ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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 此処から第二巻【戦闘校舎のフェニックス】です。





第2章:戦闘校舎のフェニックス
第14話:停止×世界


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「い、いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? な、何で此処に人間が?」

 

 騒ぐその人物を黙らせる為にユートは加速し、勢い余って押し倒してしまう。

 

「ヒッ、やめて……」

 

 サラサラした金髪を揺らしながら、イヤイヤと恐怖に怯えた表情で首を振る。

 

 端から見れば、いたいけな少女にイタズラ処か一足飛びにレ○プに及ぶ外道にしか見えない。

 

 だが其処にある真実からすれば二つ程、誤解があるのだが……

 

「お、お願いしますから、堪忍してぇ」

 

「ええい、可愛らしい声で啼くな! 良いか? 喚くな、暴れるな、後は、その〝物騒なモノ〟は暴れさせるなよ!?」

 

 少しドスの利いた声で、目の前で涙を流す人物へと命令した。

 

 ユートは思う。

 

 何でこんな訳の判らない事になっているのか、と。

 

 まあ、強いて言ってしまえば自業自得なのだが……この事態は。

 

 目の前の人物をユートは改めて見やる。

 

 制服が駒王学園の物だ、何処かで購入してコスプレをしているのでなければ、この小動物の様に怯えている人物はれっきとした駒王学園の生徒だろう。

 

 何より、此処は駒王学園の敷地内である。

 

 サラサラとした金糸の如く金髪は、ボブカットに揃えられ美しく艶があった。

 

 瞳は血の流れより赤く、まるで紅玉、白い肌と端正な顔立ちが相俟ってそれは人形の様でもある。

 

 知り合いの吸血鬼を思わせる容貌からは、この子が正しく同族であるのだと、ユートは感じた。

 

 暗がりでもユートは悪魔並に夜目が利くから判る。

 

 だけどそんな美しい紅玉の如く瞳は今、恐怖に怯え切っていた。

 

「(本当に、どうしてこんな事になってんだろう? 真面目に激しく不思議なんだけど……)」

 

 ユートはやれやれと思わず嘆息した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 レイナーレ達、堕天使の野望を阻止したユートは気絶をした侭のミッテルトを抱えて、カラワーナの抜け殻を亜空間ポケットに仕舞ってから岐路に就く。

 

 全ては明日、部室でという話になった。

 

「そんなに怯えなくても良いぞ?」

 

「怯えるわよっ! ウチをどうするのかやっぱ気になるし!」

 

「約束はしたからな。僕は堕天使と違って約束は守る心算だよ?」

 

「ちょっ! まるでウチらが約束を守らないみたいじゃん?」

 

「そういえばレイナーレ様は私との約束、守ってくれませんでした……」

 

「って、レイナーレ姉様は何してくれてんの!?」

 

 素直で良い子のアーシアだが、時にそれは天然で誰かしらを危機に陥らせる、只でさえ心をポッキリと折られ恐怖しているのに。

 

 ユートの家へと着くと、リビングでソファーに座るユートとアーシアと那古人……まあ、ミッテルトは立っているのだが。

 

 三人を所在無げに見つめ瞳を泳がせていた。

 

「さて、君に訊きたい事が在るんだが?」

 

「な、何? 先に言っておくけど、ウチはそんなにも重要な情報なんて、持ってないんですけど?」

 

「情報? そんな益体の無いもの要らない。訊きたいのは一つ、この後の君自身の進退についてだ」

 

「進退って? ウ、ウチを肉奴隷にでもする気っ? これだから男は!」

 

 スパカーン!

