわざと死なない程度に加減して、しかも其処には愉悦の笑みすら浮かばず、汚ならしい塵芥でも視るかの如く冷めた目だった。
アーシアを浚う時、自分が言った科白を思い出し、どれだけ心得違いをしていたのかを思い知る。
「やはりサーゼクスに比べるとまるで雑魚だな」
「サ、サーゼクス……魔王……?」
戦った事でもあるかの様な言葉、それは確かに魔王の中でも最強と謳われてあるサーゼクス・ルシファーと一介の下級堕天使では、どちらが強いかを論じる事さえ愚かしい。
「天舞宝輪……」
釈迦如来の院相の一つ、転法輪印を組んだユートが呟くと、辺りが不可思議な空間へと変じる。
それは胎蔵界曼荼羅や、金剛界曼荼羅などが張り巡らされた空間。
「黄金聖闘士・乙女座(バルゴ)のシャカが秘奥技。これは完璧に調和が成された戦陣、こうなってはもうお前は攻める事も退く事も叶わぬと知れ!」
「ゆ、許して……もう許してよぉぉぉおおっ!」
最早、完全に心が折れているレイナーレ、涙や鼻水に塗れながら許しを乞う。
そんな彼女を見据えて、右腕を天に掲げつつ差し指を立ててユートは言う。
「シャカは言っていた……『私は神に最も近い男だと言われるが、神に比べたらまるで持ち合わせていないものがある。それは弱者に対する慈悲の心だ』、と。ならば折角、彼の技を使うのだから弱者(レイナーレ)
に慈悲を与える必要もあるまい? 何より、お前なら助けてやるのか?」
「いや……」
長い髪の毛を振り回しながら、イヤイヤと頭を横に振って後退る。
だけど逃げられない。
「いや、イヤ、嫌……」
天舞宝輪の結界からは、出る事が出来ないからだ。
「第一感、剥奪!」
「キャァァアアッ!」
謎の黄金の煌めきが放たれたかと思うと、光力にて編み上げた服がビリビリに破れ、吹き飛ばされた。
まあ、破れたとはいっても全裸になった訳でなく、あちこちが裂けたといった感じだが……
「っ!? 動けない?」
「先ずは触覚を奪った……最早、お前は指先すら動かせまい?」
「そんな……」
唯でさえ何も出来ない、それなのに触覚を喪ってはどうにもならない。
「第二感、剥奪!」
「キャァァッ!」
「嗅覚を奪った。もう臭いを嗅ぐ事も出来ない」
「ヒュー、ヒュー」
嗅覚が奪われて出来なくなったのは臭いを嗅ぐ事だけではなく、鼻での呼吸が酷く困難となっていた。
「次は何処が良い?」
「や、やめて、やめてよ……ヒトの心があるのなら」
「少なくとも、お前に対しては無いなそんなモノは。今度はその弱者を蔑んで、強者に媚を売るその眼だ! 第三感、剥奪!」
「嗚呼っ!」
三度、黄金の煌めきが放たれてレイナーレを貫く。
眼は開けているのに視界が暗く、全く見えない闇の中に居るかの様だ。
「次は一誠やアーシアを騙したその口を閉じるか? まあ、そろそろ甚振るのも厭きたかな……」
その言葉を聴き、安堵の息を吐くレイナーレ。
「早々にトドメを刺してしまうとするか」
「っ!?」
ユートは天舞宝輪を解除して、小宇宙を激しく燃焼し右拳に力を収束する。
「さあ、祈るべき神を棄てた堕天使よ、金色の御許に還るが良い!」
腕を揮いバチバチと小気味良い音を響かせる拳を、レイナーレに放つ。
「雷光(ライトニング)」
「………………っっ!」
《Boost! Explosion!》
「電撃(ボルト)ッッ!」
ガギィィィィッ!
