ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第17話:光槍×投擲

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 ユート達がライザー相手に舌戦を繰り広げてた頃、アーシア・アルジェントは家を出て買い物に出掛けていた。

 

 食糧なら幾らでも、それこそ【愛と勇気の御伽噺】な世界の日本に、無償で振る舞っても余るくらい存在している。

 

 だけど流石に職人や製造ラインの無い物は、やっぱり外で買い足さねばならなかった。

 

 シャブラ・ニグドゥ──敢えてガワの名前でアウローラと呼ぶが──アウローラ内の男女比は一対九となっている。

 

 ハッキリ言ってしまうと男はユートのみだ。

 

 なので、必然的に足りなくなった物があった。

 

 ショーツやブラジャー、下着類の事である。

 

 ユートは使わないが故、そして那古人は魔力で生成しているが故に、アウローラ内に女性物の下着が皆無であった。

 

 何より有った処でサイズが合わねば使えない。

 

 アーシアとミッテルトはそれで困ってしまう。

 

 勿論、ユーキも。

 

 そして実際にミッテルトが困っていた、アウローラ内でのミッテルトは現在、黒ゴスや下着類を洗濯して裸にバスタオルを巻いている状態である。

 

 下着はサイズが合わなければ困る為、よもやユートが適当に買う訳にいかず、かといってアーシア達からスリーサイズを訊いて買ってくるなんて、ウルトラCをやってのける訳にもいかない。

 

 というか、ユートも女性物の下着など買いに逝きたくはなかったりする。

 

 そんな理由もあり、此処はアーシアが買いに行く事となった。

 

 何故にアーシアが買いに行くのか? という話になるが、ユーキはこの地に来たばかり。

 

 原作を識っていても街並みを識る訳ではない。

 

 迷う可能性アリ。

 

 ミッテルトはそういった意味では大丈夫なのだが、事の発端が彼女が着た切り雀だった事。

 

 外に出歩くのに必要となる下着が無かった。

 

 ノーパン、ノーブラで出歩く様な無恥ではない。

 

 アーシアは、まだ荷物の中には下着類が有ったし、前にユートが買って上げた服が旅行用のトランクの中に入れてある。

 

 また、今ならユーキよりは地理に明るい。

 

 そんな訳で、アウローラに来てアーシアは【初めてのお使い】を敢行した。

 

 服装は例の物。

 

 髪型も長い金髪を三つ編みにして、動き易さを重視したものとなっている。

 

 こんな派手な格好をしていると、バカな男がナンパに寄って来そうだが、幸いにもそれは無かった。

 

 尤も、ナンパより質の悪いスカウトは来たが……

 

 買い物を終えたアーシアの目の前に、胡乱な格好をした者が顕れた。

 

 何と言うか、世紀末覇者が居る世界ではやられ役のチンピラっぽい服装だ。

 

 モヒカンではないが……

 

 魔方陣を介して転移してきた為、それが悪魔であるのは判る。

 

「どちら様ですか?」

 

「魔女、アーシア・アルジェントだな?」

 

「質問に質問で返さないで下さい」

 

 アーシアは、悪魔を相手に毅然と言い放つ。

 

 二週間前ならこうはいかなかった。

 

「ふん、人間風情が我に意見するか。まあ、良いさ。お前を眷族にしてタップリと躾てやる! 名誉に思うが良い、この我の眷族悪魔として転生出来るのだ」

 

 正に質の悪いスカウト、悪魔はアーシアを眷族にするべく来たらしい。

 

「お断りします」

 

「お前の意見など聞いてはいない、お前はただこの【悪魔の駒】を受け容れれば良いのだ! そしてその、肢体と神器(セイクリッド・ギア)を我に捧げよ!」

 

「ですから、お断りしますと言いました」

 

「此方も言ったそ、お前の意見など聞いていないと。この、ガイオルシュ・ヴォラクの眷族になれる事を悦ぶが良い!」

 

「うう、全く話を聞いて貰えません……」

 

 涙目になりながら理不尽にも話を聞き入れない悪魔を睨むと、アーシアは右腕の銀色の腕輪に触れる。

 

「ふん、抗うというならば一度殺してから転生させるまでよ!」

 