 

「痛ぁぁーっ!」

 

 右手にハリセンを持ち、無駄に高性能を発揮しての光速の突っ込み。

 

 聖闘士の力を……それもセブンセンシズを無駄遣いしているユート。

 

「あたたー、酷いじゃん」

 

「己れが不穏当な事を言うからだ!」

 

 頭を抱えて文句を言ってくるミッテルトに、ユートは胡乱な目で見つめながら正論を言う。

 

「ユートさん!」

 

「どうした、アーシア?」

 

「に、肉奴隷が欲しいのでしたらわたし……はう?」

 

 不穏当な事を言おうとしたアーシアに、情け容赦無くハリセンをその天然ボケなド頭に落とす。

 

「い、痛いですぅ……」

 

 恨みがましく見つめてくる目に涙を溜め、アーシアは頭を抱えた。

 

「まったく。ミッテルトが選ぶ道は二つ。一つはこの家の……次元宇宙船のエネルギータンクとして、苦痛に満ちた余生を心が崩壊するまで送るのか、この家の炊事選択などをする萌衣奴(メイド)になるかだね」

 

「エ、エネルギータンクって?」

 

「この家は、次元の海やら宇宙を飛べる戦艦でね? エネルギーは一応マスターの精神エネルギーだけど、予備のシステムとして負の感情をエネルギー化する物とマイクロブラックホールをエネルギー化する機関がある」

 

「どっちもヤバそうな気がするんですけど?」

 

 重力子反応炉(グラビティ・リアクター)は、システム構築したのがユートではなく、ユートが信頼しているエンジニアに任せていた為、問題も無い。

 

 問題は、負念純化反応炉(デモンズ・リアクター)の方だろう、名前はユートのオリジナルだが……

 

 ロスト・ユニバースに於いて、遺失宇宙船に使われていた負の感情をエネルギーに転化するシステムで、AIが暴走している。

 

 此方は一応、純粋なエネルギーに変換しているし、暴走は無いと思うが……

 

 因みに、【感情転換反応炉(エモーショナル・コンバート・リアクター)】という、新型のエネルギーシステムも存在しているが、少しだけ未来でアザゼルに一つ譲渡した。

 

「負の感情をエネルギーに転化するシステム、若し、ミッテルトをそのシステムに連結して、苦痛を与え続ければ効率の良いエネルギータンクになるだろ?」

 

 ニヤリと嗤う。

 

「萌衣奴(メイド)になりますっ!是非とも萌衣奴(メイド)にならせて下さい。掃除、洗濯、食事のお世話に夜のお供まで、何でもしますからどうかそれだけは堪忍して下さい!」

 

 平身低頭して……それ処か寧ろ、土下座をしてまで自らが萌衣奴(メイド)になる事を宣言した。

 

 それはもう慣れない敬語で滂沱の如く涙を流して、ガタガタと震えながら。

 

 萌衣奴(メイド)、それは萌える衣装に身を包む奴(しようにん)の事。

 

 アーシアは思う。

 

「(あれ? 私が嫌がるからって、エネルギータンクにはしないって言っていた筈じゃあ?)」

 

 だが、またハリセンは嫌だったので、空気を読んで黙っていたという。

 

 存外、良い性格である。

 

「なら僕の事はご主人様と呼び、アーシアと那古人はお嬢様と呼ぶ様に」

 

「は、はいぃ!」

 

「因みに、給料は一二万」

 

「安っ! 何で?」

 

「某・料理漫画の主人公の給料が一二万だったから」

 

「そんな理由で!?」

 

 まあ、問題はあるまい。

 

 家賃、光熱費、水道代、食費は浮くのだ。

 

 一二万円も有ったなら、お洒落やら買い食いなどは充分に可能である。

 

「ああ! 後、駒王学園に通って貰うから」

 

「は?」

 

「これはアーシアも同じ。リアス部長に言って、来週からでも生徒になれる様に打診するよ」

 

「わあ! 嬉しいです」

 

 アーシアは大喜びだ。

 

「那古人、一週間でミッテルトを萌衣奴(メイド)として鍛えてやってくれ」

 

「イエス、マスター」

 

 こうして明日からの指針も決まった。

 

「あれ?」

 

「どうしました?」

 

「部屋のキーが無い」

 

 ポケットを探りカード型のキーが無いのに気付く。

 

「そう言えば、バタバタとして忘れてましたが、部室に落ちていました。回収を忘れてしまい申し訳ありません、マスター」

 

「いや、いい。僕のミスだし取ってくるよ」

 

そう言って、深夜の駒王学園へと向かう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「何だこれ?」

 

 とても異様な気配が部室内に充満していた。

 

「結界の一部が解放されている? 位置は……確か、KEEP OUTとかされてた部屋みたいだけど」

 

 厳重に封印が為されていた上に、誰もその事に触れないからスルーしてきたがこれは俄然、興味が湧いてきたユート。

 

「時限式で深夜にだけ結界が解放されてるのか?」

 

 だとしたら何故、そんな事をしているのか?

