ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第16話:不死鳥×交渉

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「てめえ、何しやがる!」

 

 びしょ濡れなワルメンは怒り心頭で怒鳴り付ける。

 

 そして濡れた服や髪の毛を乾かそうと、全身から火を熾こす。

 

 パチン……

 

 バッシャーンッ!

 

「ぶはっ!」

 

「己れいったいは何を聴いていたんだ? 三歩進んだら忘却する鶏か? 室内で火を熾すなと言ったろう、この鶏頭(とりあたま)!」

 

 ユートが胡乱な表情で言うと……

 

「ブフッ!」

 

「クスッ」

 

「クックッ……」

 

「……フッ」

 

「ギャハハハハハッ!」

 

 思わず噴き出すリアス、朱乃、木場、小猫、一誠。

 

 グレイフィアとユーキは無表情で見つめている。

 

 夕麻は流石に上級悪魔を相手に青褪めていた。

 

「ぐっ、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 

 怒りから更に煌々とした灼熱を纏うワルメンだが、ユートは三度警告する。

 

「ワルメン、人間の世界には『仏の顔も三度まで』という言葉がある。情け深い人でも,何度も酷い事をされれば怒るもの。これ以上は容赦しない、二度までは警告として水だったけど、今度は問答無用で聖水を頭からぶっかけてやるぞ?」

 

 ピタリと足が止まる。

 

「それも最高級の聖水に、清めの塩を混ぜて、聖灰で炊いた蒸留水を溜めた聖水だからな? 普通の聖水よりダメージもデカいよ」

 

「チィッ!」

 

 ワルメンは舌打ちをすると下がった。

 

 聖水は嫌だったらしい。

 

「まあ良い。さてリアス、早速だが式の会場を見に行こう。日取りも決まっているんだ、早め早めが佳い」

 

 ワルメンはリアスに近付きつつ、式だの日取りだのと訳の判らない事を言い、リアスの右腕を掴んだ。

 

「放して頂戴、ライザー」

 

 ムッとした顔で、低い声を出すと手を振り払う。

 

「な、何だよアンタは! 部長に対して無礼だろう。つーか、女の子にその態度はどうよ?」

 

「あ? 誰、お前?」

 

 先程のリアスへの声色とは打って変わり、ライザーと呼ばれたワルメンホストは不機嫌そうに訊く。

 

「俺は、リアス・グレモリー様の眷族悪魔! 兵士(ポーン)の兵藤一誠だ!」

 

 言ってやったぜと謂わんばかりに、一誠は殊更に胸を張って宣言した。

 

「ふーん、あっそう」

 

 だけどライザーはまるで興味無し、眼中外な反応に一誠はコケる。

 

「何だよ、アイツ!」

 

「あ〜ん? 俺を知らないだと? リアスよ、俺の事を下僕に話してないのか? つーか、俺を知らない奴が居るのか? 転生悪魔っていってもよ……」

 

「話す必要がないから話してないだけよ」

 

「あらら、相変わらず手厳しいねぇ。ハハハ……」

 

 ワルメン──ライザー・フェニックスは、口元を引き攣らせながら苦笑いをしていた。

 

「一誠、少しは考えて発言してくれ」

 

「どういう意味だよ」

 

 ユートは呆れつつ一誠へと説明をする。

 

「先ず、木場とリアス部長の言葉から名前がライザー・フェニックスだと判る。フェニックスは七十二柱の悪魔の一柱。で、さっきまでの言葉……式の会場や、日取りなんかでこの二人が婚約している事が窺える」

 

「なっ!」

 

「更に、リアス部長の態度を見る限り、本人の意思はガン無視で親同士が決めた婚約だね。貴族にはよくある話だよ」

 

 ユートは元貴族。

 

 故にこういった政略結婚についてよく知っていた。

 

「そして、少なくとも彼はフェニックス家の長男ではない」

 

「何で判るんだよ?」

 