「自分に降り掛かる火の粉は払わなければならない、ユートさんはそう仰有いました。只優しいだけでは、無抵抗主義者でしかない。優しくする相手を見誤ってはいけないと!」

 

 僅か二週間、然れど二週間はアーシアに色々と教え込むには充分な時間だ。

 

「なら、死んで後悔しろ。心配は要らない。その後で我が眷族に転生させ、その肢体と心にタップリと躾をしてやろう!」

 

「必要ありません……私の身体はユートさんのモノ。他の誰にも触れさせたりはしません!」

 

 アーシアは、攻撃を仕掛けようとするガイオルシュを見据え、右腕に身に付けた銀色の腕輪を掲げる。

 

 腕輪には、オペラピンクの宝石が填まっていた。

 

「アンドロメダ……フルセットッ!」

 

 アーシアの身体の前に、アンドロメダ星座が浮かび上がる。

 

 夜空を彩る星々の一つ、古代エチオピアに於いては海皇ポセイドンの怒りを買ってしまった母の言動……その怒りを鎮めるべく自らを犠牲にしようと、鎖に繋がれたアンドロメダ王女、その神話の概念を取り入れたアンドロメダ座の聖衣。

 

 これは本物に近しい造りとはいえ、ユートが造り上げた紛い物。

 

 ハルケギニアでシエスタに与えられてた物であり、そして現在はアーシアへとこの聖衣は受け継がれた。

 

 アンドロメダの星座から顕現するは、オペラピンクに彩られた鎖に絡み取られているアンドロメダ王女を模したオブジェ。

 

 それが分解されアーシアの身体へ装着されていく。

 

「まだまだ未熟で、ユートさんに映像で見せて頂いた本物の聖闘士、アンドロメダ瞬さんには到底及びませんが、敢えて名乗ります。アンドロメダ座のアーシア・アルジェント……」

 

 両腕に装備されていた鎖を解放して、自分の意志を鎖へと伝える。

 

「小賢しいわぁぁっ!」

 

「征きます!」

 

 それは濃密な二週間。

 

 特に学園へ行っていなかった数日は、食事とトイレと風呂と寝る時以外では、殆んどを訓練に費やした。

 

 レイナーレの例を挙げても【聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)】は、狙われる可能性が高い神器(セイクリッド・ギア)であるから今後、悪魔や堕天使などが狙って来ないとも限らない事を鑑みて、ユートは戦闘訓練を施した。

 

 そして先日、アーシアに聖衣を与えていたのだ。

 

「星雲鎖(ネビュラチェーン)!」

 

 角鎖がガイオルシュに向かって飛ぶが……

 

「小賢しいと……」

 

 それを思い切り叩き付ける様に殴った。

 

「言っている!」

 

 仮にも【悪魔の駒】を持つ上級悪魔。

 

 未だ成り立てと呼ぶのも烏滸がましいアーシアは、やはり苦戦を強いられるのかも知れない。

 

「くっ、護って円鎖!」

 

 バチィ!

 

 ガイオルシュの攻撃は、円鎖がアーシアを取り巻いて弾かれてしまった。

 

「回転防御(ローリングディフェンス)ッ!」

 

「な、何だと!?」

 

「角鎖(スクウェアチェーン)よ征って、雷陣波撃(サンダーウェーブ)ッ!」

 

「ガハッ!」

 

 稲妻の如く軌跡を描き、角鎖がガイオルシュの胸元を貫く。

 

「お、おのれ!」

 

 ユートが造った聖衣と、本物の聖衣の相違点。

 

 それは此方が魔法を籠めてあるが故に、素人であってもある程度は闘える事にあった。

 

 僅か二週間程しか鍛えていないアーシアが、仮にも上級悪魔を相手に闘えているのもその性能故である。

 

 また、小宇宙が使えなくても聖衣に施された術式、陰陽合一法によるパワーアシストが受けられるのだ。

 

 陰陽六十四卦の一つで、咸卦と呼ばれるモノがあるのだが、それは陰と陽……異なるエネルギーを一つに融合させるという事を意味している。

 

 下手な扱いはエネルギーの対消滅を招くだけだが、上手くやれば何乗にも引き上げる事が可能だった。

 