 

 ユートは問題の部屋の前に立つと、ソッと扉を開けてみた。

 

「……え?」

 

 中に居た人物が、驚いた表示で此方を見る。

 

「い、いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? な、何で此処に人間が?」

 

 その人物は、悲鳴というよりは絶叫を上げた。

 

 その際に、何かおかしな力が働いたが特に障害にもならず、ユートは黙らせるべく駆け出す。

 

 こうして、今に至る。

 

「お、お願いしますから、堪忍してぇ」

 

「ええい、可愛らしい声で啼くな! 良いか? 喚くな、暴れるな、後は、その〝物騒なモノ〟は暴れさせるなよ!?」

 

「ど、どうして僕の神器(セイクリッド・ギア)が効かないんですかぁ?」

 

「そうか、やっぱり神器(セイクリッド・ギア)か。良いか? 質問に答えろ」

 

 押さえた首に少し力を籠めて言うと、コクコクと首を縦に振る。

 

「君の名前は?」

 

「ギャ、ギャスパー・ヴラディですぅ」

 

「ヴラディ? まあ良い。次の質問だ、君は見た目は兎も角として、男だな?」

 

「は、はいぃ!」

 

 この少年……着ている服が女子の制服なのだ。

 

 小柄で顔が女の子寄りな事もあり、彼は立派な男の娘である。

 

「此処に居るという事は、普段から姿を見せていないリアス部長の僧侶(ビショップ)だな?」

 

「え? はい」

 

 訳ありの僧侶(ビショップ)の話は聞いていた。

 

 今は出せないと言っていた訳だが、その原因も理解が出来た気がする。

 

 先程の力だ。

 

「神器の名前は?」

 

「う……【停止世界の邪眼(フォービドウン・バロール・ビュー)】ですぅ」

 

「バロールの眼か……」

 

 魔眼や邪眼の類いの一種であり、そのオリジナル持ちがバロールだった筈。

 

 恐らくはその概念の一つを神器(セイクリッド・ギア)としたのだろう。

 

「能力は?」

 

「視界に写る空間を、一定時間停止する能力ですぅ」

 

「やっぱり。さっきの圧力は時間停止だった訳か」

 

「ご、ご、ごめんなさいぃぃぃぃ! 虐めないでぇぇぇぇっ!」

 

 えぐえぐと徹頭徹尾で、泣いている〝女装〟少年を見てユートは、詰問するのも何だかバカらしくなる。

 

 ギャスパーからだいたいの事情は聴いた。

 

 どうやら彼は、極度というのも生易しい度を越している引き篭りらしい。

 

 対人恐怖症を半ば患い、集団というものにもやはり恐怖感を持ち、コミュニティを形成するより独りの方が落ち着くとか……

 

 どう考えても末期の引き篭りである。

 

 旧校舎の結界も夜中にはこの部屋限定で解放され、校舎内だけなら歩き回れるらしいが、今まで出歩いた事が無いらしい。

 

 ユートが封印された部屋に入れたのも、深夜であったが故に解除されていたからだろう。

 

 部屋の方は風呂やシャワーや電気にトイレに食糧、生活するには充分なモノが揃っている為、引き篭りには夢の空間となっていた。

 

 仕事に関しても、ネットを使って願いを叶えて対価を貰う事で、キチンと成立をさせている上、グレモリー眷族では一番の稼ぎ頭。

 

 生活空間が普通に完備されていて、結果も充分に出していると、これは引き篭りを助長させるだけだ。

 

 問題として、彼は封印されていると云う事。

 