「リアス部長はグレモリー家の次期当主だ。家を継ぐ立場にある以上、嫁に往くのではなく婿を取るんだ。長男なら寧ろ、嫁に貰わないといけない。つまりは、当主になれない穀潰しを家同士の結び付きに使う為、次男か三男を出したんだ」

 

 そもそも、お互いに長子しか居ないなら婚約そのものが成立しない。

 

「三行で纏めてくれ」

 

「フェニックス家の冷飯喰らいライザーとリアス部長は婚約者」

 

 一行目。

 

「でもリアス部長は反対をしている」

 

 二行目。

 

「それでもライザーはKYにもお誘いに」

 

 三行目。

 

「失敗すれば、穀潰しに逆戻り」

 

「何故に四行?」

 

 一誠は首を傾げた。

 

「何故だろうか?」

 

 ユート自身も首を傾げてしまうが、或いはクー子の影響だろうか?

 

 其処へ、グレイフィアが口を挟んでくる。

 

「概ね、ユート様の仰有った通りでございます」

 

 冷飯食らいとか穀潰しは余計だったが、情報という意味では間違っていない。

 

「いやあ、リアスの女王(クイーン)が淹れてくれたお茶は美味しいものだな」

 

「痛み入りますわ」

 

 ライザーが朱乃のお茶を誉めるが、本人はニコニコとしながらも雰囲気が刺々しかった。

 

 そんな遣り取りを見て、ユート達はライザーから少し離れた場所で話をする。

 

 一誠はライザーと違い、裸を二度も見ていた。

 

 その事に優越感を感じ、涎を垂らしていると小猫にツッコミを入れられる。

 

「ブレないな一誠は」

 

「うっせーよ、優斗」

 

 部員でバカ話に興じていると……

 

「いい加減にして頂戴!」

 

 突然リアスが激昂した。

 

「以前にも言った筈よ! 私は貴方と結婚なんてしないわ!」

 

「ああ、以前にも聞いた。だがな、リアス。そういう訳にはいかないだろう? 君の所の御家事情は切羽詰まっていると思うが?」

 

「余計な……」

 

 更にリアスが言い募ろうとした時、ユートが口を挟んできた。

 

「つまり、ライザー・フェニックス。アンタはリアス部長との婚姻が成ったら、ミリキャスを抹殺する予定なのか? 何て奴だ、……ライザー、恐ろしい子」

 

 その言に、この場に居る全員が疑問符を頭に浮かべるが、グレイフィアは直ぐ正気に返ると、ライザーをジロリと睨んだ。

 

「……ライザー様?」

 

「いや、ちょっと待て! 何でそうなるんだ?」

 

 最強の女王(クイーン)と名高いグレイフィアに睨まれてしまって、ライザーは大慌てで質問をする。

 

「リアス部長の家の事情は言う程、切羽詰まってはいないって事。何故ならば、リアス部長の次の当主候補が既に居るからだよ」

 

「それが、優斗の言ってたミリキャス?」

 

「一誠、リアス部長の眷族悪魔のお前は『ミリキャス様』と敬称を付けないと。何しろ、リアス部長の兄の息子……リアス部長の甥に当たるんだからね」

 

「へ? そうなのか?」

 

 思わず木場に顔を向けると木場が首肯した。

 

「うん。ミリキャス様は、確かに部長の甥子さんだ」

 

「要するに、リアス部長が中継ぎとして当主を務め、ミリキャスが成人してから当主を譲れば良い。んで、ミリキャスが純血の悪魔の嫁でも貰って、子供がデキればまた当主候補になる。直ぐにデキなくても、またリアス部長の子供辺りを、中継ぎにすれば良いんだ。ほら、何も問題は無いね。リアス部長の子供を純血に限る理由も無いし」

 

 ある意味で余りな暴論に全員が呆然となる。

 