 一度、造り直した際には魔力による強化ではなく、此方を採用したのだ。

 

 つまり、アーシアは聖衣を纏うだけでも、そこら辺の悪魔を相手に出来るという事になる。

 

「チィ、面倒な。やれ!」

 

「え? キャアッ!」

 

 ガイオルシュが脇目に対し命令を出すと、電信柱の影から何者かが飛び出して蹴りを放ってきた。

 

「あぐっ!」

 

「梃摺らせてくれたがな、もう終わりだ」

 

 倒れたアーシアの胸部を踏み付けて、ガイオルシュは見下す眼で睨む。

 

「嗚呼っ!」

 

 その力を更に強められ、苦しそうに喘ぐアーシア。

 

 聖衣の上からの為、直にはダメージを受けない。

 

 それでも其処らのコンクリートを容易く砕く脚力、それは特に傷にはならずともアーシアを苦しめる。

 

「さあ、我が駒をその身に宿して我の為に生きよ!」

 

 ガイオルシュが懐から取り出した【悪魔の駒】が、妖しい光を放っていた。

 

「クックック……さあ! 我が眷族となれ」

 

 ガイオルシュは僧侶(ビショップ)の駒をアーシアへと使うと、僧侶の駒が光を放ちアーシアの肉体へと侵食していく。

 

「嗚呼っ!」

 

「さあ、どんどん入っていくぞ……」

 

 苦悶の表情を浮かべているアーシアを見て、嗜虐心に満ちた顔で言う。

 

 アーシアが右腕のチェーンを放つが、ガイオルシュは容易く躱した。

 

「ハッ! 苦し紛れに放った処で当たるものかっ! 虚しい抵抗などせず、我がモノを受け容れよ!」

 

 嗤うガイオルシュだが、異変が起きた。

 

 パキン!

 

 軽快な音が響き、僧侶の駒が弾かれたのだ。

 

「は?」

 

 訳が判らずガイオルシュは間抜けな声を上げると、其処へ更なる衝撃が背中を襲った。

 

「ゲハッ!」

 

 膝を付くガイオルシュ。

 

「な、何だ? いったい、何が起きたというのだ?」

 

 見れば、それはアーシアが先程放ったチェーンで、それが弧を描き戻って来てガイオルシュの背中を貫いたのだ。

 

「ば、莫迦な! 苦し紛れに放った鎖が戻って来て我を傷付けたというのか?」

 

 信じ難い出来事なだけ、ガイオルシュは驚愕を露わにする。

 

「ただ、闇雲に放った訳じゃありません。舞乱射斗(ブーメランショット)……ネビュラチェーンのちょっとした応用です!」

 

 このアンドロメダ聖衣は本物を精巧に模した物。

 

 素人でもある程度は戦闘が可能な様に、魔法によって補助されているが、それは飽く迄も基本のみ。

 

 瞬がよく使っていた技、雷陣波撃(サンダーウェーブ)や回転防御(ローリングディフェンス)や星雲陣形(アンドロメダネビュラ)の様な技くらいだ。

 

 即興で瞬が海闘士の一人……スキュラのイオを相手に闘った時に使った技は、実は登録されてはいない。

 

 ユートは映像作品としての【聖闘士星矢】のDVDを訓練後には見せており、アーシアはスキュラのイオと瞬の闘いもその時に知ったのだ。

 

 勿論、簡単に真似が出来る訳もないが、この二週間というもの何度も練習をしたのだろう。

 

 思った以上に上手くいったらしい。

 

 二週間だとはいっても、実際にはダイオラマ魔法球みたいな空間が在るから、もっと長い時間を修業しているのだし、応用技くらい出来ても不思議は無い。

 

「大熊捕獲(グレートキャプチュアー)!」

 

「がっ、ぐわっ!?」

 

 円鎖(サークルチェーン)がガイオルシュの体躯を縛り付けた。

 

 これもまたアンドロメダの聖闘士たる瞬の技。

 

 この技は大熊の暴力さえ縛るのだ。

 

「おのれ!」

 

 もう一人の恐らくは眷属悪魔が、アーシアへと攻撃を仕掛ける。

 

「野生拿罠(ワイルドトラップ)ッ!」

 