 視認した空間の停止という能力を、彼は感情の暴発で手当たり次第。

 

 危険過ぎて封印すべきだと御達しがあった様だ。

 

「(まあ、行き成り集団の中に放り込んでもアウトだろうしね)」

 

 先ずは一対一でのコミュニケーションを覚えさせた方が無難。

 

 それはユートがやれば良いとして、然し度が過ぎれば依存症に陥る。

 

 この辺の塩梅が難しい。

 

 何とか時間を掛けて落ち着かせ、飴玉を与えて普通に話せる様になったのを見計らい質問する。

 

「ギャスパーはさ……」

 

「はい?」

 

「今の侭で良いのか?」

 

 心なしか表情が暗くなり沈み込んでしまう。

 

「世間一般で言えば良くはありません。でも僕は怖いんですぅ」

 

 人間が怖くて、悪魔も怖いし、堕天使や天使が凄く怖い、集団が怖い、何より時間を停止させてしまう自身の神器(セイクリッド・ギア)が怖いという。

 

 ギャスパーは自分の事を話し始めた。

 

 ギャスパーの生家、ヴラディ家とはバンパイア一族の中でも由緒正しい血筋。

 

 そんな家にヴァンパイアと人間のハーフとして生を受け、元より優秀な吸血鬼一族の血筋に加え、人間の部分が神器(セイクリッド・ギア)を与えてくれた。

 

 だが、人間の血が一族からの侮蔑を生み、情緒不安定な処に神器(セイクリッド・ギア)の暴走を招く。

 

 一族を放逐され、路頭に迷っていた処、ヴァンパイアハンターに狙われ、生命を落としリアスに拾われて今に至る。

 

「何処の勢力も変わらないって訳か。悪魔も堕天使も吸血鬼も、会った事はないけど堕天使から想像して、天使達もだろうが無意味に人間を、他種族を軽視して蔑視し過ぎる」

 

 人間とのハーフ故、兄弟から虐められてきたというのも引き篭りの要因だ。

 

 ギャスパー・ヴラディにとって、世界は余りにも優しく無さ過ぎた。

 

「(ああ、そう言えば居たよね。幼いが故に自分の持つ才能を暴発させて、仲間である筈の者達に虐められていた女の子が……)」

 

〝あの時〟みたいに〝奴〟が接触する前に、此方が接触出来た事を僥倖と思った方が良い。

 

 あの子の時は殆んど関わる事も無かった。

 

 その結果、あの子の暴走を見過ごしている。

 

「なあ、ギャスパー。今の侭で良いと思わないなら、変わってみようとは考えないのか?」

 

「思いませんけど、僕は怖いんですぅ。僕なんてこうして引き篭って一生を過ごした方が良いんですぅぅ」

 

 両手で顔を覆い、イヤンイヤンと首を振る。

 

 筋金入りの引き篭り。

 

 そして筋金入りの女装少年というべきか、仕種がいちいち下手な娘よりも女の子っぽい。

 

 実際にこんな仕種をする様な女の子は、何処を捜しても居ないだろうが……

 

「逃げるな、受け容れろ。己が血脈を、己が神器(セイクリッド・ギア)を!」

 

「緒方先輩……」

 

「少し話をしよう」

 

 それは一人の……否、唯独りの少女の物語。

 

 少女は両親からは愛されていた。

 

 だが、両親が事故で死んで生活は一変する、親戚の間を盥回しにされて何処に行っても少女は疎んじられてきたのである。

 

 粗末な服、犬小屋にも等しい部屋、食事を抜かれる事も屡々あったし、出されても育ち盛りには厳しいものであったという。

 

 暴力を揮われる事も珍しくなく、それが少女の後々の人格を形成していった。

 

 一応の理由もある。

 

 それは、少女自身の持つ無自覚な力。

 

 少女の感情の昂りにより勝手に発動するその力によって窓ガラスが割れ、人形が動き出す。

 

 それの暴発は親戚一同を恐れさせ、少女を更に疎ませる原因となっていた。

 

 血縁に忌み嫌われ、最後に流れ着いた先がシスターの運営する教会。

 