「だけど、ライザーが婚姻後にミリキャスを暗殺したら確かに、切羽詰まるね」

 

「ライザー、貴方……」

 

「ライザー様、真逆?」

 

「んな事、する訳ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 リアスとグレイフィア、二人に睨まれたライザーは絶叫したものだった。

 

「あれ? 部長にお兄さんが居るなら、何でお兄さんが継がないんだ?」

 

「リアス部長の兄はとある事情で家を出てる。これは彼がとある事に選ばれてしまったからなんだ。でも、それは人間界で云うなら、大統領に就任したみたいなもので、世襲するものでは無いらしい。ミリキャスはグレモリーなんだよ」

 

 リアスとて上級悪魔──公爵という大貴族の生まれである。

 

 自分の立場くらいは理解もしていた。

 

 それでも、結婚相手だけは自分自身で選びたい。

 

 それこそがリアスの最後の我侭だと云える。

 

「チッ! 俺もなリアス、フェニックスの看板を背負ってるんだよ。この名前に泥を掛けられる訳にもいかないんだ。こんな狭くて、ボロい人間界の建物なんかには来たくなかったしな。というか、俺は人間界が余り好きじゃない。この世界の炎と風は汚い。炎と風を司る悪魔としては、耐え難いんだよ!」

 

 などと言ってはいても、炎を熾こしたりはしない。

 

 流石に学習したようだ。

 

 というよりも、ユートが手に持っていてチラチラとライザーに見せびらかしている瓶が纏う聖気、中身が聖水だと直ぐに理解し自重をしたのだろう。

 

 不死鳥だの、不死身だのと言ってはいるが、聖水を掛けられては精神が疲弊してしまう。

 

 好んで浴びたいモノではないのだ。

 

「ゴホン、俺は君の下僕を全部燃やし尽くしてでも、君を冥界に連れ帰るぞ!」

 

「炎も出さずに燃やし尽くすとか言われてもねぇ」

 

「誰の所為だ、てめえ!」

 

 ボソリと呟くユートに、キレ気味に怒鳴る。

 

 ともあれライザーは殺気を迸らせて、リアスも対抗して紅色の魔力を纏う。

 

 張り詰めた空気を引き裂いたのは、銀髪クールビューティなメイド──萌衣奴に非ず──のグレイフィアであった。

 

「お嬢様、ライザー様……それとユート様もですが、落ち着いて下さい。これ以上やるのでしたら、私も黙って見ている訳にもいかなくなります。私はサーゼクス様の名誉の為にも遠慮などしない心算です」

 

 殊更に声を荒げた訳ではなくて、闘氣を発した訳でもないというのに、迫力のある静謐な声だけでリアスもライザーも押し黙る。

 

「最強の女王(クイーン)と称された貴女にそんな事を言われたら、俺も流石に怖いよ。化物揃いのサーゼクス様の眷族とは絶対に相対したくないからな」

 

 リアスも紅色の魔力を収めて座る。

 

 だが、ユートだけは寧ろ瞳をキラキラさせていた。

 

「じゃあ、戦ろうか?」

 

「ちょっ、ユウ!?」

 

 グレイフィアは『しまった』という顔をしている。

 

 ユートは決して戦闘狂(バトルマニア)でも、戦闘中毒者(バトルジャンキー)でもないが、多少は強い者と闘ってみたいという欲求はそこそこあった。

 

「ユート様、自重をして下さい。それに、これからの話は貴方にも望まれるものとなります」

 

「? 僕が?」

 

「こうなる事は、旦那様もサーゼクス様もフェニックス家の方々も重々承知しておりました。正直申し上げますと、これが最後の話し合いの場だったのです」

 

「僕の望んだ……真逆?」

 

「はい……これで決着が付かない場合の事を皆様方は予測し、最終手段を取り入れる事としました」

 

 それはユートの予想を裏付けるもの。

 

「最終手段? どういう事かしら、グレイフィア」

 