何処からか電子的な音声が鳴り響いて、赤い何かがユートの拳を止めた。
そのナニかへとユートが睨みつつ声を掛ける。
「何の心算だ? 一誠」
「ぐっ、うう……」
ビキリ……
一誠が寸前で飛び込み、左腕の赤い籠手でユートの拳を防いでいた。
籠手に亀裂が入る。
「まったく、途中で止めたから大事には至らなかったけど、止め損ねてたら死んでいたよ?」
見ればユートの拳は砕けており、ポタリポタリ……鮮血が地面に滴り落ちる。
光速拳を中途で止めてしまった為に、猛烈な反発力によって拳の骨や皮が傷付いてしまったのだ。
痛みを押して一誠は懇願をする。
「た、頼む……夕麻ちゃんを殺さないでくれ!」
「一誠、お前は莫迦か? その堕天使はお前を騙した挙げ句、殺害までしてくれた張本人だぞ?」
「判ってる」
「まんまと騙された一誠を嘲笑っていたんだ」
「それも解ってる」
「そんな奴が、一誠に庇われる資格も価値も無いだろうに。今でも後ろでほくそ笑んでるかもだぞ?」
「それでも! それでも、俺の初恋……だったんだ。今回だけで良い、だから……頼むよ!」
ユートは表情を歪めて、一誠とレイナーレを睨む。
一誠はユートの拳を受け止めた侭、涙ながらに訴えてきている。
レイナーレは信じられないのか、今や見えない目を大きく見開いて一誠の方を向いていた。
「未遂とはいえ、アーシアを殺そうとしたんだ」
「それは俺が代わりに幾らでも殴られてやる!」
「助けたからって、何も変わらないかも知れないぞ? 下手をすれば、何処かに逃げるだけだ!」
「構わない、見返りが欲しくて庇ったんじゃない」
ユートは拳を引きながらガリガリと頭を掻く。
「どっち道、その堕天使に帰る場所も行く場所も無いんだがなぁ?」
「どういう意味だよ?」
「堕天使の総督が、勝手な事をしたそいつらを魔王の前で殺すか、永久凍結刑に処するかどちらかになると言っていたし、逃げたとしても追っ手が掛かるな」
つまりは、此処でトドメを刺すのも刺さないのも、行く末は同じという事。
「そんな……何とかならないのかよ?」
「どうしてもというなら、何とかならない事もない」
「っ!? マジか?」
それが起死回生の一手となのるか、或いはトドメの一撃となるのかはレイナーレ次第である。
レイナーレが助かる方法とは即ち、ユートの怒りを鎮める事とアザゼルからの誅伐を躱す事、グレモリーから睨まれない事。
主にこの三つの死亡フラグを折らねばならない。
まあ、ユートに関しては一誠の懇願でやる気も削がれたから良しとして……
「先ず第一に、リアス部長の【悪魔の駒】を受けて、グレモリー眷族になって貰う事になる。リアス部長、一誠が居るならもう来てるんだよね?」
気配が駄々漏れでユートは既に気が付いていた。
バレてしまったら仕方がないと、木陰からリアス達が出て来る。
「どういう心算なの?」
「別に? 一誠の要望を叶える為の方法を示しているだけだよ。確かまだ僧侶(ビショップ)と騎士(ナイト)と戦車(ルーク)の駒が残ってた筈だよね?」
「え? ええ……」
「多分、アーシアに使う為に僧侶(ビショップ)を持って来てるだろうから、それをこの堕天使に使ってくれないかな?」
「っ! どうして?」
ギクリと肩を震わせて、仕舞ってある僧侶(ビショップ)の駒を掴む。
「部長は僕がアーシア救出に失敗して、死んでしまった事を考え保険として駒を持って来たんじゃない?」
「うっ!」
「あらあら、バレてしまっていますわね部長?」
「むう……」
自身の髪の毛の如く頬を染めて、リアスは膨れっ面になって拗ねた。
案外可愛い気のある仕草をするものだ。
「私はただ、悪魔でも回復させる力の持ち主を下僕にしたかっただけよ」
恥ずかしがっている顔を見られたくないのか、膨れっ面の侭にそっぽを向く。
「だけど、僕は納得がいかないかな」
「そうだろうね。さっきまで敵だった訳だし、一誠を殺した張本人」
「それに緒方君もバイサーの事は覚えているよね? 無理に眷族にして逃げられでもしたら、彼女が追われるだけじゃあなく、部長の管理責任の問題になる」
「木場、其処は大丈夫だ。この話を受けるなら、死にたくない訳だ。死亡フラグにしかならないはぐれ化はしないだろう。受けないならこの場で殺すだけだし」
それを聴いて少し納得出来たのか木場も押し黙る。