 其処には同じ年頃の少年も居た。

 

 然しコミュニケーション不足もあったのだろうが、少年達は少女を疎む。

 

 教会でも虐めに遭って、少女は固く心を閉ざした。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「お、同じですぅ。僕と同じ様な人が居たなんてぇ」

 

 ウルウルと涙を浮かべ、ギャスパーは叫ぶ。

 

「その子はどうなったんですかぁ?」

 

「邪悪な禍者に利用され、街を破壊し始めた」

 

「ええっ!?」

 

「少女は所謂、独角というやつでね。力の制御なんて学んでいないから、簡単に暴発してしまうんだよ」

 

「制御……」

 

「少女は禍者から渡された魔具で、御伽噺(エブリデイ・マジック)を使って、巨大な竜を作り出した……それを、同じく巨大な機神で戦い斃した訳だ」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 巨大で邪悪な竜を斃し、青年は怒鳴る。

 

「ガキんちょ共が怖いか? ライカさんが怖いか? メタトロンが怖いのか? ユートが怖いのか? 世界の何もかもが怖いのか? 全部全部、死んでしまえば良いか? 毀れてしまえば良いか!? お前を愛した……愛そうとする、助けようとする、そんなみんなも怖くて、大嫌いで、ぶっ殺したいかっっっ!?」

 

 全てを拒絶する少女に対する弾劾。

 

「当ったり前だ! 心を閉ざして、何もかも信じてねえんなら、怖くて当たり前だっ! なのにアレか? 自分の事だけは信じて貰いたいってか!? ちょっとでも自分を怖がらせる奴はぶっ毀そうとする、そんな奴を信じろってか! 我侭も大概にしやがれよっ! みんなだって、お前が怖いんだよっっ!」

 

「ちが……わたし……そんな……」

 

 そんな心算、少女には無かったのかも知れないが、結果だけを視ればそうとしか取れなかった。

 

「みんな怖いんだ! みんなみんな、世の中怖いもんだらけなんだよっ! 怖くて怖くて、でも歯ぁ食い縛って、必死に我慢して一生懸命生きてるんだよっ! そんな事も判らねえで……キレてんじゃねえっ!」

 

 青年は果たして、少女の心の扉を……雁字搦めの鎖と堅固な鍵に閉ざされた扉を開ける事は出来たのか?

 

「良いんだよ。苛められたら泣いて、叫んで歯形が残るくらい噛み付いてやれば良いんだ。怖いんだって、何で苛めるんだって、そいつに直接、怒鳴ってやれば良いんだ。でもやり過ぎちゃいけない。やり過ぎたら今度はお前が相手を苛める事になるから」

 

 それはきっと……その後の少女の人生が物語る。

 

「正々堂々と真正面から泣いて、怒鳴って、殴って、引っ掻いて、噛み付いて、お互い散々やり合ってよ、スッキリと仲直りして……それで──友達になれば良いんだ」

 

「でも、やっぱり怖い……私の事、ものすごい力で殴ってきた大人の人も居た。泣いてるのに、痛いって言ってるのに、何度も何度も何度も何度も……」

 

「んなクソ野郎、俺がデモンベインでぶん殴ってやらあ!」

 

 突っ込み所の多い会話ではあったが、少女は己に向き合う事が出来たのだ。

 

 ユートはその先を知らないし、先の未来まで傍に居た訳でもない。

 

 だから少女が幸せな人生を送り、笑って逝けたかは窺い知れなかった。

 

 だけど平行世界の彼女はきっと笑って逝けたから、あの子もそうだったのだと信じたいものだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「なあ、ギャスパー。少女を君に、シスターをリアス部長に置き換えれば本当に似ているよな?」

 

「は、はいぃ……」

 

「少女は向き合えた。なら君は? ギャスパーにそれは出来ないのかな?」

 

「うぅ……」

 

 ギャスパーは途端に情けない表情になってしまう。

 