「お嬢様、もしご自分の意志を押し通すのでしたら、ライザー様と【レーティングゲーム】にて決着を着けるのは如何でしょうか?」

 

「──っ!?」

 

 そして、確かにユートが望んだ事が目の前にぶら下がっていた。

 

「待て! お前は聖水を扱える処を見ると、気配からしても人間だろうに?」

 

「そうだけど、何?」

 

「人間がレーティングゲームに参加だと? そんな事が出来る訳無いだろう!」

 

「認めない……と?」

 

「当然だ!」

 

 ユートは『ふむ』と顎に手を添え、グレイフィアの方をチラリと見る。

 

 目を閉じて黙っているが軽く会釈してきた。

 

 それは恐らく、御随意にと言っているのだろう。

 

 それなら遠慮はしない、確りと口撃させて貰おうとユートは、ニヤリと口角を吊り上げて口を開いた。

 

「それは詰まり、ミリキャス抹殺だけでなく、魔王に反旗を翻すという宣言だと受け取っても良いのか?」

 

「は? 何だと……?」

 

 ユートの言っている意味が理解出来ず、首を傾げているライザー。

 

「サーゼクス・ルシファーを始めとする四大魔王に、アガレス大公、バアル大王が認めた僕のレーティングゲーム出場の権利、それを一介の上級悪魔のアンタが認めないと言ってるんだ。これはもう、叛逆だろ?」

 

「なっ!?」

 

「まあ、大公と大王が認可したのは四大魔王が挙って認めたから、已む無く追認した形になるんだけどね」

 

 セラフォルー・レヴィアタンはいの一番に認めた。

 

 サーゼクス・ルシファーは面白そうだと認めた。

 

 アジュカ・ベルゼブブ、彼はユートが似た感性の持ち主である事から認めた。

 

 ファルビウム・アスモデウスは面倒だから認めた。

 

 理由はどうあれ四大魔王が認めた事も手伝い、大王と大公も条件付きで認める事を宣言したのだ。

 

 条件とは、どれくらい闘えるのかを見せる事。

 

ユートはサーゼクスと闘い敗けはしたが、真の力を引き出すまで粘っている。

 

 魔王と打ち合える人間、それを聞いてプライドよりも今後行われるレーティングゲームが面白くなりそうだと考え、認可したのだ。

 

 それともう一つ。

 

 何か緊急事態が起きたら悪魔陣営に付く事。

 

 それを以て、ユートはレーティングゲーム出場権を獲得した。

 

「ま、魔王様が認めているだと? そんな話、聴いてないぞ!」

 

「フェニックス家にも通達されている筈ですが?」

 

「うっ? わ、判ったよ。父上に訊いてみるさ」

 

 グレイフィアに凄まれ、ライザーは降参とばかりに両手を挙げて言う。

 

「まあ、然しだ。レーティングゲームをするのは構わないんだが、リアスの眷族はその人間も含めてこれだけか?」

 

「ユーキは違うんだけど、他はそうよ。それが何だと言うの?」

 

「これじゃ、話にならないんじゃないか? 君の女王である【雷の巫女】ぐらいしか俺の可愛い下僕に対抗出来そうにないな」

 

 ライザーが指を弾いて鳴らすと、部室内の魔方陣が光を放ってフェニックスの紋様に輝き出す。

 

 顕れたのは総勢一五人、即ちフルメンバーだ。

 

 一誠はそんなライザーの下僕達を見て、廬山の大幕布の如く涙を流していた。

 

「お、おい。、リアス……この下僕君、俺を見て大号泣しているんだが」

 

 ライザーが引きながら訊ねてくる。

 

「その子の夢がハーレムなのよ。きっと、ライザーの下僕悪魔達を見て感動したんだと思うわ」

 

 若干の呆れを醸し出し、リアスは溜息と共に額を押さえながら答える。

 

「きもーい」

 