 角鎖(スクエアチェーン)が仕掛け罠の如く変化し、悪魔の脚を捕らえた。

 

「ぎゃっ!?」

 

「無駄ですよ、気配を消して攻撃をされた時は吃驚しましたが、姿を現してしまっては不覚は取りません」

 

「真逆……」

 

 呻く女性悪魔、恐らくは生粋の悪魔ではなく人間がベースの転生悪魔だろう。

 

「其処で見ていて下さい。私が彼を斃す処を!」

 

「既に二本の鎖を使っていては、トドメなど刺せないでしょう……?」

 

「私の知るアンドロメダの聖闘士は、決して鎖だけで闘った訳ではないですよ」

 

「な……に?」

 

 アーシアは右腕を天高く掲げると、その掌を広げ何かを集め始める。

 

「それは、光子? 人間が生身で光を集めるとは!」

 

 天使や堕天使なら光力を操る事により、光の槍を生み出す事も可能。

 

 だが人間は神の祝福という名のシステムを以ても、触媒を介さねば光を操る事が出来ない。

 

 勿論、光の精霊に嘆願する呪文詠唱による術式構築により、擬似的に光を使う事は出来る。

 

 然し、アーシアのそれは明らかに天使達と同様で、自らが光力を操っていた。

 

「ひ、光だと? 貴様……それをどうする気だ!?」

 

「貴方に投げます!」

 

「や、やめっ!」

 

「ていっ!」

 

「プギャァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

 可愛らしい掛け声と共に手にした光の槍を放つと、汚ならしい絶叫が辺り一帯に谺する。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 少し時を遡り、ユートは二つの魔力を捉えていた。

 

「(魔力? 悪魔が入り込んだのか? グレモリーの支配地域に断りも無く)」

 

「ユウ、黙り込んでどうしたのかしら?」

 

「リアス部長、悪魔がこの地に来る報告は受けているかな?」

 

「グレイフィアが来た時、後付けで受けたくらいかしらね? ライザーだって無許可で来たし」

 

 まあ、報告を受けていればライザーが顕れても驚きはしなかっただろう。

 

「リアス部長って舐められてないか?」

 

「言わないで! それで、悪魔がどうしたの?」

 

「二人ばかり知らない波長の魔力が顕れた」

 

「っ!? 知らないって、今まで会った事の無い魔力って事?」

 

 ユートは首肯する。

 

 というか、リアスは感じなかったらしい。

 

 尤もユートも感じたのは一瞬だけで、直ぐに消えてしまったのだが……

 

「結界でも張ったのかな。だけど、何の目的で?」

 

「結界……? 誰かと闘ってるのかしら?」

 

「戦闘……真逆!」

 

 ユートははたと気付き、すぐに念話を送る。

 

 主と使徒か若しくは使徒同士は、同一世界軸線状に居るのなら、念話で会話を行う事を可能としていた。

 

「ユーキ、アーシアは其処に居るか?」

 

〔え? 下着を買いに街の方に出たよ〕

 

「ハァ? 下着って……」

 

〔ミッテルトの下着が無くなったから、序でに自分やボクらの分も〕

 

「判った」

 

 念話を切ってリアスの方を振り返るユート。

 

「何? 下着って、いったい何の事?」

 

「どうやら悪魔はアーシア狙いらしい」

 

「え? それって、彼女を下僕にでもしようとしてるって事なの?」

 

「僕は魔力が消えた地点に行くよ」

 

「待って、私も行くわ!」

 

 ユートが駈けると同時にリアスも駈けた。

 

「(だけど何故、アーシアの事を知っていたんだ? 何よりも、ピンポイントでアーシアが一人で出掛けた所を狙えるなんて?)」

 

 それは余りにおかしい、これではまるで……

 

「(……やっぱり奴が?)」

 

 這い寄る混沌が囁いたとしか思えなかった。

 

 邪神が分体とはいえ二度も顕れた事を鑑みたなら、旧支配者の中でも唯一封印を免れた這い寄る混沌が、世界を破滅させるべく動いていると考えるのが妥当。

 

 アーシアを狙わせたのは恐らくその一環だろうが、相変わらず訳の解らない事をしてくれるものだ。

 