「ギャスパー、リアス部長が怖いか? 朱乃先輩が怖いか? 木場が怖いか? 小猫が怖いか? 僕が怖いか? 世界の何もかもが怖いのか? 全部全部、拒絶したいのか? 放っておいて貰えば良いか!? お前を気にして、仲良くしようとする、助けようとする、そんなみんなも怖くって、大嫌いで、いっその事消えてしまった方が良いか?」

 

 ギャスパーはブルブルと首を横に振る。

 

「イヤ……ですぅ。僕だって、僕だって仲良くしたいんですぅ! でも、でもぉ……っっ」

 

「良いんだよ。虐められたら泣いて、叫んで歯形が残るくらい噛み付いてやれば良いんだ。怖いんだって、どうして虐めるんだって、そいつに直接、怒鳴ってやれば良いんだ。でもやり過ぎちゃいけない。やり過ぎたら今度はギャスパーが相手を虐める事になるから」

 

「あ……」

 

「これが人の温もりだよ」

 

 ユートはソッとギャスパーの掌に自分の掌を重ね、そりて優しく微笑んだ。

 

「僕、僕も……頑張れるでしょうかぁ? その女の子みたいに……」

 

「同じ様な境遇だったんだからさ、ギャスパーに出来ない道理は無いさ」

 

「は、はいぃ!」

 

 ウィンクしながら答えてやると、何故かギャスパーは頬を赤らめて返事をするのであった。

 

「毎日とはいかないけど、週に二〜三回くらいの割合で来るからさ、その神器(セイクリッド・ギア)の制御訓練をしないか?」

 

「僕の【停止世界の邪眼(フォービドウン・バロール・ビュー)】を制御……ですかぁ?」

 

 突然のユートからの申し出に、ギャスパーは小首を傾げる。

 

 ギャスパーがこの旧校舎の一室へと封印されている理由は、神器(セイクリッド・ギア)の制御が利かないからだ。

 

 対人恐怖症は、ゆっくり改善していくしかないが、神器(セイクリッド・ギア)の制御訓練も並行してやった方が良いだろう。

 

 それがユートの考えだ。

 

 何せユートの双子の兄、ネギは魔力が人並み外れてでかいのは良いのだけど、まともな制御が出来ないが故にくしゃみで他人を──女性限定──スカート捲りをしたり裸にしてしまう癖があった。

 

 正確には何故かくしゃみで暴発する事がある。

 

 制御が全く出来ない訳でもないのに、どうしてああなるのか理解出来ない。

 

 彼に対する密かなユートの悩みだった。

 

 しかも恐るべき事に男を脱がせた事は終ぞ無くて、というか脱がされたのは知る限り、そんなに居なかった様な気もするが、よくもセクハラで捕まらなかったものだと思う。

 

 子供だから赦されていたのだろうが……

 

「力の制御は毎日の積み重ねで慣れた方が効率的だ。僕が来ない日にも確り訓練をして、完全制御が出来る様に頑張ろうか?」

 

「は、はい!」

 

 ギャスパーは緊張気味に返事をする。

 

「上手く制御が出来る様になったら、お祝いにご褒美を上げよう」

 

「ご褒美ですかぁ?」

 

「何か欲しいと思うモノは有る?」

 

 そう言われ、ギャスパーは思案した。

 

 ギャスパーの脳裏には閃くものがあったが、流石に無理っぽいので憚られる。

 

「ん? 有るなら遠慮無く言っても良いんだぞ」

 

「う……あの、僕はその、こういった女の子の服を着るのが好きなんですぅ」

 

「そうみたいだね」

 

 モジモジと人差し指と人差し指を合わせ、上下に動かしながら若干、顔を赤らめて言う。

 

 ユートとてギャスパーの格好を見れば、其処は理解出来る話だ。

 

 どうにもギャスパーは、可愛らしい服装を着るのが好みらしくて、駒王学園の制服以外にも普段着でさえ女物だとか。

 

 ユートとしては、他人の服飾の趣味に文句を付ける気など毛頭無い。

 

 流石に普段着だとやらないけど、制服姿にマントを羽織るのはやはり奇異に視られる事も多いし、気持ちも解らないではなかった。

 