「ライザー様、このヒト、気持ち悪ーい」

 

 心底、気持ち悪そうに顔を顰めていた。

 

「そんなのはどうでも良いからさ、さっさと先に進めてくれないかな?」

 

 ユートは特に感慨も抱かず先を促す。

 

「貴様、さっきから何なんだよ! 事ある毎に突っ掛かりやがって! 魔王様の御墨付きでレーティング・ゲームに出られるからと、いい気になるんじゃねえ! 下賤な人間風情が!」

 

「その人間に敗けるんだ。フライドチキン」

 

「フ、フライドチキン? もう許さねえぞ! ミラ、殺れ!」

 

「はい、ライザー様!」

 

 青い髪の毛、白襦袢に赤い上着な服装の少女が棍を手にユートへと駈ける。

 

 ドゴン!

 

 鈍い音と共に静寂が部室内に訪れた。

 

 某・無限の龍神が欲している静寂とは違うが……

 

「フッ、他愛ないな」

 

 気取っている心算なのか余所を向いて目を閉じていたライザーは、ミラが相手を一撃の下に打ち倒したと確信していた。

 

「確かに他愛ないけどさ、頑張った下僕にそれは無いんじゃないかな?」

 

「な、なにっ!」

 

 振り返れば、そこには謎のオブジェが天井からぶら下がっている。

 

 先程までは存在しなかった筈のモノだ。

 

 よくよく見ると、ミラの着ていた服にも見える──というよりもそれは明らかにミラだった。

 

 ミラが首から上を天井にめり込ませて、プラプラと身動ぎの一つもしないで、ぶら下がっているのだ。

 

 プシャァーッ!

 

 嘗て〝ミラだったモノ〟の太股を伝い、何か黄金色の水っぽいモノが勢いよく流れ落ちる。

 

 それは床を濡らして湯気を暫く上げていた。

 

「うわっ、ヤっちまった。僕は女の子の小水を、聖水とか言って有り難がる性癖は持ち合わせてないんだけどな」

 

 今まで手に握られていた棍が甲高い音を響かせて、床へと落ちる。

 

 完全に脱力して、ピクリともしない。

 

「な、な、何を……」

 

「ん?」

 

「ミラに何をしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 余りにも予想外な展開にライザーが激昂した。

 

「何って、正当防衛の名の許にカウンターを喰らわせただけだが? そっちも、その心算で嗾けたんだろ。ならさ、逆に殺られるのも覚悟していたんだよね?」

 

 この侭、避けても追撃をし続けてくるだけだろう、匙の時も今回も若しかしたらソーナやグレイフィアが止めたやも知れない。

 

 だが、舐められては裏で生きてはいけないのだし、実力を示すのは大切だ。

 

 仕掛ければ殺られるか、其処までいかないにしても痛い目を見るのだと、相手に解らせるのが裏でやっていくには必要不可欠。

 

 そもそも、向こう側から仕掛けてきた以上は優しく諭してやる程に、ユートは甘くなかった。

 

「っ!? イザベラ、早く降ろせ!」

 

「は、はい。ライザー様」

 

 イザベラと呼ばれた眷族がミラをソッと降ろす。

 

 傍目から見ると、まるで死んでいるかの様だ。

 

「ライザー様、ミラの顎が完全に砕けています!」

 

「な、何だと?」

 

 白目を剥いて倒れたミラを診て、驚愕しながら報告をするイザベラ。

 

「くそ、何が起きた?」

 

「見えませんでした……」

 

「カーラマイン、騎士であるお前が見えなかったというのか?」

 

「はい、ミラが仕掛けたと思った瞬間、鈍い音が響いて気が付けば」

 

 何やら恐ろしいモノを見るかの如き目でユートを睨め付け、イザベラは悔しそうに拳を握り締める。

 

「ユウ、貴方はいったい何をしたの?」

 

「リアス部長、これから敵になる相手に教えろと?」

 