「リアス部長もオッケー? 良いなら後は堕天使の方が承諾するか否かだけど」
「……意地悪ね。それは、承諾しなければ殺されるって事じゃない」
レイナーレも嶮が取れた顔で呆れていた。
ユートを相手に逃げ切れるとも思えず、また逃げられても帰る場所が無い。
ある意味、肚が据わったという事だろう。
穢らわしい悪魔……
そう考えてはいたのが、もうそれしか道が残されてはないなら、是非もない。
「ま、悪い事ばかりじゃあないしね」
「?」
ユートの言葉の意味を計りかね、レイナーレは訝しみ小首を傾げる。
「それじゃあ、堕天使側の事はどうするのかしら?」
「総督殿は、今回の不始末を仕出かした堕天使四名の処遇を、僕に一任すると言っている。つまり、殺すもナニするも僕の胸先三寸」
堕天使に引き渡そうと、この場で始末しようと自由にしていい。
そういう事だが、拡大解釈すれば生かしても構わないという訳だ。
「まあ、良いけど。この娘……ええと?」
「レイナーレよ」
「レイナーレを僧侶(ビショップ)として転生させるメリット、それが在るのかしら? 光を使えるから、悪魔を相手のレーティングゲームでは脅威になるかも知れないけど、それだけで使える訳じゃないわ」
「確かにね。僕との戦闘で光の槍を投げる以外、特に何もしてこなかった事から鑑みるに、力は下級堕天使でしかないだろう、特筆する能力もアーシアから神器(セイクリッド・ギア)を奪おうとした事から、何も無いって事だろうね。莫迦にされていたから見返したいとか、総督殿や副総督に愛されたいとか言ってたし」
レイナーレの表情が暗いのは、ユートの言った事が容赦無く真実であったからだった。
だからこそ、下級の中でもそれなりに上位に位置するドーナシーク達に後の地位を約束し、協力して貰っていたのだ。
アーシアの堕天使さえ癒す【聖母の微笑】を奪い、アザゼルやシェムハザから認められ、地位を獲たならば彼らも御零れに与る事が出来た。
故に計画に賛同して協力をしたのだから。
「だから一から鍛え直す。腐った根性も、性根から叩き直してやるさ。堕天使も力を獲られるし、リアス部長の眷族も増えて一石二鳥じゃないかな?」
笑顔ではあるが、そこはかとなく恐怖を与える雰囲気を醸し出し、レイナーレはガタガタと震えていた。
「ふう、判ったわ。貴女も構わないのね?」
恐怖心からか、一誠の服を掴んでコクコクと頷く。
そう、ユートは原作を知らないからやらかした。
アーシアは無事で、悪魔に転生する理由が無い。
一誠と仲良くなっていないが故に、一誠への想いや寿命を理由に転生も無い。
完全に悪魔になる理由が無い為、僧侶(ビショップ)の駒が浮いてしまった。
ユート的には、死ななかったアーシアの代わりとしレイナーレを推した形だ。
尤も、一誠がレイナーレを庇わなければ、雷光電撃(ライトニングボルト)で殺していたが……
レイナーレの場合、眷族に成る事だけが唯一の生存方法だから選択肢など有って無いようなものだ。
リアスはポケットから血の様に紅いチェスの駒を取り出し、それを使って口訣を唱える。
「我、リアス・グレモリーの名に於いて命ず。汝、レイナーレよ。我の下僕として悪魔と成れ。汝、我が【僧侶】として新たな使命に歓喜せよ!」
紅色の光が発し、レイナーレの胸に駒は消える。
「あら?」
「へ?」
「あらあら?」
「おや?」
「……」
「な、何で?」
光が消えたと同時に変化が起きた。
それは良いが、その変化は余りにもおかしい。
リアスとレイナーレに、朱乃も、木場も、一誠も、一様に怪訝な表情になる。
小猫は無表情だが……
「ゆ、夕麻ちゃん?」
堕天使だった時の力を喪った上、悪魔にも転化していない姿……天野夕麻の姿と成っていた。
「ゴフッ!」
突如レイナーレ……夕麻が吐血する。
「あ、人間の形態だと傷に耐えられないか。悪いけどアーシアを連れて来て」
「は? ユウがもう一人? 何故?」
其処にアーシアをお姫様抱っこしたユートが居た。
アーシアを降ろしたら、もう一人のユートはフッと消える。
「さっきのは僕の力で創った遍在、分身だよ。君を殺そうとした奴だけど、治療をしてやってくれない?」
「あ、はい」
パタパタと、夕麻に歩み寄って【聖母の微笑】を顕現させて、翠の輝きと共に治療を開始した。
「貴方、何をしたの?」
「お、判った?」