「(あの道化師めっ!)」

 

 ユートは走りながらも、此処には居ない道化師に対して毒吐いた。

 

 暫く走ると結界が展開されている場所に辿り着く。

 

「っ!? 結界が解けた……これは!」

 

 其処には、アンドロメダ聖衣を纏ったアーシアが、悪魔らしき女を鎖で絡めた状態で立っていた。

 

「アーシア!」

 

「あ、ユートさん!」

 

 ユートに気が付き、笑顔で手を振ってくる。

 

 無邪気で可愛い顔だが、囚われた悪魔がガタガタと震えているのはいったい、何故だろうか?

 

「大丈夫だったか?」

 

「はい、ユートさんから戴いた聖衣のお陰で何とかなりましたよ!」

 

「そいつが襲撃者?」

 

「……の、一人です」

 

「一人って……じゃあもう一人は何処に?」

 

 ユートは辺りを見回す、だけど居るのは黒髪の悪魔女性が唯一人のみだ。

 

「消えちゃいました」

 

「消えた……ああ! アレを使ったんだな」

 

「はい!」

 

 ムン! とばかりに笑顔で力瘤を作る感じにポージングする。

 

「アレって何?」

 

 いまいち話が見えないのかリアスが問う。

 

「光槍」

 

「光の槍? 天使や堕天使みたいな? 人間なのに、そんな事が可能なの?」

 

「堕天使もだけどさ、悪魔は人間を舐めすぎだよ」

 

「え?」

 

「光力を操る術は、天使の専売特許じゃないんだよ。幸い、僕は光子を収束させる術を識っていたんだ」

 

 それは、エピソードGに於ける獅子座のアイオリアが使う必殺技。

 

 光子(フォトン)を収束し爆裂(バースト)させる技である。

 

 それの応用で、光子を槍の形状へと換える技を教えてあった。

 

 光は仮令、聖属性を持たずとも悪魔にとって猛毒、受ければ苦しみ、いずれは果てる事となる。

 

「あ、悪魔より悪魔らしいシスターだわ!」

 

「は?」

 

 黒髪の悪魔女性は震えつつ口を挟む。

 

「ひ、光は悪魔にとっては猛毒。それを知りながら、その娘は何度も何度も何度も……主を刺した!」

 

「だって、一発だと斃れなかったから……」

 

 少し困った表情で言う、アーシアには酷い事をしたという自覚は無さそうだ。

 

 純粋で無邪気……

 

 それは決して、善性を示すものだとは限らない。

 

 悪で無いというだけで、其処には正義も善も無く……残酷なまでに無色透明な心が在るだけなのだから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それはアーシアが光の槍を投げ付けた直後……

 

 ブシュッ!

 

「プギャァァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 

 ガイオルシュの醜い悲鳴が辺り一帯に谺する。

 

 アーシアの投げ付けた光の槍が、鎖の隙間から突き刺さり光子がガイオルシュの体内を回っているのだ。

 

 光という属性自体が悪魔には毒となる、その毒たる光子が肉体を侵す苦しみ、それには筆舌に尽くし難いモノがあった。

 

 とはいえアーシアは未だに未熟な実力でしかなく、光の力も可成り弱い。

 

 レイナーレは疎か、下級の堕天使のミッテルトにさえ及ばなかった。

 

「あれ? 余り効いてないのでしょうか?」

 

 以前に見た一誠の苦しみ方に比べ、いまいち足りない気がする。

 

「なら、次です!」

 

 そう言って、新しい光の槍を生み出すと投擲した。

 

「えい!」

 

 やけに可愛らしい掛け声だが、実際にやっている事は充分にエグい。

 

 グサッ!

 

「グギャァァァァァッ!」

 

 更なる痛みと光力の侵食を受けた苦しみに、痛ましくも醜い悲鳴が上がる。

 

「降参しますか?」

 

 痛がるばかりで答えないガイオルシュ。

 

「むう、まだですか……」

 

 三度、光の槍を生む。

 

「やあ!」

 

 グサッ!