「流石に気になるわよ」

 

「ハァ、仕方がないね」

 

 嘆息すると答えた。

 

「緒方逸真流【刀龍門】。竜門を遡った鯉は竜となるっていう、中国の故事は知っているかな?」

 

「え、ええ」

 

 リアスは頷く。

 

 周囲を見れば、ライザー側も知っていたらしく疑問は抱いていない。

 

 唯一、一誠を除いて……

 

「え? 何だっけそれ?」

 

「一誠、貴方ねぇ。もう少し勉強なさいな」

 

 思わずリアスは呆れた顔になる。

 

「まあ、極一部は知らないみたいだけど。その故事は翻って、立身出世が拓ける狭い門を意味している」

 

「……そうね」

 

「それは直接、関係無いんだけどね」

 

 聴いていた全員がずっこけてしまう。

 

 グレイフィアさえも。

 

「ウチの祖先はそれを直接の意味に喩え、技を喰らった人間が空を舞う様を捉えて【刀龍門】と名付けた」

 

「成程……って、その説明だと技の解説にはなってないじゃないのよ!?」

 

「チッ、バレたか」

 

 別に嘘を吐いた訳ではなかったが、確かに技の説明は殆んどしていない。

 

 昔、わざわざ【解除】の二つ名の元となった魔法をワルドとの模擬戦で使うなどと、本来の力を隠して見せ技を使う事が多かった。

 

 同じ目立つなら、強力な技は見せない方向性でいくのがユートである。

 

 それも理解出来ずざわつく貴族は滑稽でしかない、そう思ったものだった。

 

「【刀龍門】は相手の懐まで入り込み、刀の柄で顎を打ち抜く非殺の技だよ」

 

 勿論、顎は急所の一つであるが故に、力の加減を過てば死に至るが……頸を斬るよりは死に遠い。

 

「見えなかったのは?」

 

「リアス部長の実力不足。僕はただ、相手の棍を躱して【刀龍門】を放っただけに過ぎない」

 

「そう……」

 

「それにしても、弱いな。この程度とは……あれか、『こいつは我が眷族で一番弱いのだよ。眷族になれたのが不思議なくらいにな』とか言っちゃうのか?」

 

「何処の秘密結社の四天王だよ?」

 

 一誠が突っ込んだ。

 

 然し、見るとライザーが悔しそうに睨んでいる。

 

「あれ? 実はマジに?」

 

「喧しいわ!」

 

 何だか涙目で叫ぶ。

 

「そんな事よりライザー様……アレを!」

 

「む、判った」

 

 懐から小瓶を取り出し、ライザーがイザベラにそれを渡すと、イザベラは小瓶の中身をミラに飲ます。

 

 ユートはそんな様子を、確りと〝視ている〟。

 

「へぇ?」

 

 面白いモノを視たものだ……【叡智の瞳】で。

 

 気絶した侭であったが、ミラの調子は持ち直す。

 

 グレイフィアは話の続きを始めた。

 

「それで、レーティングゲームはどうなさいますか」

 

「私は構わないわ」

 

「俺もだ」

 

「それでは……」

 

「待った!」

 

 だがグレイフィアの言葉は遮られる。

 

「何ですか?」

 

 始終、ユートには引っ掻き回されていたが、最後の最後までだった。

 

「この試合はリアス部長を賭けた所謂、アンティ・ルールになる。なら、そちらも駒を賭けて貰おうか」

 

「「「は?」」」

 

 グレイフィアは勿論だがリアスもライザーも間抜けな声を出し、呆けた表情になってしまう。

 

「此方は王(キング)の人生そのものを賭ける、ならばそちらも駒を賭けるべきじゃないかな? そっちは、勝てばリアス部長を手に入れる。だけど、此方は勝っても何も無いよね」

 

「リアス様は自由を得られますが?」

 