「当たり前よ。こんな現象は有り得ないわ。この中でこんな訳の判らない事が出来るのは、ユウだけよ」
ユートは説明を求めてくるリアスに答える。
そもそも、堕ちたとはいえ純粋な堕天使が対極の魔の側である悪魔に転生し、対消滅されては意味が無いという事。
「光と闇の狭間の存在である人間の血を持つならば、可能だろうけどね」
チラリと朱乃を見遣る、天使、堕天使、悪魔。
これらは肉体を持ってはいるが実の処、精神生命体に窮めて近い。
堕天使が死ねば羽だけ遺して肉体が消滅するのは、生命力を喪って肉体を維持出来なくなるからだ。
土より生じた人間と違い火より生じた天使や堕天使は肉体を遺さない、つまりはそういう事だ。
「だから一旦、人間に転化する様に術式に介入させて貰った。アジュカから駒の術式を見せて貰ってたから出来た裏技だね」
「でもそれじゃあ、眷族には出来てないの?」
「いや、ちゃんとシステム上ではリアス部長の眷族になってるよ。それと、人間になって力を喪った訳でもないんだよ」
「どういう事?」
「ちょっとしたデバイスを使ってね、堕天使モードと悪魔モードの両方に進化(エヴォリューション)する事が出来るし、堕天使から悪魔、悪魔から堕天使へとスライドエヴォリューションも可能だよ。デバイスは造ってないけどね」
それに、ユートはその上も考えていた。
これは【デジモンフロンティア】からの転用だ。
人間からヒューマン型デジモン、ビーストデジモン型への進化と、それぞれからのスライドエヴォリューション。
そして、融合進化。
人間を挟めばいずれ可能となる筈だ。
況してや、神が死んでしまってシステムに異常が生じた世界なら。
「デバイスは後日、造って渡すよ」
「まあ、無駄になった訳じゃないなら良いけど……」
取り敢えず、何気に魔王の名前が出てきたのは敢えてスルーした。
「住む場所も考えないといけないか。一誠!」
「な、何だよ?」
「そいつ、住まわせてやってくれ」
「はい?」
カバーストーリーには、海外に住んでいた夕麻・レイナーレ・天野は、駒王学園に編入する予定だった帰国子女だが、両親を事故で喪ってしまった為、頼る親戚も無く住む場所も保証人の居ない夕麻では、アパートも借りれない。
仕方がないから、廃棄された教会で寝泊まりしていた所を一誠が発見し、家に連れ帰った……という事になるだろうか。
「半分嘘で半分本当よね、その話って」
リアスは呆れてしまう。
「ところで、あの倒れてる堕天使らしき女達は?」
「片方は魂を喪ってるし、もう一人は僕が連れ帰って処遇を決めるよ」
「魂を? 死んでるって事じゃない! 何で肉体が残ってるのよ?」
「魂を冥府に送った後で、直ぐに固定化という力を使ったからね。それを使えばアイスだって砂漠で溶けないくらいだよ」
ユートは魂の抜けてしまったカラワーナの肉体を、依代として使う心算だ。
因みに、カラワーナの魂も確保してあって、冥界には落とされていない。
「あ、あの……ミッテルトはどうするの? 酷い事は出来たらしないで欲しいのだけど……」
遠慮がちというか、怯えながら言う夕麻。
完全に一誠に依存してしまっているらしく、未だに服の袖口を掴んでいた。
「ふーん、仲間意識はあるんだな。生きたエネルギータンクにするのもアリかと思ったけど、アーシアは嫌がりそうだし……酷い事はしないよ」
まあ今は真っ暗になっているから見えないが、其処ら中にユートが殺した神父の死体が転がっている。
だから夕麻もミッテルトの処遇がどうなるか、不安になったのだ。
アーシアは人間だから、夜目も利かず見えない。
見えていれば悲鳴を上げていただろう。
死体に関しては、リアスが消滅の魔力で消して後始末する事になり、廃教会の方は燃やして更地にする事となった。
廃棄されている以上は、天使側が管理していないという事になるし、再び堕天使やはぐれ悪魔祓いに利用されない為の措置として、彼方に説明する事になる。
勿論、サーゼクスが。
後日、夕麻はミッテルトの処遇を知って泣いた。
エネルギータンクとして生かさず殺さずの状態になるのと、ユートの家で仕事をする萌衣奴(メイド)になるのとを選ばされたのだ。
泣く泣く萌衣奴(メイド)になる事を承諾し、後日に憂鬱となるミッテルト。
緒方家には家族と居候が増えた、それはアーシアとミッテルトという訳だ。
そして……
.
今回で第一巻の内容が終わりです。