「で?」

 

 因って、先を促す。

 

「ぜ、是非とも服の趣味に合った自分に成りたいんですぅ……!」

 

 ギャスパーは、潤んだ瞳でそんな事を言ってきた。

 

 女物の服に合う=つまりは女に成る。

 

「正気?」

 

「はいぃ!」

 

 本気かとは訊かない。

 

 よもや性転換(TS)を好んでしたいなど……

 

「(居るよね……)」

 

 自分の性別に違和感を感じる人間だって居るのだ。

 

 性転換手術なんて在るのも需要が有るから。

 

「なんて、無理ですよね」

 

 アハハ……と、苦笑いをしながら頭を掻く。

 

「別に無理じゃない」

 

「へ?」

 

「無理じゃないよ」

 

 思考が停止。

 

「………………え」

 

 ユートの言葉が脳に浸透していく、そしてその言葉を咀嚼し意味を理解した。

 

「エ、エエェェェェェェェェェェェェェッ!?」

 

 旧校舎内を、ギャスパーの大音量の絶叫が響き渡って谺する。

 

「ただ、恒久的なものじゃなくて飽く迄も、魔法術式による一時的なモノだよ」

 

 ユートが持つ能力である【千貌】というのを性転換に特化し、術式化したモノが在った。

 

 これを使えば男の遺伝的な形質を持つ者なら女に、女の遺伝な的形質を持つ者なら男になる。

 

「す、凄いですぅ!」

 

 ギャスパーが尊敬の眼差しで見てきた。

 

 その視線が熱い。

 

「ま、全ては訓練を終えてからかな」

 

「はい!」

 

 ギャスパーには神器(セイクリッド・ギア)を使い続けて、力に慣れる訓練から施す事になった。

 

 いつまでも使わない侭では制御など叶わず、いつかは誰かに迷惑を掛ける。

 

 そうなればギャスパーは更に引き篭るという悪循環に陥りかねないし、それはリアスも望まないだろう。

 

 ユートには〝時間停止が決して効かない〟訳だし、ギャスパーも遠慮をする事無く訓練が可能だ。

 

「それじゃ、今夜は帰るから練習をしておく様に」

 

「が、頑張りますぅ!」

 

 リアス・グレモリーの擁する僧侶(ビショップ)の、ギャスパー・ヴラディとのファーストコンタクトは、こんな感じで終わった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「なあ、お前さ。昨日……アーシアってシスターの子と堕天使の子をさ、連れ帰ったよな?」

 

「そうだね」

 

 翌日、一誠が朝っぱらから松田や元浜には聞こえない様に耳打ちしてくる。

 

 どうやら帰ってからナニがあったのか、可成り気になったらしい。

 

 アーシアは兎も角、何しろミッテルトは捕虜みたいなものだし、元々が敵であった以上はナニをされても文句は言えないのだ。

 

「どんな期待をしているのかは想像がつくんだけど、ナニも無いから」

 

「うえ? そうなのか? こう、さ……『へへへー、大人しくしな!』『あーれー!』みたいな、そういう展開とかは?」

 

 スパカーン!

 

 何処からとも無く取り出したハリセンにて、一誠のド頭をどつく。

 

「おぶらいえんっ!?」

 

「あるか、そんな展開!」

 

 ハリセンを仕舞いながら突っ込んだ。

 

「で、アレはどうした?」

 

「アレ? って、若しかしなくても夕麻ちゃんか?」

 

「他に誰が居る?」

 

「夕麻ちゃんなら、両親がカバーストーリーを信じてくれたからな。無事、ホームステイが出来たさ」

 

「そうか」

 

 殺されて尚、庇った一誠のああいう部分は好ましいと感じるが、ユート的に云うなら不完全燃焼だった。

 

「で?」

 

「でっ……て?」

 

「アレとまた付き合ったりするのか?」

 

「あー、先ずはお互いを知ってから……かな」

 

 取り敢えず、その本性まで知っている訳だが……

 

「まあ、良いや。それと、アレやミッテルトに、後はアーシアに加えて+αが、一気に転入する予定だよ」

 