「直接、何かを獲られる訳じゃない。本来なら在って然るべきものが当たり前になるだけだろ? 貴族だからこそ、リアス部長にそんなものは元より無いのかも知れないね。僕もそういう社会は知っているからさ、其処は判るよ」

 

 ユートはハルケギニアで貴族だったが故に、それは理解もしよう。

 

 だが、納得は出来ない……出来る筈もなかった。

 

「ユート様、それは……」

 

「何より、魔王や公爵ともあろう悪魔が契約を破るというのか? 話を聞いた限りでは、リアス部長の婚姻については大学卒業後だ。そう約束しながら数年早く話を持ってきた。明らかな契約違反だ。それとも何? 口約束は守るに値しないとでも? だけど、魔王が口約束とはいえ約束を守らなかったとなれば、人間界で仕事をし難くなるんじゃないかな? 約束を守るから悪魔の契約が成立するのであって、些細な口約束とはいえ約束を守れないなら誰が契約をする?」

 

 ユートの認識では悪魔は契約主義、実力主義だ。

 

 契約を遵守しない悪魔に価値は見出ださない。

 

 若しも今回の話が漏れてしまえば、確実に契約取りに悪影響を及ぼすだろう。

 

「契約破りの代償として、此方が勝てば駒を一つ分。それからリアス部長を賭けたアンティ・ルールとして駒を幾つかだね。それとも人間や格下だと思っている此方の眷族悪魔を相手に、ライザーは勝つ自信が無いから嫌だって言うか?」

 

 わざと厭らしく嗤ってやるユート。

 

「くっ、良いだろうさ! ノッてやるぜ! 此処まで虚仮にされては黙っていられるかよ!」

 

「ふぅ、判りました。それではどの駒をお賭けになりますか?」

 

「おい、お前はどの駒を求めているんだ?」

 

「アンティ・ルールの方は兵士(ポーン)だよ」

 

「兵士だと?」

 

「そ、兵士を三つね」

 

「三つ……にしても真逆、兵士とはな。何故だ?」

 

 ライザーは疑問を持つ。

 

「リアス部長の現眷族は、兵士が一、騎士が一、戦車が一、僧侶が二、それに加えて女王だ。騎士と戦車は駒があるから今後も増やせるけど、価値がそうだったとはいえ八つ使った兵士はもう増やせないからね」

 

「成程な。だが価値が八つならレーティングゲーム的に駒は揃っていると判断されないか?」

 

「その辺はアジュカ辺りに相談するよ。これ以上考えるのは、獲らぬ狸の何とやらだからさ」

 

「ア、アジュカ様だと? そういえば魔王様と知り合いみたいだったか。まあ、良いだろう。それで、お前が言う契約破りの代償というのはどの駒だ?」

 

「【僧侶(ビショップ)】」

 

「む、理由は?」

 

「【僧侶(ビショップ)】は魔力に長けたタイプだし、少し考えているモノがあってね。サンプルは多い方が良いからさ」

 

「よくは解らないのだが、良かろう」

 

 ライザーが頷く。

 

「多分だけど、其処に居る黒髪で十二単が【僧侶(ビショップ)】の一人だな? ならその子を貰おう」

 

「美南風(みはえ)だな……判った。ゲームは十日後でどうだ? 今すぐやっても良いんだが、それでは面白くなさそうだしな」

 

「……私にハンデをくれるというの?」

 

「ソイツはどうか知らん。だがさっきも言った通り、俺の下僕に対抗出来そうなのは【雷の巫女】くらい。特に其処の【兵士(ポーン)】は弱い。十日間で確りと鍛えてやるんだな」

 

 意外とレーティングゲームには真摯な態度らしい。

 

 結局、ライザーの言った通りレーティングゲームは十日後に開催予定となる。

 

「リアス、次はゲームで会おう」

 

 そう言い残すと、ライザーは下僕達を引き連れて、魔方陣の光の中に消えた。

 

 

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