 

「あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 一応は上級悪魔の癖に、一誠に比べると堪え性が無かった。

 

 鎖に絡まれている不自由な身体をゴロゴロと、器用にのた打ち回る。

 

 刺された痛みに加えて、身体の内側を直接的によく熱した焼きごてを押し付けられたかの如く、熱い痛みが焼いていた。

 

 ハッキリ云ってしまえばその痛みにより、アーシアの言葉が耳に入ってない。

 

 アーシアはそれが、自分の力が弱いからだと勘違いをしていた。

 

 だからこそ……

 

「ええい!」

 

 グサッ!

 

「あがぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 グサッ!

 

「しぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「とりゃっ!」

 

 グサリッ!

 

「あじゃぱぁぁぁっ!」

 

 次から次へと光槍を投擲して、ガイオルシュからの降伏の言葉を待つ。

 

 ユート曰く『自分にまだ分があると思ってる者は、話し合いにはまず応じないから、その心をへし折る為に攻撃の手は緩めない』、アーシアはとっても素直にそれを実行していた。

 

 一〇発を越えると最早、悲鳴すら上がらなくなる。

 

 一四発も受けると、死んでいるのではないかと思えるくらいに死相が見えた。

 

 そして一五発目がトドメとなってガイオルシュは、光の粒子となって消滅してしまう。

 

 丁度、その時にユート達が現場に着いたのだ。

 

 アーシアは思った。

 

「(ただの変態さんかと思いましたけれど、あの人はあの人で強い信念の元に行動してたんですね……)」

 

 ユート曰くが、『仮令、敗けを覚っても強い信念の持ち主は、最後まで降伏はしないものだ』、アーシアの勘違いとは結局の処が、ユートの教えが原因となっていたのである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ユウ……」

 

「何かな?」

 

 リアスは頭が痛くなる。

 

「どうするの? あれじゃ性質の悪い悪魔祓いよ!」

 

「アーシアをあんな変質者と一緒にするな!」

 

「……は?」

 

 小声でヒソヒソ話すが、ユートの憮然とした言葉にリアスは、間が抜けた声を上げた。

 

 因みに、ユートが基準としているのはユート自身は名前も知らないフリード・セルゼンである。

 

「ま、何にしてもよく殺ったなアーシア」

 

「はい、頑張りました!」

 

 頭を撫でてやりながら労いの言葉を掛けてやると、アーシアは嬉しそうに顔を綻ばせ、ユートの掌の感触に目を閉じて身を委ねた。

 

「ちょっと待ちなさい! アーシアは上級悪魔を殺したのよ? 誉めるべきではないわ!」

 

「正当防衛だろ」

 

「話を聞く限り、どう贔屓目に視ても過剰防衛よ」

 

 リアスとしては、悪魔祓いの力を持つ者を看過出来ないのだろう。

 

「此方から仕掛けたのなら確かに問題だろう、だけど襲撃したのは悪魔側だろ。殺られたくなけりゃ、襲撃なんてそもそもしなければ良い。自業自得って言葉を知ってる?」

 

「……それはっ!」

 

「だいたい、アーシアは既に教会とは縁を切った身。悪魔祓い呼ばわりされる様な謂われは無いよ」

 

 結局の処、ガイオルシュの眷族の悪魔を冥界に連行する以外に、リアスは何も出来なかった。

 

 話を聞いた処、彼女自身も強引に眷族にされていた元人間なのだという。

 

 一〇〇年近くも前の事、当時の婚約者を人質に取られてしまい、已む無く眷族になる事を受け容れた。

 

 眷族にされた後、躾と称して心身共に汚されてしまった彼女は、だけど下僕が逆らえば【はぐれ】扱いになり追われる身となるし、頭がおかしくなるくらいに犯され続け毎日が地獄で、流石に一年もすれば諦めもつき、主となったガイオルシュの下僕として生きた。

 

 そして、今日はアーシアがそうなる筈だったのだ。

 

「利己的で欲深いのが悪魔だって云うけど、悪魔のしてる事は人間に害しか及ぼさないな。まあ、ああいう手合いは討つべき邪悪だ。見付けたらソッコーで滅ぼしてやる」

 

 無辜の民を害するのならば仮令、神であっても邪悪と断じて聖闘士は討ってきたのだ。

 

 流石のリアスも、今の話を聴いても悪魔本位でモノは言えない。

 