「怒濤の転入ラッシュか……って、+αって何だ?」

 

「それは、ヒミツです」

 

 某・獣神官(プリースト)風に、人差し指を口元に当て薄く笑みを浮かべて言ったものだった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 放課後になって、リアスを生徒会室に呼ぶと会長であるソーナ・シトリーも交えて話をする。

 

 話を聴いたソーナだが、眼鏡をクイッと上げて位置を直しユートに訊ねた。

 

「つまりはあれですか? 緒方君は堕天使をウチへと編入させたい……と?」

 

「そうだね」

 

「ですが、その堕天使とは血みどろの闘いをしたとか聴きましたが、そんな相手をどうして?」

 

 ソーナからすれば信じられない申し出だ。

 

 それ故に、ユートの意図が解らない。

 

「別に遺恨があった訳でもないし、闘いが終わってまで殺そうとはしないよ」

 

「そうですか……」

 

「まあ、アーシアを罷り間違っても殺していたなら、一誠がどう言おうが滅ぼしてやったけどね」

 

「そ、そうですか……」

 

 甘いのか、辛いのか判らない言にソーナもリアスも二の句が継げない。

 

「それでは、編入させるのは……」

 

「ウチに居るミッテルト、アーシア。一誠の家に居るレイナール」

 

 バンッ! と、生徒会室の扉が開く。

 

「誰が冴えない眼鏡の会計士よ!?」

 

 ツカツカと入ってきたのは夕麻だった。

 

 何故にレイナールを知っているのかは謎である。

 

「来ましたね、レイナール……」

 

「違うって言ってるでしょう!?」

 

 ソーナの言葉に、夕麻が過剰に反応する。

 

 其処まで嫌か?

 

「クスクス、数日前までは僕の顔を見るだけで恐慌を来していたのが、また随分と強気になったものだね」

 

 そりゃ、あれだけ徹底的にボコられたらTPSD(トラウマ)にもなる。

 

「イッセー君のお陰よ!」

 

 震えるレイナーレを落ち着かせる様に、ずっと付いていてくれた一誠へと今更ながら愛情を懐いたとか。

 

 一度は一誠を害してくれただけに、リアスは渋い顔となったものの、他ならない一誠自身が強く説得をした為に、傍に付く許可を与えるのであった。

 

「それで? 何故、彼女まで呼ぶ必要が?」

 

 リアスが厳しい目で視ながら訊く、何しろトントン拍子で可愛い一誠の家に暮らしているのだ。

 

 それは少しくらい厳しくなるのも当然であろう。

 

「実はもう一人、転入させたい者が居るんだ」

 

「誰ですか?」

 

「僕の義妹(いもうと)」

 

「「妹?」」

 

 妹ポジションたるリアスとソーナが食い付く。

 

 ユートは亜空間ポケットから、カラワーナの死体を取り出す。

 

「それは?」

 

「堕天使カラワーナの死体だよ」

 

「死体……? 確か堕天使は死ねば羽を遺して消滅する筈ですが?」

 

「固定化という術を掛けて保存したからね」

 

 会長の疑問に答えた。

 

「僕の義妹は、此方に来る為に依代が必要なんだよ。だからカラワーナの死体を残しておいたんだ」

 

 ユートには使徒と呼ばれる者達が居り、永遠を在り続けるユートと共に生きる存在であるが、そんな使徒の一人に義妹も居る。

 

 だけど、とある理由からその義妹は完全な使徒という訳ではない。

 

 半使徒である為、異世界に航るにはその世界の存在を依代として必要とした。

 

 その代わり、完全な使徒に比べると招喚コスト──干渉値──が小さい。

 

 〝依代〟という問題さえクリアしてしまえば、非常に喚び易い存在だった。

 

 無論、必ず喚べるという訳でもないのだが……

 

 

.




 この作品はサイトに書いているものを、微修正して掲載しています。

 一番の修正点は【魔法先生ネギま!】の内容など、【魔を滅する転生騎】解禁から縛りを無くしたので、暈していない処です。


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