 人間を襲い、返り討ちにあった悪魔を庇った処で、公爵家の名が泣くだけでしかないのだから、リアスは嘆息するしかなかった。

 

「そう言えば、アーシアが纏っていた鎧は何なの? 真逆……【聖母の微笑】の禁手化(バランス・ブレイカー)?」

 

「何それ?」

 

「神器(セイクリッド・ギア)を使い続けてる内に、精神的に至る事で強化される現象よ」

 

「なら違う。アーシアが纏っていたのは、アンドロメダ星座の聖衣だからね」

 

 本物でなく限り無く本物に近い紛い物だが……

 

「聖衣? それって確か、ユウが小猫を助けた時に纏っていた鎧よね?」

 

「そう、聖衣は天上の星々の形を取り、神話の概念を与えられた鎧の事だよ」

 

 それだけでなく、精霊を模した聖衣も存在する。

 

「故に、聖衣は八八個が存在すると言われてるけど、例外も在るからね。一概には八八とも言えないかな」

 

「はい?」

 

 白銀聖衣の地獄の番犬座(ケルベロス)は、現在に於ける八八星座には無い。

 

 一七世紀に、ヨハネス・ヘヴェリウスが作った星座の一つであり、ヘラクレス座と琴座の間に作られた。

 

 二〇世紀になり国際天文学連合が星座を整理して、八八星座に固定をした際に抹消された為、現在はこの星座は使われていない。

 

 それでも一九九八年の闘いでは白銀聖闘士・地獄の番犬座のダンテは存在し、アンドロメダの瞬と闘っているのだ。

 

 この事から恐らくは現在は採用されていない星座も青銅や白銀の聖衣として、存在してると考えられる。

 

 事実、〝今は〟ユートも識らない事だが、八八星座に採用されなかったトナカイ座が、【聖闘士星矢Ω】に青銅聖闘士で登場した。

 

 つまり実の処、百以上の聖衣が本来なら存在して、その気になればそれだけの聖闘士が存在出来るという事なのだ。

 

「まあ、アーシアが纏っていたのがアンドロメダ星座の青銅聖衣……の紛い物だと思ってくれたら正解だって事だよ」

 

「紛い物?」

 

「聖衣は神話の時代よりの遺産だけど、アーシアのは僕が造ったモノだから」

 

「……成程」

 

 リアスは納得したらしく頻りに頷く。

 

「但し、紛い物だからって本物に劣る訳じゃないよ。素材は本物と同じだしね」

 

 本物を参考にした訳で、ユートならそのデータから同じ物を造れる。

 

 とはいえ、全くその侭に造っても聖闘士でない人間には使えない。

 

 小宇宙を持たなければ、聖衣は単なる重たい鎧に過ぎないのだから。

 

 それを解決する為の仕掛けを組み込んで、小宇宙を持たない人間にも使える様に造ったのだ。

 

 ユーキには鳳凰星座。

 

 アーシアにアンドロメダ星座。

 

 因みに鳳凰星座にパワーアシストなどは無い。

 

 ユーキは自身の小宇宙で聖衣を身に付けている為、鳳凰星座に与えられているのは、本物と同じ自己修復能力ともう一つだけ。

 

 やるべき事をやりユートとアーシアは家に帰る。

 

 その翌朝、招きもしないのに何故かリアスが家へと訪ねて来た。

 

「何? 学校には早いよ」

 

「違うわよ!」

 

「じゃあ、何かな?」

 

「宿泊が出来る準備をして家を出なさい」

 

 唐突にそんな事を言う。

 

 よく見遣れば、リアスの後ろにはグレモリー眷族の面々が揃っていた。

 

「朝っぱらから宿泊の準備って、何かの冗談な訳?」

 

「冗談じゃないわ。修業をしに山に行くわよ!」

 

 キリッとした表情になり堂々と宣言するリアス。

 

 後ろでは朱乃がニコニコと笑顔で立っている。

 

「成程、ライザー戦に備えて修業する為に山籠りをしようって訳か……」

 

 事態は理解出来た。

 

 故にユートは言うのだ。

 

「断る!」

 

 その言葉にリアスは笑顔の侭に硬直するのだった。

 

 

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